5-06-02 摩導通信
今回は後半がちょっと技術回になります。
ところで、このところ富山組も頻繁に拠点に現れるようになり、富沢さんはなんと こちら名古屋に支店を作るんだと言っている。
例の金色の丸薬の評判がすこぶる良いようだ。
言ってしまえば俺とマリアの気が流れ込んだ貴薬草から作られ、エリクサーの劣化版みたいな物なので、単なる薬などではなく、かなり高い効果が見込めるはずだ。
まあ、富沢薬局オーナーとしては、評判が良いのはちょっと嬉しい。
当初この拠点にその支店を置くことも考えたのだが、それだと俺と薬の繋がりが丸わかりになるので、支店はあえて名古屋市内に創ってもらう事にした。
販売は今後も富山の店舗で行っていく事を考えており、あくまでこの名古屋の拠点との繋がりを考えた支店らしいので、どこかのマンションを支店に登記するつもりのようだ。
俺たちがいつかふらっと消えてしまう事を恐れているようで、常に近くにいたいらしいが、お店の事を考えると、それももっともな事だと思う。
そして、由彦さんは来るたびに貴子たちの状況を気にしているが、今のところ目ぼしい変化はなく、新しい貴薬草は見つかっていない。
拠点作りの時は戻って来ていたが、貴子と真希と珠江は、基本的に車で全国行脚に出かけている。
この全員は、お互いにスレイト通信で繋がっているのと、完成したエリクサーを首からぶら下げているので特に不安には思っていない。
それより、壮太君が本格的に住居をこちらに移し、高校卒業までは出席単位確保のためだけに富山と往復するようだ。
今拠点には彼の部屋と研究室がある。
先日、彼には技術漏洩の観点から外部のクラウドでの摩導具研究は禁止にした。
そう、摩導パターンの画像を外部サーバにアップすることを禁止してある。
そこで、壮太君はここの拠点に高性能なPCを導入する事を希望した。
先日発注しておいたPCが到着したので、今研究室にセットアップしている。
ここでディープラーニングによる摩導パターンの分析などを行ってくれるようだ。
理恵さんの工房のPCでスキャンしたイザベラのノートの画像データは、USBメモリに移して持ってきている。
理恵さんには、お父さんの水谷さんと相談して、この拠点に移ってきてもらえないかを相談している。
何しろ、我々のかなり深い機密を扱ってもらうのに、ここで行わないと何が起きるか分からない。
彼女の安全のためにも、ぜひ拠点に工房を移してほしいと考えているからだ。
お父さんである水谷さんには我々と一緒に拠点作りを行ってもらっているので、娘さんが最近作っている摩導具の危険性はすでに理解している。
しかし、実際に摩導具を印刷している理恵さん自身は、それを使っている訳ではないので、社会的に危険となる物である認識はしていないと思われる。
危険と言うのは、摩導具が世の中に出てしまうと、それを盗む空き巣等ではなく、内容によっては国際的なスパイ事件にまで発展する可能性すら起こり得るかもしれない。
あまり脅かすことはしたくないが、情報が漏洩すると、我々や理恵さんに被害が出る事は間違いない。
その点、この拠点は摩導具で完全ガードされている。
不用意な者は侵入出来ないし、また不用意な行為が行われるとしても、いわばアーの監視の中で悪事を働くことになり、それら行為はすぐに発見される。
それらを含めて、摩導パターンに関する作業は、すべてアーにお願いできないかと考えている。
アーは、言うならばAIみたいな人格であり、それを処理しているコンピューターみたいなものがどこかに有るはずだ。
それがスレイトの中なのか、パラセルに有るのかそれは分からない。
でも、そのアーのコンピュータ機能を使用して摩導通信などの処理も行ってもらっており、この地球でも動作できる事からスレイトの中にある可能性は高いかなと考えている。
そう、そして壮太君の研究もPCは端末として、実際の処理はアーの中で行えないか、そして結果を端末のPCに戻すことで、摩導具に関するデータはアーの中に閉じ込めたい。
アーであれば、"保存してある画像の中から、この画像と似ている部分を探して"、などのような会話形式で画像検索が可能となる。
アーの処理能力を用いる事で、飛躍的に高速化できるのではないかと思っている。
そして、今行いたい一番の作業は、摩導パターンの機能分析だ。
摩導パターンをモジュールごとに切り出して組み合わせる事で、イザベラの世界には無い新たな摩導回路がさらに作り出せないかを考えている。
壮太君はそれらを試すため、摩導パターンの動きのシミュレーションが出来ないかチャレンジをしている。
もしシミュレーションが使えるようになれば、いろいろな組み合わせをどんどんと試すことが出来る。 楽しみだ。
イザベラが控えた摩導パターンの中には、以前の世界で作ってみても動かないものがそれなりにあったらしい。
それらを壮太君に、正しく動く摩導パターンと比較して、線の太さや角度など、他とは異なっていそうな場所を洗い出しを行ってもらった。
これにより、結構多くの動かなかった摩導パターンがレスキューできる事に成った。
何せ1か所でも線幅に乱れがあると摩導回路は動かないが、それがどこなのか探すことは人間の目では不可能に近い。
それを非常に多くのパターンとの比較を行う事で、おかしな部分が浮き上がってくる。
また、その部分を画像で見る事でそれもはっきりと認識できる。
これは、かなり驚くべきことのようで、オリジナルの摩導具から写したパターンでは再現できなかった摩導具がいくつか動くようになった。
その中には、かなり貴重な摩導回路も含まれており、我々の大きな財産となった。
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それから、俺達はいくつかの実験を始めた。
そのひとつとして、摩導通信を今の世界の情報機器と継なぐことが出来ないか?
これが出来ると、アーを経由していろいろなこの世界の電子機器と情報の通信ができる。
ただ、現段階では摩導と電気との間に橋を渡す方法がない。
そこで、摩導と電子で共通するものがあれば、それを使って通信できないかと考えてみた。
すると、最初から使われている光の摩導具を思いついた。
摩導具でも、電気器具でも、どちらでも照明用の器具がある。
また、どちらも周囲が暗くなると明かりを灯す機能がある。
と言うことは、電気も摩導も光を感じる部分があると言う事だ。
そこで、早速俺と壮太君は実験をすることにした。
暗い部屋で摩導照明の摩導回路に懐中電灯でスポット的に光を与え、摩導回路のどの部分で光を感じているかを探した。
光を感じる場所を照らすと、照明が暗くなるので、順に探っていく事で、その場所は判るはずだ。
そして、俺たちは光を感じることが出来る摩導パターンを探し出した。
壮太君により、拠点に置かれたパソコンで、画像的に光を感じるパターンを洗い出し、そこの部分だけで摩導パターンを切り分けてもらい、光の感知モジュールを作ってもらった。
同様に光を発する摩導パターンを切り分けてもらい発光モジュールを作ってもらった。
こちらは光っている箇所が目に見えているので、すぐにわかったが、どこまで摩導パターンを削っていって光るかを追求するために、何度かの試作が必要になった。
これに電子部品である、光を感じるセンサーと発光モジュールを向かい合わせ、またLEDと摩導光感知モジュールを向かい合わせ、周囲から余分な光が入り込まないように黒い樹脂で覆うように結合した。
これで、世界初の摩導信号と電気信号を継なぐ摩導カプラーが誕生した。
摩導具の出力が電気信号になり、逆に電気信号を摩導回路に高速に伝えることが出来るようになった。
また、摩導カプラーの電子回路側からは1本のケーブルのみが出ている。
このケーブルを通信回路に継なぐと、摩導カプラーの中で光に変えられ、それが摩導回路に流れそして摩導通信モジュールに渡される。
摩導通信で届いた信号は、摩導回路で光となり、光センサから電気回路として出力される。
この摩導カプラーを組み込むことで、電子回路との通信が出来るようになった。
それと電子回路には電源が必要となるので、これも作る事にした。
摩導発光モジュールと太陽電池を向かい合わせ密着させることで一体化した発電装置を作る事が出来た。
これは発光摩導モジュールと薄い太陽電池をシート状にし、2つのシートが向かい合った状態で折り畳むことで、小型のボタン電池くらいの小さな発電機を作ることが出来た。
構造的には本格的な太陽光発電装置と同じであるが、その見かけから摩導電池と称する事にした。
摩導発光モジュールはかなり大きな光量を出力できるので、生み出される直流を交流に変換することで、家電製品程度であれば余裕で動かすことが出来る。
また摩導発光モジュールは寿命が非常に長い。 電池のように短時間で寿命切れになることは無い。
ここで、インターネットへの接続が出来ないかと言う話が出てきたので、更に開発を行う事に成った。
これまでは摩導回路を電気信号に変換する事を目的としたが、今度は光通信モジュールへ変換する事にした。
実のところこちらの方が簡単であった。
何しろ摩導回路と光ファイバーをコネクタで結合させるだけでよかったからだ。
エターナル波は、光に比べるははるかに高い波長を有しているので、光ファイバーに適した波長まで落としてあげるだけであり、それは摩導通信に流し込む速度を落とすことだけで特に特別な摩導回路などは不要で結合が可能となった。
俺は、この摩導光結合モジュールをコンピュータ用の光通信モジュールの中に、中身を改造して組み込んだ。
一見見かけは普通に売られている光通信用のモジュールなのだが、実はこれだけで摩導通信により完結している。
そして、これをパソコンに挿すインターフェースが付いた拡張基板に搭載した。
これをパソコンに差し込むと光通信に接続できる。
見た目は普通の拡張基板であるが、たとえパソコンが動いていなくとも光通信ケーブルが差し込まれると、ケーブルとつながった通信データが摩導通信を経由してアーと繋がるのだ。
そう、この拡張基板や装着するパソコンは単なるダミーである。
インターネットにつながる場所にこの光ケーブルを接続すると、インターネット信号は変換され、摩導通信により信号はアーに送られる。
アーはそれを我々の拠点内の摩導ベインに流し、それがPCにネットワークとして接続される。
その通信はアーが監視しており、外部から送り込まれる不用意な情報は遮断され、外部からの侵入を完全にシャットアウトする。
また、拠点側から流し出してはいけない情報についても、アーが監視して情報漏洩を遮断する。
そして、この拡張基板を装着したラック用のPCは、インターネットの大容量回線を持ったデータセンターのサーバーラックに設置してもらう予定だ。
設置場所には海外を考えており、スイスのデータセンターと契約が出来たので、拡張基板を組み込んだラック用PCを発送する予定となっている。
スイスは欧州連合に加盟しておらず、特別なスイス連邦データ保護法が確立されているので選んだ。
この契約方法やPCの送付方法については、こちらの身元や場所が隠蔽された状態で依頼してある。
スイスのデータセンターからインターネット相互接続点に接続されることで、インターネット側からデータの追跡はデータセンター以降は不可能となる。
まあ、いずれにしても流れているデータのほとんどが日本語となりそうなので、通信の接続先が日本であることはすぐに特定されるとは思う。
しかし、いろいろ接続元を隠す工夫をしたが、それらはあまり意味がないことになってしまう。
インターネットが使えるようになると、待ってましたと言わんがばかりに、唯華がネット通販を頼んでしまったのだ……
しかもご丁寧に、配送先にこの拠点の住所を打ち込んで。
そこからはなし崩し的に……
何のために俺や外務省がセキュリティを心配していたのだか。 当の唯華がやってくださいました。




