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6-04-09 入国


 借りていたレンタカーでホテルに向かったソフィとジャンヌは、レンタカーの返却やホテルのチェックアウト、そして本国への連絡などを急いで行っていた。

 いきなりの連絡で、当然フランス本国では大騒ぎになるが、博士本人はどこ吹く風で自分からの連絡を済ますと、さっさと携帯電話の電池を抜いてしまった。


 ジャンヌは、ソフィ博士からの連絡の後に話を伝え、彼女も連絡を切ってしまった。

 たとえどのような状況であっても、自分で勝手にやめることが出来ない諜報部の職場であるが、博士の護衛と言う隠れ蓑を利用して彼女も押し通してしまった。

 この件は、顧問先である大統領にもすぐに伝わる事に成り、大統領は頭を抱える事に成ってしまった。



 それらがすべて終わると、既に周囲は暗くなる時間であった。

 そして、すべての準備が終わったことを摩導バングルで連絡してきた。


 マイクロバスは、ホテルで二人をピックアップし、拠点へ戻ってきた。

 二人にとっては、初めての入国となる。 まあ、まだ正式に国にはなっていないので、入国ではなく、単なるお宅訪問ではあるが。


 マイクロバスが拠点の敷地に入ると、バングルが小さくぶるっと震えた。

 これは、摩導の管理下に入ったことを装着者に伝えるためだ。

 そう、もうここは慎二たちの国の中である。


 まあ、まだ車の中なので、ただそれだけの事であるが、歩いて入国した場合であれば3月の気候が初夏の温度に変わったことがわかったのかもしれない。

 マイクロバスも摩導装備であるため、車内はすでに拠点空間と同じ温度となっているため、降りる時も気が付かないと思われるが...


「斎藤さん、ありがとうございます。

 すみませんが、お二人の旅行鞄はお部屋に入れておいてください」


 慎二は運転手に声を掛けて、マイクロバスを最初に降りた。

 そして、ソフィ博士と、ジャンヌが降りてくるのをバスの外で迎えた。


「ようこそ我が国へ」


「おう! これからよろしくな!」

「よろしくお願いします」


 階の玄関前についたマイクロバスから降りた二人を、2階の食堂に連れていく。


「おお、中はなかなか広いんだな」


 食堂に続く長い廊下の海側のガラスからは、湾岸部の明かりが遠くに見えており、日が暮れた時間なので夜景がきれいだ。

 食堂は、すでに夕食時間のようで多くの人が集まって来ている。


「ここで全員食事を食べることが出来ます。

 ここでの食事については、摩導バングルの摩導通貨のパラスで決済されます。

 自分のバングルにパラス残額って聞いてみてください」


「私のパラス残額は?

 おお、聞こえてくるな。 10万パラスと言っているぞ」


「私もです!」


「ここでの食事は、国が提供するものですので、安く設定されていますから、男性が沢山飲んで食べても1000パラスにもならないと思います。

 食事は優秀なシェフが力を入れて作っていますので、是非楽しんでください。


 こちらで注文しますが、日替わりであればすぐに食べられますから、最初ですからここの味が解ると思いますので、今日は皆で日替わりを頂きましょう」


「枝奈ちゃん、今晩は!」


「あ、慎二さん。 お客さんですか? お姉ちゃん、慎二さんです!」


「実果さんも今晩は。

 この人たちは、今日入国されたソフィさんとジャンヌさん。 お二人ともフランスからいらした方です。

 こちらの実果さんがここのシェフです。 今日は日替わりをもらいますね」


「分かりました。 これからよろしくお願いしますね。

 ドリンクはそちらからご自分でお持ちください」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 ジャンヌがきちんと返事をしている間に、ソフィは既に料理について枝奈にいくつか質問していた。


「博士、ご挨拶は?」


「ああ、すまん。 シェフ、これからよろしく。 見たことが無い料理だったので、ちょっと気になってしまった」


「今日の日替わりは魚を準備していますので、魚がお嫌いでしたら定番から作りますので、メニューからお好きな物をどうぞ」


「では、私はその魚の日替わりをお願いする」


「私は日替わりではなく、和風定食と言うのをお願いします。 和風って日本風って意味ですよね?

 日替わりも食べて見たいけど、それは今度にします」


 そう言うと、実果さんと枝奈さんはちょっと残念そうに、


「あの、ここの日替わり料理は、同じものが次に出る事はほぼありません。

 いや、無い訳では無いのですが、出ても数年後になると思います。

 リクエストが多い場合は、定番メニューに加えていますが、そう言うわけで皆さん日替わりを食べられることが多いですね」


「えっ! そうなんですか? でも私お魚はちょっと苦手なので、やはり和風定食でお願いします」


「はい解りました。 では、すぐ準備しますので、そちらからお持ちください」


 そう言うと、実果さんは食堂に置かれたキッチンカーのワゴン中に戻って行った。

 俺たちは、窓際の席に食事を持って移動した。


 そこのテーブルには、主要となるスレイトメンバーが待っていた。

 そう、スレイト通信で博士たちの到着の事はあらかじめ伝えていたので、南極に出張している真希以外のスレイトメンバーはみんな揃っていてくれた。

 スレイトメンバーである松井姉妹も、キッチンはいったん閉じてテーブルにやって来た。


 互いに名前程度に簡単な自己紹介を行い、食事をすることにした。


「シェフ、今日の日替わりはどんなお料理なの?」


「慎二さん。 これは、お魚の洋風酒蒸しです。

 洋酒で香りを付けてあり、塩釜ではありませんが、周りを蒸気を通さない被膜でコーティングをしています。

 コーティングを最初に固めてから、内部を直接加熱して自分の熱で蒸しあげています。

 すべてコーティングの中に閉じ込めて、お酒と素材の水分だけで高圧に蒸しあげていますので、ふっくらしていると思います」


「コーティングって言うのは、この表面の薄い皮の事だね。

 これって初めて見るけれど、これもバーバラさんが異次元から輸入してくれた素材なの?」


「そうです。 これは新たな素材で、水溶きの小麦粉みたいに使っています。

 小麦粉と同様に、熱により薄い皮膜になって料理する素材の表面で固まります。


 しかし、これは固まると水や油を全く通さず、また一切膨らまないので、料理する素材が出す水蒸気により被膜の中は高圧になって、料理自体が圧力鍋状態になります。

 見た目はプラスチックみたいですが、これ自体食べられますので、食べるとパリッとして美味しいですよ。

 高圧で調理されますので、魚の骨もすべて食べられますので、そのままナイフで切って食べてもらえれば良いです」


「これは面白い料理ですね。 こんな調理方法はフランスでも見た事が有りません」


「そうだな、私も初めてだな」


 短時間で高圧に至る為に、形も崩れずに、素材の味も香りもそのまま残り、割った時にプシュッと出てくる香りはリンゴのブランデー、カルバドスか?


「私もお魚にしても良かったかな? って、それを見ていたらいま思っています。

 魚って、フランスのムニエルなどではバターソースを使ったものが多いでしょう? なので、ちょっと避けていたのですが、ここは違うみたいですね。

 そういえば、日本ではお魚には必ずお醤油を使うと思っていたのですが、このお料理はお醤油も使っていないのですね?

 ちょっと後悔です。

 博士、お願いですから私にそれを一口頂くことは出来ませんか?」


「だめよ!

 さっきも聞いたように、場合によってはもう食べられないお料理なんてあげられるわけがないじゃない」


「ははは、お二人とも喧嘩なさらずに。

 俺のお料理はまだ手を付けていませんから、半分でしたらどうぞお食べください」


「えっ! ありがとうございます」


 そう言って、嬉しそうにおれの魚の半分を持って行ったのはソフィ博士であった。

 いやはや、この先生もひょっとして服部さんタイプ?


 俺は残った半分の魚を、皿ごとジャンヌにあげていると、気を利かせた枝奈ちゃんが、キッチンワゴンからもう一皿持って来てくれた。

 まあ、実際には目立たないところでストレージからできたてを出してくれたのであるが。



「いやはや、ここはいろいろと私が知っている世界とは隔絶された世界のようだな。

 まさか食事までもが知らない調理方法や味が提供されているとは思わなかった。

 まあ、これからしばらくは驚かされることもたくさんあるだろうから、楽しみだな」



 この後、ソフィ博士たちは自分の部屋を準備することになる。

 最初は、標準内装の部屋がセットされているので、自分の好みに変えたい場合、摩導バングルを使ってカスタマイズをすることになる。


 そこでは驚きの連続が始まる事に成った事は言うまでもない。


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この物語はフィクションです。

登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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