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エピソード・ゼロ

先日、妻経由でご指摘いただいたように読者の皆様を退屈させないよう工夫する必要があるのではというアドバイスを頂きました。私が考えた結果、結末から先に書かせていただく事によってこれを解決しようと考えました。相変わらず長編になる予定ではありますが。この小説は私自身の実体験をもとに作成しています。妖緋が幸せな人生を送れたように。私が変われたように。皆様の人生が少しでも幸せなものになるように書かせていただきます。勿論、読まれるかどうかは皆様次第。私はこの小説を皆様がお読みいただくことで、皆様がより良い人生を送れることを心から願っています。

タタタ、タタタタタタタッ。

機関銃の音が室内に鳴り響く。


「なんでよ!なんでなのよ!バカ親父!あれだけ、あれだけ自分の為に、生きろって言ったのに!俺は自分の為に生きてるんだって!あれだけ言ってたのに!なんで、なんでこんな事するのよ!」

血まみれに横たわる父親を抱きかかえながら、江戸理奈(エド・リナ)は叫んだ。


「うるせぇぞ。理奈。相変わらずキンキン感たけぇ声だな」

理奈の父親、 江戸妖緋(エド・ヨウヒ)は真っ青な顔で気丈に応えた。


「ほんとバカ親父!なんでよ…なんでなのよ!あたしを庇う必要なんてないじゃない。親父がいなかったら、この組織はどうなっちゃうのよ。誰が指揮をとるのよ!」

理奈は泣きながら叫ぶ。

彼女の顔はぐしゃぐしゃで。

まるで赤ん坊が転んで顔をぶつけたみたいな泣き顔だ。


「何言ってんだよ。理奈。お前がいるじゃないか。お前以外にも俺達には仲間がいるだろ。頼りないかもしれないがお前のことをこの世で一番愛してくれている母親がいる。俺はみんなにありとあらゆる事を仕込んだ。こんな日がいつ来ても組織が動くように」

妖緋は理奈の言葉に応える。

背中から腎臓をナイフで刺されている。

丁寧に刺したあと、ねじり切っている。


「でも、でも、あたしじゃ無理よ!だって、親父がいてくれたから。お父さんがいてくれたからここまでこれたのに!あと、一歩ってところまでこれたのに!なんで、どうしてなのよ!」

理奈の顔は相変わらずぐしゃぐしゃだ。


「大丈夫。お前ならできるさ。俺がお前に徹底的に仕込んだ。そうだろ?毎日毎日、来る日も来る日も厳しくお前に接した。お前に嫌われたとしても。それがわかりきっていたとしても。それでもお前に厳しく接したのは、この日の為だ」

妖緋の唇は紫だ。

声も普段の偉そうな態度とは考えられないぐらい小さい。


「そんな、そんな事今言われたって…。」

理奈は完全にパニック状態だ。頭は完全に思考停止している。


「いいか理奈。よく聞くんだ。お前を信じろ。俺はお前の事を信じている。だからお前も俺を信じて、お前自身のことを信じるんだ。大丈夫、いつも言ってただろ。お前ならできるって。お前なら絶対できるって。俺はずっと言い続けただろ?」

妖緋は諭すように理奈に語りかける。


「でも、でも…。」

理奈はもう喋ることもできない。


「俺は自分の為に生きた。自分がやりたい事をやり、かつ、周りの人間を笑顔にするにはどうしたらいいか考え続けた。お互いにお互いの成長が望める選択肢を取り続けた。だからこそ、お前や、お前の母親、周りの仲間がついてきてくれたんだ。勿論、敵も沢山いる。理解し合えない仲間もいる。だけど、俺には大切な仲間ができた。俺はお前という娘がいることを心から誇りに思う。」

妖緋の周りは完全に血の海だ。

人間の体にはこんなにも大量の血液が流れていたことを初めて知った。


「理奈。愛しているよ。心から。心から愛している。俺が死んでも自分のせいだと思うなよ。それは勘違いだ。俺はお前を庇ってなんかいない。俺は俺が生き残るよりもお前が生き残ったほうがこの組織にとってメリットが有る。そう判断しただけなんだ。ただそれだけだ。お前も生き残るし、俺にもメリットが有る。ほら、お互いWin-Winだろ?」

妖緋は気丈にも笑顔で答える。

いつも通りのしわくちゃな笑顔で。

切れ長だけど、二重で大きな目を思いっきりつぶって。

全力の笑顔で応える。

だが、そこにはいつもの生気はない。

顔は真っ白。

唇は紫。

大量の血液を失って寒いのだろうか。

顎が震えている。


「理奈。忘れるな。ホンモノの優しさを。ホンモノの愛を。偽善者になってはいけないよ。偽悪者になりなさい。嫌われる勇気を持つんだ。今まで教えた事を実行すれば必ず、お前は成長できる。だから、ホンモノの愛を忘れてはいけないよ」

妖緋の声はかすれていて、耳を澄まさなければ聞き取れないぐらいだ。


「さてそろそろ。サヨナラのようだ。ははっ。もう目が見えないわ。理奈。 忘れるなよ。 俺はお前のことをホントウに愛している」

妖緋はさっきからずっと笑ったままだ。

涙を流しながら。

しわくちゃのまま。

ずっと笑ったままだ。


「ありがとう。お父さん。私もお父さんの事。ホントウに愛している。ありがとう。お父さんのこと大好きだよ。ありがとう!ありがとうね…!!!」

少しだけ落ち着きを取り戻した理奈が応える。


「あぁ。俺も愛しているよ…。」

最後の声を振り絞ると妖緋の体が急に重くなる。


「お父さん!?お父さん!!!!?」

「ぁぁ ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!! !!!!」

理奈が言葉にならない声で叫んだ。


どうしようもない絶望。

どうしようもない愛情。

どうしようもない現実。

彼女の頭の中はもう何も考えられなかった。


妖緋は世界を救えなかった。

妖緋は志半ばで倒れた。

妖緋の夢は叶わなかったのだ。


だけど、妖緋の意思は受け継がれている。

脈々と。

脈々と次世代に受け継がれている。

彼がやりたかった事。

彼が成し遂げたかった事はなんだったんだろうか。

今となっては誰にもわからない。


けれども、彼の意思は受け継がれている。

きっと彼の意思を受け継いだ誰かが。

彼と同じように。

彼が変われたように。

幸せな人生を歩んでいくと信じている。


妖緋は最初から幸せな人生を歩めたわけではない。

紆余曲折を経て。

苦悩して。

涙して。

笑って。

それを繰り返して今に至る。


さてそれでは彼の話を始めよう。

彼が如何に。

退屈で。

平凡で。

ありきたりで。

何もできなかったのか。

なぜ彼がここまで変われたのか。

この小説を読み切ったあと。

きっとその理由がわかる。


読者の皆様が、 妖緋を同じように、幸せな人生を歩めますように。

では彼の物語を語るとしよう。

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