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5-06-03 さまよえる異次元人


 先ほど俺たちは、先日パーキングエリアでピックアップし、厚労省の特別検疫を完了した異次元から来た人たちとの面談を、東京の外務省の分室で行っていた。

 俺が渡した座標計算が間に合わず、外交9課が見つけられなければ、この人たちは危うくこの世界を彷徨(さまよ)う事になるところであった。


 そして、俺達は政府からの要請により、異次元人の引き取りと、会議のために東京に来ていた。

 正式な入国手続きが終了した彼らを、俺たちが受け入れられるかを確認する為の最終面接にやって来たのだ。


 俺達も、異次元人の受け入れが近く行われることがわかっていたので、急いで拠点に住めるように整備をしていた。

 なんとか拠点の準備も間に合いそうで、いよいよ受け入れが出来るようになった。



 そう、俺たちの新たな国家の目的である異次元人の、その初めての受け入れ実施と言う事になる。


 しかし、凶暴な人種や悪意を持った人などが来た場合の対処は必ず必要になると思う。

 我々として、どこまで受け入れるのかなどについて今後調整が必要となるが、今のところ他にそのような施設はないため、来る者は拒まずにしかなり得ない。

 そのため、今回の面談が重要であると考えている。



 今回はマリアと離れてしまった侍女でありアンナ。

 彼女は受け入れに特に問題はないと考えられ、身元引受人をマリアとして、彼女に預ける事にした。


「姫、姫、マリアクリスティナ姫! お会いしたかったです!」


 泣きながら、マリアに抱き着くアンナ・デ・シモン。

 世界に一人ポツンと訳の解らない世界に着いてしまうが、それでも何とかマリアに追い付こうともがき続けた彼女。

 長い時間を経て、ようやくマリアの元にたどり着くことが出来た。

 いろいろの偶然や願いが重なり、お互いを引き寄せたようだ。


 まあ、積もる話もあるであろうから、とりあえずマリアには別室でアンナへの聞き取りをしてもらう。

 服部さんも一緒にマリアに付き添ってもらい、記録をお願いした。


 先日、パーキングエリアで顔合わせを行っており、ざっくりとした聞き取りは行っているが、今日は詳しく聞き取りを行う。


 残る3人は男性を俺と唯華、女性を真希とイザベラで、もう一人を珠江とサリーとで聞き取りを行う。


 聞き取りはスレイトメンバーが担当し、俺の翻訳機能をスレイトメンバーで共有することで聞き取りを行ってもらう。

 そのために拠点作業を水谷さんにお願いして、必要となるスレイトメンバーが東京に来ている。


 まだ、面談相手とは信頼関係がないため、この面談が終わるまでは、この世界の言語を各自に与えることは出来ない。

 逆にこれ以降は、スレイトメンバー以外と接する事に成るので、アーに各自に言語パッケージをインストールしてもらう予定だ。



 金髪の男性は、フェルディナンド・ダ・ザルバーニと言う名前でフェルと呼んでくれと言っている。

 イケメン20歳代と思われ、結構良い体格だ。

 他の3人の女性に対して紳士的な振る舞いであったようで、結構良い奴なのかもしれない。 女性に対してだけかな?


 やはり、彼の世界でパラティヌスと呼ばれる騎士職をかつてしていたそうだが、訳あって今は騎士をやめたらしい。

 彼は、そのかつて使えていた(あるじ)のために、この世界に貴薬草を求めにやって来たそうだ。

 帰れないことを承知のうえで彼はやって来たと言うが、自分の命を懸けて探しに来るまでの事について何があったかは今は聞けそうにないな。

 その貴薬草の代価として自分を買ってほしいと言っている。

 この世界では人身売買は出来ないと説明をする。


 そして、なんと彼は黒い袋を持参していた。 あの次元を超えた配達をする宅配システムで用いられる袋だ。

 それを使って見つけた貴薬草を送るように言われて来たらしい。

 彼の場合、すべての準備が整っており、かなり計画をされた上でこの世界へ送られてきたようだ。



 イザベラと真希が担当した人は、バーバラ・ファン・ヴィルト、バーバラと呼ばれているとの事。

 妙齢と言うには、もう少し大人の魅力と言うか、アダルトな女性であり、ちょっと怪しい魅力すら持っているので、慎二が担当しなくって良かったとイザベラ達は思っているようだ。


 移送の時には収容施設の服を着ていたので判らなかったが、いま彼女はずいぶんすっきりとした現代っぽいスーツともいえる服を着ている。

 今日は厚労省の特別検疫所でもらった服ではなく、この世界に来た時の服装に着替えて来てもらっている。

 いろいろ聞き取りを行う際に、服装から得られる情報も大きいからだ。


 これまで、ここに来た女性の服は、どちらか言うと中世の女性っぽい服装が多かったので、ちょっとおやっと思う。

 また、この人は化粧もしており、現代社会にそのままいそうな人であった。


「私はバイヤーで、この次元の世界に買い付けに参りました。

 しかし、この世界に到着したのですが、言葉が全く通じず、多くの世界ですぐに来るはずのコンタクトの人間も現れません。


 言葉は通じませんので、何とかこの世界の人間と会話をしようとしたのですが、それより先に警備の方に拘束され、持ち物をすべて取り上げられてしまいました。

 もっとも彼らは、身の回りの物しか回収しませんでしたので、重要な物は手が付けられず問題はありませんでした。

 持ち込み品を回収しなかったのは、わざとではなく、存在自体を知らない様でしたので、大体この世界の文明レベルは把握しました。


 そこでしばらく様子を見ていたのですが、どこか別の場所に移動することとなり、その途中でようやくこの世界のコンタクトエージェントの方が現れ、初めて互いに会話が行えることが出来ました。

 ですので、帰るのをやめて少し様子を見る事にしたのです」


 それ、多分慎二の事だ。


「そしてこの世界の検疫に通されることを聞き、ようやくこの世界で普通に対応を頂ける状態となったようです。


 ここまでに判った事は、この世界での次元転移はまだ歴史がなさそうであり、その対応が遅れているようです。

 最初到着した場所やそれ以降に連れていかれた場所には、バイヤーとして気に留めるような物はありませんでした。

 しかし、検疫施設やそれ以降は、この世界にもかなり高い文明がある事が確認できました。


 本来文明が存在する場所に転移する予定でしたので、どうやら私は目的とする場所からすこし離れた位置に転移してしまったようですわ。 うふふ。

 それで、その検疫が終わりましたので、ぜひ交渉の場を設けて頂きたいのですが、よろしいかしら?」


 今までと違うパターンの人が来てしまったようだ。

 帰るとか言っているが、この人は自分の世界に帰ることが出来ると言う事なのか?

 あと、さっき気になる事が、重要な荷物をチェックされていないと言う事は、ストレージのような物を所持しているのか?


 危険も無さそうであり、この後商談をしたいと言う事なので、この人物は慎二に任せた方がよさそうであった。



 そして、最後の人がちょっと問題? 変わった人物であった。

 この人はあえて珠江が希望をして、サリーといっしょに面談した。


 なぜならば、珠江は特別検疫所から受け取ったレポートに、少し反応したからだ。


 やって来た彼女は、いや彼女ではないのかもしれない。

 なぜならば彼女は見た目はかわいい女性なのだが、検疫所で測定した結果のレポートには男性と記されていた。


 えっ! 男の娘なの⁉


「貴方はどうして女性の服を身にまとっているのですか?」


「えっ? 私、脱いでもおっぱいは小さいですが、女性ですよ!」


「先日貴方が行ってもらった私たちの施設で検査したところ、あなたの性別は男性と判定されています。

 私達は外観だけでなく、貴方の遺伝子情報や、CTスキャンにより、全身内部の断層写真の判定から男性と認定しています。

 さらに、貴方には卵巣は無く、男性の生殖器官が有ることをきちんと確認しています」


 さすが、珠江。 素人相手に良く分からない医学用語で攻める。 攻める。

 医学的な用語であれば、たとえ男性器という名称であっても恥ずかしがらずにはっきりと言い切る。 あ、男性器なんて言ってないか?


 珠江に冷たくはっきり言い切られた彼女? は泣き出してしまった。


「ひっく、私は女の子です…… こんなに努力しても、ダメですか? ひっく」


「貴方は女の子になりたいのですか?」


「そうです! だらか無理をして別の世界にまで送ってもらったのに、この世界でも僕が生きていく事はやはりダメなのですか?」


 泣きながらその男の子は訴える。


「ふーん。 あなたは男の子だけれど女の子になりたかったのね。

 この世界では、そう言った人も偶にいます。

 そして、社会的にそれが認められた場合は、治療や外科手術などによって性別を変える事が有ります」


「本当ですか!? だったら僕も赤ちゃんを産むことが出来るのですね?」


「いえ、手術と言っても、それは見かけを変えるだけの手術であり、決して生物的な女性に体が変化する訳ではありません。

 男性の生殖器を手術で取り去ってしまうことはできます。

 また、新たに女性の生殖器に似せた形は作れますが、あくまでそれは本物ではありませんので、残念ながら子供を作ることは出来ません」


「そうですか……

 僕は、私は自分で子供を産みたかったのです。

 見かけだけであれば、私の世界でも出来ますし、今でも十分女の子に見えると思うのですが。

 あ、でもこの世界で調べると、それでも判ってしまうのですよね……」


 寂しそうに、彼? 彼女? は下を向いてつぶやいている。


「この世界では、心が女性として認められ、男性であることを拒否していると判断されると、社会的に性別を女性に変えることは出来ます。

 なので、もしこの世界に住むと言う事に成れば、その判定を受けるのも一つと思いますよ。

 まあ、この世界でもそれが認められるようになってきたのは、まだ近年の事ですが」


「そうですか……

 でも、私が女の子になりたいと言うのは、一番の目的は自分で子供を産んでみたいからなのです。

 女の子の姿をしているのは、少しでもそこに近づきたい為です。


 そして、私がこの世界を目指したのは、エリクサーの話を聞き、それはどんな怪我や病気も治す薬だと聞きました。

 そんな薬がある世界であれば、私の体を悩みを治してくれるのではないかと思い、先生にお願いをし、ここに送ってもらいました。

 今のままでは生きているのが毎日苦しくって、そんな僕の願いを先生も解ってくださり、エリクサーがあると言う世界の事とそこに送る方法を調べてくれました」


「でも、君が体を変えた後、もしそのエリクサーというのを使うと、元の男の姿に戻っちゃうかもしれないわよ?

 せっかく手術で変えた体は、それは本来の体から言うと怪我と同じであり、だから元の男の子の姿に戻っちゃう可能性が高いわね」


「え! そんなこと考えてもいませんでした……

 だったら僕はどうしたらよいの?」


「サリーは女性なので、私が言ってもあなたの気持ちには届かないと思うけど、サリーの家は商売をやっている家でした。

 私の世界では、やはり男性の方が有利と考えられている事が多々ありますが、サリーはそれは関係ないと思っています。

 私の父も、男性だからとか、女性だからという事で、家族や他の人を区別することはありませんでした。


 あなたの求める出産とはちょっと違いますが、あまりそれにこだわることは自分を不幸に追い込みますよ。

 女の人だって、子供を作れない体の人はいますし、作らないとか作れないとか、人によってもいろいろな事情もあります。

 なので、他人がそれをどうこう言う事はちょっと違うと思うのです。


 でも、私はこの世界に来て、慎二と一緒に行動をして、私の世界にない物が沢山ある事を知り、驚くような経験をし、またこの世界になかったものすら一緒に作っています。

 慎二といると、願いはかなう事もあるかもしれませんので、諦める必要は何もないかと思いますよ。

 なぜなら慎二との生活は、あなたの人生にとって今までより大きなインパクトを与える事に成るかもしれませんよ」



 このクリスは本名はクリスティーヌだと最初は名乗っていたが、本当はクリストファ・ミッシェルという男性の名前であった。

 男の娘として、女の子になりたいのは確かなようで、それも今の性転換手術などとは異なり、出産を伴う女性化を望んでいるらしい。

 残念ながら、珠江が知るこの世界の外科的手術でもそれは叶わないと思う。


 珠江とサリーはこれ以上の質問をやめ、後はクリスを自然に受け入れる事にした。



 ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇



 ということで、個別面接を終えた4名が俺の前にやって来た。


 この部屋には、面接を担当したメンバーもきている。


 その中で、バーバラさんは商談に来たと言う事で、こちらも興味があるので、その件は後でお願いする事にした。


「皆さんこんにちは。

 皆さんとは以前パーキングエリアで面談をしたときにお会いしていたと思います。

 あらためて、俺は加納慎二と言います。 このグループを纏めている者です。


 最初に聞きますが、元の世界に戻ることが出来る人はいますか?」


 やはり、バーバラさん以外に自分で元に戻れる人はいないようだ。


「今お聞きしましたように、皆さんはこの世界にやってくることが出来たようです。

 しかし、残念ながら帰る術をお持ちでないとお聞きしています。


 残念ながら、私達も貴方たちを元いた世界に帰してあげるだけの技術は持っていません。

 しかし、あなた方は入国は行われましたが、この世界には異次元からいらした方が住む場所が有りません。

 またこの世界に住む権利を有しているわけではありませんので、これからは私たちと一緒に暮らしていただくことになります。


 そこで、我々の仲間としてこれから一緒に生活をしていただくことになります。

 これは、今のところ他に方法が有りませんのでご理解ください。

 よろしいでしょうか?」


「私は、求めし物が得られることが出来れば、以降はそれに従う。

 しかし、それがここで得られないのであれば、この世界の隅々まで廻ってそれを探す事に成ろう。

 そのために、この世界に来た」


 と、フェルはそう言い切った。


「貴方の考えは解りました。

 貴方の探し物については、改めて話し合いさせてください。

 君はどうだい?」


 俺は、男の娘 クリスちゃんに問いかけた。


「私は、こちらの世界に来ることしかできませんでした。

 これから行きたい場所はまだありませんので、こちらで私の夢がかなう事を願います」


 俺は、珠江から渡されたメモを見て彼女の夢を確認する。


「アンナはどうするつもりだ?」


「私は姫と一緒に居させてください。

 それが叶うのであれば、住む場所なんて些細な事です」


「バーバラさんは自分の世界に戻れるとお聞きしましたが、お戻りになられると思ってよろしいですか?」


「私はバイヤーです。

 私たちが販売する商材を探して、異なる次元を渡り歩いて、売れる商品や、人々が求める商品を探しています。

 一定期間その世界のマーケットをリサーチしては、また次の次元に渡っていきます。

 この次元は、これまで転移するポイントが無く、まだほとんど未開の、あら失礼、手つかずの世界ですので、しばらくこちらでお世話になるつもりです。

 必要な経費はお支払いいたしますので、よろしくお願いします」


 えっと、この人はなんかちょっと違うな。

 目的からすると、宇宙から来訪する異世界人の人と同じなのかもしれない。

 文明のレベルもちょっと高そうだ。


 まあ、とりあえずこちらの世界に住むことで良いと思っていいかな。


「今回貴方たちを面接してもらった、こちらにいる彼女たちは、あなた達より先にこの世界に到着し、今我々の仲間として活動をしています。


 そして、俺達は彼女達、いや異次元からいらした方がいっしょに住める国を創ろうとしています。


 でも、残念ながらその国はまだ出来ていません。 これから作ろうとしている状態です。

 そのため、我々がいるここ、日本と言う国ですが、皆さんにはこの国の法律に従い、これから生活をしてもらう事に成ります。

 貴方たちが、この国の法律に触れるようなことを犯した場合、私たちは手を出せず、残念ながら日本の国に逮捕され、日本の国の法律で裁かれることとなります。


 あなた方がこれまでいた世界では正しい事、問題ない事であっても、日本と言う国では違法と言う事もあります。

 ところ変われば、法律も変わります。

 既に検疫施設で日本での生活についての説明はあったと思いますが、日本の法律についても、なるべく早く学んでいってください。


 まあ、この世界が自分の住みかと思って、これから皆さんは生活してください」


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この物語はフィクションです。

登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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