パンツ
オレが世界で唯一、かの魔王を倒せるかもしれないと名を轟かせた勇者だ。自分で言っといてなんだが、そういうことだ。
はじめの町を出てから仲間を3人引き入れて、もちろん戦士と魔法使いと僧侶だが、順風満帆に、時には苦難あった。
とてもあの頃は楽しかった。村を困らせる魔物を倒しては村の人々が喜び宴をし、朝まで踊り明かした。
そう、たった1度の過ちを犯すまでは……。
「おい! 勇者! 町を荒らしに魔物たちが来てるんだ! 何とかしてくれよ!」
「うぅぅぅるせぇ!! ベイビーが起きちまっただろうがよ!!」
扉の外で飛び交う怒号。オレの耳元でつんざくマイベイビーの泣き声。それに伴ってオレを殺さんとばかりに気迫を込めた視線を魔法使いが送ってくる。
そう。わたくし勇者は絶賛子育て中なのです。
魔物の群れは手に入れていた伝説の剣で瞬殺しといた。あんな奴らに尺など取らせられない。それに、早く帰らなければ魔法使いが無茶苦茶に怒る。怒ると怖いんだ。殺して生き返してを気が済むまでやってくる。あいつ、昔転職の神殿で何かと便利だから僧侶を体得して貰ったのが仇となった。
「ただいま!」
魔法使いはどうやらご飯を作ってくれてるみたいだった。鍋で何かを煮込んでいるようだ。久しぶりに家事をしなくて済むと思うと嬉しさのあまり涙が出た。
「ちょっと、ベイビーのパンツ」
「あ、はいはい」
最近、思うんだ。ベイビーのうんちの匂いって腐ってるのに襲ってくる奴らよりも臭いんじゃないかって。最近出会うこともないから比較できなんだけど。
「終わった?」
「あ、はい」
「じゃぁ、ベイビーにミルク飲ませてるから、終わるまでに私たちのご飯作っといてね」
とりあえず、伝説の剣は押し入れにしまった。