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6-01-02 第二力学課


 僕は、吉沢(よしざわ)孝志(たかし)


 佐賀県にある大学で助教をしています。

 今日、名古屋に有る名古屋先端技術大学という場所にやって来ました。


 何故、佐賀から名古屋までやって来たのかと言うと、それは先日の事です。


 僕が配属されている所属研究室の教授に1通の手紙が届きました。

 それは教授がまだ学生だった頃の恩師からの手紙でした。

 その手紙は、以前の恩師が物理学部の第二力学などと言う新しい学科を作ると言う事で、その内容を発表するという事の招待状でした。


 物理学部なので、今僕がいる研究室とは直接関係はないのですが、うちの教授曰く、


「石崎教授は、すでに定年で退官されたと聞いていたのだが、ここの大学に復職でもされたのかな?

 面白い教授だったから、何か君の役に立つかもしれないから、私の代わりに話聞いておいで」

 と言ってくれました。


 第二力学って何だろう? 今の力学に新発見か、何か変化が有ったのかな?



 おかげで、今回の旅費は教授の部屋の経費から出してもらえるらしいのです。

 僕の勤める大学の出張規定はかなり厳しくて、助教の僕などでは訳の判らない会合への参加での出張なんて行ける機会はほぼない。

 発表会は2時からとの事で、おそらくその終了は夕方ころだと思うので、名古屋でそのまま一泊し、翌日に佐賀に帰る。

 そんな感じの予定で名古屋にやって来ました。


 今は新幹線のおかげで、朝に佐賀を出て、昼までには名古屋に着くことが出来ます。

 なので明日は午前中は名古屋を見学して、午後出る新幹線で帰る事にしています。

 とにかく、初めての名古屋なので、ちょっとワクワクしています。



 今日の発表会の会場は、名古屋先端技術大学の中にある、研究者の交流ができる施設で行うようです。

 新しい大学なので、建物もきれいでうらやましい。

 しかし、キャンパスはちょうど春休みなので、せっかくちらほら咲き始めている桜を見上げる学生の姿はほとんどいなかった。


 その会場はガラス張りの建物であり、入り口にあった館内図では、その中に大きな講演室があるようです。


 僕には、名古屋の地理感が全く無いので、外で時間を潰していると、会場入りが間に合わなくなってしまうので、ちょっと早いが会場で待つことにした。


 僕のように遠くからの出席者も多いのか、開演までにはまだ時間があるけれど、階段状になった講演室には、すでにかなりの人が座っています。

 ざっと見た感じでは、この時間からやって来ている人は、若い人よりも少しおじさんっぽい人の方も多いように見受けられます。


 この人達も、例の招待状を受け取って来た人達と思えますが、その手紙には肝心の内容は詳しく書かれていませんでした。


「今日は何の集まりなのでしょうな?」


「私もよく知らないのですよ」


 その為、周りでもそのような会話が行われているのが、僕の耳にも届いてきます。



 今回僕が所属する研究室の教授が受け取った招待状を要約すると、


『新たなる科学の道を切り開くことにした。

 物理学部第二力学課と言う新たなる場を大学に設け、その研究を始める事にした。

 今回それを始めるにあたり、お披露目を一度行う事にした。

 興味がある者は、その説明会に参加してほしい』


 発送人である石崎教授が自分で人を集めて講演の様な事をしたことを聞いたことが無いので、今回はちょっと不思議だなと言っていました。


 僕の教授は、そこに何かを感じて、自分が行けないので、わざわざ僕を名古屋まで送り出してくれたのだと考えています。

 なぜなら、僕の大学の出張費は厳しいので、このような会合くらいでは経費は出ないと思います。

 なので、これは多分教授が自腹を切って出してくれているのじゃないかと考えています。


 ぜひ、教授にはお礼に名古屋土産をいっぱい買わなければ。



 ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇



 そう、今回の催しは 石崎教授の名で送られた。

 この春に教授は大学に復職し、名古屋先端技術大学と言う新しい大学で研究室を持つようである。


 この大学は、数年前に総理の肝入りで作られた大学で、将来の日本の科学に従事する人を育てるという目的の大学である。

 大学を作ると言う事は大きな費用が必要であり、国の先を見ていない野党などの口汚い批判が総理に対して多く出されているのも事実である。


 世界の各国では、各政府の施策や援助など大きなお金をかけて若い人材を育てており、様々な分野で日本を追い越していった。

 日本は得意であったはずの科学技術すら、すでに世界的に見ても遅れてきており、しかもそれに気が付かずにいまだに最先端であると思っている政治家や経済界の人が多い。

 総理はそれを鑑みて、ここ名古屋にあらたな理想を掲げた大学を創ったのだ。



 しかし、創ったまでは良いが、多くの分野で、すでに出遅れ感が否めない。

 なぜなら、多くの製品という物は極秘情報もあるが、それら技術を製品として使おうとしたとき、基本特許で抑えられていることが多い。

 その為に、後から参入しようとしても、そこには様々な部位の高額な特許料の支払いが待っており、結局出る頭は抑えられることになる。


 日本では半導体など多くの基礎技術を育ててきたはずであったが、それらに対する政府の援助は無く、そのために民間企業であるメーカーは古い技術を海外に売り払ってしまった。

 本来、高度技術は政府が保護をし、流出は強く規制すべきであるはずだが、この日本ではどんどん流出していった。

 今や家電すら自国で作れない国になってしまった。

 どうやらこの国の政治家にとっては、農業など従事人口が多く、票が集まる事の方が重要らしい。


 少しずつ流失した情報などから、世界的に同じような電子製品が作られ始めると、安い人件費で作られる価格競争力がある地域に負け始めた。

 保護が無い企業は、それら持っていた技術をすべて売り払い、そして日本は空洞化した。


 今や、単なる大消費国となっているにもかかわらず、相変わらず電子立国だとか、ソフト大国だとか、最高の通信設備を持っているなどという妄想にとらわれている。

 政治家自身が、「日本が一番でなくても良い」などと言う悲しい言葉を発する国なので、政治はその辺の議員の意識改革からお願いしたい。


 とにかく、技術という物は、それを先導するグループから一度抜けてしまうと、そこに復帰することはほぼ難しいと考えた方が良い。

 なので、この大学では新たな技術、特にこれから始まる技術に対して、それを積極的に取り入れる事をしており、そこで石崎教授も新たな研究の部屋が貰えたらしい。



 今回石崎教授名で、全国から慎重に選ばれた研究者に手紙が送られた。

 あえて怪しい内容の手紙としたので、名古屋周辺の研究者が数十名でも集まればよいかと考えていた。


 なので、50名くらい入る普通の講義室を集合場所に考えていたのだが、蓋を開けてみると逆に怪しさに惹かれた研修者が大勢申し込んできた。

 また、直前になって、政府からの参加も希望が有り、急遽建物を変えて大きな講演室に場所を移した。


 この建物全般に言えるが、ここは厚いコンクリートで囲まれ、外に対して窓がない。

 公演には良いが、あまり長い時間ここにいるのは息が詰まってくる。 早い時間から集まってもらった研究者には申し訳ない。


 この大きい講演室は階段状になっており、講演者が一番低い1階部分の場所となり、部屋の入り口は2階や3階から入場してくるようになっている。

 後から入ってくると、前列に座っている人の後頭部を見る事となり、顔はよく見えない。


 2階から入り、1階近くまで降りてきた人が、最前列に座っていた人物に気がついたようで、なぜかあわてている。

 ざわめきが残る中で、司会者が出てきて挨拶が始まる。


「時間となりましたので、それではこの会を始めたいと思います。


 まず、本日の趣旨を説明させていただきます。

 お手紙でご連絡頂きましたとおり、本日は新しい研究室の開設のお知らせです。


 申し訳ございませんが、機密を伴う事であり、本日の件は極力ご内密頂けますようお願い申し上げます。

 本会場での機器による録音、録画、撮影はご遠慮願います。

 もしその辺にご理解がいただけない先生がいらっしゃいましたら、まことに申し訳ございませんが御退席をお願い申し上げます」


 すると、質問と言う声が上がる。


「今質問は受けていないのですが、退席にかかわることでしたら少しお聞きいたします」


「なにか、それってふざけていませんか?

 皆貴重な時間を割いてやってきて、内容も話さずに、秘密が守れないのであれば退席しろとは!」


 あちらこちらから、罵声が飛び出す。

 参加者は教授でも、いろいろな人がいるのだろう。


 司会者が静かにしてくださいというが、静まらない。


 すると、最前列の人物が立ち上がって、司会の元に行きマイクを受け取る。

 正面を向いたその人は、わが国の総理であった。

 なぜ総理がここにいるのという声があちこちから聞こえてくる。


 そして、総理がマイクを口にすると、いっせいに静まる会場。


「皆さん、すみません。

 本日、私は政治家としてではなく、一個人の聴講者としてこちらに参っております。


 今回の講演には、無理を言いまして参加させていただきました。

 そのような講演ですので、私は1秒でも長くその内容をお聞きしたく思っています。


 もし、まだお騒ぎされるような方は、それこそすぐにでも退席いただきたく思います。

 私も1聴講者ですので、本来このような挨拶は予定していなかったのですが、貴重な時間ですのでよろしくお願い申し上げます」


 総理が厳しい苦言を呈する事で、ようやく会場は静まった。


 司会者が総理に、「ありがとうございます」とお礼を言い、


「退席される方がございましたら、今のうちにお願いします」


 さすがに総理までもが出席する会合であり、内容に対する期待と不信で会場は静まり返っていた。


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この物語はフィクションです。

登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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