7-03-02 名古屋の噂
古くからあるインターネットの掲示板、マニアからはパンドラネットと勝手に呼ばれるようになった掲示板である。
その掲示板の最後に、希望が書かれていれば良いのだが。
そこは、医師が謎の万能薬について話し合っていた掲示板。
先日行われていた話は終わったと思われたが、それから1ヶ月ほどしても、まだ話は続いていた。
「ふふふ、俺は生まれ変わったぜ!」
「気味が悪いな。
最近掲示板で見かけなかったようだが、どうしたんだよ」
「君には大変感謝しているよ。
例の漢方薬だが、薬剤部から仕入れを申し込んだんだが、一切卸は受けていないらしく、個人で申し込むしかないらしい。
あれから毎日その通販のサイトにアクセスしていたんだが、確かに毎日販売になっているようであるが、それが何時に販売になるか不定期なんだよ。
俺だけだと難しそうなので、3人ほどアルバイトの買い子を雇って、交代で1日中その販売サイトをアクセスしていたんだ。
ようやく販売された時にアクセス出来て、購入画面にまでいけたのだが、支払いで少しもたついたら、既に売り切れになってしまったのはショックだったな」
「それで、結局は買えたのだな?」
「おう、苦労したけどなんとか1粒買えたぜ!
購入にかかった手間と費用の方が、その薬代よりもかかってしまったな。
でも、確かにあれは安いな」
「高いんじゃなかったのか?」
「いや、あれは絶対に安い。
そして、確かにあれは万能薬のように思う。
髪の毛だけでなく、その時患っていたり、衰えていたり、そのような症状に同時に効くようだ。
検査結果を、服用前・服用後で数値的に比較したから、確かに間違いなく効果はある。
それに、あれはヘタな治療薬や精力剤などとも根本的に違うな」
「ん? そっちも元気になったのか?」
「おう、そっちも若者並みだぜ」
「だったら、俺も買ってみようかな?」
「言ってなんだが、かなり難しいぞ。
俺も予備をもう一つ買っておこうかと思って、あの後も毎日サイトにアクセスしているが、日々購入が難しくなっているような気がしている。
俺みたいに、人の手を借りてまでサイトにアクセスしているも奴、かなり沢山いるようなので、そっちの掲示板があるから、購入する気が有るのであれば参考になるぞ。
皆かなり大変な思いをしてアクセスしているようだから、それなりの覚悟はいりそうだがな。
その為、こちらの掲示板もあまり来ていないかったが、お前に一言礼を言っておこうかと思って今日は接続したのさ」
「ふーん。
そんなにすごい薬が、何故こっそりと売っているのかな?」
「何か、原料の生薬の入手が難しく、今の原料が無くなると次の原料はまだ見つかっていないと言っていた。
新たに見つからなければ、今だけの期間限定の薬になると言っていた」
「お前、やけに詳しいな?」
「おう、効果を自分で確認した後、その漢方薬メーカーの名古屋の本社にまで押しかけて、すこし話を聞いてきた。
なんかフットワークも軽くなったようだ。
そこで、うちの病院にも売ってくれないか交渉したのだが、原料が限られているので、断られた。
いつでも、同じ価格で広く配布するために、どこかに卸すのではなく、自分たちで直販しているらしいということが判ったのさ。
確かに、あんな薬の販売権利を手に入れたら、それは大儲けだな。
考えてみると、今の販売方法や価格は良心的すぎると思っている。
金持ちでなくとも買えない値段ではなく、努力すればすべての人でも購入出来る可能性があるし、そして一回で効いてしまうので、たとえ十倍の価格であってもまだ安いな」
「ひょっとするとオークションに出ているかもしれないな」
「漢方薬指定なので、個人が販売するには制限がある医薬品であり、また会社もそれをして欲しくないから、手間がかかるが、一定数量を常にネットで直販しているらしい。
これは、ちょっと秘密なんだが...
その名古屋の会社へ行ったとき、ちょっと小耳にはさんだんだが、数量は限られるが、どうも富山のある店舗で、少しだけ売っているらしいぞ。
俺が買えなくなるから、これは絶対秘密だからな! もし売っている場所を見つけたら、必ずどこで手に入ったかを教えてくれ!
そして、俺が買いに行くまでは、それは他人に言うんじゃないぞ!」
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
ここは、古くからあるインターネットの掲示板、マニアからはパンドラネットと勝手に呼ばれるようになった掲示板である。
東海地方の中心都市である名古屋ローカルの話題をメインにした掲示板では、地元の人や興味がある人でにぎわっていた。
そこでもちょっとした騒ぎが起こっていた。
最近、名古屋へ引っ越してきたいと言う人からの住居相談や周辺の求人の質問が、なぜか名古屋掲示板にも増えてきている。
「で、わかったのか?」
「いや、知り合いの輸入商や果物ショップなども廻ってみた。
あと、当然ネットでの検索の他、図書館も行ってみたがその写真の植物は見つからなかった」
「かなり、特徴があり、食べた奴の話ではすごく美味しかったようなので、もっと普通に食べられるかと思っていたらしい。
枝豆のような形で、大きな鞘の中に、ブドウみたいなゼリーのような実が入っている物や、バナナのように剥いて食べる白桃のような味の果物など、いくつも初めて食べるフルーツがいくつもあったそうだ。
残念なことに、残っているのがこの1枚の写真しかないってわけだ。
俺の興味に付き合わせ、手間を掛けさせてすまなかったな」
「いや、それはいいが、実際調べてみると、本当にそんな植物があったのかすら怪しく思えてくる。
でも、君の知り合いは、それを食べたと言っていたんだよな...
もう一度確認するが、何か見落としている点があるかもしれないので、何時、何処で、どうやってそれにたどり着いたのか教えてくれないか?」
「うん、わかった。
あの写真は、俺の友達が、名古屋近くのとある場所で行われた、プライベートのパーティーに出席した時、そこで料理と共に出されていた果物を写したものらしいんだ。
それは、パーティーと言っても屋外で行われたイベントみたいな感じで、かなりのお客さんが集まっていたらしいんだ。
そこの場所が出来た記念パーティーらしく、関係者とその友人が招待されたらしい。
俺の友達の知り合いが、そこの人と知り合いらしく、何人かに招待状が配られたらしい。
そこで出された料理が、とんでもなくって、パーティーで美味いものが出る事を知っていたその友人の知り合いの人が、グルメな奴らに招待状を配ったらしい」
「ほう、そんなイベントがいつやっていたのかな?
俺は招待されていないぞ」
「俺だって、行っていないさ。
プライベートなイベントなので、さすがに友達の友達までは誘うのは無理だろう。
俺の友達は、多分名古屋に住んでいる人であれば皆知っているようなレストランを何軒も持っているオーナーで、その知り合いの人に招待してもらったみたい。
詳しくは知らないが、その知り合いの人はフリーのライターだそうで、グルメ取材の時などで、取材に便宜を図ってあげていた見返りらしい。
食べ物に関して、凄く研究熱心なそいつが、そこの料理には完敗だといっていたのさ。
そして、そこの会場で見かけたことが無いフルーツが有り、食べてみたらすごく美味しかったので、写真に撮ったのが、その果実の正体さ。
そのパーティーでは、初めて見る素材や初めて食べる調理方法の料理、味わったことが無い酒や調味料などが沢山あったらしい。
いや、すべてが未知だったのかもしれない。
そいつは、世界中の料理ならばどんな料理でもうちの店で再現してやるなんて それまで豪語していたので、今でもあのパーティーは身が震えると言っている」
「だったら、そのライター経由で確認できないのか?」
「パーティー自体がプライベートで秘密らしく、あまりこの話を広げると招待してくれたライターさんが困るみたいなので聞けないらしい。
それで、俺も気になって、写真に撮った果物を手掛かりとして調べているのさ。
味の記録はないからね」
でも、どれだけ彼らが調べようとも、それら食材の謎については解明することが出来なかった。
このパーティーの料理の松井実果の料理のテーマは、「異次元食材に出会う」であった。
そう、異次元バイヤーのバーバラさんと組んで、異次元の食材や調味料を試験的に輸入して、それを主体にしてこの世界で作った料理だからだ。
当然、この世界で食べて問題ない事の調査や試験は行ったうえで、レシピも含めていろいろ時間をかけて実果さんが作った料理だ。
拠点では、先日から提供されており、人気があった物が今回のパーティーで登場したようだ。
これが好評であれば、今後バーバラさん経由で食材として輸入が始まる事に成る。
バーバラさんは、エリクサー以外にもこの世界から調達したいものが沢山あるようで、その為にはこの世界の通貨が必要となり、少しでも貿易量を増やしたいと考えているようだ。
うまくいけば、今後のカノ国の輸出品に加えられる予定である。
今回のパーティーの食材は、異次元から試験的に輸入されたもので、カノ国の公館となる予定の名古屋の拠点内でのみ、料理に使用されている。
特に異次元からの病害虫やウィルスを心配するのであろうが、検査を行わなければ漏れてしまう今の地球の方が、技術によほど遅れていると考えても良いだろう。
パラセルやバーバラさんなどの異次元貿易商など、異次元間の貿易を行っている世界においては、検疫と言う考え自体、既に完全に対策がされているので過去の話だ。
しかし、正式に日本に輸出するのであれば、その時には検疫が必要になると思われる。
今すぐにこれが食べたければ、カノ国に来るか、拠点の食堂でしか食べることが出来ない貴重な食材たちだ。
名古屋周辺の人の中には、その食材の味を知ってしまった人が少なからずいる事に成った。
フリーライター佐々木君は自ら行動を起こして、再び食べれる道を作った。 今回のパーティーもその一環だ。
今回のパーティーで未知の味を知ってしまった人たちは、この先どのような行動を起こすのだろうか?




