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5-02-01 顔合わせ


 今、俺たちは長鳥温泉の遊園地を楽しんでいる。

 本日午後からは、唯華と合流の約束なので、名残惜しそうな皆を、そろそろ現実世界に引き戻す時間だ。 ストップウォッチを持ったウサギも走っていった。


 唯華とは名古屋駅で待ち合わせを約束したので、名古屋までは新幹線で来るのだと思っていたのだが、どうやら車に変更したらしい。

 後輩に運転でもさせているのかな?


 なので、名古屋駅での待ち合わせではなく、長鳥温泉まで車で直行で来ると言ってきたので、時間的に一緒に昼食する事にした。


 併設のアウトレットモールにレストランがいくつも入っているので、そちらに行こうと思っていた。

 しかし、唯華から俺たちが泊まっていたホテルのレストランを予約したと言ってきた。


 確かに、ここは巨大なテーマパークであるので、駐車場はとても広く、今の時間からの駐車ではどれだけ遠くに停めることになるかなるのかわからない。

 そして、ホテル利用者であれば、ホテルのすぐ近くに車を停められるとの事であった。


 宿泊者用の通路を通り、ホテルのロビーで待っていると、例の専用携帯電話に着信があり、まもなく到着するという連絡が入る。


 みんなで玄関まで出迎え待っていると、ほどなくして西脇唯華を乗せた車が到着した。

 やって来た車は、普通の車ではなく、黒塗りのマイクロバスであり、窓ガラスも黒いので、中が良く見えない。


 唯華は、俺達が富山にいた間も、外務省との話を行うために、彼女だけは東京で一人作業を続けていた。

 その仕事が、どうもうまくいっていないようなのだ。


 本当であれば、富山で由彦さん達との顔合わせをしてほしかったのだが、富山に来ることは叶わなかった。


 久しぶりの再会なのにもかかわらず、マイクロバスを降りてきた唯華は、ちょっとムスッとした顔をしていた。

 多分出発直前までも、まだゴタゴタしていたようだな。



 ホテル脇の駐車場で彼女は車を降りてくるとすぐに、


「陛下から、この車と、この人達が加納さんに対して派遣されてきました。

 すみません。 私もこちらへ向かう直前に言われたもので、断り切れず、連絡なしに決める事になってしまって」


 地下(じげ)の家系として育った彼女は、陛下からの話であれば断り切れないのは当然だと思う。

 朝廷の時代からの身分制度で、宮廷に仕える身分ではあるものの、昇殿までは許されない階位の者達の事が地下と呼ばれている。

 身分制度が残っていれば、一般人の俺からすれば、宮廷に仕える身分は、ずっと上の位なんだろうけどね。



 マイクロバスの運転手さんは、車を降りる時、運転席の後ろに掛けたあった上着を取り、モーニングコートの上着をビシッと着て俺の前に現れた。

 俺とは初めての挨拶なので、礼服で正装されたようだ。 運転していた時に使っていた手袋は手に持っている。

 年配とまではいかないが、少し髪の毛に白い物が入り始めたおじさんだ。


「ここまで運転頂いた、斎藤さんです。

 これまでは陛下の侍従をされていらっしゃいました」


此度(こたび)は陛下から直接の命を受けまして、加納様とご一緒させていただくこととなりました、斎藤慎介と申します。

 加納様につきましては、陛下からお話を伺っており、事情は存じておりますので、何なりとお気軽にお申し付けください。

 どうか、末永くよろしくお願い申し上げます」


「えっと、今突然聞きましたので、ちょっと驚いています。

 俺は加納慎二と申します。

 よろしくお願いします」


 きちんとした礼服を着た方が目の前に立ち、自分に深々とお辞儀されてしまったので、礼儀作法など知らない俺は突然の事であり、ちょっとあたふたとしてしまった。


「私も宮内庁にいる時に、斎藤さんは何度かお目にかかった事はあるけれど、侍従の中でも優秀な方だとお聞きしているわ。

 陛下が真っ先に彼を指名して、こちらに寄越してくれた程の方よ」


 そして、唯華が呼びかけると、マイクロバスの中からは、あと2人のスーツ姿の若い女性が降りてきた。

 斎藤さんはここまで運転されてきたが、彼女たちより立場が上なのであろう、斎藤さんの挨拶が終わり、呼ばれるまでは出て来れなかったようだ。



「それと、こちらの二人は、やはり宮家関連で、私と同じ地下の立場の家柄の方です」


「初めまして。

 加納様ですか。 私は、畔上夢子(あぜがみゆめこ)と申します。

 どうぞよろしくお願い申し上げます」


 お、うちのメンバーにはいない、ちょっとクールビューティーな人だ。


「初めまして。

 私は、吉沢苺香(よしざわいちか)と申します。

 よろしくお願い申し上げます」


 こちらは、ちょっと優しそうな感じな人だな。



「あなた達も、陛下から?」


「いえ、そんな、とんでもございません。

 私は、自ら志願いたしまして、今回何とか選んでいただけましたので、こちらに参りました」


「私もです」


「えっと、唯華、どういうこと?」


 唯華はちょっと渋い顔をしている。


「その、宮家に伝わる伝説の白神様が現代に(あら)われて、陛下とお会いになった。

 そして、私たちがその御神様に仕えているなどという噂が宮内庁に流れたものだから、私と同じような地下(じげ)などの一族が色めき立ったのよ。


 私たち家の事情は以前話したとおりだけど、どこの一族も似たり寄ったりなのね。

 なので、陛下の元には、我が一族からも何卒側仕えを出させてほしいという打診が。 それは、すごい事になっちゃって...


 なにしろその神話の主であるシーさん御本人が、陛下の前に出てきちゃったのよ。

 そして、いろいろ新たな真実が判り、極めつけは、これまでの祖先からの申し送りが、これにて完了しちゃったわけ。

 陛下も大変お慶びになり、多分今後の伝統的な式典も、その内容が変更されるわね。

 まあ、歴史的な変換点でもあるので、こうなっちゃうのは無理もない事かな?

 今を逃せば、長い歴史の中、多分こんな事はもう二度と無いと思うから、私だって志願すると思うわ。


 それで打診に対して、内密にいろいろな調査や試験が行われて、そして最終面接に通った人が、今回(・・)派遣されてきたのがこの二人というわけ。

 あ、もう一人いるらしいけど、今日は間に合わなかったらしいわ。

 この話は、私もここに来る車の中で初めて聞いたので、この人たちとは初対面よ」


 唯華の渋い顔を翻訳すると、この人達って唯華とライバル関係になるのかな? そういえば、唯華はまだスレイトメンバーでないしね。



 午後は訪問の予定があるので、ここで立ち話している時間もあまりないので、俺たちはホテルに入り昼食をする事にした。


 斎藤さんは、唯華と会った時には既に仕事を開始されていたようで、彼からホテルのレストランに昼食の手配が既にされていた。

 レストランは大きなガラス窓から庭園が見える個室であった。


 部屋に入って、そのまま椅子に座ろうとすると、斎藤さんがすっと俺の後ろに来て、椅子を引いてくれた。

 そして、俺の耳元で小さくつぶやいた。


「これからは、公式な会食の席では、主賓が着席される場合、椅子を引くのは執事の仕事でございます。

 このような場でのマナーについて、これからお教えしていく事になると思います。

 多少不便でしょうが、これからは国賓との席も増えることになると思いますので、それまでに覚えて頂ければと思っております」


 おいおい、なんか話がとんでもない方向に進んでいるぞ。

 唯華は、一体どんな打ち合わせをしているんだ。



 食事が運ばれる前に、メンバーと斎藤さん達を互いに軽く紹介する。

 紹介が終わると、斎藤さんがタブレットを出して、


「本日、加納様へのビデオメッセージを預かって来ています」


 そう言って、そのビデオをみんなに見えるように再生してくれた。


「加納 貴子様、慎二様。 先日はとても意義ある一時でした。

 特に西脇さんから聞いていますが、慎二様の国づくりにつきましてはわたくしも、是非私も協力させてください。

 この斎藤は、これまでは私を支えてきてくれましたが、国を背負っていく慎二様には今後必要な人材だと思います。

 その時のため、ぜひ彼を使ってやってください。

 ぜひとも素晴らしい国ができる事を希望しております」


 ビデオメッセージはなんと陛下からの物で、短い物であったが、先日陛下との会食にいなかった人達にとっては、ちょっと衝撃的な出来事であったようだ。


「陛下って、あの陛下だったの!?」


「うん、そうだよ。 サリー達はこの前、あの人とご飯を一緒に食べてきたんだよ」


 すると、斎藤さんが、


「先日は、陛下は大変お慶びになられ、あの後も大変でございました。

 毎日のように学者の先生たちとも、今後の宮中行事などについて検討が始まり、そして何か時代が変わる予感をしております。

 そのような流れの中心におられる加納様と、これからご一緒させて頂ける事は、大変光栄な事でございます。

 末永く、よろしくお願い申し上げます」


 斎藤さんがそう言って頭を下げると、二人の女性も一緒に頭を下げている。


「俺なんかの為に、陛下の元を離れる事になったは残念だと思いますが、よろしくお願い申し上げます」


「とんでもございません。 今回の件は私の意思でもございますので、加納様がそのようにお思い頂くことは何もございません」



 挨拶が済むと、タイミングを合わせて食事が運ばれてきた。


 こちらの方に給仕はお任せしましょうと、後ろに立つ斎藤さん達に、一緒食事をしてもらうようにお願いをした。

 立っていてもらっても、この後全員で移動となるので、このままでは食事抜きになってしまう。


 昼食は、この地の名物であるハマグリを贅沢に使った会席料理だった。

 大きなハマグリは、どれもとても美味しかった。

 特に焼き蛤の汁をチュッと飲むと、幸せになる。

 3人娘は生活圏に海が無かったので、海の二枚貝などは食べた事が無いと言う事で、ハマグリ初体験であった。

 ハマグリは、日本古来から親しまれ、平安時代ではハマグリの貝を使って貝合わせという遊びも流行った日本とは深い関係がある貝である。


 軽くお昼ご飯を食べるつもりであったのだが、顔合わせを兼ねた立派な食事会となってしまった。


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この物語はフィクションです。

登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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