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鞠つき社 

掲載日:2019/06/16

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共に、この場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 お、つぶらやくん、ドリブルの練習かい? 体育でバスケットボールが来たとたんこれだもん。君もなかなか熱心だねえ。

 それにしてもドリブルにしては、やけにボールの位置が高くないかい? こんなんじゃすぐにスティールされて、キープできないと思うんだけど?


 ――え? 本当は鞠つきの練習? 鞠がないから、バスケットボールで代用?


 これまた、妙なものにはまったもんだねえ。各種ボールを取りそろえた体育小屋といっても、さすがに鞠っぽいのはない、か。サイズ的にせめてハンドボールとか……売り切れ? おお、それは。

 しかし、ズボンじゃあ手まり歌のフィニッシュができないだろ? ほれ、「肥後手まり歌」の最後って、鞠を袴で隠して終わらせるじゃん。どうせ凝るなら徹底的に服装にもこだわったらいかが? なんちゃって。

 しかし、このごろだと鞠つきなんて、とんと見かけない遊びだよねえ。でも、昔は遊び以上の意味合いを含んだ、儀式のひとつだったと聞いたことがある。僕も最近、親から仕入れた話があってね。

 どうだい、聞いてみないかい?


 むかしむかしのこと。母親の住んでいた地域には、一家にひとつずつ、手鞠と蹴鞠が常備されていたという。女が手鞠で男が蹴鞠をたしなむのが慣習だったとか。

 これに関しては、年に数回行われる行事が関連している。その時期には地区ごとに設けられている神社の境内で、鞠つきの大会が開かれて技を披露し合うんだ。競う側面もあるが、主体となるのは地域や各々の家の将来を占うことだったとか。

 その日、その時に皆の前で見せる調子の良し悪し。人前で「あがる」とか、そのような理屈を抜きにした、診断を行っていたというんだ。


 そしてある年。夏に入る直前に行われた鞠つきの行事で、それは起こった。

 普段は鞠つきに関して、他の子供とは段違いのうまさを持つ女の子。その子がほとんど鞠をつくことができなかったんだ。すでに何度もこの行事で家の代表を務めた子で、緊張などほとんどしないはずだった。

 しかし石を取り除き、ほぼ平らに掃き清めた場でつこうとした彼女の鞠は、一度もまともに地面へ着くことがなかった。

 彼女の腕の中から落とされたそれは、わずかに半紙一枚ほどの厚さを地面との間に挟み、跳ね返ってしまう。弾かれた鞠はあらぬ方向へ飛んでいき、拾い上げて同じことをしても、同じことを繰り返すばかりだったとか。


 その場を取り仕切る代表者は、「この場はすでに先約が入っているようだ。すぐさま支度をせい」と男達に呼びかけたそうな。これはすぐさま近隣の人々にも伝わり、他の神社での作業も注視。大急ぎで境内脇に予め積まれていた丸太達を組む作業に入った。

 指示によって作られた丸太小屋は、壁や屋根の骨組みだけで作られた、間に合わせのもの。指示を出した者は、ここを「社」とした。それが件の掃き清めた地面を囲うように設置された。更にその四隅にはかがり火の準備がされる。

 それらすべての手はずが終わると、皆を集めて指示が出される。

 ここに置かれる見張り役の者をのぞき、一同は極力、これ以降の時間での外出は避けること。見張りの者も、ここにいる間は音に気を配るように注意がなされる。


「槍を持ち、このかがり火の近くに控えて待て。もし、鈴の音が聞こえたならば、動かずにいろ。だが。もしも鎧を鳴らす音が聞こえたならば、全員の槍でこの社を囲うように構え、決して中へは入れないようにせよ」


 見張りは一刻(約2時間)ごとに交代。念のため、ここの神社にほど近い場所にも、簡素で構わないので、同じようなものを用意することが促された。万一、ここで行うことが失敗した際に、出番がそちらへ行くかもしれない。その備えのためだった。


 日が暮れると指示があったように、見張りの男達四人を残して、皆は自分の住処へと引き上げていった。最初の組である四人の男達のうち、ひとりは何度か経験のある年配だったが、それ以外の三人は年若く、まだ経験がない。

「できる限り、かがり火の近くに立て。これより訪れる来客は、陽の元の目よりも、夜目の方がはるかにきく者たち。わしらのような強面な男が雁首そろえて待っておっては、怖じて入りづらいからのう」


 かかか、と笑い飛ばす老人。つられて若者達も笑い出してしまう。かがり火の上部にある鉄かごからは、パチパチと音を立てて浮かぶ火の粉が、かすかな風に吹かれている。四人はそれを浴びないよう、風上に待機して待つ。

 そして半刻が経過した頃「しゃらん、しゃらん」と多くの鈴を一気に転がす音が遠くから響いてきた。音はじょじょにその大きさを増し、同時に、この境内につながる石段を登ってくる草履の気配がする。

 だが、姿は見えない。石段から砂利に変わった境内の地面に残るのは、ひとりでに左右へ分かれていく砂たちと、そこからほんの少し離れた脇に、勝手に残っていく鞠らしく丸く小さい跡。そして響き続ける鈴の音。

 男達は指示の通り、明かりの下から動かない。その間、足音は骨組みの「社」の中へ入っていき、止まる。しかしほどなく、第二、第三と足音が境内へやってきて、最初にやってきたものと同じ道筋をたどり、社の中へ集っていく。

 5人ほどが中に入っただろうか。やがて今度は鈴の音ではなく、鞠をつく音が社の中で響き始める。相変わらず姿が見えない中、掃き清めた地面の砂を小さい鞠の跡が蹂躙していった。

 すでに見張りの時間もあとわずか。彼らの近くでは私語も慎むようにとの指示もあり、彼らはかがり火の中から、彼らの鞠つきを見守っている。


 ふと、今度は鈴の音とは違う、「カチャカチャカチャ」と、軽めの直垂をまとった足跡が響いてきた。これも外から境内へ向かってくるもので、幾分足が速かった。

 社の中でついていた鞠の音が止む。姿がなくても一同は察することができた。この新しい足音の主を前に、おびえているのだと。手はず通り、彼らはかがり火の近くから離れた。

 四方を囲むように、一人が一辺を受け持つ。手にした槍を横に構え、「ここより先へは通さない」という旨を示す。

 近づいてくる足音が迫ってきたかと思うと、境内の出口に一番近い辺を担当する男の槍が、ぐらぐらと前後に揺れた。もちろん、彼自身が動かそうと思っていたわけではない。見えない誰かが彼の槍の柄を握り、無理矢理、押し通ろうと力を加えてきているんだ。

 言いつけ通り、譲らない男。ギシギシと槍の柄はひとしきり揺れると、足音と同じように、ふと消えてしまう。だが、少し経つと今度は別の辺を担当する者の槍が、震え始める。何としても中へ入りたいようだった。


 四方の槍がひとしきり揺さぶられると、件の直垂の音の主はおとなしくなる。周囲にはやはり足跡のみを残し、新しく見えてくる姿はない。そして社の中でも、鞠つきはまだ再開してはいなかった。


 ――たたずむなり、座り込むなりして、機を待っているんだ。


 槍を揺らされた四人はそう感じ、油断なく構えていたものの、間が悪いことが起こった。

 交代組の到着。おしゃべりこそしていないようだが、一人ずつやってきていた姿なき来訪者に比べると、四人が連なってやってくる彼らの足音はなかなか大きいものだ。

 それを聞きつけたのだろう。出口に近い男の槍にまた手応えがあったんだ。今度は駄々をこねるような揺さぶりじゃなく、力づくでも押し通る。そんな意思を感じさせる、直線的な力をかけてくる。

 男も負けずに力を込めた。はたから見る彼は、槍を構えながら足を開き気味にして踏ん張る、奇妙な姿勢をしている。粘ろうとする足は、じりじりと社の枠の中へ土をえぐりながら引きずられていた。押し込まれそうな強い力が相対している。

 そこへついに交代の四人が、境内に入り込んでしまう。ほぼ同時に、耐えていた男が槍ごと社の中へ押し倒された。囲みが破られる。

 あっという間だった。社の中からは子供の泣き声が響き出したかと思うと、すぐさま石段へ足音だけを残して去って行く。そこに突っ立っていた四人は、まとめて吹き飛ばされて、特に後ろ側の二人は無防備な状態で、石段の最下段まで転げ落とされる羽目になる。骨が折れたらしく、その手足は変な角度で曲がっていたという。

 

 緊急に人が集められて、社の周囲を徹夜で見張ったものの、例の鈴の音をはじめとする姿なき者たちはやってこなかった。

 けが人の手当をしながら、村長は告げる。おそらく今回、あの社の中は姿の見えない子供達の遊び場になっていたのだろうと。


「わしらに汚された後の場所は、使いたくないということじゃろう。わしらが獣のいた場所を、そのまま自分たちの寝床にしようと思わないのと同じで、あらかじめ囲っておこうとした。

 察するに最初に来た鈴の音を鳴らす者たちは、鞠を携えた子供達。後から来た直垂の音を鳴らす者は、その親といったところじゃろう。住処を抜け出して遊ぶ子達を心配し、連れ戻しに来たのじゃろうな」


 その年、特に目立った不作や災害があったわけではなく、以降の行事も数十年間、滞りなく続いたという。ただそれは人間の感覚でのこと。彼らにとってはこの時間など、一日に満たないかもしれない。本当の報いはこれからやってくるのかも、と人々は噂し続けたとか。

 


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― 新着の感想 ―
[一言] 小さい頃、私、結構鞠つき(ボールはゴムボールでしたが)で遊んでいました。 あんたがたどこさ♪の「さ」でまりをついた手とまりの間に足を通してましたが、最後は知らなかったです。 鈴の音の子たち…
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