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4-05-03 情報の波紋


 最近、私が勤務する県立がんセンターでちょっとした騒ぎがあった。


 ステージⅣで多くの臓器にがん細胞が転移した患者さんが、ある日を境にいきなり完治したのだ。

 画像を見ても、昨日までの異常が認められたすべての腫瘍箇所がすっかり消えており、完治と言い方が良いのかどうかわからないが、何もない健康な臓器に戻っている。

 最初別人の結果かと思ったくらいで、取り違いの医療事故が起きていないかをチェックしたほどだ。


 この患者さんに対しては、これまでさまざまな治療法を試してきたが、ほとんどどの医師も匙を投げる状態であった患者さんだから、担当してきた他の医師たちも驚いている。


 患者さんやそのご家族には大変感謝されたのだが、これは私達の治療の結果ではない。

 なぜだかわからないが、ある日突然の事であり、本当に神の奇跡が起きたかもしれないとさえ思っている。


 確かに幾つもの薬や治療法は試してきたが、それらは病巣の細胞を部分的に殺していくものなので、いきなり全身が治る物ではない。

 患者さんは既に退院されてしまっているので、これ以上の解析もできないのと、治った理由が病院では説明できない為、担当医師には本件は内密にと病院から言われている。

 治ったこと自体はとても良い事なのだが、何かもやもやしたものを感じていた。


 ところが、何故か同じ時期にいくつかの病院でも似たようなことが起きていたことがしだいに判ってきた。

 たまたま、医師の研修会の後に行われた食事会の席で、別の県のがんセンターの医師と話していた時発覚した。

 そして調べていくと、どうやらいくつかの県でも同じような事が有ったと言うのだ。


 しかし、皆その案件は積極的に発表などされず、どうやら私の病院と同じように各病院だけの秘密となっている。

 その発生した日付が、なぜかほぼ同じ時期に起きていることにも驚かされる。

 その時期に、太陽や月の影響、もしくは未知の隕石でも落ちたのだろうか?


 何かある。 それも、全国的に同じ時に発生しているので、組織的に何かされた可能性すら考えられる。 しかし、何も証拠がない。

 でもこの時は、薬の試験はごく限られた病院、それも離れた病院が選ばれていたため、一部に医師以外は気が付いていなかった。

 担当医師は知らされていないが、この病院は、最初に10本のエリクサーの対象に選ばれ、配布された1か所であった。



 ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇



 ここは厚労省にある厚労大臣直轄の特別部署である。

 この部署は厚労省の中にあるが、実態は内閣府や宮内庁が絡んだ対外的に秘密とされた特別な部署だ。

 同じ厚労省職員の中でも、ここの部署の事を知っている人間はごくわずかである。


 先日、その部署である特別検疫9課から試験依頼が上がってきた特別な薬が私の手元にある。


 特別検疫9課が依頼してきた件なので、(ないがし)ろにはできない。


 まあ、依頼されたのはそれほど大して難しい要件でもないので、頼まれた条件に見合う患者がいる病院に薬を渡すだけである。


 ただし、最重要機密扱いを指定してきているので、こちらの人間が各病院の院長に内密に手渡すことになっている。

 なんか仰々しい扱いの薬だが、どれだけ効くのかわからない。


 そもそも、薬事申請できない特別な薬と聞いているので、それを我が部署が取り扱ってしまってよいのかという問題はある。

 でも、何か訳アリの様であり、特別な事情があるようなので、その辺は聞かなかったことにする。


 ところがである。

 薬を配布した直後に上がってきた報告書に目を通した私はちょっと引いていた。

 引くと言っても悪い方ではなく、あまりにも強力な効果がもたらされた様で、それも投薬直後にすべて結果が出ていた。


 高額な医薬品が劇的に効くとは言っても、それは言葉のあやであり、早く効くと言う意味であり、今回のように数分後に完治するなどは絶対に有り得ないことだ。


 少なくとも生物の細胞組織には、それほど早く変化が起こせるものではない。

 今、死にかけていた人間が、数分後に完治することなどありえない。


 しかし、配布したすべての患者でそれが起きてしまったと言うことは、信じるしかないのだろう。

 この結果をまとめて知っているのは、今のところ私以外では特別検疫9課の薬を届けた人間だけであるが、私はこれを知ってどうすればよいだろうか?


 特別検疫9課は地球外の高度生命体との接点である部署なので、当初は高度生命体から持たらされた薬だと考えていた。

 しかし、結果を伝えた際、薬を持ちこんだ本人から、これは国内で取れた特別な薬草から抽出された薬と聞く。 そう生薬だ。

 ただその薬草が入手できず、薬の製造は限定され、今後も定量的な薬剤の生産は不可能と言うことで、薬事申請は難しいと言う。


 確かにこのような薬が医薬品業界に登場したら、世界中大騒ぎとなるであろう。


 そんなことを考えていたら、さらに臨床研究用として200本やってきた。

 今のところ薬について内密なので、相談する相手も限られている。

 それこそ、地球外の高度生命体からもたらされた薬と言ってしまった方が、私は楽なようにも思うが、そういう訳にはいかないしな。


 あと、この薬を日本以外の世界にも渡すのか、国内だけで使用するのかも決めなければならない。


 それと、今回薬の配布と共に、その病院に対してこの薬の価格を考えてくれという特殊な依頼も頼まれている。

 このような大発見級の嬉しさと、それを広めた場合の怖さを持ち合わせ、まったくもって、大変なものを持ち込みやがって……


 結局200本については、要望である速やかな結果報告を得る為に、日本国内のみに配布することにした。

 今回は配布先の症例を幅広く、内科だけでなく、外科にも配布という要望がきている。

 内服薬が外科治療にどれほどの効果をもたらすかわからないが、これだけの薬であるので、確かに興味はある。


 前回の10件の選考に漏れたリストを含め、200件の選考を行い臨床研究用としてすべて配布を行った。

 どれだけ薬を秘密にしても人の口に戸は立てられないので、やがて漏れ広がっていくだろう。


 いや、秘密にすればするほど、噂という物は広がっていくと思われる。

 まあ、多くの患者さんには配れない以上、あまり公にする事は無理だろうな。


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この物語はフィクションです。

登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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