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5-05-02 再生計画


 俺たちは、廃墟と呼ばれた建物の中の視察を行っている。

 相変わらず草むらに囲まれているが、これはとりあえず目隠しに役立つので、しばらくは伸ばし放題にすることにした。


 ところで、イザベラには初日の調査結果を基に、昨日の夜から摩導具を作る作業を行ってもらっていた。

 彼女の世界で、家屋を補修する摩導具があると言うので、この世界の建物でも正しく機能するか試すための摩導具を作ってもらっていたのだ。


「慎二さん、とりあえず昨夜は3枚作れました。

 時間が無かったので、私一人だと作れる数に限界がありますね。

 それに、この摩導具がこちらの世界の建物の材料にうまく働くかはまだ判りませんので、あまり沢山作っても無駄になるかもしれません。

 今日実験してみましょう」


「ありがとう。

 マリアの方はどうだ?」


「そうですね。

 幾つか使えそうな魔法を考えたのですが、先日慎二の部屋の引っ越しの時に使った魔法が使えると思います。

 お城など大きな建物の場合、何人もの魔法を使って綺麗にすることはあります。

 以前、わたくしはそれほど強い魔法は使えませんでしたので、やったことは無いのですが...


 それと、部屋の中と同じ魔法を少し変えて、外の壁でも使えると思います。

 しかし、かなり大きい建物ですので、時間がかかるかもしれません。

 ですので、すこし強い(フォース)を使ってみたいので、その時慎二からエターナルを分けてもらっても良いですか?」


「ああ、お願いするよ」


 こうして、廃墟の再生計画が始まろうとしていた。

 建物を一周廻った俺たちは、今度は何人かのグループに分かれて、補修が必要な箇所と内容を糊付き付箋紙に描いて洗い出す。

 それを、後で2階の階段前の広場の壁に貼っていく。

 壁には大きな紙に建物の形を書いてあるので、該当箇所の近くに貼っていくのだ。


 俺とマリアは屋外に行き、外壁の浄化と補修を行う事にした。

 以前俺の部屋で行ったように、外壁表面に付いた汚れを落とすことにする。


 今回は外壁なので、かなりしっかりと落とす必要がある。

 俺がマリアにエターナルを与えつつ、何ブロック化に分けて作業を進める。


 最初に、俺がストレージに蔦など外壁面に着いたごみを取り込んでいく。

 次に、マリアの魔法で空中から水を作り、それを高温にし、高圧をかけて壁面に吹き付けていく。

 様子を見ながら吹き付ける面積を広げながら移動していく。

 1時間くらいかけて、ゆっくりと建物の外側をぐるっと回り外周の埃を取り去った。

 作業が終わって一周廻って来ると、最初に作業した外壁が乾いており、黒っぽかった外壁が乾くと、すこし白い灰色になった。

 ただ、やはり表面の罅や風化は残っている。


 そこで、今度はイザベラの摩導具のテストだ。

 彼女の作った摩導具は、城や屋敷で使われている石材などの表面の補修に使われるもので、これがこの世界のコンクリートに使えるかはまだ分からない。


 1階の入り口付近に有る1本の柱にその摩導具を張り付ける。

 すると、その摩導具の周りのコンクリートの色が白っぽくなり始めた。

 あくまでコンクリートなので、白っぽいとは言っても本当の白ではないが、表面がつるっとした打ちっぱなしのコンクリートを打った直後の様な感じだ。


 無機質なコンクリートが、生きた細胞のように、細かなひび割れや劣化した部分がゆっくりと元に戻っていく。

 張り付けた摩導具を中心として、ゆっくりと広がってゆく。

 やがて柱を昇り切った変化は天井部分へと移り柱を中心に丸く広がりだした。


「慎二さん、そろそろ摩導具が限界になりそうです」


 イザベラがそう言うと、それ以上の変化の広がりが止まった。



「そうか、摩導具1個で、柱1本分の範囲か。 手で補修する事に比べると、かなり早いが、これだけ柱があるし、建物全体となると、ちょっと大変だな」


「そうですね。

 摩導パターンを作るには、どうしても手書きするのに時間がかかってしまいます。

 私がいた工房では何人もの職人が働いていましたが、今は私一人で描いていますので、どうしても沢山作る事が出来ません。

 すみません」


「いやいや、時間さえあれば問題ないのだったら、一度にすべての建物を治す必要はないから、住む部分から徐々にやっていこう」


 俺たちは一度2階に上がり、先ほど修復した柱の位置まで登ってみた。

 すると、その2階の柱を中心に2階の床も同様に修復が起こっており、それは3階に向かっていた。

 同様に、屋上まで摩導具の力は伝わっており、横に広がるよりも、上下に伝わる方が強いようだ。

 これは中に入っている鉄骨の影響かもしれない。

 摩導具の伝わる速度には、素材により違いが有り、コンクリートよりも、鉄の方が伝わる速度が早いのかもしれない。

 床を見ると、鉄材が入った部分を中心として広がったような跡が見受けられる。


 これを見ると、摩導具は1階の柱に貼るよりも、2階の柱に貼った方が良いかもしれない。

 その方が建物上下を中心にうまく周りに広がるように見える。

 試しにもう1枚を、2階の柱に貼ってみる。

 1階の柱は、太く重く、上の階の壁や床は柱に比べると薄い。

 なので、2階の柱に張ると上下階のバランスが取れて、やはり想像通り屋上まで上手く周りに広がるようだ。


 この柱の中には鉄骨のほか、階を通して上下水道の管や、電線など通す為に何本かの管が通されており、それらも同時に修復されたようだ。

 通常柱のコンクリートの中に固められたこれらの管の修繕は、1か所でも大工事となり、費用的にも普通にはほとんど行うことが出来ないレベルのものであった。


 そうこうしている間に、水谷さんは、受電と配電の設備を見つけてくれた。


 水谷さんは電気工事の資格も持っていた。

 工務店は元々電気工事の登録はしていたが、建築士の資格を取ってしまってから、工務店ではいろいろと他の資格にも手を伸ばしていたらしい。

 それで、工務店の戸建てレベル資格を超えて、ビルなどの設計やメンテナンスもできるように、いくつもの資格を取ったりしていたらしい。 完全に免許コレクターだな。



 、水谷さんが持ってきた絶縁計で、ブレーカーの絶縁抵抗を計ってくれた。

 そして、個別に回路を測っていくと、何か所かの配線の先で絶縁が下がっていると言う。

 このままだと漏電となるので、通電する前に修理が必要だなと言っている。


 それと、この埋め立て地には共同溝が敷設されているとの事で、そういえば途中に電柱は立っていなかった。

 これも水害対策なのかな?


 そして電灯線や上水道は、その共同溝に収容されているらしいが、なぜか下水道は使えないらしい。


 高低差から言うと、埋め立て地は一番低い位置に当たる土地であり、重力で流れる下水は、高い陸地に有る下水処理場方向には流れないらしい。

 なので、陸地側まで逆の高低差を付けて、下水処理場のポンプで汲み上げる仕組みになっているとの事であるが、例の開発中止に伴い、そのポンプ施設は作られなかったとの事。

 さすがに水谷さんは地元の工務店だけあって、そこらへんの事情は良く知っている。


 下水が使えないので、ここが営業していた時は、排水を処理するために敷地内のどこか浄化槽があるはずだと言っている。

 そして浄化した水を、さらにポンプで海に流していると思うと水谷さんは言う。


 俺たちは、銀行さんからもらった大量の建築資料を眺めて、地下に関する資料を探し出した。

 大量にある資料のその多くが、各部屋の造作などの設計図面であり、いまは原状復帰で只の入れ物となってしまっているので、ほとんど無駄な資料であった。

 同じく、大量の鍵も無駄と言う事であった。

 銀行さんでは、自分たちで資料や物件のチェックは行っていないのでは? と思われた。


 浄化槽の位置やポンプの場所も判ったので、それを確認を行うが、これは電気を継ないで実際に動かす必要がある。

 また、その際には水道の接続も必要と言われた。

 電気が来たら、浄化槽のメンテナンスが必要なので、それまで水を流すことが出来ないらしい。

 これ、水谷さんがいなかったら、大変だった。


 今トイレは、佐々木さんがイベント用に調べていた近くの公園まで、マイクロバスが定期的に運行されている。



 ところが、浄化槽を調べるために、地面より下に関する資料を調べているうち、重大なことが発覚した。

 なんとそれは、この場所はもともと埋め立て地の実験的な場所であり、そのためこの1角だけ周囲と異なった扱いを受けていたらしい。

 それが良いのか悪いのか分からないが、それもあって銀行さんは安くてもよいから、なるべく速やかに手放したかったようだ。


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本作パラセルと同じ世界をテーマとした新作を投稿中です。

太陽活動の異変により、電気という便利な技術が失われてしまった地球。

人類が生き残る事の為には、至急電気に代わる新たな文明を生み出す必要がある。

ルネサンス[復興]の女神様は、カノ国の摩導具により新たな文明の基礎となれるのか?

ルネサンスの女神様 - 明るい未来を目指して!

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こちらもご支援お願いします。 亜之丸

 

この物語はフィクションです。

登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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