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4-05-01 届いた手紙


 ようやくエリクサーが完成し、昨夜イザベラの世界に手紙と共に送ることができた。

 少し待たせてしまったが、何とか親友の治療に間に合ってほしいと願っている。

 こちらも、手探り状態から始めて、これでも最大限急いだのだ。


 その手紙への返事が、なんと早くも今日届いた。


 便宜上手紙が届いたなどと簡単に言っているが、実のところちょっと複雑だ。

 届くとは、転送石を使用してこちら側に引き寄せを行った時、先方のマーカ付近に置かれていた何か(・・)が、こちらに転移されてきたと言う事だ。


 ということは、実際に転送石を使用して引き取りを行なってみないと、転送物が置かれているのかも確認はできない。

 先方のマーカ位置に、まだ返信物が置かれていない時に引き取ると、それは空打ちとなり、転送石を一個を無駄に消費してしまう。


 転送石も決して安くはないので、むやみやたらと返信の確認は出来ない。

 このように、かなり効率が悪い方法ではあるが、先方側からこちらへ送る事が出来ないので、今のところしかたがない。

 まあ、そんなこと、今はどうでも良いが。



「イザベラへ ご無沙汰しています。

 あなたが突然私の前から消え去ってしまい、それが私が原因だと知って、毎日大変悲しい思いをしていました。

 でもお手紙を読んで、あなたが新しい世界で、新たな生活を始めていると知って、少し安心しました。


 私の為に、あなたに大変なご迷惑をかけてしまい、本当にごめんなさい。


 でも、イザベラのおかげで、私の病気は治ったようです!


 そうです! イザベラが送ってくれたお薬は、本当に、本当にすごいお薬でした!

 何回も言います。 本当にすごいお薬でした!!


 父が聞いていた噂のとおりの、お薬の効果でした。

 お薬の入手は、さぞや大変だった事と思います。 本当にありがとう。


 手紙の指示通り、1本のお薬を飲んだだけですっかり治り、残りの薬は不要となりました。

 でもお医者さんは、もう少し様子を見たほうが良いと言っていますので、少し様子を見てから、余ったお薬はお返しします。


 送っていただいたお薬は大変高価なものと聞いていますので、父が渡した摩導具は壊れていたと手紙に有りました。


 摩導具が売れなかったとしたら、イザベラはお金は大丈夫なのですか? 心配しています。

 お薬のために、何か悪いことをしてお金を手に入れたのではありませんか?


 それと、ちゃんと食事はしていますか?

 貴女の事だから、お金がないからと言って、また食事も忘れて仕事をしていませんか?


 私は自分が大きな病気をしたことで、体の大切さは身に染みました。

 私の病気は幸いイザベラが送ってくれたお薬で治りました。


 私も父も、これからの仕事として、今度はイザベラがこちらへ帰ってくる方法がないかを調べようと考えています。

 手紙だけですが、こうしてやり取りができたので、きっと戻る方法は見つかる事だと思います。


 それと、そちらの世界には摩導具が存在しないという事を知りました。

 私には、摩導具が無い生活なんて全く考えられません。


 摩導具やマナクリスタルを異世界に送る事は出来ないようですね。

 今回イザベラが送ってくれた試作品は、真っ黒になっていると父が言っていました。


 多分イザベラに渡した父の摩導具と同じ事が起きたのだと思います。

 その原因や、何が起きたのかを父は今調べています。


 また、父は同じ物を作っていますので、たぶんこの手紙と一緒に送る事になると思います。

 摩導具もなく、さぞや毎日厳しい生活をしている事だと思いますが、くれぐれも体を大切に、そして待っていてください。


 私に為に、あなたの人生を目茶苦茶にしてしまい、ごめんなさい。 そして、本当にありがとう。


 あなたの親友より」



 大粒の涙を流しながら、イザベラは静かにその手紙を読んでいる。


 このところイザベラが一生懸命作っていたのは、昨夜手紙に付けて送った物であった。

 それは、イザベラが転移して来た時、持ってきた摩導具が故障した原因が、転送石による転移なのかを確かめる為に作った検証用摩導具サンプルだった。


 そして、今回手紙と一緒に送られてきた師匠が作ったサンプルも、同じ結果を示した。

 前回持ってきた摩導具と同様に、マナインクは黒く変色しており、マナクリスタルがあった場所には黒い粉が少し付いていた。


 この時間で返事が戻ってきたと言う事は、どうやら私の手紙を送ったのは昨夜なので、師匠は徹夜して半日で同じ物を作ってくれたようだ。


 この実験により、転送石によって摩導具関連を送り合うことは出来ない事が確定した。

 もしこれが成功すれば、イザベラの世界にたくさんあるマナクリスタルが簡単に手に入ったので、残念である。


 イザベラが読み終わった手紙を見せてくれると、スレイト翻訳が働くようで、イザベラの世界の文字で書かれた手紙であっても、普通に読むことが出来た。



「イザベラ、親友の病気が治ってよかったね!」

「わたくしも、嬉しくって、泣けてきてしまいましたわ」


「マリアのおかげでエリクサーを送ることが出来ました。 ありがとう。 そして慎二もサリーもありがとうございました」



 そういえば、マリアの世界に送った手紙は、つい先日、初めて返事が届いた。

 マリアの世界に送った手紙は、どうやら転移した城の中ではなく、かなり離れた場所に現れたようだ。

 そのために、発見までにかなり時間を要したようだ。


「わたくしが送った手紙は、皮肉にも子供の頃にわたくしが倒れていた、あの忌まわしき森に落ちていたようですわ」


「なぜそんなところに手紙が着いたのだろう? 空間座標の計算がうまくいかなかったのかな?

 アー、何かわからないか?」


『了解です。

 設置したマーカについて調べてみます。 少しお待ちください』


 また、アーはいつもの彼女の小さなヘルパーに聞いている。


『はい、いつもありがとうございます。 では。


 あ、慎二! 判りました!』


「どうして、到着位置がずれたんだい?

 アーの計算が間違っていたのか?」


『えー! 何それ、傷つくなー。

 えーとですね。 マーカを設置した場所自体が、計算した座標とはずれてしまったようなのです。

 今回設置された場所には、マーカが既に設置されていたため、後から設置したマーカがマージされてしまったようです。

 マーカ設置は絶対空間指定もしくは、セグメントでの指定方法があり、これはある程度の空間範囲、それがセグメントですが、その中で最適な位置に設定されます。


 そしてセグメント指定の場合、転送石の対象となる転送物もしくは、転送アドレスが同じマーカは、同一セグメント空間への設置は1個に制限されています。

 今回は座標を追い駆けての計算です。

 空間は常に動いていますので、ちょっとした誤差で地中に設置などされますと、永遠に見つけられませんので、セグメント範囲で最適位置への設置を指定しています。

 マーカがマージされてしまったと言う事は、誰かがそのセグメントの中に、過去にマーカを設置したのではないかとパラセルのヘルパーは言っています』


「えっと、それどういうこと?

 誰かそこに転移した事が有るってこと?

 マリア、何か判るか?」


 マリアはしばらく考え込んでいる。


「そう言われますと、わたくし記憶があやふやなのですが、何かが子供の時にあったのかもしれませんわ」


 さらに、しばらく考え込んでいると、マリアは はっ とした表情になった。


「ひょっとすると、わたくし思い違いが有るのかもしれません...

 わたくし、子供の頃に王宮内でマーカを拾ったような気がします。

 なぜ、そんな物がお城に落ちていたか分かりませんが、多分それがマーカだったかもしれません。


 なぜ、拾ったそれがマーカという物であって、その使い方が判ったのかもわかりません。

 そして、子供だったわたくしは、それがあれば王宮の外に遊びに行けると考えたのだと思います。

 えー、そう考えれば、きっとわたくしは、それを拾いますわね。


 そして、お供と郊外に出かけた時に、それを森の中に置いてきたように思います。

 後から聞いた話と、わたくしの記憶とが混乱し、お供と共に城の外に出かけ、そにまま森の中で倒れていたように覚えていたのですが、それは少し違ったようですわ。


 ああ、そうですわ! わたくし、宝物殿の転移石を使って、自分で設置したマーカに転移して、そして、そのまま森の中に倒れていたのですわ。

 誘拐ではなくって、転移だったのですわ!」


 なんということだ! 自作自演ではないか? 誘拐事件はマリア自身が原因だったようだ。


「ねえマリア? 転移石で転移すると、イザベラの摩導具やマナクリスタルみたいに壊れちゃうんだよね?」 と、心配そうなサリー。


「あ! そうだわ! 転移石で移動すると、マナクリスタルが黒く変質してしまう。

 それで、わたくしが子供の時にマナ溜りに出来かけていたマナクリスタルが黒化し、体内のマナ溜りに残ったままになってしまったのですわ。

 ああ、すべての謎が解けましたわ。

 それが私の病気の原因であって、呪いや毒などではなかったのですね!」


「ええ! じゃあすべての事が、マリア自身が原因だったの!」


「すみません。 どうやら...その様ですわ。 オホホホ...

 転移石で転移するなど王族しか知らないことです。

 さらに、マナ溜りに石が出来る魔法使い自体非常にまれな事ですので、魔法医でも体の中に黒い塊が出来た原因は解らなかったようですわ」


 恥ずかしそうに俯くマリア。 オホホホじゃあないだろう。


「この世界への転移の時は、大丈夫でしたの?」 と、イザベラ。


「ええ、わたくしのマナ溜りに有るのはマナクリスタルではなく、すでに黒い石でしたので、転移してもそれ以上悪くなる事は無かったのだと思いますわ」


「でも、マリアはどうして、貴重なマーカを拾ったり、秘密の転移石の事を知っていたのだろうね?」


「それは、残念ながら今となっては全く覚えていません。

 転移石の事はこの世界に来る時に初めて知ったと思っていたのですが、わたくしが子供の頃にすでに出会っていたのですね。

 それって、王様へのお告げと何か関係があるのでしょうか?」


 自分で蒔いた種が原因なのに、肝心の記憶が曖昧になってしまい、それにより他人を猜疑心を持って見るようになってしまっていたらしい。

 今となっては誰にもわからないが、これでマリアの心のモヤモヤが消えたようであった。


 思わぬところで、原因が判かってしまった。


 でも、体も、心もその原因が取り除けて、よかったね。

 心の(わだかま)りが解けたマリアは、今の素直な気持ちを王様と母に向けた手紙に書いた。

 そして、その手紙にエリクサー錠を10錠ほど添付して送ったのだが、それがマリアの国にとってちょっとした騒ぎになるのはまた別の話である。


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この物語はフィクションです。

登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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