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4-04-03 憧れのキッチンカー


 エリクサーの実験がひと段落したので、貴薬草を発見すべく、貴子と真希はこのところ富山周辺の野山を散策しているらしい。

 今日は富山近くの合掌造りがある場所を探索しに行っている。

 この辺の山には熊が出る場所もあると聞くので、腰には大きな鈴をつけさしている。

 とりあえず、やるべきことがうまく動き始めたので、皆少し余裕が出てきたようだ。



「あの慎二さん、ちょっとお話があります」


 松井の妹、枝奈があらたまって俺に話しかけてきた。


「先日、壮太君のお母さんから聞いた話なんですが、お母さん、今井さんはこちらを解雇になった後、今はこの近くの自動車の会社にお勤めらしいのです。

 ここの近くにあるらしいのですが、小さな自動車会社ですけれど、いろいろ車を改造して特注車を作ることが得意な会社らしいのです。


 それで、 あの、それで ですね」


 何か言いたそうなのだが、まだ迷っているようだ。


「それがどうかしたの?」


「あ、その今井さんから聞いた話しなのですが、そこのショールームにキッチンカーが展示してあるそうなのです。

 それは、展示用に作った物なので、とても豪華な物だそうなのです。


 私たちのキッチンカーが、そろそろ使えなくなるお話はこの前したとおりです。

 参考までに、一度それを見てみたいなー、と思いまして」


「見に行くだけなの?」


「もし出来ればですが、私達で払える位の価格で、車検が通るキッチンカーをお姉ちゃんに買ってあげたいのです。

 一度キッチンカーは諦めたのですが、その話を聞いてから、自分にもまだ未練がかなり残っていることが解りました。


 でも、いま私たちには支払うだけのお金は準備できないし、どうしようかと。

 なので、何十年払いになるか判りませんが、慎二さんにお金が借りられないかと思って...


 とても図々しいことはわかっているのですが、悩んでいるだけでは何も変わりませんので、思い切って慎二さんに相談させてもらいました。

 あ、この話は、まだお姉ちゃんには内緒です」


「どうして内緒なの?」


「だって、お姉ちゃんに話して、もし期待されちゃったら、その後に諦めてもらうのはすごく辛いでしょ?

 今のキッチンカーでの営業も、つい先日辞めてもらったばかりなのですから。

 だから、まずいろいろと見積もりを取って、売り上げとか、そして何年で返せるかを計画して、少しでも可能性が無いかを、もう一度きちんと考えたくて。

 前回は諦めてもらうように、私からお姉ちゃんを説得したので、私から新しいキッチンカーの話はすこし言い出しにくいのです...」


「ふーん。でも、キッチンカーについては君が決めるのではなく、実際に使うお姉さんが決めるべきなんじゃないかな?

 ショールームが近くにあるのであれば、お姉さんと一緒に見に行って、値段でも聞いて皆で驚いてみる?

 その方が二人ともきっぱりと諦められるんじゃない?」


 そういうことで、由彦さんに今井さんの連絡先を聞いて、電話でショールームの見学をお願いした。

 今井さんは明日から検査入院されることは聞いていたので、急いで今日の午後見に行く事にした。



 ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇



 キッチンカーと珠江の運転で、俺たちは今井さんが勤める車屋さんのショールームにやってきた。

 そう、松井姉妹の要望で、ここに展示されている豪華と言われるコンセプトキッチンカーを見る為に来たのだ。


 確かに由彦さんの漢方薬店からは近く、こんな場所に車屋さんが? というような場所にあった。

 ショールームに通されると、多くの車と共に、ショールームの隅っこに小型のキャンピングカーのような車が展示されていた。

 周りにはデザイン重視の車が展示されている中、これだけは、少し異彩を放っている。

 展示されていたキッチンカーは、すべての窓が閉じられていたので、牽引タイプの小さなキャンピングカーのように見えた。


 今井さん曰く、以前に行われた業務用自動車の展示会に出展するために、特別に作った物で、1点物らしい。

 当時展示会や業界雑誌では、大きな注目を浴びたらしい。

 しかし、このキッチンカーを購入した場合の営業コストを計算すると、どう安く計算しても1皿がとんでもない価格の料理となるため、いまだに売れ残っているらしい。

 そりゃ、展示目的で、お金に糸目をつけずに作ればそう言う事になりますな。



 事前に妹 枝奈に予算を聞いておいたが、彼女は指1本を立てていた。 どうやら100万円らしい。

 以前の中古軽トラックの荷台を自分で改造して作ったキッチンカーに比べると、それでもかなり高い金額のようだ。


 俺と今井さんは、少し離れた場所から説明を受けている彼女たちの様子を眺めている。

 立って話を聞いていたせいなのか、今井さんの顔色は、化粧をされているのにやはり悪く見えるが、座って営業は出来ないようだ。


 松井姉妹には、今井さんではなく、この車担当の販売員の方が付き添って、説明している。


「今、これは走行用の形態になっています。

 牽引車には電気自動車の軽ワンボックスの後方部分の一部をカットして、牽引用フックを儲けたオリジナル仕様車です。


 牽引される側のキッチン部は小型のトレーラー仕様ですが、当然車両総重量を計算して作っていますので、お客様は牽引免許なしで、最近の普通免許でも運転できます。


 トレーラーにつきましては、重量制限が発生しますので、特に強度計算を繰り返し、ジュラルミンなどの軽く強い素材を選んで作っています。

 中の什器類も当然軽量化した特製品です。

 狭い場所への出店も可能なように、車全体を小型に設計しています」


 小型化するように、トレーラーの前方部分は、牽引車の連結器の上に乗りあげるようになっており、連結部が工夫されているようだ。



「あの、このキッチンの中がちょっと狭いようですが、これでは調理している人の後ろを通れませんよね?」


「あ、これは走行形態ですので、駐車して営業するときはこのボタンを押すと営業形態となり、キッチン内側が広くなります」


 ボタンが押されると、キッチンカーの両側面が、電動で外側に押し出され、キッチン内側に1m以上の空間が現れた。

 おお! これは変身キッチンカーだったのか!


 キッチンコンロやシンクとその反対側となる販売窓口が内側の通路部分に押し込まれて、トレーラー通路部分に収納されていたようだ。

 狭い場所で販売する場合、両側を広げなくとも使用ができるとのこと。


「えー! すごい! これだったら調理中のお姉ちゃんの後ろを自由に通り抜けることが出来るね!

 それと、このキッチンって床がずいぶん低いね。 天井は高いから、背の高い人でも立ったまま作業が出来るね」


 そういえば、以前のキッチンカーは軽トラックの荷台の上に作られていたので、狭く、天井も低かったので、中で作業していると腰が痛くなると言っていた。


「対面販売を考慮して、トレーラーは、なるべくお客さんとの目線の高さが変わらないように、床の高さをギリギリまで低くしています。

 また、牽引車の上に連結器を組み込むことで、運転しやすく、小さな回転半径でも、安定してトレーラーを牽引できるように考えています。


 床を低くしましたので、天井方向に余裕が出来ましたので、このトレーラーではそこも有効利用しています。

 天井には給水タンクのほか、食材や容器などの収納スペースと、走行時にお勧めできませんが、小部屋として休憩空間が付いています。 そこで昼寝などもできますよ」


「その小部屋って、どこから入るのですか? 外から廻るのですか?」


「雨の日の事を考えて、折り畳みの梯子を使って車内から移動できます」


 そう言うと、担当者はトレーラーの天井のハッチをゆっくりと開けると、中からスライドする梯子が出てきた。

 梯子を床にまで降ろすと、そこから小部屋に登れるようだ。


「両側のキッチンを収納した状態でも、梯子は使えるように車両中央に配置しています。

 天井は低いですが、走行形態の場合かなり狭いです。 でも、ちょっと休憩するときには便利かと思います。

 あと、駐車している時であれば、左右の拡張と同じように、天井も上に持ち上げる事が出来ますよ」


 さらに変形するようだ。


 実際に梯子を上ると、天井裏であるが、明り取りがあり、昼間であれば電灯を付けなくとも暗くはない。

 屋根裏の高さは50センチくらいしかなく、匍匐(ほふく)前進でいけば中に入れそうだ。

 左右には沢山の収納扉があり、一番奥の牽引車側には、下からつながった冷蔵庫もあるそうだ。


 寝泊まりを考慮しているので、なんとエアコン吹き出し口までついていた。

 そして言われた屋根の昇降ボタンを押してみると、天井がグーンと持ち上がり、最大に上がると天井は更に1.5mほど持ち上がって、高さ2mくらいの空間が出来た。

 中で十分に生活ができそうな、まるで2階建ての家の様ですらあった。


「このトレーラ部は天井を畳んだ状態、走行時の車高は3mです。 停車時に上に伸ばすと最大で4.5mになります。

 トレーラーの天井は、前後左右独立して持ち上がり、太陽光の高度が低くなっても天井のソーラーパネルを使って、効率よく充電することが出来ます」


「えっ? 天井に、ソーラーパネルが付いているのですか?」


「はい、天井には、大きなソーラーパネルを搭載していますので、太陽が出ていれば常に充電ができます。

 牽引車は電気自動車ですので、走行しながらでも充電できます。 また通常走行用以外にもキッチン用として大きな充電バッテリーを搭載しています。

 冷蔵庫やエアコンなどの他、トレーラー側面の販売窓を開けると大きな防水LCDも搭載されていますので、宣伝用として、音と映像を流して使っていただけます。


 また、牽引車の連結部には、専用のガス発電機も積んでいます。

 夜間の長時間営業でも、もし万が一、バッテリーが無くなったり、これで充電や走行ができますので問題はありません。


 この発電機の燃料は、キッチンと共用のLPG プロパンガスです。

 LPGですので、食べ物を作るキッチンカーとしては、営業中であってもいやなガソリン臭を出しません。

 発電機自体はハイブリッドタイプですので、最悪時ではガソリンも使えますが、メンテナンスを考えるとLPGを使ってください。

 匂いについては気を使っています」


 天井からキッチンに降りてきて、設備を見て回る。


「コンロやオーブンは、そのLPGガスですか?」


「はい、発電機にも供給していますが、LPGのボンベは連結器の近くに設置していますので、連結した時にトレーラーのガスホースを接続してください。

 LPGと発電ユニットは牽引車から降ろすことが出来ますので、牽引車を切り離して使用する場合、トレーラーの横に置けます」


「冷蔵庫と冷凍庫も大きいし、エアコンもついているし、これって電気容量は大丈夫なのですか?」


「牽引車側には、かなり大きな発電容量の装置を備えていますので、すべて同時に使用しても大丈夫です。

 もし近くにACコンセントが無い屋外で、バッテリーの充電も切れ、夜間や太陽も出ていない、LPGのボンベも空の場合はさすがにお手上げです。

 キッチンで電気を使い過ぎて車が走れなくなってしまった場合、これは最悪の場合ですが、トレーラを外し、軽くなった牽引車をどこか電灯線のコンセントがあるところまで走って行って充電するか、ガソリンスタンドや他の車からガソリンを分けてもらって発電してください」


「あの、これって水の貯水タンクがどこにも見えませんが?」


「それは、キッチンと天井の間の薄い部分にポリタンクがあり、水を貯めています。

 厚みは数センチですが、トレーラー全体の天井面積は広いので、水を満タンに入れると、かなりの容量が入りますよ。

 その水ですが、キッチンの水栓部分に熱交換器が付いていますので、ヒーターにより温水を造ったり、冷却器で冷水を出すことが出来ます。


 排水タンクは同様に床側に有ります。 排水はフィルターを通した水がそちらに溜まりますので、多少お手数ですが、排水とフィルターはこまめにお掃除してください。

 水回りや排煙などは、各地の保健所の情報を調べて設計していますので、これで許可が下りないところは無いと確信しています」


 長い説明であった。 ふー。



 ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇



「それで... これって、牽引車や設備含めて一式でいくらくらいするのですか?」


 おっ、妹 枝奈が担当者にズバリ聞いている。


「まあ、これはコンセプトカーとして作りましたので、値段は有って無いようなものです。

 私どもは、車両改造が中心でして、牽引車につきましては他社よりもかなり安く作れたと思っています。

 トレーラーは完全な特注仕様で作っていますので、それなりのお値段となっています」


 担当者はそう言うと、枝奈さんの耳元でささやくと、彼女は眼を見開いていた。

 俺は、枝奈さんにこっそり聞くと、指を1本立てていた。

 同じ1本でも、彼女の予算の10倍くらいだったようだ。


「コンセプトカーとおっしゃいましたが、これって、本当に公道を走って、キッチンとして使用できるのですよね?」 と、俺は担当者に聞いてみる。


「私どもは小さいですが自動車会社ですので、動かない自動車は作っていません」


 担当者は胸を張って言う。


「じゃ、これ包んでください」


「はい? 何を包みますか?」


「いえ、冗談です」


「ははは、これは私では、ちょっと包めませんね」


「そうですか。 じゃあ今井さーん、これ、ひとつお願いできますか?」


 少し離れた場所に立っていた今井さんに声をかけると、近くにやって来た。


「はい、お客様、誠にありがとうございます。

 これ一つでよろしいですね。

 オプションはいかがいたしますか?」


「そうですね。

 オプションのメニューってありますか?

 あ、そうですか。 では、準備ができましたら配達もお願いします。

 いつぐらいに配達できますか?」


「では、特急で整備いたしますので、それは4日ほどいただけますでしょうか?

 車庫証明は富沢漢方薬局さんに頂いてよかったかしら?」



「あのー? 慎二さん、ちなみにそれって、このキッチンカーを買っている話なのですか?

 私達そんなにいっぱい払えませんよ」



「あー、心配しないで。 これは俺が買ったの。

 俺の仲間が、俺たちの御飯を作るのに使いたいって言ってたから。

 もしキッチンに必要なオプション機能があれば、これから整備されるみたいだから、すぐに追加してもらってね」


 いきなりの超高額な買い物に松井姉妹はキョドっている。

 もっとも、その隣でさっき包むのを断った担当者も、口をあんぐりと開けていたが。


 キッチンカーで来た松井姉妹を今井さんに預ける。

 彼女たちは、この後に仕様追加など細かな打ち合わせをするようだ。

 俺と珠江は、先に帰る事にした。


 このキッチンカーは、この後俺たちの食堂車として活躍することになる。


 今井さんはやはり明日から一泊2日で検査入院されるそうだ。

 入院前にちょっと大きな営業成績にできるかな?

 壮太君には薬を渡してあるので、今夜飲んでもらえるといいな。


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この物語はフィクションです。

登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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