6-05-03 最終確認
時は過ぎ、季節は初夏となり、いま、俺たちは横浜にやって来ている。
今夜横浜港を出航する予定の調査船 第三調洋丸の船内にて、最終的な打ち合わせが行われている。
西脇唯華が各方面に打診を行ってくれて、なるべくすぐに依頼が可能な民間の海洋調査会社を探しだし、この船を予約したと言う事だ。
今回は日本領海を離れた太平洋の公海上で、2週間の調査航海を予定しており、この海洋調査船をチャーターした。
調査船の甲板には大きなクレーンが有り、深海艇なども搭載できるようであるが、今回そちらは使わない。
その代わり、今回はゴムボートの上陸艇を搭載している。
ゴムボートと言っても今回使用するのは、インフレータブルボートと呼ばれるもので、高強度の樹脂で船体が作られているので、今回のような未知の島への上陸に適したものだ。
またこの船には、様々な海洋調査を行う観測装置を備えている。
一般の人と一緒の航海となるために、人前でストレージなどを使う事は控えるために、観測機材はあえて船に積み込みを行う事とした。
明日は早朝の出航となるために、機材等は本日中に準備をしている。
航海中の食料や船内調理は船側のスタッフで準備をお願いしている。 まあ無人島に取り残されても、ストレージが有るので何年でも食べていくことは出来るが...
そして、俺たちは今夜、いよいよ目的の海域に向かい横浜の港を出航する。
今回俺達の参加者は、俺、サリー、マリア、イザベラ、そしてこの計画の立案者である西脇唯華。
それと、上陸の手伝いとして原田真希、アンナ、クリス、フェル、Webレポーターとして西野薫にお願いした。
人は絞ったのだが、どうしてもソフィ博士が着いていきたいと言い出し、しっかりと一緒に乗船している。 全く、自由な人だ。
うちは非力系の女性陣がほとんどなので、こうした調査などの体力系の仕事は、どうしてもアクティブ系の人達に手伝いをお願いする事に成ってしまう。
そう、真希、フェル、アンナ、そして見かけはかわいい少女のクリスに乗船頂いている。
上陸後に作業可能な人手が必要となるので、真希達は南極での摩導シートの接続作業が終了したばかりなのだが、申し訳ないがお願いしている。
船を操舵する船員の方以外に、俺達と同行する乗船者として、航海先の観測データを公式に記録していただく調査会社の方がいる。
政府関係者として日本、台湾の関係者の同乗者がいる。 なお、ソフィはフランス政府の関係者枠での乗船になっている。
台湾政府の関係者は、由彦さんが紹介してくれた老人からの招待である。
それと石崎先生から推薦で、国立大学の地球科学研究者が1名乗船。
そして、マスコミ関連として外国のテレビ局の人が2名いる。
こちらはフランスのニュースメディア配信会社で、フランス政府から取材の依頼があり、カメラマンと女性リポーターの2名の乗船が行われている。
ジャンヌはソフィにべったりとついてくると言うかと思っていたのだが、今回はなぜか拠点で待機すると言っている。
ソフィに聞くと、彼女はどうも船旅が苦手なようで、以前酷い目にあったらしい。
それと、屋上農園がすごくお気に入りのようで、牛さんに馴染んでしまっている。 これまでの職場のストレスレベルが、かなり高かったようだ。
まあ、自分たちで行うWebによるリアル配信の他に、中立性があるパブリックなメディアとしては歓迎であるが、日本のマスコミは誰も来ていない。
今回の航海は太平洋の公海上を巡ってくる船旅で、もしそこで島が発見された場合、そこへ上陸すると言う事に成っている。
俺たち以外のクルーや同乗する人達は、島が見つかるなどとは思っておらず、まあ仕事であるからお付き合いと考えているのではないかと思う。
出航前の気象予報では、現地は低気圧が停滞しており波高しと言う事に成っている。
まあ、これはすでに海水温を通常に戻しておいたので、到着時までには快晴に戻る事を期待しよう。
薫ちゃんによるWeb放送、カオルチャンネルの配信が始まっている。
以前は薫ちゃんは一人配信をするために、自室では三脚、屋外では自撮り棒を使ってセルフ撮影していたらしいので、今回は摩導具を応用した、ちょっとした道具を作ってあげた。
配信を始めた薫ちゃんの目には、配信されている現在の映像が浮かんで見えているはずだ。
これは彼女のヘッドセットのマイク部に映像の投影機能を設け、彼女の網膜に画面として投影表示されている。
彼女はまだスレイトメンバーでは無く、スレイト通信は使えないので、このような外部インターフェースを使っている。
さらによく見ると、彼女の周りにはビー玉くらいの小さな球体が何個か浮かんでいる。
実は、これが配信映像撮影用の摩導ボールカメラだ。
透明樹脂に封じられた球状のカメラの中には、一緒に摩導通信が入っている。 さらにボールの中にはカメラの電源用として、摩導光発電が組み込まれている。
このカメラは、もともとは地球を取り巻くエターナルを遮る荷電粒子帯の調査の為に作ったもので、宇宙空間や極点となる北極海の深海などで使えるように、作ったものだ。
それをさらに改良して使っている。
その摩導カメラからの映像は、摩導通信を用い常に動画配信サーバーに送信され続けている。
空間座標に対して引力・斥力による浮遊の摩導具で姿勢制御を行っているので、空中に浮かんでいる。
空中でも安定した画像が撮影できるので、三脚やスタビライザーなどは不要である。
薫ちゃん専用の摩導ボールカメラは、航海中10個ほどが常に使えるように船内や船外に浮かんでいる。
サーバーに送られたカメラの映像加工、カメラのポジション取りなどは、アーの作業により自動的に編集され、配信目的にあわせた映像として送りだされていく。
その送り出される最終映像が、薫ちゃんの網膜画面にもリアルタイムで表示されている。
薫ちゃんは、摩導バングルにより、ジェスチャーで編集やカメラ切り替え操作ができる。
薫ちゃんは、これら摩導技術について最初こそ驚いていたが、すぐに慣れたようだ。
アーの学習効果にも助けられ、取りたい画像を簡単に支持するだけで、今では複数のカメラを同時に切り替えながら思った映像づくりが出来ている。
また、拠点に有る摩導サーバーは、全世界にあるデータセンターをゲートウェイとしてインターネットと接続して、そのまま全世界に向けてインターネットで配信ができるようになっている。
また、摩導コンピューターではマルチランゲージ対応であり、音声動画は各国の言葉に変換されて放送されてゆく。
これまで、何度も練習や準備を行い、薫ちゃんによるカオルチャンネルの第1回放送が拠点から始まったわけである。
初回配信は、放送開始の簡単な挨拶だけの配信であった。
以前は、視聴者がほとんどいないと嘆いていた薫ちゃんであるが、今回は陛下や政府をはじめ、摩導具関係者など俺たちを支援してくれている固定視聴者も既に何人もついている。
そして、今後は公式配信元であるカオルチャンネルにて俺達の情報を発信していく事に成る。
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俺の元に、異次元の地球から、サリー、マリア、イザベラがやってきた。
いかに生きていけるかなども判らないこの世界であるが、彼女らはやって来た自分の世界に戻ることができない。
そして、俺は異次元からの娘達の身元引受人となった。
この国は外から来た人に対して非常に冷たい。
俺は守る側の立場となったことで、初めてそれに気が付いた。
そして、彼女のような人達の、彼女らの人権が守られたうえで、安心して普通に一緒に暮らせる場所が、この世界のどこかに欲しくなった。
そして、その当時は外務省にいた西脇唯華、厚労省の宮守珠江などから、すでに現代の日本という国にも、この世界でない人たちがひっそり隠れて生活していることを知らされ、やはりそういった人たちを受け入れるための場所を必要としていることを知った。
新しく国を造るという発想は、以前に陛下とお会いした時にの勧められ、その協力すらも申し入れらた。
俺も必要は感じていたのだが、国などとそこまで大きなレベルできるものかとも思いつつも、いろいろな方の協力もあり、始まった? いや巻き込まれたものである。
異星人から見ると、いまだ鎖国状態の地球ではある。
いや、この世界の政府は、地球外の異星人や異次元人の存在すらいまだに示していない。
今、この地球生まれでない人たちの存在は増えつつあることもあり、今の地球に住む人たちに知らしていくことが必要となってきているらしい。
日本政府としては、日本海沖にある小さな島を使い、今の日本の行政から切り離し、1つの国として独立させることを検討していたようだ。
この計画は、内閣府を中心に検討されており、国家的機密として計画されていた。
そして、外務省と国交省などが計画を練っていたが、残念ながらそれを実行に移せるだけの気負いを持った官僚がいなかった。
ただ、異世界や異次元からの訪問者が増え始めているため、隠していられる時間はすでに限界となっていた。
そこで、外務省の西脇が掲げた政策や陛下から持ち出された計画が首相に伝わった。
当初の政府の計画とは異なるが、最終的な部分では国内では扱いに困る異世界人についての受け入れが可能であると言う点で、これを代替え手段として受け入れる事が了承された。
そして、それを利用してまずは生物的にこの世界の人類に近い異次元の地球人から、その存在を公開していく方針に固まった。




