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6-04-10 気がついた人


 青森県の下北半島の付け根、大きな湖のほとりに信じられないかもしれないが、そこは日本国内だと言うのに日本人が立ち入れない特殊な施設がある。


 そこには、かつては極東地域を飛び交う無線通信など様々な情報を傍受するアンテナ群が有り、無線傍受する米空軍の巨大な情報収集基地がある。

 そこでは敗戦後から、極東諸国の情報収集活動を堂々と行っており、どこぞの国が携帯回線の基地局から情報を盗むなどと言っているが、それ以上の諜報活動が行われてきている。

 いや、情報の重要性を知っているからこそ、その立場を第三国に取られることは絶対阻止したいのかもしれない。


 昔そこには巨大なアンテナがあったが、今は短波帯が使われ無くなった為、特殊無線や携帯電話、マイクロ波などの電波や有線でのデータや音声回線の傍受が中心となっている。

 そこで、最近ちょっとした異変をとらえられる事が幾度かあった。


 駐屯する電子保安中隊は、日本国内でのインターネット上の通信を監視しているのだが、それが時々追跡ができない事が発生するような事が有ったのだ。


 あるポイントまで来ると、なぜかそこから先の経路追跡が出来ない。

 通信データには通過した経路がIPとして記録されているが、そのルートを調べてみると、示されている経路が実際には存在しないのだ。

 途中の経路が存在しないのにもかかわらず、別のルートをバイパスしたのか、データはきちんと届いている。


 まあ、観測に支障を与えるほどではないが、それが少しずつ増えてきているように感じられたので、調査を始めたのだ。

 しかし、特に日本と言う国の中で大きなインターネット回線の変更がなされた記録はないし、またそれほどの大工事であればデータに傷跡が残るはずであり、調査可能である。


 それと少し気になるのが、常に増加を続けてきた主要幹線の国際間の通信量が最近になって少し減り始めているのだ。

 多くの人がインターネットを使う時代となっているので、軍の情報収集基地であってもすべての通信を同時の調査することは出来ない。


 しかし、今のところこれは日本国内の通信エラーであり、それが米国の国家安全保障に係わるような事案ではないと思われたので、それは見逃されてしまった。


 大きすぎる問題という物は、得てして見逃されてしまう物である。


 米国民間企業のGGI社はその異変に気が付き、そしてすばやく動いたが、大規模な傍受基地を持つ米空軍(エアフォース)では、せっかく見つけた糸口を看過してしまった。

 確かに、それはあえて騒ぐほどの軍事的や政治的な動きこそないが、そこでは確実に何かが動き始めていたのである。



 ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇



 慎二たちは、以前スイスのデータセンターのサーバーにインターネットへの接続装置を設置した。

 それは慎二たちの元からインターネットへの接続を行う際に、スイスと言う遠隔地のデータセンターからネットの幹線につなぐことで、第三者から追跡しにくい仕組みを作る為であった。


 それが、いま世界各地のデータセンターに同様の装置の設置が行われている。

 これにより、各データセンター間が摩導通信によりつながっていく事に成る。


 通常は、主幹線を流れる高速・大容量データであるが、現在の技術を使った回線であるがため、摩導通信の方が圧倒的に高速大容量である。

 インターネットではより高速に通信が行える通信ルートを検索・学習して、その通信経路が確定していく。

 その為に、主回線のデータの一部が慎二たちの摩導回線に流れ込む、いわゆる逆流現象が発生している。


 それが繰り返されていく事で、徐々に主幹線を流れるのではなく、摩導通信で作られたサブルートを流れだすことになっていく。

 最初はごく一部であったものが、設置されるデータセンターが増えるにつれて、徐々に主幹線を流れるデータは高速な摩導通信の経路に切り替わっている。


 装置の設置は世界中のデータセンターに対して行われており、一般の人には、最近ネットが少し早くなったなと思っているかもしれない。

 しかし、裏側の通信の上流回線でそのような事が起きており、ほとんどの人は関係が無くそんな事には気が付かない。


 その主幹線を管理している会社では、通信量が減っていることは観測されているが、世界的なイベントなどで通信量は常に大きく変動するものなので特に気にしていなかった。


 そうして、慎二達は人々に気づかれないうちにインターネットを流れる多くのデータを摩導通信回線に取り込む事に成功した。

 その摩導通信の監視や制御は、当初アーにより実施されていたが、やがて作られる摩導コンピュータに置き換えらる事に成る。



 ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇



 所変わって、ここは先ほど名前が出たGGI社である。


 名古屋の先端技術大学の調査に出張したウィリアムであるが、名古屋を深夜に出発し、ステイツに戻ってくると時差が有るので夜に着く。

 GGI社のプライベートビジネスジェットを使う事で、無駄な時間が無く活動が出来る。

 せっかくのプライベートジェットではあるが、日本と言う国は遅れており、24時間利用できる空港はほんの一部に限られているので、夜間の定期ルートは設定されていない。


 空港から自宅に戻ったのはかなり遅い時刻となり、いくら快適なジェットの旅であっても昨夜からの疲れはまだ残っている。

 しかし、そんなことは言ってられないので、朝は定時に出社して、作成したリポートを持って上司に報告に向かう。

 リポートは電子ファイルで既に送ってあるのだが、今日は重要な話なので、上司に面談を申し出たのだ。


 上司の部屋に行くと、名古屋の件はすでに調査の続行の許可が出ていると言われた。

 さっき報告書を登録したばかりなのに、何だかやけにすんなりと進んでいるな?


 僕はここで一番重要なお願いを上司にする。

 そう、名古屋に行く際につけてもらったアシスタントを僕の部下に欲しいと言う話だ。

 考えてみると、そう言えば僕は彼女の名前すら覚えていなかったな。


「ウィル、それは出来ないな」


 思いがけないことに、上司からはいきなり否定の言葉が返された。


「どうしてですか? 僕は彼女の仕事ぶりに感心して、単なるアシスタントではなく、仕事のパートナーとして必要と考えたからですよ?」


「いや、彼女は、すでにこの国にいない。 今は南に向かったよ」


「南って、LAですか? それとも国外のメキシコですか? まさかブラジルなんてことは無いですよね?」


「いや、もっと南だ。 そう、南の果て、そこは北しかない場所だよ」


「え? と言う事は、南極点ですか? だって僕たちは昨夜日本から空港に戻って来たばかりですよ」


「その後、彼女は出社して今回の報告書を作って社に提出し、その後すぐに旅立ったさ。

 だから、君の報告よりも前に、この件はすでに了承済みになっている」


「ええ! あの時間からですか? では彼女は全く休んでないんじゃないですか!

 それに南極は、さすがにわが社の社内便も飛んでいませんよね?」


「そうだな。 だから彼女は途中で空中給油できる空軍の偵察用超音速ジェット機で往復するらしい」


「うちの会社って、そんなところにまでオーダーできるのですか! 知らなかった」


「うちは民間だよ。 軍を使える訳がないじゃないか!」


「だったら、どうやって?」


「それは、彼女個人自身が持っている人間関係だよ。

 思いついて、すぐに軍の飛行機を飛ばせるだけの力を彼女は持っているってことだよ。

 彼女については、君がどうこうできるような人じゃないんだよ、あの人は。


 たとえ私の上司であっても、彼女にお願いできるような立場にはないからね...

 彼女の事は私もそれほど詳しくは知らないが、もしこの会社にまだ居たいのであれば、これ以上は聞かない方が君の為だね。

 今回は、たまたま専用便の行き先変更をスケジューラーで見て、彼女の方からアテンドの申し出があったのさ」


「オー、マイガッシュ!

 何てこった! こんな事だったら、もっと彼女と名古屋の一夜を楽しめばよかったよ!

 とても残念です。 了解しました!」



 ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇



 私は石田陽子(いしだようこ)


 今、GGI社のお仕事を手伝っている。 まあ趣味みたいなものね。

 もともと、このGGI社は私の父の友人が作った会社で、父はそこの基本的なソフトウェアを設計したそうです。

 今でこそ大きな会社になっていますが、当時はたった2人だけの小さな会社で、父も若かったので昼夜問わずに仕事をしていたそうです。 今の時代だったらブラック企業ですね。


 そして、父はそのプログラムが完成すると、すべての権利を友人に渡してGGI社を去り、その後しばらくして亡くなってしまいました。 やはり無理がたたったようです。


 その後、母は女手一つで私を育て上げ、今に至っていますが、GGI社の会長、そう父と一緒にGGI社を立ち上げた方からは私たちに同社の株券を譲り受けました。

 いや、正確に言うと、創業時に父が所有していた持ち株がそのまま残されており、友人は律義にそれを父の持ち分として残してくれていたそうです。

 父は連絡先を伝えていなかったそうなのですが、上場後に父の捜索が行われました。

 しかし、その時点で両親はすでに亡くなっていたことがわかった為、父の持ち分の株式の名義が私に書き換えられたのです。


 GGI社の資本金の内、父と友人はそれぞれ30%の株式をもっており、残りはファンドから40%の出資を受けて作られたそうです。

 父が抜けた後、父の株券はそのまま保管されており、友人はファンドから株を買い戻したそうで、その後に上場を行ったと聞きます。


 その後友人、いや現会長は市場に手持ちの30%の株を売り出したそうです。

 しかし、上場時点ではまだ誰もGGI社の秘めたる力には気が付いておらず、それほどの価格では売れなかったそうです。

 多くの人があの時少しでもGGI社の株を買っておけば... と、よく言われるようです。


 今や時価総額では世界トップ10にでも入る企業となり、私が持つ株式もとんでもない金額になっています。

 まあ、もともとエンジニアであった父が当時出資した際の金額は、大した金額ではなかったみたいですが。



 GGI社が提供する全地球型データベースと言うのは、地球上のいろいろな情報を収集すると思われているようですが、実はちょっと違います。


 父は、これを考えるにあたり、与えられたビッグデータを蓄積するのではなく、ある程度未来予測を行うロジックを作りあげました。

 そして、その予測に基づき、予測が正しいことの証明するデータを集めるようになっています。

 もちろん予測が間違っていた場合、それはそれで修正を行い再度データの収集を行います。


 そうです、データ収集は予想に基づき、その何かが起こる以前から、それについての情報収集が始めるのです。


 何か起きてからでは情報は隠されることが多くありますが。

 しかし、起きる前であれば、それに関する情報が隠蔽や改ざんされる前からすでに収集が始まっています。

 そして、その事実が、いつ、誰によって、どのように改ざんされたか、その過程をすべて記録しています。


 そこの情報が変化する過程は重要な要素を含んでおり、作為的な動きがある場合、これにより次なるイベントの予想が可能となります。


 GGI社では、本来は大きな経費を掛けて運用しているデータベースですが、当初から検索などすべての利用料金を無料で公開しています。

 それは、最初考えられない行為であり、その為に株価も低いままでした。

 普通は、最初は実験段階であり、それは無料で利用できたものが、実用期になり、ある程度のユーザーを確保した後は利用を有料とすることが一般的でした。


 ところが、データベースの運用が軌道に乗っても、GGI社は利用者からお金を得るのではなく、そこの表示される広告から収入を得るビジネスモデルを展開しました。

 検索の信頼性が高く、それが無料であるために、多くのユーザーが更に利用する事となり、今や名実ともに世界の検索エンジンとなりました。


 特に、検索のキーワードに対して、そう言葉に対して、その単語に高い広告料金を提示した人から順に検索結果が表示されるようになりました。

 誰の物でもなく、無料であるはずの単語を入札対象とさせることで、無から莫大なお金を生み出すことに成功したのです。

 すでに検索エンジンとしては確立しているので、そこの自社の製品をなるべく上位に検索させることで、各企業もその入札が売り上げに直結する事に気が付きました。

 各企業はこぞって、広告料金を自ら高く払います。


 普通は広告費を少しでも引き下げたいものですが、ここでは少しでも高く払いたいという、普通とは逆の経済効果を生んでいます。

 1円でも他社よりも高く払う事で、より上位の広告効果が得られるので、各企業自らがせっせとGGI社へ広告料金を貢ぐこととなりました。


 その結果、それまでの紙媒体や放送媒体などよりも、GGI社の検索結果は高い価値を持った広告媒体に変化しました。

 そしてGGI社を世界規模に押し上げ、今に至っています。


 父は既にこの世にはいませんが、今私はGGI社の第2位の大株主でありますが、特に役員などの職には就かず、気ままな立場の社員とし会社を手伝っています。



 父が残した全地球データベースと言うシステムですが、それに関する事で少し気になる事が出ています。

 今回の名古屋の件が関連するか判りませんが、少し聞き込みを行う事にしました。


 先日、久しぶりになつかしい名古屋へ行くことが出来ました。

 たまたま、調べていた案件と近い内容の調査が有るので、それに同行する事にしました。

 私が表立って動くよりも、その方がスムーズに動けるかと思ったからです。


 問題と言うのは、全地球型データベースの予測しているデータと実際に地球での情報に一部ずれが出始めた事です。

 今は、まだ今は小さな誤差なのですが、予想を先まで延ばすとかなり大きく異なるというワーニングが出ているのです。

 それらの原因や今後の対応を行うために、今私は独自に調査を行っています。

 問題が本格化する前に、対応する予定です。


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この物語はフィクションです。

登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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