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5-05-07 循環器


 埋め立て地の廃墟を改装することで、俺達の新しい拠点造りが始まった。

 その中で、俺たちは自分達だけで作業が出来る、DIYによる方法を模索していた。


 何しろ、秘密の国づくりの途中であり、その一番重要となる拠点を作る作業であるので、将来のためになるべく限られた人で行いたい。

 戦国時代であれば、城が出来れば係わった設計者や職人が殺されてしまうアレだ。 そんな事しません。 地下に人柱はありません。


 今、この古い建物は壁と呼べる枠だけしかなく、それもかつて数部屋分の居室を分けていた構造壁だけが存在している。

 建物の強度を支える構造壁は、廊下に沿って10メートルごとに立っており、その構造壁の中には、4階は2部屋分、3階は3部屋分の室内が造作で仕切られていた。

 コンクリート造りの構造壁は残っているが、その中に有ったと思われる造作はすべて取り除かれているのだが、窓の配置を見ると当時の間取りがわかった。


 以前にも話したが、壁という物は、単に表と裏を隔てる目隠し板ではない。

 現代の壁に中には、実はいろいろな機能が入っている。


 例えば壁の中には、反対側に温度や音が伝わりにくくするためにグラスウールなどの断熱材が入っている場合がある。


 電気や情報の配線や、ガス、水道などの配管が壁の内側に入っている。


 またそれら配線や配管を部屋の内側に継なぐための、スイッチ、コンセント、アンテナ、ガスなどのコネクタボックスが収容されている。

 これは壁の中に収納されているのが、我々の世界での建築の常識である。


 しかし、イザベラの世界では電気という物は使われていないが、建物の壁の中にそれらインフラに関するものが同様に入っているらしい。

 それは、人間の循環器を模したものと言う事であるが、聞いてみるとこの世界の物よりも、かなり高度なシステムとなっていたようである。


 体内には血液やリンパ液、神経などの配管、配線が隅々まで巡らされている。

 血液は心臓から送り出されて、1本道をたどって様々な臓器を巡り、やがて心臓に帰ってくる。


 人間が必要とする養分や水分、それと体外に廃棄するものなどはすべてこの同じ血管を通じて体内を流れている。

 体外から取り込まれた酸素や養分、水分などは、臓器から血液に流れ込み、各臓器は必要とする成分を血液から取り出し、血液中の不要な成分は臓器で取り出され体外に排出される。

 これがすべてが血液の成分として、血管で体内を流れている。


 具体的には、酸素は肺の毛細血管で鉄分を酸化することで血液に結合し、体内に運ばれていく。

 この錆びやすい鉄分を含むタンパク質が、ヘモグロビン そう赤血球だ。


 口から食べたものは胃から出力される酸と酵素で分解され、腸の毛細血管から吸収される。

 水分や糖分などの養分は、そこから血液内を流れ、体を動かしたり、全身の細胞のエネルギーとなる。


 また、同じ血液中には不要となり廃棄される成分、二酸化炭素やアンモニア、尿素などすらが血液内に流され、肺から呼吸として放出されたり、腎臓からおしっこなど液体として体外に放出、廃棄される。


 なんと、実に凄いメカニズムをもったシステムだ。

 これは動物の他、植物であっても葉脈のように配送システムが実装されているが、こちらは心臓のようなポンプが無いため、植物内をぐるっと循環している物ではない。


 イザベラの摩導具がある世界では、同様の循環配送システムが住宅にも実装されていると言う。

 ただ、生物と大きな違いは、心臓のようなものは中央のポンプ機能は存在していなく、血管にあたる摩導チューブそれぞれが送り出しを行っている。


 なので、最少の循環システムは1個の摩導具の中だけで完結する。


 前回のポリ袋の原反を用いた長いシートを思い出してほしい。

 この袋状の薄い摩導シートには、その薄い隙間に必要な成分や情報を流すように計画されている。

 例えば200メートルのシートの端で取り込まれた成分は、摩導チューブを通じて反対側の端で利用することが出来る。


 この摩導具であるシートの間を通る空間は、必要に応じてその通り道や区分は摩導チューブとして変化していく。

 これにより、取り込まれた成分は、その後シートの中をぐるぐると循環し続ける事に成るので、例え長いシートであっても、使い切るまでどこでも必要な成分を使用できる。


 これは植物の葉脈や人間の血管の仕組みを模倣したものであり、英語で言うベインから摩導ベインと名付けられている。

 この仕組みはこれだけに留まらず、摩導ベインが実装された2つの摩導具が互いに吸着される時、吸着された部分に摩導コネクタというものが現れて、2つのシートの摩導チューブを結合する。

 そして、互いの摩導チューブが持つ成分や情報が結合され、成分を流す薄い管、摩導チューブとして働くようになっている。


 そう、摩導具が接続されるたびに、流れるチューブが結合され、どんどん延長されていく。


 この摩導チューブ内は、様々な物質が分子化され、高密度化され、それら入り混じった状態でチューブを流れる事に成る。

 摩導ベインには、部屋の中へ新鮮な空気や水、資源を届けたり、排水や二酸化炭素など室外へ廃棄するものを、連結される摩導チューブを通じて行うことが出来る。

 循環した摩導ベインの流れに乗せ、各摩導具が取り込んだり、放出したりすることで、すべての建物の隅々までそれらが駆け巡る事ができる。

 それは、建物全体が生きた体のように、建物全体がすべて繋がる事で、どこででも給排水や様々なリソースや情報を使える事ができる。


 摩導ベインは、この世界のように、電気、ガス、水道、下水、電話など沢山の個別の配管・配線を行う事と比べると、非常にスマートで有効な方法である。

 それを使いこなしていたイザベラの世界の技術は、かなり高い物であったと考えられる。


 摩導具全体に同一規格の摩導コネクタが付けられたことにより、すべての摩導具が共通した標準規格で接続され使用出来るようになった。

 そして、この建物に使おうとしている摩導シートには固化、吸着、テクスチャなどと合わせ、複数の機能が組み合わされた摩導回路が組み込まれている。

 イザベラの世界では複数の摩導工房があったことなどもあり、もったいない話だけれども標準化は行われていなかったようである。


 さらに、この|複合化摩導モジュール《Integrated Madou Mudule》には隠れた機能がいくつか装備されている。

 その、一番重要なものがアップデート機能であろう。


 これは、後から開発された摩導パターン情報を摩導ベインで情報伝達することで、各摩導具に摩導パターンを追加したり、更新したりして、新しい機能を追加することが出来る。

 そのために、摩導ベインを実装した摩導具は、常に最新の機能が動くことが出来るようになっている。



 ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇



 実際の俺達の建物での運用として、摩導ベインへの成分の入力と出力をどうやって、どこで行うか考える必要がある。


 入力の代表としては、水の取り込みがある。

 建物自体への取水は、隣にある伊勢湾から海水を取り込んでいる。

 例の1巻き200メートルの摩導シートを、川からの流れに沿って、海底に沖合まで沈ませてある。


 途中のシートは海底に埋没しているが、海水の取水口となる摩導シート先端の部分は埋没しないように、海底から海中に垂直に3メートルほど立ち上がり露出している。

 そして先端自体は常にゆらゆらと動き、海底のヘドロに埋もれないようになっている。


 海水を取水する際は、先端にある口が4つに割れて、海水をパクリと咥え、ごくりと飲み込む。

 フィルターを通った海水は、必要な分子が摩導ベインを流れて館内に送られていく。


 また、その海中の取水口に何かが近づくと、海中に飛び出している管は、海底にヒュンと潜って隠れてしまう。

 その海底から生えたような取水口の見た目から、俺たちはそれをチンアナゴと呼んでいる。


 建物表面からは、大気が取り込まれ、空気から窒素や酸素が取り込まれ循環される。

 建物の外壁は、人体の肺に相当した器官となる。

 酸素は分解された水からも取り込まれているが、大気中の成分もすべてが活用されるために、取り込まれている。

 摩導ベイン内で二酸化炭素は、炭素と酸素に分解されている。


 館内で発生した廃棄物は分子的に分解され摩導ベインを流れ、本当に不要となる成分のみが廃棄施設で処理されゴミとなる。

 排水として水の分子はリサイクルされるため、廃棄される量は非常に少ない。


 一般的には廃棄されるゴミと思われる物であっても、分子レベルにまで分解されると、ほとんどの成分はリサイクルができることになる。

 また、降雨などで陸地側に過剰な水分補給が有り、摩導ベイン内に過剰となった水が発生した場合、チンアナゴ、いや排水口としてきれいな水が海中に放出される。

 そうチン...アナゴである。


 この摩導ベインにより、建物と各部屋でのトイレ、風呂、キッチン、洗面台など水回りの利用が可能となった。


 水回りと言うが、この建物には水道の蛇口や排水溝が必要無い。

 すべての建物内には摩導ベインが廻っているので、コップや鍋など摩導具化された物を置くと、摩導ベインによりどこでも直接容器の中に水を取り出すことができる。

 風呂桶もお湯を取り出すことで風呂となり、天井や壁からもお湯がシャワーとなって降ってくる。 そして床自体が排水溝であり、水やゴミは床に吸い込まれていく。


 摩導ベインにより配管が必要無い為、摩導シートで箱を作って、それを建物内のどこかに置けば、一番簡単な物として風呂を使うことすら出来る。

 浴槽から出る湿気は壁で吸収され、一見畳に見える床すらも摩導シートなので、本当に部屋の中で風呂に入る事すらできる。

 壁や床のテクスチャを変えて、砂漠やジャングル、無人島など大自然の中での入浴は気持ちが良い。 時には都心の雑踏での入浴も面白いかも?


 まあ、小市民の俺としては、普通に間仕切り壁を作った小さな風呂場でゆっくりとするのがよいがね。


 水回りと言うと、洗濯を思い浮かべるが、摩導具での洗濯では水を使わない。

 繊維に纏わりついた汚れ成分が分離され、廃棄物のみが摩導ベインに排出される。


 では摩導ベインで電気はどうなっているのだろうか?


 一番最初に思い浮かぶ電灯設備は建物内に一切無い。

 なぜならば、明かりは壁、天井、床のそれ自体が発光しているので、電灯は必要無いのだ。


 さらに、冷暖房や湿度の管理も壁や天井などの摩導シートが温度・湿度を調整する。


 まだ紹介していなかったが、この拠点の建物内では温度を変化させる摩導具が用いられている。

 イザベラの世界で使用されている摩導具から、摩導温冷モジュール化したものが摩導シートにも組み込まれている。

 これはエターナルの放出により、分子の運動量を調整することで温度を可変する。 まあ、電子レンジやIHヒーターの原理に近い。


 調理も、この摩導具により加熱ができるので、器具を使わずとも、フライパンや、鍋、更には皿自体が過熱する。

 当然であるが、分子運動を抑えることで、冷却を行う事もできる。

 シートを箱状にした冷蔵庫も、この摩導温冷モジュールで行っている。


 あと、電気製品と言えば、テレビや音楽などの映像や音響製品が考えられる。

 これらは壁のテクスチャ機能に情報を表示したり、壁を振動させ音を出すことで、建物内のどれであっても映像表示装置にすることが出来る。


 最も大きな映像表示装置として、建物の外壁全体を映像モニタにすることもできる。

 イザベラの世界ではここまで高度な使い方はされていないようであったが、既存摩導具に現代技術を組み合わせる事で、これらを作ることが出来た。


 ガスや石油を使わずに、家中をすべて電気で賄うオール電化住宅と言う言葉があるが、この拠点はまさにオール摩導住宅だ。


 但し、水も電気も全く使わないと、外から怪しい施設と思われるので、僅かな量ではあるが、埋め立て地からのインフラも摩導ベインに接続して利用する事にしてある。

 そう、この建物では水道はおろか、電気すらほとんど必要としていないのであるが、ダミーとして消費させている。

 埋め立て地の共同溝の給排水や電気について、それはさほど重要でないことは以前に言ったのは、この仕組みを前提としていたからだ。


 ただし、拠点での電気使用を禁止するつもりは無いので、電気も使えるように摩導ベインは対応させている。

 しかし、摩導ベインの中に電気配線が入っていて、そこを電気が流れている訳ではない。


 摩導ベインの中に電気の元が流れているのだ。

 それは、いわば電池の元となる化学成分が、摩導チューブに分子として流れていると思ったらよい。


 壁に摩導コンセントを付けると、その中の電池から電気が作られて、電気製品を使う事もできる。

 直流の電池から、インバータ的な動作を行い、必要な交流電圧や周波数をも作り出している。

 これにより、普通の家電製品もACコンセントで使えるようになっている。


 しかし、せっかく作った摩導コンセントであるが、すでに室内で使う電気製品は摩導具として実装されており、それほどは使われることがなかった。


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この物語はフィクションです。

登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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[気になる点] 「埋め立て地の廃墟を改装することで、…」から始まる部分が、2度記述されています。
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