6-04-07 南極工場
慎二です。
今俺たちはいよいよ新たな国づくりの段階に入り、その際に必要となるいろいろな物の調達に動きだしているが、今大量の摩導シートが必要になってきた。
拠点を作成するときに使っている、そう、あの摩導シートだ。
これまでは拠点の内装や外装などで使っていたので、そのベースとなるプラスチックシートは大した量ではなかったので、市販されているものを購入して賄ってきた。
しかし計画の中で、さらに大量の摩導シートを作る必要が出てきた。
そうは言っても、市場からあまり大量のシートを買い占めると目立ってしまうし、異なるメーカーの製品が混ざると品質にムラが出てしまう場合がある。
そこで、どこかプラスチック製造会社の工場を丸ごと買収し、自前の工場として製造を行う事にした。
材料は外部からの調達となるが、製品の出荷先は隠すことが出来る。
今俺たちが必要としているシートの量としては、だいたい関東を覆うくらいの量だ。
第一弾として、面積で220キロメートル四方の巨大な摩導シートを作成する予定である。
距離で220キロメートルと言うと、直線だと東京から浜松近くにまで達する距離に相当する。
その大きなシートを構成するのに必要なプラスチックロールを作る予定なので、完成した製品を買うよりも、工場ごと買った方がはるかに安くなる。
自分たちの工場となれば、工場や生産設備自体を摩導具とすることも可能となる。
その工場でプラスチックシートを作りながら、同時に摩導シートまでをも一気に作りあげる予定をしている。
自分たちの工場であれば自由に加工が可能となるので、前回使った潰したチューブを素材にするのではなく、更に薄いシート2枚を重ね合わせて作る事にした。
出来上がった薄いシートの上に摩導モジュールを並べて配置し、その上からもう一枚薄いシートを重ねて置き、摩導モジュールをラミネートするように、2枚のシートを熱で貼り合わせる。
今回は細かな範囲でシートを摩導をコントロールできるように、シート中には1メートル間隔に1個の摩導モジュールを埋め込む予定である。
1メートルに1個と言っても、シート全体の全面積では、22万個 x 22万個という大量の摩導モジュールが必要となる。
ラミネートで熱接着を行う際に、摩導モジュール周囲のみを熱接着し、多くのシートの空間は接着しないで残しておく。
これにより残された空間部分を摩導チューブに変化させることで、連続した巨大な摩導ベインを構成する、
こうして出来上がったシートをロールにして輸送し、そのシートを広げて連結していく事で巨大な面積のシートを作る予定だ。
ところで、摩導モジュールを作る為に、スクリーン印刷での製造限界は水谷理恵さんの工房で確認してある。
俺たちはそのシートに埋め込む摩導モジュールを大量に必要としているために、それから計算して、スクリーン印刷では全く対応できないのだ。
そこで俺たちはシートの工場と同時に、別の中古工場を1か所購入した。
そこは中古工場と言っても、古い崩れそうな工場などではなく、それまでのプロセスでの生産を終了した、少し時代を経過した半導体工場である。
半導体は、常に製造の高密度化が行われているために、時間が経過しプロセルルールが適さなくなった生産設備は売却され廃棄されていく。
同じ大きさのシリコンウェハからICを作る場合、ICの面積を小さくした方が、数量が沢山作れるために、小型化する事でコストがどんどん下がってゆく。
しかも面積を小さくする方が、配線距離が短くなるために、応答速度が速くなり、高性能なICが作れる。 あ、この辺は摩導回路にも同じことが言えるな?
この工場は、古くなった生産設備ごと工場建物が売りに出されていたので、それを購入したのだ。
いや、半導体工場と言っても俺たちが半導体である新たなICを作りたいわけではない。
その工場に有る半導体を作る為の装置が利用したかったのだ。
半導体は、シリコンウェハと呼ばれる、薄く輪切りしたシリコンの円盤の表面を加工して半導体を作る。
その時、微細なパターンをシリコンウェハ表面に焼き付け、様々な加工を繰り返してICを作っていく。
俺たちが欲しいのは、そのリソグラフィと呼ばれるパターン転写技術などの工程装置だ。
そう、今スクリーン印刷で行っている摩導パターン製造の超高密度化を考えている。
そこで、現代の先端技術である半導体の製造原理を使用する事にした。
これにより、超微細な摩導パターンを作ることが出来るようになり、それを細かく切り出すことで超小型で、大量の摩導モジュールを作る事が可能となった。
なぜ、ここまでの技術が必要になったかと言うと、いま大量の摩導モジュールを必要としているからだ。
それは、このIC工場を使って作られる1平方ミリ以下の微細なチップ型摩導モジュールであり、例の巨大なシートに組み込む大量の摩導モジュールを必要としている。
なので、これからは特注的な物は理恵さんの工房で作成し、大量に必要な物は半導体工場での生産へと分けて生産する事に成った。
半導体工場は、本当は工場ごと拠点に移設したかったが、そんな広い土地は無く、現在の場所での稼働を行えるようにした。
もともとセキュリティ対策がなされていたが、さらにそこを摩導化する事で安全対策も行った。
こうして、超小型の魔道チップを組み込まれた摩導シートのロールが大量に作られていく事に成った。
しかし、これを220キロメートル四方に摩導シートとして接続するためには、人が来ない、人の目に触れない広い場所が必要となる。
まあ、出来るごとに折り畳んでいく事で、それほどの面積は必要はないが、それでも直線としては220キロの折り畳むためのスペースは必要となる。
何しろ、この工程を日本で行うと、関東平野をすっぽりと包み込む大きさだ。
しかし、そのような作業に使える平らな場所が地球上にあった。
いや、そのサイズになると地球の球体の影響が出るために、地表が完全に平らで有っても、それは地球外周の曲線を描いており、まっすぐではないのだ。
そこで、シートは上空に浮かべて作業を行うので、そんな地表の状態はあまり関係ない。
俺たちは樹脂工場で出来上がった摩導シートを、輸送用の摩導ボックスに詰めて、海中から送り出しを行っている。
摩導ボックスは北極で活躍しているマナクリスタル工場に使っている、移動ができる摩導の収容ボックスである。
摩導シートを入れる摩導ボックスも摩導シートで出来ているので、親子丼みたいなものであるが。
そして、この摩導ボックスの移動先は、北極とは反対側に位置する南極大陸である。
南極の平原を利用し、そこで摩導シートを連結して一枚の巨大シートを作り、それを折り畳んでいく予定である。
作業自体は無人で行えるのであるが、一応監視のために今何名かが南極の製造現場の基地建設に出かけている。
予定では3ヶ月ほどの出張であるが、原田真希がリーダーとして、あと、フェルとクリスが参加する事に成った。
皆は摩導シートで出来た箱で現地まで移動している。
真希が南極に赴任したのは、スレイトメンバーであるので、最悪ストレージで物資の補給が可能であるので南極と言ってもそれほど心配はしていない。
場所はなるべく各国の基地などが無い南極点に近い付近であるが、南極点にはアメリカの基地が有るので、それを避けた場所となる。
北半球の日本が冬の時期、南半球の南極は夏である。
海から離れた南極大陸の内陸部では、夏とは言っても氷点下20度くらいであり、とても寒い。
南極での住居も当然摩導シートで出来ている。
その為に基地建設とは言っても、見晴らしがよさそうな場所に居住用のボックスを停止させるだけの事である。
摩導シートにより、大きな待機ボックスの中の気温は常夏の温度となっている。
また、その内側には常夏の島の画像が表示されており、波音さえ聞こえるので、今どこにいるのかわからなくなってしまう。
これは低温のドーム外部から入ってきた時に、なるべく温まりやすいように、あえて日本の真夏の最高温度に近い40度と高温に設定されていた。
ヒートショックを起こすよりも、周囲は低温なので、やはり体が温まった方が良いようだ。
また、夏場の南極は白夜で、一日中太陽は地平線より下に沈まないが、居住ボックス表面の画像は日本に合わせて24時間動くようになっており、生活サイクルが乱されることは無い。
その巨大なボックスの中には、住居として摩導シートで出来た自分の部屋が再現されており、日本にいる時とほぼ同じ生活が行われている。
クリスの部屋の室内は摩導シートでちょっと寒いくらいの温度に設定されている。 室温は好みで調節できるのだが。
しかし、その部屋の中で周囲の南極の氷で作った大量のかき氷を、熱い炬燵に入って、どてらを着て、熱いお茶を飲みながら、寒い寒いと言いながらかき氷を食べるのが、南極の製造現場ではちょっと流行っている。 究極の贅沢だね。
3ヶ月と短い期間であるが、日常にメリハリをつけるために、あえて温度変化や時間による明暗を設けている。
この南極プロジェクトへの派遣は、異常監視が主な業務であり、プロジェクト自体が1シーズンで終わる予定であるので、それほどの困難はないと思っている。
どちらかと言うと、他人に出会えないために人数が少ない孤独感の方を心配している。
とは言っても、室内ではテレビ会議のようなことは出来るので、これもさほど心配はしていないが。
寒い南極の常夏環境で、少し羽を伸ばしてきてください。




