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6-03-03 情報収集


 僕はアメリカのGGI社のウィリアム。 全地球データベースエンジンを運用している会社の社員だ。

 気になる小さな事象がGGI社の地球情報網に観測されたため、日本の名古屋と言う町までちょっとやって来たのだが、残念ながら僕が求める情報は手に入らなかった。


 僕が悩んでいるのに、彼女はちょっと行きたい場所があると言い出した。

 ちょうど、あたりも暗くなり始めたので、彼女が目指すのは、どうやらこのエリアにある、夜の街のようだ。


 僕は普段からお酒は飲まないし、ハンバーガーとポテトと、あとコーラさえあれば満足なので、あまり現地人が集う夜の町は危険だと思っている。

 日本のアニメを見ていても、そのような場所では喧嘩に巻き込まれるのが相場のようだ。


 彼女は、入り口に変なカーテンがかかった店の中に入って行く。

 そのちょっと汚れたカーテンのすぐ裏には、横にスライドするドアが隠されていた。


「ウィル! 早くいらっしゃい!」

 そう言うと、多くの酔っぱらいが座ったテーブルに、2つだけ空いていた簡易的な丸い椅子に腰かけた。


「ワオ! なんだここは?」


 とても衛生的とは思えないような店で、日本のアニメでもあまり見たことがないような店であった。


 すると彼女は、

「ウィルは飲めないの? それとも飲まないの? ビールもだめかな? コーラのお酒だったら飲めるのかな?」

 って聞いてくる。


 コーラのお酒? 何だそれは? 確かに僕は飲めないわけではなく、むしろアルコールは強いが、一度も美味しいなどと思ったことが無いからお酒は飲んでいないんだ。


「コーラのお酒って、コーラの本場のアメリカにはないぞ! そのようなものが日本の、しかもこんな小さな店に有るとでもいうのか?」


「おっちゃん、コーラハイって作れる?」



「おう、出来るぜ。 最近の若い奴はそんなの飲まねえが、その辺の親父が若い時には、流行(はや)っていたので結構頼む奴はいるよ」


「じゃあそれ1つと、私はとりあえず生中で!

 それと、味噌カツとどてやき、それぞれ6本づつ、味噌おでんを適当にお任せで、あと浅漬けもお願いね」


「へい、毎度!」


「君って、こういう店来慣れているの?

 僕日本には何度も来ているけど、こんなお店初めて入ったよ」


「ふふふ、日本のディープな面をご覧ください」


「はい、コーラハイと生中お待ち」


 テーブルのドンと置かれる2つの中ジョッキ。


「それでは、名古屋の夜に乾杯!」


「え、これが僕のなの? 確かにコーラのようだが。

 ウッ、確かにコーラだ。 でも何かのアルコールが入っている。 でもコーラだ。 うーん? こんなの初めてだ」


「これは私の父親が学生時代に流行っていた飲み物らしく、コーラハイボールと言って、コーラを安いウィスキーなどのお酒で割った飲み物よ。

 口あたりが良く飲みやすいので、注意しないとつい飲みすぎちゃって、あとで酔っぱらっちゃうわよ」


「はい、お料理、お待ち!」


「来た来た! これが楽しみで、名古屋へ行くあなたの お守り番を引き受けたのよね!」


「この黒いのって、何? 食べられる物なの? 皆真っ黒だけど……」


「ウィル、一人3本だからね!」


「あの、ここってフォークとかナイフは無いの? 手が汚れちゃうよ」


「この串を持って、さぁ食べて見てよ!」


 こわごわ串カツを持って眺めるウィリアム。

 この中では、この串カツと言う料理が比較的食べられそうに思ったが、なぜこんな黒い物がかかっているんだろう?


 しかし、このコーラハイって言う飲み物のアルコールが、少し回ってきたせいかもしれない。

 目の前で、熱々を美味しそうに食べる彼女を見ていると、僕も久しぶりにハンバーガー以外の夕食も食べて見る事にした。


 で、一口食べてみて、


「うまい! 何だこれは! ポークと思うが... 僕はポークはあまり好きでないが、このフライされたポークは、なんてうまいんだ!

 それにこのブラックソースはなんだ? 一度も食べた事が無い味だ!」


「どう? 美味しいでしょう! これは私のソウルフードなのよね。

 こちらも食べてみてよ!」


 彼女はそのもっとグロテスクな物を美味しそうに食べている。


「これはどてやき。 赤味噌味の内臓の串焼きね」


「ワーオ。 僕は内臓なんて食べた事が無いよ!」


「あら、とてもおいしいわよ?」


 僕は恐る恐るそれを口にしてみた。

 アメリカではこんな食べ物は見たことがない。 エイリアンでも食べるようだ。


 するとどうだろう。 これも同じ赤味噌と言うので味付けされているが、見かけの黒さとは異なり、柔らかく美味しい。

 1口目はちょっと怖かったので、すぐにコーラハイで流し込んでしまったが、2口目はちょっと味わってみよう。


 すると、串カツもどてやきも、どちらも僕の口に合った。 いや、凄く美味しい。

 ハンバーガー以外で、これほどおいしいと思ったものは初めてだ。


 僕はすっかりテンションが上がってきて、もう1つの、黒い塊がいくつか入った皿にもチャレンジしてみる事にした。


「この黒いボールは何ですか?」


「あら、ウィルは卵って知らなかったの?」


「えええ! この真っ黒いのが卵だって? 君は僕をからかっているのかな?」


 そう言うと、彼女は皿の中に1個しかなかった黒いボールを、箸で器用に2つに割ってくれた。

 確かに真ん中が黄色い茹で卵の様であったが、周りは真っ黒だ。


「これも赤味噌と言うので煮てあるのか? 赤ってレッドだろう? なぜ黒いんだ?」


「そうよ、赤味噌って黒いのよ」


 そう言うと彼女は自分の箸で卵を食べている。

 僕には一度抜いた串を、残った半分の卵に刺してくれた。


 こわごわ、その黒い卵を食べて見ると、僕はショックを受けた。

 卵と言うのは、ハンバーガーの中に入っている目玉焼きくらいしか食べ慣れていなかった。

 普段自分が食べている素材が、このように全く知らない味に変化することは驚きだ。


 このおでんと言うのは、いくつかの種類が皿に1個づつしか入っていなかったので、それらすべてを彼女が自分の箸を使ってシェアしてくれた。

 アメリカでは、あまりこうやってシェアして食べる事がなかったので、女性が自ら口にしているカトラリーを使ってシェアしてもらうと、ちょっとドキドキしてしまう。


 悲しいことに、僕たちの皿から食べ物は消えてしまった。

 彼女にもっと頼もうと言おうとしたら、彼女は人差し指を軽く口に当てて、「静かに!」と僕にジャスチャーをした。


 どうしたのだろうか?

 どうも彼女は近くの席での会話に聞き耳を立てているようだ。


 すると、彼女はジョッキを手に持ちそっと立ち上がり、その会話している人の方に歩み寄った。


「こんばんわ!

 私、今外人の方をもてなしているのですが、どこか他に連れていけそうなお店が有ったら教えてもらえませんか?」


 そう言って、僕の方を指さす。

 僕は、ジョッキを持ち上げて軽く会釈をした。


 そうか、これが飲み屋のコミュニケーションなのか。


「もしよろしければ、そのお店にご一緒していただけると助かります。

 ここも結構ディープなのですが、地元のお店って女性と外国人だとなかなか肩身が狭くって。

 もし一緒に地元に詳しい方がいらっしゃると、とても心強いです」


 彼女が、そこのテーブルの人を誘っているようだ。


「まあ、若いお姉さんに頼まれちゃ仕方ないな! 国際親善だ! 皆次に行こう!」



 こうして、僕らはその知らない人達と次の店に行く事にした。

 彼女は僕に英語で、


「ここからは、ウィルはなるべく日本語は使わずに、あいさつ程度にしてね。 私がほとんど話すから」


 何か僕が会話に参加する事を牽制している。 何だろうか?


 彼女は、次のお店は、お礼に支払いはこちらで出すと提案し、ウナギのお店に行く事に成った。

 そこは、ちょっと静かなお店で、僕たちは個室に通してもらった。


「ここはイール、ウナギのお料理屋さんなの。

 ウェル、あなたのお腹はまだ大丈夫かしら?」


「さっき、もっと、もっと、もーっと食べたくって欲求不満状態さ。

 僕は静かに君達の会話を聞いているから、美味しい物を頼んでね!」


 と英語で会話をした後、この店でも彼女はコーラハイを注文してくれた。


「「「カンパーイ」」」


「今日は皆さんにお話に割り込んでしまって申し訳ございません。

 ぜひ地元の方と親睦できれば、美味しい物にたどり着けるかなって、ちょっと強引に誘ってしまいました」


「いえいえ、こちらこそ久しぶりのウナギなんか およばれしちゃって、本当によろしかったのですか?」


「ええ、彼は高給取りですから、ガッツリ御馳走させちゃいましょう!」


「お姉さんも、悪やのう!」


「「「ははははは」」」


「それで、先ほどは済みませんでした。 何かお話が盛り上がっている最中だったようですが、何か面白いお話ですか?」


 彼女はさりげなく、さっきの話題に戻らせた。


「いえいえ、最近ちょっと面白い事が有りましてね」


「おい、あまりその話は」


「まあ、国際親善と、かわいいお姉さんに乾杯ってことで、ここだけの話ですよ」


 そういって、この人たちはいろいろなことを、僕たちに語ってくれた。


「日本語は少ししかわかりません」と言った僕は、にこにこしながらそれを聞いていた。


 そう、あの日の参加者がまだ名古屋の街で、摩導具について語らっていたのだ。


 彼女は店でそれを小耳にはさんだので、うまく誘導して話を聞きだした。

 彼女の、自然で、かつ要点を抑え、時にはおじさんに対して女性のメリットをうまく使い、その聞き出し方には感心した。


 そして、あの会場で行われていたのはやはり摩導具という物の発表会だったらしい。

 彼女は僕にも解りやすいように、何度か聞き返してくれたので、僕もその内容をほとんど理解出来た。


 しかし、彼らが話すその摩導具という物の内容は、どう考えても理屈に合わない。

 やはり、調査を継続した方がよさそうだ。


 それにしても、このアシスタントの情報収集能力の高さには僕は驚いてしまった。

 さすがにボスが付けてくれた女性である。 僕には無い能力を持っている。


 僕がほとんど諦めていた情報を、ほんの数時間のうちに、それもヒツマブシ数人分の経費だけで集めてしまった。

 今回の内容は、10万ドル払っても惜しくない情報だと思っている。


 とりあえず必要な情報は手に入ったので、ここのひつまぶしを10人分をお土産にして、今夜の便でアメリカに帰る事にした。

 今から頼めば、深夜発の定期便であればフライトをこちらの空港にアレンジできるであろう。


 あ、忘れずにさっきの店に戻り、串カツも買っていこう。


 でも、またすぐにここには来ることになりそうな気がしている。

 ハンバーガー以外の楽しみを見つけてしまったので、すぐにまたこれが食べたくなるな。

 いや、食べ物のおいしさというものが少しわかったような気がする。


 それと、帰ったら彼女を僕の専属につけて欲しいと、ボスにすぐに頼まなくては。

 他のチームに目を付けられる前に、それが最優先だな。


 僕には、これから良きグルメ案内人が必要だ。


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本作パラセルと同じ世界をテーマとした新作を投稿中です。

太陽活動の異変により、電気という便利な技術が失われてしまった地球。

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この物語はフィクションです。

登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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