1-04-01 オブライアン
すこし今の地球とは異なる次元を訪れてみましょう。
これは、将来サリーの父親となるオブライアンさんが、まだ若き青年であった頃の物語です。
私の名前はオブライアン。
唯一の旅の相棒であるロバの背に荷物を積み、地方を回わって行商をする旅商人だ。
それは何度も行き交った事がある平原を、相棒を引きながら歩んでいた時の出来事。
いつものように、重い荷物を担いだロバに合わせた速度で歩いており、次の目的の町まではあと3時間ほどと思われた。
ここは比較的雨が少ない土地で、今日も朝から良く晴れわたっていたのだが、今、私の行く手の左側から、この平原に向かい、真黒な雲が登ってきている。
雲はかなり速度で流れてきており、となり町に着くどころか、このままではまもなく遭遇するものと思われる。
先程までのゆるく乾いた空気ではなく、吹きはじめた風は生暖かく湿ったものに変わっており、重い空気の臭いは、今すぐに雨粒が落ちてきてもおかしくない状況となってきた。
(珍しいな、この時期に雨雲に遭遇か?)
雷鳴すら遠くから聞こえ始めたので、このまま平原にいるのは危険と思われた。
ロバの上には、全財産を投じて仕入れてきた商品が山と積まれており、油引きした帆布で包んであるとはいえ、それでも商品は濡らしたくはない。
この草原は放牧でも行っているのか、大きな木はほとんど無く、比較的背丈の低い草で草原は覆われている。
私は周囲を見渡すと、雨雲と反対側の草原の中に、建物のようなものがあることを見つけた。
(こんな所に誰か住んでいたのか!
このルートは時々通っているが、これまでは一度も気がつかなかったな。
少し雨を凌がせてもらおう。
うまくすれば、何か買ってもらえるかも知れないしな。)
引き綱を強く引き、私はその建物に向けてロバを急がせた。
しかし、建物かと思って近づいてみたが、そこは人が住んでいるような家ではなさそうであった。
一見すると、廃墟か遺跡のような、石でできていた低い建物跡であった。
かつて入口であったであろう開いた場所に立ち、見える範囲を見渡したあと、私は建物の中に向かって大きな声で呼びかけてみた。
何度か呼びかけたが、やはりどこからも返答はなく、聞こえるのはさらに近づいてくる雷鳴のみであった。
ロバを引き連れたまま、私は開いた入口と思われる場所から中に入った。
入り口からも空が見えていたが、奥を覗くと、天井であった多くの部分は崩れて落ちていた。
廃墟となって、既に長い年月が過ぎ去ったのであろう。
僅か残った天井の下であれば、通り雨は凌げそうなので、そこで相棒と休むことにした。
ロバには、干し草と水を与え、彼も床に座る。
天井が崩れた床には、建材の残骸が山のように積み上がっている。
さほど広い家ではないようで、家のつくりは石造りで、周りの壁は石を積み上げたものだが、屋根はどうやら木材を使っていたらしい。
古くなったために、屋根の多くの部分は崩れ落ちてしまったようだ。
雨雲が抜けるまでしばらく待っていたが、朽ちた天井から幸い雨は落ちて来ず、雷鳴は少し遠ざかって行ったように思われる。
地面がぬかるむと、次の町への到着がかなり遅くなってしまうので、助かった。
そろそろ大丈夫かな?と思って、ゆっくりと立ち上がったその瞬間、
『バリバリバリ! ズドーン!』
強烈な光と音で、周りが真っ白の世界になる。
(遺跡に直撃か!!)
私は、遅まきながらガバッと地面に身を伏せた。
少し待って、顔を少し上げると、あたりは、まだ薄く白い靄がかかったように見えた。
ロバも隣で興奮しているが、幸い私達は無事であった。
天井がさらに崩れたのか?
崩れた瓦礫付近に、少し砂埃が舞っている。
(また天井が崩れてくると危険だな。)
結局雨は降らなかったようで、雷鳴も先ほどのものが最後となったようだ。
私は落ち着いてきたロバを促して、すぐに出立しようと立ち上がった。
すると、瓦礫に何か黒い物があるのが目に入ってきた。
白っぽい崩れた石材の上の黒い色だったので、目立って見つけられた。
先ほどからここにいるが、入ってきたときには気がつかなかった。
(先ほどの衝撃で、残った屋根から落ちたのかな?)
私はそれに近づくきもう一度見てみるが、なぜか怪しさを感じ、そのまま素手で触るのはためらわれたので、分厚い皮の手袋をして取り上げてみると、それは真っ黒な石の板であった。
表面は滑らかな平らな長方形の黒い石であり、その形からすると自然にできた石などではなかった。
明らかに人為的に作られたものと思われるそれを拾えと、私の商人の感が知らせていた。
オブライアンは気づいていなかったが、壁の裏側からその光景をじっと見つめる1つの影があった。
その石の板がオブライアンの手に渡り、彼の荷の中に仕舞われた事を確認すると、影は何処へと消え去った。
不思議なことに、さっきまでの雨雲は嘘のようにすっかり消え去っており、また強い日差しが戻っていた。
予定外に時間を使ってしまったので、私は急ぎ気味でロバを進ませた。
何としても、この周辺で暗くなってしまうのは避けたい。
そして夕方になる前に、なんとか次の町に着くことができた。
いつもの宿の食事も終えたので、すこし気になっていた昼間に拾った黒い石を調べ始めた。
そして、私は黒い石の秘密を知った。
なんと、サリーのお父さんはこうしてスレイトを手に入れたのですね。
こちらで公開されていたこのサイドストーリーに続く3話は、外伝として下記に移動しました。
パラセル テクニカル外伝P - パラセルと異次元空間
https://ncode.syosetu.com/n3633gf/
外伝P1-04-02 ドリームフィールド商会の設立
https://ncode.syosetu.com/n3633gf/3/
外伝P1-04-03 ドリームフィールド商会の躍進
https://ncode.syosetu.com/n3633gf/4/
外伝P1-04-04 ドリームフィールド商会の危機
https://ncode.syosetu.com/n3633gf/5/