6-04-02 準備期間
今、俺たちは国を興して移住に対しての準備として、いろいろな調達を始めている。
この中で物資的な調達は金銭的に解決できるのでまだ良いのだが、それよりも人材の調達をどうするかが悩ましい。
先日から、エリクサー錠や摩導具の情報をこっそりと流し始めている。
先日もここ名古屋で、学者の先生を中心に初めての摩導具研究についての発表会を行った。
摩導具に飛びついてくれていた人も沢山いるが、実はこれは単に摩導具を発表する場だけではなく、もう一つ重要な意味がある。
俺たちは、摩導具に興味を示した人の中から、欲しい人材をピックアップしているのだ。
俺たちが欲しい人材がやってきた場合、その人に対して一部ではあるが内情を説明し、俺達の仲間に加わらないかと声をかけている。
もともと俺たちが選んだ人達にしか招待状は送っていない。
しかも、新しい事に興味を持ってやってくる人なので、摩導具などを見せて説明する事で更なる興味を持ってくれる。
中には新たな国づくりにも興味を持ってくれて、仲間に加わってくれる人も見つかり始めた。
無理そうな人は最初から声など掛けていないので、それなりに良い感じで人が集まっている。
将来的には、建国を発表した時点で、幅広い人材を一般から募集する予定である。
今はその前の段階であり、我々が必要とする技術を持った人や、一般募集後にリーダーとなりうる人材について慎重に発掘している。
いうなれば、第二次のメンバー募集である。
もっとも国が出来ても、かなりの物資を日本から輸入する事に成ると思うが、我々自身で早い時点に自給自足ができるようにしたい。
そのために、各産業や生活基盤を整える、国の基礎作りを行う為の人材である。
特に、新しい国では摩導具を中核に据えた新しい文明を築く予定であるために、その受け入れが出来る柔軟な発想の人でないと厳しい。
なんといっても、日本という国から離れる事に成るので、それについての了承も必要だ。
こうして、一歩ずつ準備を重ねている。
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私は山下華代、はなちゃんです。 自分で言って少し照れています。
私は、御料牧場で馬や牛の厩舎の管理をしていました。
そして、今拠点の屋上に畜産が行える設備を整えています。
嬉しいことに、私をサポートしてくれる人も何人か下に就きました。
ここは拠点に必要な新鮮食材を提供するための畜産の為の牧場です。 ですので、私が一番好きな馬はいません。
牛乳と、新鮮な卵を得る事が中心で、今のところ、肉製品までは人手が足りませんので外部からの調達です。
ここでの飼育自体は、ほとんどが自動化されていて、普段は私はその設定を指示をするだけでなのです。
牛乳というものは、本来牛が自分の赤ちゃん牛に与えるおっぱいであり、妊娠していないのに乳が出る牛などはいません。
牛乳を得る為には、メスの牛、乳牛に対して受精をさせ、子牛を出産させることで、初めてお母さん牛のおっぱいから牛乳をもらう事が出来るようになります。
そう、生まれた子牛は粉ミルクで育てて、お母さん牛の乳は、すべて人間が頂いてしまいます。
しかし、やがて子育て期間が過ぎて、子牛に乳が必要が無くなる時期になると、牛乳は取れなくなってしまいます。
ここからがちょっと酪農になります。
乳牛であれば、牧場でのんびり草を食べて、いつでも牛乳が自然に出てくる、なんて夢みたいなことは無いのです。
畜産で飼っている動物は家畜であり、皆さんが食べているお肉や卵であっても、同様に高い生産性を求めて飼育されているのです。
出産してまだ授乳期間中の乳牛に、次の受精を行います。
そう、授乳期間が終わる前に、次の出産をさせてしまうのです。 すると授乳期間が終わる前に、次の授乳期間が始まり、牛乳が継続していただけるようになります。
今はまだこの段階で、生まれた牝牛は次の乳牛となり、雄牛はお肉として育てられることになります。
なので、酪農で乳を継続して手に入れるには、人為的な受精や出産という行為が必要になってきます。
ということから、牧場では出産というものは、酪農の一連作業としてあります。
そこで、出産の時には牧場の何人かに手伝ってもらい、自分たちで行っています。
ただ、出産日時は突然訪れたりするので、真夜中であっても当然あります。
これがとても重要な仕事で、危険を伴い、きつい作業となります。
後の酪農としては、牛舎の掃除やエサやり、搾乳などは、慎二さんの摩導具で、ほとんどの作業が簡単に出来るようになっています。
しかし、うちの牧場は癒しの牧場でもあるので、日中牛たちは、拠点屋上の牧草地で放し飼いされており、なるべく自由な環境でストレスが無いように育てるつもりです。
朝夕2回、牛さんは自分で搾乳所へやって来て、摩導具で搾乳が行われます。
拠点屋上だけでは狭いので、摩導具を利用した牧草や牛のえさとなるデントコーンの生育環境が上空に設けられているのです。
内緒ですが、その上空施設は伊勢湾方向に広がった広場になっており、かなり広大な広場です。
摩導シートで作られた土地なので、そこから下に落ちることはありませんし、地上からはその上空の施設は見えません。
牛さんが屋上の草を食べてしまっても、常にその分の新しい牧草をそこから供給できるようになっています。
拠点屋上と、その上空にある牧草広場は屋上に有る摩導エレベータで繋がっているので、時々牛さんを上にあげて、牛さんに運動をさせる事も行っています。
こうして、複数の牛で出産と受精を繰り返すことで、毎日一定量の牛乳が確保できます。
しかし、何回かそのサイクルが繰り返されると、お母さん牛はやがて牛乳が出せなくなり、そうなると最後はお肉となります。
こうして、私たちがおいしくいただいている牛乳がお母さん牛から頂けているのです。
拠点では、余った牛乳によりチーズなどの拠点ブランドの乳製品の製造を考えています。
新鮮な牛乳を用いたお料理も、レストランで実果さんに使ってもらっています。
特にフレッシュバターを使ったお料理は皆さんにも好評です。
今この拠点で飼っている家畜は、国づくりが進むとそちらに移動する予定で、私の仕事は生育の他その国に持っていく家畜を集めることも行っています。
新しい国へいくつかの動物を持っていく必要があるので、今私のプロジェクトは「ノアの箱舟」何て勝手に呼ばれています。
そうは言っても、私が飼育できる範囲となりますので、主に家畜が多いのは仕方ありません。
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僕は、吉沢孝志。
佐賀県にある大学で助教をしていました。
そして、今、僕はある小さな会場の前に立って、摩導具の説明を行っています。
名古屋で行われたある発表会に参加し、僕は大きな衝撃を受け、それについて研究してみたいと思うようになっていました。
佐賀に戻ってから、僕が勤めていた所属研究室の教授と相談をしました。
その発表を行った石崎教授は、僕の教授の恩師だそうで、それもあって僕をその場に向かわせてくれたようです。
ただ、名古屋に行ったことで僕が悩むことになるのは予想外であったようで、教授も驚くとともに一緒に悩んでくれました。
教授曰く、人生のうちにチャンスは沢山あるものではないと話してくれました。
そして、それがチャンスと考えるのであれば、幸運の女神が横を通り過ぎてしまう前に、彼女にしがみついた方が良い というとんでもないアドバイスをもらいました。
そんな、女性に抱き着いたりしたら、今の世の中大変な事になって、人生のレールを踏み外してしまいます。
でも、それくらいの事なのだなと、僕も思うようになりました。
そうこう思っているうちに、会場でもらった摩導具、摩導リングに連絡が入りました。
なんとこのリングは連絡機能があったようです。 そう言えば、会場で連絡の為と言ってました。
この金色のリングは、自分で指から外してリングを伸ばし、広げると元の白い紙に戻ります。
不思議なことに、紙の状態で置いておくと、いつの間にかリングになり、自分の指に戻ってきます。
このリングが摩導具である事の大きな証拠です。
それで、その紙を見ると、連絡が書かれていました。
それによると、もし僕が興味を持っているのであれば、説明会を行うので一度話を聞きに来ないかと書かれています。
教授との話もあり、僕はすぐに行くことを決断しました。
名古屋の往復は今の僕の予算にとってはギリギリなので、しばらくは厳しい生活が続きそうです。
説明会には、前回の発表の石崎教授以外に何人かの人達がいました。
その中の、加納という人が、グループのリーダーと言う事で、石崎教授ではなくその人達から説明が有りました。
そして、彼らは異次元の人たちを暮らせる新たな国を創るなどと言っています。
そう言えば、発表の場で石崎教授が言っていた摩導具は異次元の技術と言う事を思い出しました。
何か関係が有るかと思ったのですが、彼らこそがその摩導具を伝えた人達だったようです。
そして、彼らは摩導具は実はすでに実用化に入っていると話をされました。
研究するのも面白いですが、それを使った国づくりに参加しませんか? と言う内容でした。
僕は再び混乱しました。 摩導具であっても僕にとって新しい物であり、驚きな存在です。
それが実用化って、どういう事でしょうか?
この間の炎がライターのように小さな装置になったのでしょうか? それとも懐中電灯になったのでしょうか?
石崎教授が異世界には摩導具が沢山あると話していましたので、摩導具で電気製品みたいなものを作るってことでしょうか?
僕は、摩導具を研究するつもりでここに来たのですが、話が少し変わってきたように思います。
そして、今回加納と言う人は、国づくりのための募集をしているようです。
でも、僕はすでに大学をやめるつもりになっていました。
なので、もう後悔はしたくありません。
僕は、迷うことなく運命の女神さまに飛びつくことを、その場で快諾をしました。
その後、参加するにあたり、いろいろな条件などを話してもらいました。
驚くことに、あの発表会で助手をされていた女の子や、そこにいた何人かは異次元人だと言われました。
特に僕らと何ら変わるところが無く、にわかには信じられませんでしたが、逆にそれは異次元だなどと言っても、外国の人と同じで、普通の人間なのだと納得しました。
そして、彼らの拠点と言うところに案内されて、そこの3階の1部屋を僕の部屋として使って良いと言われました。
加納さんがすでに摩導具が実用化されていると言われた言葉の意味が、この建物を見るだけですべてを理解が出来ました。
そして、指の摩導リングがとても大事なことも良く分かりました。
僕は、こちらに引っ越しする事となり、予定が決まれば引っ越しの日に僕の部屋にまで来ていただけるようで、それまでは自分で梱包は必要が無いと言われました。
業者さんが大勢で荷物をトラックに積み込むのかと思っていたら、女性が一人部屋にやって来て、なんとその人一人で僕の荷物が消えていきました。
一人暮らしなので、荷物はそれほどなかったのですが、でもどこに消えているか判りませんでした。
これも摩導具なのかと感心していたら、これはストレージと言う別の技術だと笑って教えてくれました。
いずれにしても、あの拠点を見てからは、大抵のことはすでに僕の理解の範疇を超えていることに気が付き、いちいち驚くことは少し控える事にしました。
あの拠点には摩導具の研究施設や製造施設もあり、僕もそこに参加させてもらえました。
拠点の皆さんは自由ですが、それぞれ仕事を持っており、僕ら新しく入った人は、教えてもらった知識を使い、摩導具の説明会を各地で行っています。
ただ、今やっている説明会は、前回のような大学の教授たちにではなく、これから主たるメンバーになってもらいたい一般の人達です。
一般と言いましたが、あらかじめ選んだ人たちに、小さな会場で説明をして募集をしています。
僕と同じように仲間となった人たちが、今その活動に加わって全国のあちこちで説明会を行っています。
何か、変な宗教勧誘や、老人に商品を売りつけるような詐欺のイベントっぽいですが、決してそうではありません。
あくまで、摩導具の普及と人材募集の為です。
今日はあと1か所の予定が有り、毎日忙しいです。




