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4-08-01 富山その後


 これは俺たちが富山を離れてしばらく経った、秋頃の話です。



 壮太君のお母さん今井裕子(ひろこ)さんであるが、彼女は由彦さんのお店で販売を手伝ってもらっている。

 病院に検査入院する前に、万が一の事が有った場合、一人となってしまう壮太君の事が有るので、病気の話をその車会社に相談したそうだ。

 しかし、彼女は就職してまだ日が浅く、その車の会社からはあまり良い返事がもらえなかった。


 幸いにも、検査結果はすべて問題なしと言う事になり、無事に仕事に復帰したそうである。

 しかし、その会社には少し居づらくなり、ちょうど由彦さんの店が再開すると言う事になり、戻ったそうだ。

 車会社への勤務は短期間ではあったが、彼女はキッチンカーの販売など、この4半期の営業成績が一番高いことが判ったのは、彼女が退社した後の事であった。


 壮太君も高校を辞めずに済み、きちんと通っていると報告してもらった。

 そう、壮太君は由彦さんに連れられ、報告もかねて別れてすぐにも俺に会いに来てくれた。

 彼は卒業後俺達の元に来たがっている。



 その後も俺と由彦さんとは、定期的に連絡を取るようになった。

 何しろ、今や俺はあの漢方薬店のオーナーになってしまったから、お店の状況の定期報告を受ける責任が出来てしまった。

 俺としてオーナーの件は固辞したのだが、由彦さんは必死でお願いされてしまい、すでに互いの秘密もある程度バレてしまっていたので、結局引き受ける事になってしまった。

 まあ、そうなったからには、由彦さん達も俺たちに、逆に巻き込まさせてもらおうと思っている。


 ところで、由彦さんの漢方薬屋が販売を再開する新しい丸薬であるが、俺とマリアが気を入れた為か、ちょっと大変な事になっていた。



 ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇



 私達 富沢漢方薬店は、加納さんのおかげで、ようやく新しい丸薬の販売にまで漕ぎつけることが出来ました。


 最初丸薬を再開しようとしたとき、貴重な薬液なので、私個人としては、少しでも使用量を減らしたかったのです。

 しかしサリーさんから、古文書の呪縛からせっかく離れることができ、これから新し薬を作るのですから、よく効く薬にしましょう という意見をいただきました。


 私達も、そこで はっと 気が付きました。 そう、ここからは私たちで新しい薬の歴史を作るのだと。

 サリーさんは、この薬草を探し求め、大変つらい経験をした事が有るそうですので、彼女も思い入れがあるようです。

 加納さんも彼女の意見には賛成で、オーナー意見としても尊重しました。


 新しい薬には、以前と比べいくつか異なる点があります。


 以前の私どもの丸薬は、銀箔で包まれていたので、銀色の丸薬だったのですが、今度売り出す新しい丸薬は、以前の丸薬とは区別が付く金色をしています。

 これは、薬草に加納さん達の気を入れて頂いた事と、薬液の使用量を一粒に対して、従来1滴から、2滴と、薬量を2倍使用することにしたからです。


 金や銀は摂取した際に、体内に吸収されないので、食品として安全とされており、この丸薬の防湿に用いています。

 そう、お酒に入っていたり、食品に乗っかていたりするあれです。


 加納さんから提供いただいた金の板を、金沢の加工所で金箔にしてもらったものを用い、それで丸薬の周りを包んでいます。

 以前から金箔は使ってみたかったのですが、非常に薄い箔であっても流石に高価なので、これまでは銀箔しか使って来ませんでした。

 おかげで今回は綺麗な金色の丸薬となり、見た目も完全に新しくなりました。


 新しいパッケージは、小さな桐の箱に綿を詰めて、箱の中央に金色の丸薬1粒が入って輝いています。

 価格は以前の物から少し高くなって、1箱2万円としました。 まあゴールド錠ですし、1粒2万円です。



 再発売と言う事でもあり、以前に買っていただいていた近くの方のみに、口コミで試験的に使ってみてもらったところ、ちょっとした異変が起きていました。

 以前は良薬という程度の効きであったのですが、今回の物は明らかに悪い個所が良くなっているらしいのです。


 高価な漢方薬ということもあり、最初は主にお年寄りの方への贈り物として使って頂いたようなのです。

 そして、服用して頂いた後、それまで永らく患ってきた神経痛など、あちこちの痛みが消え、また老化に伴うような目の病気も改善したと言われるのです。


 体の内側の事は判りにくいのですが、服用した結果が目に見えて判る事として、肌艶や血色が良くなり、誰の目からも健康的に見えるようになったとお聞きしています。

 まさか薬で若返ることは無いとは思うのですが、肌の艶や血行が良いと、少し若くすらなったように見えるようです。


 誰の目からも効果がはっきりわかると、宣伝は一切していないのですが、丸薬の評判が勝手に広まり始めてしまいました。

 新たな原材料の入手は、まだ目途が立っていませんので、一日に使用する薬液の量を制限する必要があります。

 これは、店の存続期間にもかかわる事であり、以前私がそれを怠ったがために、店を閉じる事になった原因です。

 ですので、1日の最大生産量については絶対に守る必要があります。



 まだ試験販売期間と言う事もあり、閉じた漢方薬店の店舗は開けていません。

 お馴染みさん、もしくはその紹介の方が買いに来られた時のみ、一時的に店を少し開けて販売をするようにしていました。


 昔からのお客さんの中には、以前漢方薬を購入いただいた医師の方がいらして、その方の奥様に新しい丸薬を飲ませた所、効果がはっきり出たとおっしゃってました。

 当店で漢方薬をお買いいただいていたと言う事は、裏に工場を作ってからは、ほぼ丸薬のみしか販売していませんでしたので、そのお客様は古くからのお得意さんです。

 そして、少し高いかなと思っていた金の丸薬の値段ですが、それをはるかに超える効果があったよと、医師の方にまでそう言ってもらえたのはちょっと嬉しく思います。

 そして、その医師の方から紹介されたという、外国の方、ご家族がその病院に入院されている台湾の方までいらして、丸薬をご購入いただきました。

 これで漢方薬もインターナショナルだと思ったのですが、落ち着いて考えれば漢方薬はもともと大陸発祥でしたね。


 しかしいつからか、閉まっている店舗の前に並ばれる人達が出始めてしまったのです。

 そして、お馴染みさんが来店された際に店舗を開けると、外に並んでいた方まで一緒にお店に入って来てしまい、作り置きできている金丸薬はすぐに売り切れてしまいました。

 本当に、飛ぶような勢いで薬が無くなっていったのです。


 やがて噂を聞いた他の薬店や、薬問屋さんからもたくさんの引き合いが入るようになってきたのですが、他へ廻す程の生産数はありませんので、お断りするしかありません。

 しかし、遠方からわざわざお越しいただいたお客さんなどに、ご購入をお断りする時は心苦しく感じていました。


 加納さんにお電話し相談したのですが、最初から聞いている通り彼らも新しい薬草を入手することはまだ出来でいないので、無理だと言う事でした。

 いろいろ話し合っているとき、以前ご一緒に実験した時のことを思い出し、実験の残骸2株分が私の手元に残っている事を思い出しました。


 それを使って、加納さんとマリアさんの気を入れてみて、丸薬の材料にならないかを試してもらえることになりました。

 私は工場に新たなタンク2基を増設して、新たな材料の受け入れ準備が整うと、実験で使用した薬草をすべて持って加納さんがいる名古屋にまで車を走らせました。


 今回は立山にも登らず、立山の雪ではなく加納さんのお薬で使った超純水を用い、実験で使った貴薬草の残骸を2つの壺に入れて、マリアさんと加納さんに気を注ぎ込んでもらいました。


 結果、実験残骸の材料でしたが、前回の立山での薬草と同様に、壺は緑の光を発したので、うまく成功したと思われます。

 やはり加納さん達が重要なようであり、立山に登らず、そこの雪を使わなくとも良かったようです。

 ただ、壺は同じものを用いました。 密閉できる容器だと、タンクに沈めた際にうまく拡散しないと思ったからです。


 最初の生成に成功した事を確認し、もう一つの壺にも気を注いでもらい、急いで壺を車に積んで、すぐに富山に戻ることにしました。

 この気を入れるという加工を行った後、あまり時間を空けない方が良いかと思ったからです。

 でも、昔であれば、冬の立山から下山していたので、それにはかなりの時間を要したと思いますから、そこまで急ぐ必要はなかったのかもしれません。

 まあ、気持ちの問題です。


 あ、持っていったお土産も渡していなかったことと、加納さんにお礼を言ってなかったのとを、富山に戻って車を降りる時に気が付きました。

 でもこれで、試験販売は終了して、普通にお店を開けての販売が出来そうです。



 ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇



 富山を離れてからは、由彦さんとは2度目の再会であったのに、今回彼は15分も滞在せず、さっさと帰って行ってしまった。

 とてもあわただしい再開に終わってしまったが、これは仕事が順調と言う事なので、まあしかたがない事だな。

 多分、由彦さんの頭の中では、作った材料を使っての新しい計画が練られており、ゆっくり話している時間は無いのだろう。


 まあ、これでとりあえずあと2本の材料タンクは確保できたはずなので、もう少し丸薬の販売量を増やすことは出来るな。

 でも、やはり貴薬草の入手目途はたっていないので、10年以上かけて販売できる生産計画を行う必要がある。

 なので、材料は劣化しないストレージに保管した方が良いと思われるので、今度由彦さんと相談してみよう。


 薬が役に立ちそうなことは、富沢漢方薬店の新オーナーとしては、喜ばしい事だ。



 丸薬についてはこんな状況である。

 これで、試験販売でなく通常販売に移行できると聞いたので、丸薬事業については、あとは由彦さん達に任せておいて大丈夫であろう。


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この物語はフィクションです。

登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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