6-05-02 公海上の島
今俺たちは、新しい国家を作る話合いの最中だ。
そして、一番重要となる国家を作る場所について話し合っていた。
新しい島を作る、いや見つけるための打ち合わせだ。
「ここにしよう」
俺は壁に貼った大きな地図に対して、太平洋上の何もない場所を指さして説明している。
そこは公海上であり、周りに島1つもない海域である。
俺たちは海底の地形図やパソコンのマップを見ながら、海面から隆起するような浅い場所が無いことを確認している。
宇宙空間に置いて有る観測用の摩導ボールカメラから見ても、そこには太平洋の真っただ中であり、周囲にはヤシの木が一本生えているような小さな無人島すらない。
国連海洋法条約では、沿岸国は自国から200海里(約370キロメートル)の海の範囲を排他的経済水域(EEZ)として、自国領土としてみなすことを認めている。
そこは東京から東南東に2000キロメートルを超えた場所。
そのポイントから一番近い島は日本の東端とされる南鳥島であるが、そこからも900キロメール程離れており、どこの領土にも属さない海域。
そんな海の真っただ中を指さして、何を言っていると思われるかもしれないが、俺達の計画では、俺がこのポイントに無人島を発見すると言うシナリオを書いている。
そう、誰の物でもない島を、俺たち自身が発見する事が重要なのである。
「そうね、そこであれば、どちらか言うと日本の延長線上の距離であり、アメリカ本土やハワイからも遠いため、アメリカも権利主張は難しいわね。
また、アメリカ本土やハワイへの航空機の航路には当たらないし、航空機の最長飛行距離の南米路線から考えても、良いわね」 と唯華。
「そこは日本とは異なる太平洋プレート上にあるので大陸棚は関係はないし、周辺には海底火山などの隆起がほとんど無い。
なので、過去にその場所を占有していた国は有り得ないので、どの国からも領土問題にはならないと思われるな」 と教授。
そもそも、宇宙の衛星から画像や様々なデータで地球を観測しているこの時代に、誰も気が付いていない島なんか見つかるわけがない。
その通りである。
しかし、今回はどこの国の領土にも属さない土地を見つけ、俺たちがそこに国を創る必要がある。
かといって、土を盛って島を作っても、それが人工造成地と認定されてしまうと、そこは自然に形成された陸地ではないために、領土として認められるかは微妙である。
実際問題として、俺が差した場所では、海の深さを考えると、多少の土を盛ったところで島など作れない。
陸地から大量の土砂を運搬して埋め立てた場合、その作業は衛星などで監視記録されることになる。
そう、誰も気が付かない新島が誕生し、それを俺たちで発見すると言う、荒技?を考えている。
誰かが造ったと言う事実が立証できなければ、文句のつけようがない。 今の衛星監視システムを逆に証拠として使わせてもらう。
人工的に造ることが出来ないから、もともと自然に有った島であると世間が自然に考えるようにする。
重要なのが、その島を俺たちが始めて発見したという、既成事実の作成が必要なのだ。
その為に、俺たちは世界に対して小さな嘘をついた。
これは、「太平洋に新天地を探せと言うお告げがあった」と言う嘘である。
この嘘は、ネット配信であらかじめ公開する。
その後に、複数の証言者をつれて、太平洋上のその場所に船で行く。
出航前に、お告げの場所に現在島が無く、誰の所有でもないことの資料を提示し、それを宣言する事が大事だ。
その後にお告げによって島を探索し、そして発見する。 島が発見されることで、小さな嘘は真実に変わる。
そして、ここを国の領土とするために、俺がその島に第一発見者として上陸し、その上陸過程をリアルタイムで中継し、世界に公開する。
新島を発見したという事実を作り上げるために必要な、自作自演の茶番劇である。
なので、予め海図や海底のマップを見て、どの国にも所属しない公海上で、広くてフラットな海底面を選んで、そこで島を発見することにした。
しかし、それだけ容積の土がいきなり海中に現れた場合、その部分の大量の海水が押しのけられてしまう。
すると、周辺諸国で潮位変化が観測されてしまい、一気に行ってしまうと最悪沿岸部に津波が到達してしまう。
また、衛星からも島が発見されてしまう。
そこで、先日から南極工場で作って来た大きな摩導シート、それを太平上場のポイントに移動させる。
そう、関東平野を覆い隠すほどのシート、220キロメートル四方の巨大摩導シートであるが、シートを接続するたびに折り畳んでいる。
そして完成した今、長さが220キロメートルの四角い棒状に折り畳まれている。
その全長220キロメートルの棒が、蛇のように深海を這いながら進んでいく。
海底を進行する際、浅瀬などで潜水艦を探知するソナーに引っかからないように、シート表面の音響を吸収するようにあらかじめ設定してある。
それを南極工場から海底を通って移動するルートを通り、指定ポイントの海底に到着後、南北方向に海底で停止した棒を中心として、東西にシートの展開を開始する。
海底に完全に広がった摩導シートは、摩導力を用いて海底面の100メートルほど地底に潜り込む。
海底の地底に広がった摩導シートは、海面に向かい熱の放射を開始する。 これは2か月ほどかけて行っている。
これは、シート表面の温度を少し上げる事で、この220キロメートル四方の海域の海水温度が、その周囲の海水温より数度上昇する。
すると、この海域の海水上空の空気は周囲と比べ膨張するので、軽くなった空気は上昇気流を生み出す。 局地的な人工低気圧の発生だ。
この上昇気流により持ち上げられた水蒸気により、上空には厚い雲が発生する事に成る。
これは、この場所を航空機や宇宙から見た際に、雲により海面を覆い隠す。
また、温度が異なる空気の塊がこの海域の上空で接するようになる。
密度が異なる空気の層を光が通過する際、その境界面で光は屈折するため、高い空から見るとその海域は屈折により見えない。
水を入れたコップに棒を差し込んだ際、上から見た場合棒が曲がって見えるのと同じ原理だ。
たとえ上空から赤外線撮影を使っても光の屈折するので監視できないため、人工衛星に対しても島を隠す迷彩の効果が出来上がっている。
ここの上空を定期航路としている航空機は無い事は調べてあるが、例え、航空機が雲の下を通り過ぎても、空気の屈折により海面しか見えない。
摩導シートは海底の土砂をシート表面に乗せた状態で、その中央が徐々に海底から膨らむ形で山状に持ち上がり始めている。
この周辺海域はだいたい海底までの深度が約2キロメートルあるので、海底からの高さを計算し、中央を隆起した際の陸地の大きさから決めたシート面積である。
沿岸への影響を出ないように、ゆっくり、ゆっくりと海面に向かって、海底の摩導シートの上昇が始まり、2ヶ月かけて海面近くにまで到達する予定だ。
地球の海面は、月の影響により約29.5日単位で潮位が変化する。
そこで、その潮汐周期の2サイクル分の時間を掛けて摩導シートの上昇を行っている。
低気圧により天候がかなり荒れているこのポイント周辺海上は、船舶も避けて航海している。
そして、その海面下では、俺達の新たな国土となる公海上の島造りの準備が秘密裏に進められていた。




