1-05-04 分別
ご飯も食べたので、あとは頑張って片付けましょう。
幸運は意外なゴミの山の中から見つかるものです。
初めて一緒に作った昼食の片付けを終え、午前からのコンテナ収納品片付け作業の続きだ。
終わった箱が半分を超えており、残りはかなり少なくなってきた。
箱に入れたときは宝だったはずの物たちが、時の流れとともに、すでに色あせてしまった。
その結果、捨てる側の袋がどんどん多くなり、空いたコンテナが積み重なっていく。
空いたコンテナ、ちょっと部屋が狭くなってきたので、それらは一旦スレイトに収納しておく。
下の方から出てくるコンテナほど昔に詰めた物なので、学生時代に買ったものは、当時お金もそれほどはなく、見た目にもチープなものが多い。
またその当時は、部屋も狭かったので、部屋に置けるコンテナ自体もあまり買えなかった。
結果として、この時代に詰められたコンテナの中は、立体パズルのように隙間もなく、ぎっしりと物が詰め込んで収納されているので、その分別には時間がかかる。
分別というが、すべて廃棄ではない? って突っ込まれそうな状況だ。
あと少しで終わりというところまできたのだが、細かい作業となり、自分のモノながらすこしうんざりとしてきた。
なぜこんなものまでとっておいたか、今となっては不思議さ以上に、怒りすらこみ上げてくる。
最後の時にイザと考え、10円玉がいっぱい入ったガラス瓶などを大事に仕舞ってあるが、すでにその存在すら忘れており、思い出か、重いでなのかわからない状態だ。
「サリー、そっちはどうだい?」
そういって、小箱の蓋をあけ担当のサリーを振り返ると、サリーはコンテナ収納箱を2つ程度残したところで、手が止まっている。
「何か面白いものでも発見したかい?」
しかし、サリーは小箱を持ったまま、小刻みに震えている。
「どうした? 大丈夫か?」
ギギギギギって、呪いの人形のように首から音が鳴りだしそうな感じで、こちらを振り向く。
「見つけました!……
多分、こ、こ、こ、これです!」
といって、蓋を開けた白木で出来た小箱を両手で握りしめている。
サリーの横にあるコンテナ収納箱には、LEDランタンやガスのコンロなどが入っている。
ということは、このコンテナは大学時代に使っていたキャンプ用品が入っていた箱のはずだ。
今回計画していた旅では、この箱に入っている道具を持っていく予定だったが、サリーの居候で出す必要はなくなっていた。
しかし、そのサリーが持った小箱に、何が入っていたのかは全く思い出せなかった。
そもそもそんな箱ってあったかな?
でもコンテナ収納箱の物から、その小箱はキャンプ関連の物であることは間違いない。
震えながら差し出されれた小箱は、桐っぽい木で出来た薄い箱であった。
そして箱の中には、半分に折った紙が入っている。
折った状態でB5くらいの大きさの和紙だ。
そして、2つに折られた紙の間には、押し花のように潰され、乾燥した黄色っぽい草が挟まっていた。
根っこから葉っぱまで完全な状態での一株が何折りかにされている。
このコンテナ収納箱の中をすべて出してみたが、こんな草の入った小箱はこれだけのようである。
よく覚えていないが、これは婆さんの里から持ち帰ったものだと思われる。
「本当に、この草が君の探したもので間違いはないのか?」
サリーは真剣な顔で
「父が書いてくれた絵を何回か見せてもらってます。
多分これで間違いないと思います。
父が持っていた薬草の絵も、これと同じように真ん中が細い紙で巻いてありました。
色は良くわかりませんが、紙に書かれていた赤い印はこんな感じでしたので、多分これだと思います。
これっ、貰っても良いかな?」
「俺は、そもそも覚えてすらないし、多分どうせこの後捨てられるだろうから、いいよあげるよ」 と言う。
「あ、ありがとう。
あれ? ここの赤い印が、なぜか加納って見えてしまうのですが……
父の絵にもこれと同じ模様が描いてあったのですが、その時は何か模様があるとしか解りませんでした。
今、私にはこの丸い印の中の部分が、加納って、慎二の姓に見えるのですが、違いますか??」
「ああ、それは漢字って言ってこの国の文字だ。
アーの翻訳機能で、それがサリーにも初めて読めるようになったのだと思うよ。
多分だけど、それは俺の婆さんの印鑑っていうスタンプだ。
確かに、なぜかは知らないけど、この紙には加納の印鑑が押してあるな。
きっと、俺の婆さんが作った物だぞ! ということを示す印じゃないのかな?」
「あの、これをすぐに父に送り届たいのですが、慎二にパラセルへの販売を、お願いできませんか?」
「えっ、まだそんなことしたことないよ。
アー、俺って、これをパラセルに販売できるの?」
ポンッ!
『出品であればすぐにできます。
それに、慎二はすでに白金貨を売ったことがあります』
「あ、慎二、売るのを少し待ってください」
急いで、と言ったサリーが、ここで待ったをかける。
「手紙をそれと一緒に出品したいので、手紙を書く皮紙を1枚ください。
それとペンとインクを貸してください」
「皮紙なんてここには無いな……
それって、普通の紙じゃだめなの?」
「紙とは?
あ、トイレでお尻をふく、白く柔らかく気持ちの良いものですか?
あれでは手紙はかけません。
あっ、そういえば昨日のハンバーガーも紙で包んでありました」
「サリーがさっきハサミの試し切りしていた、この紙は使えないの?」
プリンタから紙を1枚取り出し、サリーに渡す。
「これで…… 拭いたら痛そうですね」
「いや、そちらの紙でなく、手紙を書くほうだけど」
俺はプリンターのトレイから、あと何枚かの紙を取り出し、追加で手渡す。
あとは、ペン立てからボールペンを取り出した。
ボールペンは水性ジェルインクのものだ。
「これは?」
と言われたので、新しい紙にぐるぐるぐると書いて見せたら、真顔で、
「何てもったいない事をなさるのですかっ!」
って、思いっきり叱られてしまった。
大丈夫だよって、この紙ならば何枚使ってもいいよって言って、コピー用紙を包みごとポンと渡した。
サリーは目を見開き、ぼそっと、「これだけあれば一財産ですね」ってつぶやいている。
「本当に、好きなだけ使っていいよ」
「ありがとうございます」
サリーはさっき俺が試し書きした紙で、ボールペンを使った試し書きを始めた。
「あと、インク壺はどこにありますか?」
「いや、インクはボールペンの軸の中に入っているので、いちいちペン先をインクを浸けなくていいんだよ」
「でも書いている最中にインクがなくなるかも知れませんので、インクを貸しておいていただけませんか?」
「替えのインクなんて持ってないから。
もしインクがなくなって書けなくなったら、それは捨てて、新しいペンを使ってよ」
「そんなもったいない事!
では、なるべく短い手紙とします」
「手紙ぐらいなら大丈夫だよ。
そのペン1本で、手紙だったら真っ黒になるまで何十枚も書いたとしても、多分インクは無くならないよ」
どうも彼女は、インクを浸けて書くペンしか知らないようだ。
あと、サリーの世界での手紙は、動物の皮を伸ばし、表面を綺麗した物に文面を書く。
書き終わった手紙は封筒ではなく、文面を内側にしてくるくるっと巻き、それを紐で縛って留める。
さらに、あぶって溶かした封蝋でその紐を含めて巻きを固め、その封蝋が固まる前に印璽という商会の紋が入った判を押す。
手紙は、途中で他人が開けないように、また途中で開けられてしまった事がわかるようにして送るらしい。
当然この部屋にはそんなものはないので、俺は通販が届いた際に使われていた、内側にプチプチが張られたクッション封筒を再利用する事にした。
A4位までなら入るので、薬草と手紙はそのまま入るだろう。
サリーが手紙を書いている間に、表に貼られていた宛先ラベルをきれいに剥がしておく。
サリー曰く、エリクサーは非常に貴重な商品であり、通常は大きな国家レベルでの金額での取引商品となるらしい。
なので、馬車で送る前にも、何重もの偽装をかけた方がよいらしい。
場合によっては、いくつもの偽装の馬車すらも使われるらしい。
送料がいくらになるのやら……
いよいよ発送ですね。