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1-05-02 幸せな時間

 サリーは、新しい暮らしの中で見つけた発見を楽しんでいます。



 お腹が満たされると、さっきからサリーは昨日買った荷物を、チラチラと何度も見ている。

 初めてこの世界のお店で買った服が、ずっと気になっていたようだ。


「気になるのだったら、買った服を出してみてもいいよ」


 俺の言葉を聞くと、大きな手提げの紙袋と、ロゴが印刷されたポリ製の手提げ袋など、服が入った袋を一度に全部持ってきた。


 透明のポリ袋の開け方を説明すると、彼女は糊の接着部分をはがし、一つずつ袋から商品を取り出し、入っていた袋を大切そうに畳んでいく。

 そういや俺の婆さんも、包み紙や紐などもったいないといって、そんな風に畳んで仕舞っていたっけ。


 ヒートシーリングされたパッケージの商品は、袋の開け方がわからないようで悩んでいる。

 俺はハサミを持ってきて、開けようとすると、


「入れ物を壊しちゃうんですか?」

 と悲しげに聞く。


「この袋は、熱で溶かして接着しているので、袋を切らないと中を出せないよ」と、教える。


「これって、切る道具なの?」


 俺が持っているハサミを見て聞いてくる。

 俺は、そのハサミでサリーの持つ袋の端を少し切って見せる。


 サリーは俺がいきなり袋を切ってしまった事で、きれいな状態のまま袋を残すことはあきらめたようで、受け取ったハサミで俺が使ったようにまねして切ってみる。

 すると、今度はハサミで切ることに目覚めたようで、なにかハサミで切っても良いかと聞いてきたので、ゴミ箱に捨ててあったプリンタ用紙を拾いあげ、渡してあげた。


「これは捨てた紙なので、自由に切っていいよ」


 それからハサミの刃の部分を指さし、


「ここは刃物なので、手や指をここに出すと指が切れてしまうので、怪我をしないように注意して」 と、最初に教えておく。


 彼女の世界では、固い台の上に物をおき、そこで薄いものを切るナイフはあるとの事であるが、そのナイフの刃は厚く、細かく切る事はできないそうだ。

 そして、一般的に刃物で切るというと、大きな刃で動物の肉や木の枝を叩き切ったりすることが普通らしい。


 初めて使う小さく精密なハサミに驚くとともに、その切れ味にも感心している。

 100円ショップのハサミだけどね。


 ハサミを目にしたサリーは、商人の目になっている。

 2つの刃を合わせると、こんなに薄いものでも自在に簡単に切れるのかと、その仕組みを考えているようだ。


 これまでの知識では、ナイフを使うと布の繊維は少し引きちぎられたようになる。

 切れ味が悪いことが前提で服を作るようで、布の端をキレイに仕上げる事は難しいらしく、服の生地の端は多くとり、内側に折り曲げて縫い込み、切り口を隠すらしい。


 服は専門の仕立て屋が作り、仕立てられた服はとても高価らしい。

 既製服という概念はないらしく、仕立てられた丈夫な服は、ぼろ布になるまで何回も売り買いされ、市場でも女性の人気商品のようだ


 だから昨日は大量に新品の服を見て、あれほど興奮して服を選んでいたのか。


 切る作業に一段落つくと、再び買った服を1点ずつ袋から出し、商品が入っていた透明なポリ袋を大切に畳んでいる。


「その袋は捨てるよ」

 と言って、取り上げようとすると、サリーはその袋の上に ガバッ と覆いかぶさり、


「ダメ! これは私のです!」

 と抵抗する。


「だって、それはゴミだから捨てるよ」

 と言っても、


「信じられない! このなに美しい袋を捨てるだなんて!」


 まあ、少しやらしておくか。


 彼女は買ったものすべてを床に広げて、並べたものを見ながらニコニコしている。

 そこには、靴下の他、パンティやブラまで並んでいる。

 床が全部服で埋まっている。


 しばらくはあきらめ、パソコンラックのPCを立ち上げた。


 しかし、この展示会は幕開けであり、さらにパワーアップした発表が続く。

 サリーは一点ごとに身に着けて、俺にそれぞれの感想を求める。

 曖昧な答えだと、更に組み合わせを変え、聞いてくる。

 俺の前での着替えは、下着ですら平気で着替えている。


 いけませぬ。


 どうも治療やトイレ事件以来、どこか気が緩んでしまったようだ。

 それともサリーの世界では、裸って行為は平気なの?


 2時間以上のファッションショーで、さすがに終了宣言を出さざるを得なかった。


 本当は朝食の後から、収納箱を開ける準備をしたかったのだ。

 昨日新たにサリーの生活用品を大量に買い込んできたが、家に帰り着いてからそれらの収納場所が全く足りないことに気がついた。

 このワンルームは一人で住むにはそこそこ広いが、小さな納戸が一つだけと衣類や小物の収納がすくない。


 大きな家具は、ソファーとベッドと背広やコートなどを吊るしてある衣装ケースとパソコンラックであり、ほとんど家具らしきものはない。

 テレビは床においている。

 また小物などのほとんどの荷物は、半透明プラスチックで、上にはカチンとロックできる蓋があり、積み重ねができるコンテナタイプの収納箱に入れている。

 それが部屋の片隅の壁に堆く積まれ、天井近くまで積み上げたものが4山ある。

 下の箱を取り出す場合、上の箱を何個もどける必要があり、使わないのはどんどん下になって行く為、一番下の箱はほとんど使ったことがない。


 しかし、住人が増え、(昨日だけですらこれだけ増え)、これからも増え続けそうな勢いの荷物を、どこに収納するかを考えた。

 サリーの洋服は取り出しやすい場所に置き、俺のあまり使わない服は衣装ケースと空けた収納ボックスに入れる。

 すると、もともとあった捨てられないものを何処にしまうかが問題だ。


 ため息を付きながら、


「サリーの家はご商売の商品などがあるから、さぞ広かったのだろう?」


「いえ、それほど広くはなかったよ。

 父は詳しくは説明してくれなかったのですが、大量の商品はスレイトのストレージに収納してたから、家にはさほど広い収納はありませんでしたよ。

 もっともストレージの話は、私がこの世界に来る直前に初めて教えてくれたのだけどね」


「あぁ、そうなんだ」


 そう言って、二人とも重大なことに気がつく。

 少しの沈黙のあと、


「「ストレージ!」」


 思いっきり、二人でハモってしまった。


「アー!」 と、アーを呼びだす。


「俺もストレージに、荷物の収納ってできるんだよね?」


『先日のメダルと同じ方法で、イメージすることでストレージに収納できます』


 スレイトから出てきたアーが答える。


「入れるものは、すこし大きくても入るのだよね」


『はい、スレイトの空間には広さの概念はありませんから、容量の制限はありません』


「あと、パラセルで販売する予定が無い物でも、ストレージの中に入れても良いのか?」


『問題はありません。

 マスターが行う作業は、すべてがパラセル販売活動の一環とみなされています』


「では、今やってみていいか?」


 おれは部屋の片隅から収納ボックスを1個持ってきて、ストレージに入れるイメージをしてみる。

 すると、目の前の収納ボックスが消えた。

 そして、頭の中でストレージをイメージすると、そこに収納ボックスが存在することがなぜか判った。


 続けて、今度はストレージから、その収納ボックスを出すイメージを行なう。

 目の前に収納ボックスが戻ってきた。


「アー、これはアーが出ていない時でも、俺だけでいつでも使えるのか?」


『はい、ストレージはパラセルとの取引ではありません。

 スレイトの機能ですので、慎二の思ったときにいつでも使えます』


「ありがとう」と、アーに礼を言って戻ってもらう。


 これで収納の目処はついたな。


 ストレージに荷物を収納できることはわかったが、サリーが毎日選ぶ服や、特に女性下着を俺が毎回ストレージから出し入れするのはまずい。

 とりあえずサリーには、すぐ使いそうな服は納戸や衣装ケースに入れ、下着や小物は収納箱に入れように指示する。

 靴は下駄箱に入れて、あとはその配置だな。


 当面すぐに必要となる物は、空にした収納ケースなので、不要な中身はすべて取り出してストレージに収納していくことにする。


 箱に入っているものは、これまで捨てられなかったものだが、他人に言わすと基本ガラクタだ。

 せっかくストレージという無限収納倉庫を手に入れたばかりではあるが、ここまで過去の遺産を処分する気になった事だし、これを機会に一度すべての箱を開けてみて、不要なものはゴミとして廃棄することにした。



 ただでさえ何故か時間が押しているので、あまりのんびり作業していると、時間が無くなってしまう。

 まずは床一面に展示中である、買ったばかりの大切な衣装ではあるが、サリーさんには一度片付けてもらおう。


「出したままだと、これから服にホコリがつくよ」って言ったら、全て速やかに片付けられた。


 サリーに手伝ってもらい、これまで積まれてきた収納ケース内の中身の分別を始める。


 半透明な収納ケースではあるが、ケースの中には沢山小箱が入っており、外から中が見えない為に、いちいち開けてみないことには中身が判らない。

 それらを、順に開けて確認しているので結構時間がかかる。


 そこで箱開けはサリーの担当で、中身を見て収納するか廃棄するかを俺が判断する流れ作業にした。

 廃棄の場合、ゴミ袋行きなのだが、ここでも可燃ごみと燃やさないごみ、資源ごみとに分ける必要がある。


 箱の中には自分の過去の恥部が詰まっており、俺はうんざりしながらの作業だが、サリーは結構楽しそうだ

 何故こんなものを今までとっておいたのかと、自分に言いたくなるものも結構あったりする。


 基本的に俺の判定ほうが時間がかかるので、サリーと俺の間に開けた箱が溜まっていった。

 サリーは、「何これー!?」とか、ケラケラ笑ったりと、それぞれの中身を見ては奇声を発している。

 しかも、下の収納ケースに行くほど古いものが出てくるので、変なものが多く、基本的に廃棄品となる物が多い。


 上から順に選別作業は終わり、あとは最下段となった時点でお腹が空いた。

 時計は既に昼飯時間をかなり過ぎていた。


 折角なので、サリーに壁に掛けた針の時計の見方と、日本の生活時間について簡単に説明する。


 アナログ時計は、秒針がまわっているのが見え、長い針と短い針を説明して、サリーの世界の陽と近いことを説明すると理解したようだ。

 時計の針を回しながら、この辺が朝、ここが昼、そしてこれくらいからが夜などと説明していく。

 ただ、彼女たちの時間は太陽の高さを基準で決まっているので、季節により陽の長さに合わせて季節により時間が変化するようなので、この世界とは少し違うようだ。


 ついでに、デジタル時計も説明したが、文字や数字は言葉的には翻訳されているはずではあるが、アナログ時計の針の位置のように直感的ではなく、数字で時間を表すということへの理解には、ちょっと時間がかかりそうである。



 それと、あと寝る場所だな。

 でもここにベッドをあと一つ置くのは厳しいなあ。

 今使っているベッドはセミダブルなので、同じ大きさをこの部屋に2つ置くとリビング側にはみ出して、間仕切り扉が閉められなくなる。


 あ、リビングをにベッドを持っていき、日中はベッドを布団みたいにストレージに収納する手もあるか。


「そういえば、父はいつも行商の荷が少なく不思議だったのだけど、今考えてみると見えないところでストレージに出し入れしていたようなのね。

 慎二も、昨日買い物をした際の荷物をストレージに入ればよかったのじゃない?」


 いまさらながら、サリーがつぶやく。

 昨日、重い思いをして、何度も大量の荷物運びをした事を思い出すと、ちょっと悲しい。

 まだまだスレイトには気がつかなかったり、知らない機能があるようだし、今度時間をかけて調べてみるか。


 ところで、買い物といえばパラセルでは何が買えるのかな?

 再び呼び出したアーの答えでは、現在俺のアカウントの口座は残額不足のままで、物品購入画面はロックされていているので見れないらしい。


「アー、パラセルの機能の一覧表みたいのがないのか?」


『すみません。

 私の記憶バンクには、まだパラセルの情報はほとんど入っていません。

 最初に登録されている知識としては、スレイトの基本的な機能と操作の情報しか与えられていません。

 マスターからの要請で、これからパラセルの情報検索があると、その結果が私の記憶バンクに蓄積されます。

 ですので、たくさんパラセルの検索を頂くことをお勧めします』


 新婚さんみたいな、まったりとした平和な時間がいつまでも続くといいですね。

 あ、なんかダメなフラグ立てちゃったかな?


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本作パラセルと同じ世界をテーマとした新作を投稿中です。

太陽活動の異変により、電気という便利な技術が失われてしまった地球。

人類が生き残る事の為には、至急電気に代わる新たな文明を生み出す必要がある。

ルネサンス[復興]の女神様は、カノ国の摩導具により新たな文明の基礎となれるのか?

ルネサンスの女神様 - 明るい未来を目指して!

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こちらもご支援お願いします。 亜之丸

 

この物語はフィクションです。

登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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