5-01-01 ブレイクタイム
新しい 「地固め編」 の始まりです
慎二たちは、世話になった富山の地を離れ、いよいよ動き出しました。
富沢漢方薬店でのエリクサーづくりも一段落し、俺たちは富山を離れ、今三重県にまで来ている。
真希の山の師匠に会う約束をしており、明日午後、師匠の名古屋の自宅を訪れる予定だ。
師匠の自宅へまで行くのは、真希も今回が初めてだとの事。
今日は1日時間ができたので、名古屋での宿泊を考えて、朝から皆で電車にて移動してきた。
宿を調べていたところ、名古屋駅から直通バスで行ける温泉が近くにあることを知った。
だったらそこに泊まろうと、ほとんど予備知識もなく直通バスに乗り込み、ちょっと足を延ばしたつもりだったのだが、何故か俺は大きな遊園地の中にいる。
名古屋という大きな都市のすぐそばにある温泉なので、さほど期待はしていなかったのだが、来てみて驚いてしまった。
ここ長鳥温泉は、とてもここが温泉だとは思えない。
まず、今いるスパムランドは、中部地区でも屈指のテーマパークであったのだ。
スパムという名前から、イギリスのコメディ番組に登場する食品についてのテーマパークかと思ったが、どうやらそれは違っていた。
温泉という意味の「スパ」と、夢のような場所と言う事で、スパ夢ランドと言う事らしい。
巨大なプールやジェットコースターなどがいつもある、とても、 とても危険な場所に来てしまった気がする。
更にここには、アウトレットモールなど、ショッピングやグルメも沢山揃っている。
当然、肝心の温泉も1か所ではなく、いろいろなお湯施設があるようで、完全にうちの女性陣が色めき立っている。
その長鳥温泉には8名が来ている。
俺 加納慎二、 異次元からの3人娘であるサリー、マリア、イザベラ。
それと俺の婆ちゃん、いや幼児、いや、すでに小学生くらいにまで成長した加納貴子。
元役場の原田真希と、元衣料店スタッフの服部由布子。
あと厚労省 宮守珠江が来ている。 珠江は俺達とずっと一緒にいるが、厚労省を退職したのかよくわからない。
キッチンカーの松井実果、枝奈姉妹は、注文中のキッチンカーが完成するまで、富山の由彦さん宅で厄介になるようだ。
それと、東京で仕事をしている 外務省 西脇唯華とは、明日 名古屋駅で久しぶりに合流する予定だ。
今夜は、長鳥温泉のホテルに部屋を取っているので、今日は皆でゆっくりと好きなことが出来る。
プールで泳ぐも良し、ショッピングでも良し、そして温泉でゆっくりもいいなあ。
えっ、ジェットコースターに行くって? えっ、えっ、俺は... サリー達に引っ張って行かれることに。 各自ゆっくり楽しむじゃなかったのか?
それぞれ勝手に遊びに行くとなると、問題は夕食をどうするかだ。
ホテルと言ってもリゾート用なので広い和洋室で、部屋での食事もできるが、それだと全員一同に集まれないので、館内のレストランで全員で食べる事にしている。
この中で、服部さんはスレイト通信が使えないので、服部さんはスレイト通信が使える他の人と一緒にいて欲しい。
そう言うと、服部さんは真剣な表情で、
「あの、加納さん。 私も、そのスレイトメンバーというのに加えてはもらえないでしょうか?」
「えっ、でもこれしちゃうとプライバシーが無くなっちゃうので、俺からはお勧めしないよ」
「でも、何か私だけ疎外感があります。
ここまで一緒にいて、加納さん達にいろいろと秘密があることは十分理解しています。
私も、皆さんの様子を拝見させていただいており、すでに覚悟はしています。
ですので、私も仲間に加わりたいのですが、ダメですか?」
ちょっと上目遣いでお願いされてしまう。 男が弱い目線だ。
「慎二、サリーはそれは良い事だと思うよ!」
「わたくしも、服部さんであれば賛成ですわ」
「わかった。
アー、服部さんをスレイトメンバーに登録してくれ」
『了解しました。
服部由布子はメンバー登録を希望しますか?
服部由布子をメンバー登録します。
服部由布子のメンバー登録が完了しました』
いつもの、本人にしか聞こえない意思確認が終わったようだ。
「アーさんの声が、本当に頭の中に聞こえてきました」
「しばらくは慣れないと思うけど、これでどこにいてもお互いに通信ができるよ。
あとは、いろいろあるから、皆に聞いてね」
「これって、声を出さないで会話できるので、テストはカンニングし放題ですね。
あ、そんな事、私はしませんけど...
これって、みんなエスパーですね」
何か、思ってもみなかった、変わったところを突っ込まれてしまった。
確かに、魔法やスレイトは超能力みたいなものだな。 それとも奇跡かな?
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
今俺は、真っ白で巨大な木製の柱の上を走るジェットコースターに乗っている。
関東でも富士山近くには大きなジェットコースターはあるが、これはちょっと比較できない大きさというか、美しさというか、そんなすごいジェットコースターだ。
コースターが昇り始めると、周りには海が見えてくる。
そう、この長鳥温泉は伊勢湾に飛び出した半島のような場所に有る。
実際には半島ではなく、揖斐、長良、木曽といった大きな3つの河川に挟まれ、伊勢湾の河口の突端になっている。
3人娘たちは、初めて目にする伊勢湾に、大きな湖ねーっと驚きの声が。
いや、ここはもう海だから。
そういえば、海に面している国の娘はおらず、行商の旅や遠征以外で海は見られないらしい。
マリアは海を見るのは初めてとのことである。
大きな湖は、国内にもあるらしく、それで湖と言ったようだ。
それで3人娘は、誰も泳いだことがないようだ。
しかし、横浜でも海岸にはいたはずなのだが、あの観覧車の中では、まわりの景色よりも別の事に気を取られていたらしい。
こんな施設が名古屋近くにあるって知らなかった。
今回はここに宿泊しているので、帰り時間を気にせずに閉園ギリギリまで遊んでいることが出来る。
でも、夕食もあるので、まだまだ遊びたい人達であったが、夕方7時で終わりとした。
そう、明日も朝から昼頃まではここで遊ぶ予定だ。
小さな温泉でゆっくりだと思って来たので、ここでこれほど遊ぶことになるとは全く考えていなかっただけに、時間が足りない。
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
宿泊者は館内からスパムランドに直接出入りできる専用の通路があり、開園の少し前から入場できる。
日中は長い行列になる人気アトラクションにも、その時だけは並ばずに乗ることが出来る。
朝、背が高いジェットコースターに乗ると、コースターの上から目に入ってきたプールにも興味を持ったようで、皆でプールに移動することになった。
この大きなコースターは、泊まった部屋の正面に見えており、早朝から係の人がコースターを歩いて登って点検していたので、ちょっと興味があったようだ。
誰も水着を持っていないので、どうすればよいかと聞いたら、プールにあるショップで水着やプール用品をいろいろ売っているそうだ。
バスタオルは、部屋に置いてある専用の袋に入れて持っていくといいと教えてもらった。
まだチェックアウトしていなかったので部屋に一度戻った。
そして時間がもったいないので、さっそくプールだ。
プールに到着すると、早速ショップで水着の購入だ。
女性陣は、おれと別れて水着を選びはじめる。
3人娘は、初めて着る水着選びに迷っているかと思ったが、服部さんのコーディネート能力もあって、意外とあっさりと決まったようだ。
いろいろと恥じらいと誘惑・大胆のせめぎあいの年齢なのだろうか、珠江のほうが時間がかかっているらしい。
今日の彼女たちにとって水着は戦闘服である。 誰と勝負するのかは知らないが。
早くしないと昼になっちゃうよ、との声に、先に行ってくださいと珠江の返事が。
ショップから水着姿で出てくる娘たち。
キャピキャピ言いながら、見せびらかす娘、はずかしがる娘。
みんな楽しそうでよかった。
貴子だけ、お子様水着ですみません。
「慎二、どう?」 と、言われても、まぶしくって、じっくり見ることなどできません。
「キャー! 慎二って、こういう服も好きなんだ!」
いろいろ言ってくれています。
裸を見るよりも、わずかに水着で隠されていたほうが俺的にはドキドキする。
では、俺達はさっそくプールだ
俺も、学校以外のプールに来るのは、高校生のころに皆で行ったのが最後なので、かれこれ10年近く来ていなかった。
ここのプール周辺には、巨大な滑り台やチューブがうねうねとある。 そう、曲がりくねったチューブがたくさん、うねうねとある。
これがスライダーなのだろうが、この光景は未来の工場みたいで一種異様だ。
流れるプールや波のプールは知っているが、いずれも巨大だ。
誰とは無しに、そのスライダーを指さして、アレに行きたいと言い出した。
三半規管の衰えを感じつつ、俺をひっぱって、次々とスライダーに挑戦する。
スライダーはちょっと、と言う俺の言葉は無視されて、だったらと言う事で、ゴムマットに何人か乗るスライダーに乗ることとなった。
これのどこが、だったらなんだ?!
マットに寝ころび、みんなで滑るスライダーの時、ちょっとしたハプニングが起きた。
マリアが最後の着水時にマットからズリ落ちて、そのまま水面にまで滑り落ちる。
結果、ビキニのトップが取れて流されてしまい、ポロリが発生。
プール下では、いつかそれに遭遇できないかと淡い期待をして集まっている周囲の男どもから、ウォー!ウォー!という大歓声が。
マリアは平然とその大きな胸をさらして立っている。 ヴィーナスの誕生だ。
あちゃー、おれは彼女の周囲を探すが、水着はない。
サリーが後ろから、ビキニのトップを持って、急いでやってきた。
どうも、後から流れてきた次のマットに引っかかってくれたようだ。
姫様って、他人に着替えさせてもらったり、湯あみしたりして、普段から裸を見られることに対して羞恥心がないからなー。
多分、そこにいた男たちの、若き一生の記念になるように思われる。
とりあえず、周囲の男どもの羨ましい視線をかいくぐり、おれたちはその場を離れた。




