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8話 姫

「姫様。 字名朧ただいま戻りました」

「うむ。 よくぞ無事戻った」


時は、 あれから半刻。

朧と輝夜は、 朧が出立する際非常に名残惜しそうにする女将と別れを告げ、 川城にいた。

そして今まさに朧と輝夜はかねてからの目的であった川城の土地を収める領主である川城乙女と謁見している真っ最中であった。

川城乙女。 年は十四。 子供特有の幼さは未だ見受けられるものの成長すれば彼女が、 美人になることは間違いないと言われているほどの美貌を持つ少女である。

特に彼女の髪は、 日本人らしからぬ()()の髪色をしており日に当たると彼女の髪は眩く輝くといった特徴を持っていた。

また瞳の色も異なっており、 彼女の瞳は、 血の様な赤であった。

彼女が何故他の物とここまで異なっているのかは当然理由がある。

彼女は竜の巫女と呼ばれる存在であり、 竜の巫女たちは、 皆竜に仕えており、 その恩恵として竜は、 彼女たちに未来が見えるといった能力を与えるのだ。

だが本来人間にそのような力など身に余る力である。

その為彼女は他の者達とは大きく違った特徴が色濃く出ていたのであった。


「してそちらにいるのは何者だ?」

「はい。 こちら名を字名輝夜と言い、 自分の忍でございます」

「ふむ。 忍に忍が使えるとはまた面妖な組み合わせだな」

「仰る通りでございます。 自分とて最初は、 認めれはいなかったのですが、 やんごとなき事情の結果今は、 このような関係になっております」

「そうなのか。 まあ主がよいのなら余は別に構わぬ。 輝夜とやらの扱いもお主に全て一任する」

「ありがとうございます。 この御恩いつか必ずお返しします」

「別に気にせんでもよい。 それにおぬしにはいつも助けられておるからな。 この程度の事造作もない。 して輝夜とやら。 もしよかったらなのだが余におぬしの事を教えてはもらえぬだろうか?」

「かしこまりました。 輝夜」


朧が隣にいる輝夜に自身の事を紹介するよう促す。

輝夜は、 そんな朧に無言で頷き返すと自身の事を語りだした。


「名を字名輝夜。 得意な獲物は、 鉄扇でございます」


輝夜は基本どのような忍具でも扱える。

ただその中でもひときわ得意な物を挙げるとすれば鉄扇であった。

彼女の鉄扇の裁きは彼女の美しさも相まってとても美しく、 それは一種の美の形であると言っても過言ではなかった。

事実朧ですら彼女の鉄扇さばきには、 見惚れるほどであった。


「ふむ。 なるほど。 してお主と朧の関係は?」

「ハッ。 私と朧は、 里で実の兄妹の様に育てられたいわば幼馴染の様なものでございます」

「幼馴染とな。 それはまた羨ましいな。 余もそのような存在一人は、 欲しかったのだが生憎皆幼いころに戦に巻き込まれて死んでしまってな」


そういう奏の眼はどこか遠いところを見つめていた。

それは偏に彼女が昔の事を思い出し、 そして懐かしんでたからに他ならなかった。

そもそも輝夜は、 女性でありながら川内を収めているのは彼女の身内が皆戦や病などで死に絶え、 生き残ったのが彼女一人であったからであった。


「随分思い話になってしまったな」

「胸中……お察しいたします」

「ふむ。 朧よ」

「はい。 なんでございましょう姫様」

「余は輝夜の事を気にいったぞ。 うむ。 こやつは真よい女子だ」


乙女のその言葉彼女の本音であり、 事実彼女が輝夜の事を非常に気にいっていた。

彼女が輝夜の事を気にいった理由……それは彼女が忍としての立場をきちんとわきまえており、 主ではない自分にもきちんと礼節を尽くしてくれていたからであろう。

ただ輝夜としては、 初めから乙女に忠誠を誓う気などさらさらなく、 あくまで自身の主である朧が忠誠を誓っている相手である為、 そんな朧のメンツをつぶさない為にもこうして下手に出ているのに他ならなかった。


「して朧よそこでお主に聞きたいのだが、 お主は輝夜の事を一体どう思っているのだ?」

「どう……とは……?」

「どうも何もそんなの決まっておるだろう。 お主は輝夜の事を()()としてどう思っているか余は、 知りたいのだ」


乙女の有無を言わせぬ目が朧を捉える。

その彼女の眼は、 まさに獲物を逃がさない蛇。

竜の巫女である彼女が蛇というのは皮肉な話だが事実彼女の今の目は、 にらまれれば誰であろうと体を硬直されてしまうそんな恐怖を感じさせるようなものであり、 事実朧も少しひるんでいた。

一方そんな二人とは対照的にこの時輝夜の胸中では、 様々な感情が目まぐるしく行き交っていた。

それは偏に奏が彼女が今まで彼女が朧に対して聞きたかった事を言ってくれたからに他ならなかった。

朧とて自身の忠誠を誓った主からのお願いだ。 ここで嘘をつくわけがない。

もしここで朧が自身の事を好きだと言ってくれるならば輝夜は、 今ここで死んでもよかった。

けれどそれと同時に輝夜はそれとは逆……自分の事を嫌いだと言われたらどうしようと激しく焦っていた。

だからこそ彼女の胸中は、 様々な感情が目まぐるしく行きかっていたのであった。


「して朧答えはいかに?」

「そうですね。 自分にとって輝夜は……」


輝夜の心臓が激しく波打つ。

-好きと言って欲しいとは、 望みません。 ですが嫌いとだけは言わないでください……‼ お願いします……‼

彼女が、 自身の願いを悟られぬよう顔色を一切変えず胸の中で必死に彼に祈る。

そしてついに審判の時がやってくる。


「自分にとって輝夜は……とても魅力的な女性だとは思っております」

「ほう……」


-よ、 よかった……嫌いと言われなかった……それに私の事魅力的って言ってくれた……‼ ああ、 この気持ちなんと表現すればよいのでしょう……

輝夜は安堵と緊張からの解放そして朧に褒められた喜びによってからかついため息を漏らしそうになるがそのような事をすれば自身に目線が注目するのは必然。

それは輝夜の望むところではない。

その為彼女は、 自身のため息をを必死で抑え込む。

-あ、 危なかった……もう‼ これも全部兄様が悪いんです‼ 後で絶対文句言ってやるんですから‼

ただそんな彼女の気持ちに次の瞬間絶対的な変化が生じる。


「ですがそれはあくまで彼女の兄としてであり、 彼女に対して恋愛感情があるかないかと問われれば間違いなく()()と言えます」


その言葉を聞いた瞬間輝夜の思考と呼ばれるがすべてものが吹き飛んだ。

-え……今兄様はなんて……私の事恋愛対象としては……え……?

輝夜は冷静に自分の脳裏を整理しようとするが全く纏まらなかった。

そんな彼女の胸中を表すならばまさに無。

何も生まない無の境地に彼女は陥っていた。

そんな彼女とは対照的に、 奏は未だ朧の言葉を信じられないのか疑いの眼差しを彼に向けていた。


「ほう……それは真か? もし余に嘘をつこうものならばその時は例えお主とて許しはせぬぞ?」

「無論嘘ではございません。 もし嘘だった場合この場で腹を切りましょう」


朧のその覚悟ともとれる言葉に乙女は、 朧の言葉が真であると悟る。

するとどうだろう。 彼女の中で何らかの決着がついたのか彼女は何度も満足げに頷くと語りだした。


「ふむ。 そうか。 そうか。 ならばよい。 うむ。 朧はやはり朧じゃな」

「は……? それは一体どういう意味でしょうか……?」

「なんでもない」


そういう彼女の機嫌は今まさに絶望の境地にいる輝夜とは対照的にとても明るい物であった。

彼女の髪が金色なのもあり、 その嬉しさはより一層顕著に見えた。

-なぜ我が主はここまで喜んでおられるのであろう……? そして輝夜は何故あのような絶望に浸りきったような顔を……?

自分のせいで引き起こしたとは、 露とも思っていない朧は、 内心このことに疑問に思っていた。

けれどその様な事をこの場で口にするほど朧は、 自身の身分をわかっていないわけではなかった。

 だからこそ朧は、 この問題については考えないことが最善であると結論づけ、 事実思考の片隅へと葬り去っていた。


「余からの用は以上だ。 二人とももう下がってよいぞ」

「御意」

「御意……」


朧は、 奏に今一度深く頭を下げると輝夜を伴ってその場を去った。

ただ輝夜の様子は明らかに異常であり、 事実部屋から出る際朧が彼女の手をこっそり握り、 転倒しないようにしなければ彼女は間違いなく粗相をしでかしていた。

牡丹が何物だったのかは後々わかるのであしからず。

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