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7-02-01 小さな嘘


 国家を作るという課題を考える上で、俺たちは世界に小さな嘘をついた。


 それは、自分で作った新たな島を、自分で発見するという物だ。

 まあ、これが小さな嘘かどうかわからないが、これは国づくりを開始する切っ掛けとなる物である。


 俺たちは陸地の基礎となる摩導シートを南極工場で製造し、この地まで海中を移動させ、ここの海底に潜る形で展開した。

 そう、一辺が220キロメートあるちょっと大きなシートだ。

 そして数か月の時間をかけて、海底に配置した摩導シートの中央部から徐々に隆起させ、先端に突起がある小山の状態に変形させてきた。


 小山の突起が海面にまで到着すると、観測者や証言者をつれてその場所に行き、そこで島を発見する。

 これにより、最初の俺達の小さな嘘は、世界の真実へと変わる。


 見つかった陸地は、本物の土地であり、本物の地面である。


 そして、ここを俺達の国の領土とするために、俺が第一発見者としてそこに上陸し、その過程をリアルタイムで世界に公表する。

 新島を発見したという事実を作り上げる為に必要な、自作自演の茶番劇であった。


 ここで失敗したら、シートを畳んでまた別の場所へ移動するだけの事だ。

 まあ、この島は感覚的にはピクニックシートのような物だ。 ただ、それがちょっと大きいだけだ。


 この島の場所は、海図や海底のマップを見て、予めどの国にも所属しない公海上で、広くフラットな海底面を選んで、そこにシートを配置した。


 多くの学者たちは新島の発見に疑いを持ったが、この島に対して独立宣言がなされており、俺たち以外には上陸の許可が得られないので、同行をお願いした岡野教授の発表資料と、過去の衛星写真などから、この場所に島などなかったことを証明しようとした。


 また発見を知った偵察衛星を持つ大国は、衛星のの軌道を島上空コースに変え、宇宙空間から確認をしたようだ。


 さらに、発見された島が浮島や埋め立てなどによる人工的なものではないかとの疑いもでた。


 しかしいくら調べても、メガフロートの建造やその海域への曳航記録などは見つからなかった。


 そこが埋め立てなどによる人工島ではないかという意見に対しては、付近の海底までの深度が深いことなどから、人工的に埋め立てて島を構築することは不可能という結論となった。

 さらに各国の地震計や潮位計の変化など、不審な海底への工事が行われた記録は見つからなかった。


 とにかく結論を出したがる学者達により、この島は未明に自然発生し、未発見の島であると、誰に頼んだわけではないが勝手に認定されていた。

 そして、学会ではここは領土となりうる土地であるという認識を発表してくれた。


 この島の独立宣言に対し、世界がほのぼのとした歓迎ムードに流れていった一つの要因として、発見時の島の大きさがあると考えている。

 領土として非常に小さな島であり、この島と経済水域が重なる国もないために、領土係争は起きない。


 また、最初に報告されている陸地は、砂浜と岩礁のみであり、島周囲の水深から大型船舶を接岸できる港を作るには、大型重機による浚渫を行わなければ作れず、またその重機の搬入には大型の港が必要と言う事で、結論的に開発は不可能と言う見方となった。


 当然ここに空港などを設置は不可能と考えられた。

 その新たに島を開発するコストを考えると、ここを係争して奪取するだけのメリットは見いだせないという結論からであった。


 それらが学会で発表されたこともあり、独立国家の宣言後、とりあえず今のところ異議を申し立てる国は無かった。

 逆にそれほどの関心は寄せられなかったようだ。 幸いなことに。


 観測船が離れた後の島には摩導具によるセキュリティが働いており、再び嵐が現れ、衛星からの観察も阻害してある。


 しかし、その隠された中で、島は第二の成長期を迎えており、すでに直径百キロメートルの島にまで拡張を進めている。

 そう、観測船が計測した浅瀬部分が更に隆起し、その海中に有った小山部分を海面にまで持ち上げたのである。


 これで、予定した面積の島を作る準備が出来た。

 この島の面積の変動については、次回公式に発表する事に成るが、既にここは独立宣言を行った国家とした島なので、それまで極小の島であった物が、造山活動などで小さな島となるだけの事であり、島の発生は謎はあるが、自然現象に文句をつける国はないだろう。


 そして次回の上陸は島への移住を意味する。

 そう正式な国家としての活動を開始する事に成る。



 ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇



 あえて自然な島の発見を装うために、今回は観測船を使ってのんびりと島まで行ったが、本当はもっと早く島に到着できる方法がある。


 それは北極工場や南極工場までの輸送で使っている、海中を走る箱である魔導コンテナだ。

 こちらは、大型コンテナ船よりも早い時速百キロメートル以上で水中を移動できる。


 この箱は、海中を移動する際に、水からの抵抗を除去するために、箱の表面に斥力を働かせ、船体表面の水の粘性を排除することで、海中をすべるように移動する。

 それでも日本から南極までは1週間近く必要であるので、船内で普通に生活できる空間が必要となった。

 また、名古屋の拠点からカノ島までも距離が2500kmあるので、この速度では1日以上かかってしまう。

 それなので、高速化ということで、沿海まで出た時点で海上を飛行して、速度を上げる計画をしている。


 また、もっと高速に移動できる交通手段ができないかとの開発も同時に行っている。

 こちらはまだ実験段階なのだが、あの摩導ボールカメラと同じ原理で小さな摩導シートで出来た箱を高高度まで打ち上げて移動しようという物だ。

 摩導ボールカメラでは空中浮遊機能は順調に動いており、あとはそれを大きくするだけなのだが、中に人間が載った場合、その安全性などの追加の試験が必要だ。

 まあ、当面は魔導コンテナを使うことにしているので、もう少し時間をかけて開発する予定だ。



 島は拡張され直径百キロメートルあるので、歩いて横断は不可能となり、島内での移動手段を移住までに作る必要がある。

 そのために、名古屋の拠点では、建物を取り囲む道路で、その新型移動具の開発実験が行われている。



 その試作として、俺の前には例によって1メートル角に切られた何枚かの透明な摩導シートが置かれている。


 固化されて軽い板となっている摩導シート8枚を吸着させて、8メートル長の帯を作る。


 帯の先頭と後方の端を2メートル位置で直角に折り曲げ、さらにその中央4メートルの真ん中を直角に折り曲げると、身長を超えたちょっと大きな2メートル、幅が1mの四角い枠になる。

 その四角い枠の両側を、それぞれ4枚のシートで蓋をする。


 幅が1メートル、高さと奥行きが2メートルの立方体が出来上がった。

 サイコロを真ん中でちょうど半分に割ったような形だ。

 側面に付けた蓋を下から持ち上げると1メートルの高さに位置で折れ曲がり、箱を開くことが出来る。


 その箱の中に、さらに3枚のシートを連結したものを入れ、箱の床と天井に途中で折り曲げながら吸着させる。

 この中に着けたシートは、箱の中を前後に2つに仕切る壁であり、これが、椅子になる。


 あとは箱を固化する事で、中には座れる椅子がある透明な箱が出来上がった。


 通常は密閉された透明な箱であるが、摩導バングルなど摩導IDを装着した人が脇に来ると、側面シートの密度が下がり、そのまま箱の内側に乗り込めるようになる。

 箱の高さは2メートルあるので、歩いてそのまま入ることができ、背中側の壁に寄り掛かると、そのまま摩導シートは体に合わせた椅子になる。


 椅子になる際は、一時的に固化が緩められ、曲線化したためである。

 椅子の表面はテクスチャを変化させ、柔らかな手触りであり、クッション性も良い。


 椅子の後ろの空間はラゲッジルームとなっており、手荷物を積み込むことができる。

 人が乗り込むと入り口の密度は元に戻り、密閉空間の箱となる。


 またIDを持った人が乗り込むと、全体が透明な箱であったもの下半分が白く変化する。

 椅子の高さが調整され、外が良く見えるように上下中間位の高さに調整される。


 この箱の下半分の色と、天井の色、内部の色や椅子の表面テクスチャの状態などは摩導バングルで変更設定が出来る。

 その設定した情報は摩導バングルに記録されるので、箱に乗り込むと、どの箱であってもいつでも同じ色になる。

 島内に配置されている透明なカートは共有品であり、誰が乗っても良く、どの摩導カートであっても自分が設定した内容が再現されて、それがマイ摩導カートに変化する。

 自分の物であると言う概念はあっても、所有すると言う概念は無く、これは住宅も同じことが言える。


 島に大量に置かれる共有カートであるが、不要な時はもとのシート状態に折りたたむことができる。

 折りたたむと1メートル四方の薄い板状になり、島内の各地に配置される倉庫には、大量の摩導カートが配備されることになる。


 そして、その摩導カートの椅子に座った状態で、摩導バングルに話しかける。


「ゆっくり、前に10メートル動け」


 摩導バングルは「ゆっくり」という言葉を正しく理解し、箱は少し浮上すると、自転車程度の速度でぴったり10メートルを移動し、停止する。


 そう、これが、島内での個人用の移動手段なのだ。

 これは単なる箱であり、車輪を用いて動いているわけではないので、決して車ではない。

 俺はこれに、摩導カートと名前を付けた。


 摩導カートは、乗車した人の摩導バングルから行き先を伝えられると、あとは摩導サーバーで自動運転される。

 島内は、すべての交通移動が摩導サーバから制御されることになるので、高速での移動であっても安全に行える。

 摩導カートは高速な移動が可能であるが、島内での移動速度は、最大で時速200kmほどに抑えてある。


 当然もっと速く走ることはできるが、ゴーカートに乗っている時のように、視点が低い地面すれすれを高速で走るため、遠心力や視覚的に恐怖感が出るので、新幹線程度の速度にまで抑えている。


 椅子はフラットにすると2メートルの長さのベッドとなるので、移動中カート内で仮眠もできる。

 まあ、島内外周は一周しても300kmほどしかないので、90分もあれば一周できてしまうので、ゆっくりと寝ているほどの時間はないが...



 摩導バングルや摩導リングへの口頭指示は、摩導通信で伝えられ、摩導カートは摩導サーバーで制御される。

 俺が東京で会社勤めであった際に開発していた、自動運転システムよりも進んだシステムである。

 これは、島内すべてを管理された摩導チップで埋める事で、もし摩導カート専用道路に人がいても、その人の摩導IDのポジションから摩導カートが制御されて、安全に対処できるようになっている。


 島にあるすべての物体には摩導IDが備えられているので、そのIDの位置が常に3次元的に把握されているので、このようなことが出来る。

 これは、島を作る最初から準備してきたことなので実現した。

 南極工場で作った巨大な摩導シートの上に造られた島なので、島の上で認識できない場所などはない。 そう、ここは摩導国家なのである。


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この物語はフィクションです。

登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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