5-02-05 お茶の時間
教授の家で、俺は秘密にしてきた話を順番を追って行っている。
衝撃の話の連続により、皆さんすこしお疲れかと思うので、ちょっと休憩にすることにした。
俺は、ストレージからペットボトルのドリンクを出そうとしたのだが、それを斎藤さんが止めて、
「お茶でしたら、私どもで準備させていただきます。
私もずっと驚きの連続でしたので、すこし疲れましたから、休憩には皆さんちょっと熱目のお茶の方が良いでしょう。
陛下からはお聞きしていていたのですが、それは加納さん達の秘密の極々一部の話だったようです」
そう言うと、すぐに斎藤さんともう一人が、黒いマイクロバスへ走って行った。
女性は軽そうなキャリーバッグを、斎藤さんが重そうな大きなキャリーバッグを運んできた。
一緒に戻ってきた女性が紅茶を入れてくれるようだ。
彼女はバッグから大きな銀色のポットを取り出して、持ってきたペットボトルから水を注ぎ、小さなカセットコンロでお湯を沸かそうとしている。
これでお湯を沸かすと、全員分だとかなり時間がかかりそうだ。
「お湯は沸騰させて良いですか?」
「はい、しばらくお待ちください」
「マリア、この中の水を沸騰させてくれるか?」
「はい、どうぞ」
そう言った直後から、ポットの口から、勢いよく湯気が出始めた。
「えっ! まだ火を点けたばかりなのに沸騰しているわ! 何をされたのですか?」
「あ、それはあとで説明しますので、今はお茶を楽しみましょう」
ここにいる皆さんは、既に超常現象には満腹状態のようで、たとえ一瞬でお湯が沸いたくらいでは驚いてくれない。
ちょっと残念。
結局3回ほどマリアに銀ポットのお湯を沸かしてもらい、全員に紅茶が行き渡った。
斎藤さんが運んできた大きなキャリーバッグは、茶器の運搬用だった。
バッグには高級そうな茶器が緩衝材でうまく収容されていたが、庶民はその値段は聞かない方がよさそうだ。
聞けば、多分この食器は使えなくなってしまう。
とてもおいしいお茶をいただいたので、皆少し落ち着いてきたようだ。
リラックス効果がある紅茶なのかな?
さて、どこまで説明したかな?
陛下の話でシーの登場か。
であれば、あと少し付き合ってもらおう。
「えー、では再開します。
先ほどパラセル通販の話をしましたが、ここで使用する通貨はパラスと呼ばれています。
パラセルへ売却する場合は、まずスレイトのストレージ空間に売りたいものを入れて、パラセルに査定を行ってもらいます。
これでパラセルへ販売する時の価格が判ります。
この前、由彦さんと薬草を鑑定したのはこの査定機能を利用したもので、査定ではパラス額は判りますが、それは鑑定ではないので、その内容については解りません」
「そうだったんですね。 あの数値はパラス額だったんですね。
あ、私、富山で漢方薬局を行っています富沢由彦と申します。
先週まで、加納様とその貴薬草からお薬を作る作業を一緒にしておりました。
それと、加納さんには、私たちの漢方薬店のオーナーになってもらいました。
加納様のおかげで、私たちが作ってきた丸薬についても無事に販売を再開できる事ができました」
と由彦さんが話す。
「この由彦さんのおかげで、みんなが求めているエリクサーという薬が出来ました。
先日配っていない人には、ピルケースをお配りしておきます。
これは常に身に着けておいて、ご自分や周囲の方が病気や怪我になった時、速やかに使ってください。
飲んでも、潰して中の液を傷口にかけても効くようです。
あ、そうですね。 由彦さんから注釈がありましたが、薬事法の関係から、これは薬ではなく、サプリメントとして配布します。
ただ、今のところは次の貴薬草が手に入っていません。 今回造った分しか残りはありませんので、特に大事に、内密にご使用ください」
「あの、これはどのような病に効くのでしょうか?」 と、斎藤さん。
「まだ、調べだしたばかりですが、これまでの臨床検査では、効かない症例はまだ見つかっていませんわ」 と珠江。
「もしよろしければ、陛下に献上させていただくことは出来ませんでしょうか?」
「あ、そうですね。
陛下もお世話になっている方ですので、ぜひお渡しください。
せっかくの献上という話なのですが、この安いステンレスのピルケースの物しかありませんが、それでよろしでしょうか?」
「あ、加納さん。 私どもの薬の桐箱でよろしければ、至急富山から送らせますが、いかがですか?」
「恐れ入ります。 しかし、皆様と同じこのピルケースのほうが、陛下も喜ばれるのではないかと存じます。
残りが少ないことは重々承知していおりますが、できましたらご家族用に何個かを頂くことは可能でしょうか?」
「いいですよ。 サリー、ケースはあと何個買ってある?」
「そうですね。 この前富山で配った後補充しましたから、今お配りしたもののほかに10個くらい出せますよ」
「では、それを斎藤さんにお渡ししてください」
「大変ありがとうございます。
では、加納様からと言う事で、早速献上させて頂きます」
献上された薬、いやサプリメントが役に立つのは意外と近い事であった。
「斎藤さん陛下にお渡しください。 お願いします。
では、お茶を入れて頂いた方から、自己紹介をお願いします」
「はい、私は畔上夢子と申します。
私の畔上家の家系は西脇家、宮守家と同じ地下でございます。
私は、一般の会社、銀行ですが、そちらで秘書をしておりました。
今回の件は父から聞きまして、是非にやってみたく、今回こちらに参りました。
よろしくお願い申し上げます」
あ、なんかクールビューティーと思ったのは、メイクなんかも洗練されているからかな? さすが元秘書さんだな。
お茶も美味しかったです。
「続きまして、私は吉沢苺香、苺の香りと書いて いちか と申します。
私は西脇さん、宮守さんと同じく宮内庁出身ですが、私は書陵部にお勤めしていました。
日本の古文書などの図書を管理するところです。
私は、そこにある古文書から白神様の事を知り、以前から興味を持っていました。
今回のお話を伺いまして、大好きな古い本とこれからも一緒にいるのとどちらが良いか迷ったのですが、思い切ってこちらへ参加させていただくことにしました。
よろしくお願いします」
こちらは、おとなしい本好き少女って感じだな。 確かに苺が香ってきそうな子だな。
「あ、今日は遅れて申し訳ございません。
私は山下華代と申します。 友達からはカヨと呼ばれています。
私は、栃木の御料牧場で馬や牛の厩舎の管理をしていました。
東京の方とはちょっと場所が遠いため、本日は私だけ新幹線で参りました。
よろしくお願いします」
へー、この子は変わった職歴だな。
メイドさんが来たのかと思ったら、皆さんそれぞれ違った分野の人だった。
あと紹介していないのは、んー 服部さんはまだだな。
「服部さん、自己紹介してくれますか?」
「えっ、私ですか? こんなすごい皆さんの中で私なんか自己紹介しちゃっていいのですか?
私は、服部由布子と申します。
カジュアル衣料店に勤めていた時加納さん達と出会い、部屋を引き払わなければいけないのに引っ越せなくって、困っていたところを加納さんに助けて頂きました。
よろしくおねがいします」
「服部さんは、服飾が専門であり、サリーと同じく美味しい物に鼻が利くようです。
ぜひその特技を生かしてください。
それでは最後となりますが、松井さん姉妹に自己紹介をお願いします」
「あ、私達でようやく最後ですか。
こちらが姉の松井実果、私が枝奈姉妹です。
よろしくお願いします。
富山でキッチンカーで食べ物を作って売っていたのですが、商売が上手くいかなくって辞めようとしていた所を加納さんに拾われました。
そして、今回新しいキッチンカーが出来上がって、さっきそれでここにやってきました。
今夜はそれで初お披露目が出来ればと思っています。
出来ましたら、この後こちらの奥様と打ち合わせをしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「あらあらあら、困ったわね。
材料が少し足りないから買いに行かなくっちゃいけないわね。
あ、私はここの石崎の妻、美智子と申します」
「あ、材料は今回富山で沢山買っていますので、それを使って美味しい料理をしますので、メニューのご相談です」
そういえば、松井姉妹と服部さんは、サリーと買い出しに行っていたので、サリーによりたくさんの富山の食材がストレージに入っている。
でも、もう少し話は続くので、松井さん達には夕食の準備は少し待ってもらう。
皆さん、驚きには慣れてきたので、いよいよここからが本日の最大の秘密の話につながっていく。




