表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
179/221

7-04-01 再上陸へ


 名古屋の拠点から海を越えておよそ2500キロメートル。

 目指すは、太平洋の孤島であるカノ島だ。


 拠点の倉庫の2階に造った摩導コンテナの発着施設から、俺たちは摩導コンテナに乗り込んだ。


 摩導コンテナは、北極工場からマナクリスタルの運搬や、南極工場での摩導シートの運搬に使っている輸送具である。

 以前の南極への移動の際、到着までに何日もかかるので、コンテナ内で生活ができるような設備も作ってある。

 当初摩導コンテナは北極工場で製造したマナクリスタルの物資輸送用として作ったのだが、最近は人を乗せることもあるために、乗用に改良されてきている。


 拠点敷地内の堤防沿いに設置した倉庫は、堤防を少し超えた高さに2階が造ってあり、その2階からは堤防を越えて、直接伊勢湾にまでスロープが摩導シートで作られている。

 通常は見えないスロープであるが、摩導コンテナの発着時はそのスロープが現れて、それを滑べるように伊勢湾への出入りが出来るようになる。


 その摩導コンテナは、俺たちを乗せてカノ島に向けて出航する。

 前回は観測船により初上陸をしたが、今回は世間には公表せずに皆で上陸する予定だ。



 先日から海面に向けて上昇を続けてきたカノ島であるが、予定した高さに到達したため、今日は多くのメンバーで上陸を目指すことにした。

 拠点では倉庫への商品受け入れや家畜の世話など、すでに不在にできない仕事も始まってしまったので、残念ながら全員が一緒に上陸するというわけにはいかなかった。


 名古屋の拠点の2階の倉庫からスロープに沿って海中に滑りながら入って行く。

 大丈夫だと分かっていても、コンテナ先端が水中に入り込み、天井まで水没する瞬間は、ちょっと怖ささえある。


 コンテナは、そのまま海底の少し上をすべるように移動する。

 もしこれだけの容積の四角い箱が海中を移動すると、周囲の海水や海底のヘドロが掻き揚げられ、後方には濁る筋が出来てしまう。

 しかし、摩導コンテナは、摩導力により前方の海水を上下左右に押しのけ、そこに真空状態の四角いチューブのような空間を生み出し、海中の真空空間に引き込まれるように進んでいく。

 海水中に開かれた空間は、コンテナが通過し終わると元に戻り、海水の流れは乱れずに元に戻る為に、航跡は発生しない。



 伊勢湾を抜けるまでは速度を落とし、伊勢湾内の水深20メートルくらいの海底を、這うように進んでいく。

 せっかくなので、摩導コンテナの全面を透明な状態で海中を移動する。


 伊勢湾の海中は、それほど透明度は高くない。

 生活排水が流れ込む湾内の海底は、長い年月によりヘドロ層となっており、せっかくの海中移動ではあるが、思ったほど綺麗ではない。


 海面付近は明るいようであるが、進んでいく海中は暗く、それはそれで面白い。

 そして伊勢湾を抜ける出口である伊良湖岬は、神島との間の海路が狭くなっており、そこを通る大型船舶にちょっと注意して海底を進むことになる。

 神島は、あの有名小説の舞台になった島だ。


 しばらくして、伊勢湾の出口を抜けると、いよいよ太平洋に出るので、そこからゆっくりと海上にまで昇ると、後はカノ島に向けて一直線である。

 摩導コンテナは、物資運搬の際には衛星や周辺の船舶などから観測されないために、主に海中を進んでいたため、それほど速度を出せなかったが、今回ここからは海上を走るので、速度を出すことができる。


 それと、海上走行の方が安全性が高い。

 海水中は、クジラや潜水艦などが、思いがけずに摩導コンテナの前方を横切る可能性が有り、事故が発生する事が有る。

 仮に、固化した摩導コンテナに潜水艦が衝突した場合、確実に潜水艦はつぶれる事に成る。

 と言うか、この世界にあるすべての素材は、固化した摩導具と比べると柔らかな材質なので、潜水艦と摩導ボールカメラがぶつかると、速度によっては外殻に丸い小さな貫通穴を開けてしまう事に成る。

 その場所が深海であれば、潜水艦に貫通穴が開くと、外殻の耐圧バランスが崩れ、水圧により潜水艦は一気に圧壊する事に成る。


 海上に浮上した摩導コンテナは、そのまま海面を100メートルほどにまで上昇する。

 そして空中での巡航速度は、音速よりすこし落とした、普通のジェット旅客機と同じ位の速度で航行する。


 通常、大気中を音速を超えて移動すると、周囲に衝撃波を発生する。

 小さな隕石などが宇宙空間から落ちてきただけでも、それが音速を超えて大気に衝突すると、そこから発生する衝撃破で地上に大きな被害を出すことがある。


 摩導コンテナは、海中同様に空中でも、進行方向の空気を斥力で押しのけて、真空チューブを作って移動する。

 コンテナ周囲での空気抵抗は無くしているので、基本的に衝撃波は出ないはずである。


 ただし、それなりに大きい物体であるため、念のために地表を航行する摩導具の最高速度は音速を超えないように設定してある。


 音は、0℃の空気中で1秒間に331.5メートル進み、1℃増えるごとに0.61メートル距離が延びる。

 雷がピカッと光って、1秒後にバリバリドカンと音が聞こえた場合、夏場であれば350メートル付近に落雷した事に成る。


 常温で、音は1時間に1250キロメートルくらい進むことになる。 これがマッハ1と言われる音速といわれる時速である。

 ただし、飛行する場合の高度による温度差のほか、風による空気自体が流れる速度も音の速度には影響してくる。

 摩導コンテナの最高時速は、その音速に達しないように、すこし余裕を持った音速の0.8倍、マッハ0.8とした。 これは、時速千キロメートルである。



 また、高速で海上を移動する際に、あまり高度が低いと、海面に飛び出しているタンカーやクジラや岩礁などと接触する可能性がある。

 不可視処理を行った摩導コンテナは、先方からはこちらの視認が難しいので、安全高度として最大級の船舶より高い海上100メートルを飛行していくことになる。



 全く揺れもない、約3時間の快適な旅である。

 といっても、伊勢湾を抜け、八丈島を過ぎると、もはや見える景色は海のみとなり、今コンテナ内ではミーティングの時間となっている。


 ミーティングはカノ島に到着後に各自が行うことの再確認だ。

 今回は観光できたわけではない。


 これから、カノ島に移住し、そこで建国を行うための作業に入る。

 ここまで1年間に渡り、準備を続けてきた計画がいよいよ実行されることになる。


 今回カノ島に設置するための、まずは新しいキッチンコンテナを作った。

 これは、前回のキッチンカーであった制限をなくし、摩導具によるキッチンを備えたコンテナである。

 それと 今回必要な物資、食料は、俺のストレージに入っているので、当面の作業中はそれを使用していくことになる。


 このように、必要なコンテナは作ってあるので、とりあえず島での寝食はすぐにでも可能となっており、島の準備が完了するまでは、島で生活することになる。

 というよりも、すべてそろっているので、すでに拠点に戻る必要はなくなっている。


 なので、今回の移動が移住と考えても良いかもしれない。

 といっても、今後も名古屋の拠点とカノ島間は、物資運搬用の摩導コンテナの定期運航を始めるので、それに乗れば帰れないわけではない。


 拠点とカノ島は往復で6時間。

 摩導コンテナは拠点に有る摩導コンピュータによる無人運転なので、複数の摩導コンテナを準備して1時間ごとに互いの港を出航することになる。

 今後はローテーションで7基のコンテナが24時間運用する事で、拠点の倉庫に届いた新鮮な生活物資なども毎時運び込まれてくる予定である。



 ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇



 島や国として必要な主要設備は、現在の少ない人数で準備する予定だ。

 今からしばらくは島の摩導化を準備するための作業であるので、身内だけで作業を行う必要がある。


 作業自体は、主に摩導シートによる開発である。

 最初必要となる部分は、小さなものを組み立てる作業であり、あらかじめ拠点で水谷さん達に造ってもらい、その内部デザインは服部さんのお願いしてある。

 拠点で作ってきた部材を、島で最終組み立てを行うプレファブリケーション、そうプレハブ工法だ。


 水谷工務店さんは、さらに拠点の一画に大使館を作る作業をもしてもらっているので、今はカノ島には来ていない。 大忙しである。


 拠点の土地の入り口付近の、最初に探検した雑草地だった部分、あのあと屋外パーティーを行った場所に、今カノ国の大使館を作ってもらっているのだ。

 大使館はカノ国のビサの申請など、一般の人の出入りを必要とする建物である。

 大使館は一般の人が立ち入る施設となるので、従来の住まいと研究の拠点施設とは別にした、新たな建物を敷地内に造ってもらっている。


 大使館は、唯華の希望を強く取り込んだ建物を、水谷さんに設計をしてもらった。

 当然、摩導シートをベースに設計してもらっているので、様々な考え方が従来の建築技術とは異なる。

 水谷さんは、いま世界で唯一の摩導建築設計士だ。


 水谷さんも自分で設計したものを、住宅見本のペーパーモデルのように、実際に自分で切って貼ったりして作る事に成るとは思ってもいなかったようだ。

 水谷さんは、いま世界で唯一の現場監督でもある。


 そして、その水谷さんの息子さんたち工務店の人達の協力により建築作業は進んでいる。


 カノ島に設置する部材については、摩導シートの工作物を作っては、それを運送用し易いように折り畳む。

 この半年間、この作業を繰り返してもらい、かなりの量を作ってもらっている。


 島に到着したら、その畳んである摩導シートを所定の場所で展開して、街を作っていく。


 いま、島は摩導シートの上に海底の土砂が乗った形で隆起しただけの状態である。

 海面に露出した時点で、摩導シートの上の土砂は一度摩導ベインに吸収されて、脱塩化された土砂のみが新たに地表を覆っている。

 この後、開発に伴い整地などが行われる予定である。



 ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇



 俺たちを乗せた摩導コンテナは無事にカノ島に到着した。

 島の海岸に到着するが、そこでは止まらずに、摩導コンテナはそのまま島の中央に向かって砂の上を50キロメートルほど進んでいる。


 そして、島中央の小山の麓付近に摩導コンテナは停止した。

 そこには一本のフラッグが建てられていた。


 そう、そこは今でこそ島の中心部になっているが、俺たちが先日上陸した地点であった。

 ここで全員が摩導コンテナを降り、到着を祝って、そこで万歳三唱をした。

 とりあえず異次元での風習は知らないが、日本風のお祝いとした。


 2時間ほど時差があり、朝7時過ぎに出発したが、こちらの時間でそろそろお昼である。


 最初にストレージからキッチンコンテナを出し、ここに設置する。

 建設作業の期間中は、共同エリアを作ることにした。

 食事の問題やまだ施設が全くないので、近くにまとめたほうが便利だからだ。

 ここに食堂、売店、トイレなどの共有施設とした。


 そして、この場所がカノ島開発の始まりの地になる。



 食堂施設には厨房と、売店が入るので、厨房は松井姉妹、売店はサリーと服部に作業してもらう。


 食堂隣には食料や売店在庫を収納する倉庫を併設し、拠点から届けられる物資が収納される。

 なので、ここには大きい倉庫を設置する事に成った。 まあ、この売店倉庫はスーパーに近いかな。

 倉庫内には、いくつかのエリアを設け、ブロックの温度をチルドや冷蔵、冷凍などに設定してもらう。


 早速、最初のお昼を設置した食堂で食べる。

 今回は、今から調理していると遅くなるので、ストレージにしまってあった料理を頂くことになる。



 あと、摩導ベインがつながるように幾つかコンテナを並べ、それらをつないでいく。

 これは各自が住まう個別住宅ボックスとなり、道路にくっつけていく。


 これは水谷さんに造ってもらっていた、小さな摩導シートによる箱であり、それをたくさん出してこの共有施設の周囲に並べていく。

 ここがみんなの家になる場所だ。

 それぞれが指定したの場所の箱に自分の摩導バングルで設定を行う。


 人によっては、名古屋の拠点と全く同じ部屋の中が再現されていく。

 これまでは拠点の中に造られた集合住宅であったが、今度は戸建の状態になる。


 家の外観は、すべて服部さんがデザインし統一したものとなる。


 今日本の住宅は、地域による制限などがないために、街の美しさという物がない。

 ある程度、地域性を出した方が街並みは美しくなる。

 ヨーロッパなど王国制であった土地では、領地に住む領民は、ある程度領主の意向に従う必要があり、美しい街並みが作られてきた。

 日本でも、文化に重きを置いたお殿様の街では、素晴らしい城下町が作られてきた。


 カノ島の施設や住居の外観については、ブロックごとにルールを設けて、街としてのデザインを作っていく予定である。


 現在、摩導ベインがまだ動作していないため、給排水が機能していない。

 とりあえず、拠点から持ってきた水をタンクから限定した摩導ベインに接続して循環させている。

 人数も限られているが、しばらくは節水をお願いしている。


 最終的に住居エリアを作る予定であるので、ここへの設置は一時的な物であるために、仮設住宅と呼ぶことにした。


 いよいよ移住の開発が始まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

本作パラセルと同じ世界をテーマとした新作を投稿中です。

太陽活動の異変により、電気という便利な技術が失われてしまった地球。

人類が生き残る事の為には、至急電気に代わる新たな文明を生み出す必要がある。

ルネサンス[復興]の女神様は、カノ国の摩導具により新たな文明の基礎となれるのか?

ルネサンスの女神様 - 明るい未来を目指して!

https://ncode.syosetu.com/n9588hk/

こちらもご支援お願いします。 亜之丸

 

この物語はフィクションです。

登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

小説家になろう 勝手にランキング

script?guid=on

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ