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5話 風呂

ポイントが自分の予想より遥かに伸びていて、嬉しさのあまり脳が震えております。そしてブクマ、ポイント評価してくださった読者の皆様本当にありがとうございます。

「ぬぅ……これは……」


朧は、 動揺を隠せなかった。

何せ目の前の風呂場に()()という言葉が書かれていたのだ。

正直朧は別に混浴でも構わなかった。

何せ既に多くの女の裸を見てきているのだ。 そしてその逆もまた然り。

今更自分の裸を異性に見られようとも彼は、 何も感じないのである。

にも関わらず彼が動揺したのは、 輝夜のことだ。

輝夜の性別は女性。 女性たるもの当然自身の裸を見知らぬものに見られるのを当然恥じる。

だからこそ彼は、 彼女もまた混浴を嫌がるのではないのではないかと思ったのだ。

ただそんな彼の心配は、 杞憂に終わる。


「何ぼさっとしているのですか? 早く行きましょう兄様」


そう。 輝夜は全く気にしていなかったのだ。

それどころか一刻も早く入ろうと彼を急かす始末である。

ーむぅ……輝夜がいいというならいい……か

当の本人が気にしていないのだから文句を言っても仕方がないと朧は、 納得する。

ただ彼女の裸を他の男性陣に目を入れるなどすれば自分の命が、 彼の祖父に刈り取られかねない為、 当然その変の事は、 どうにかするつもりである。


「ふんふんふ~ん」


朧の後ろで輝夜の衣服がすれる音がシュルシュルと聞こえてくる。

-鼻歌まで歌って……余程お風呂に入れるのが嬉しいのだな……

朧とて日本人。 当然風呂は好きである。

けれどそれはあくまで人並みであり、 輝夜程熱烈な物ではなかった。

また今は、 どうやって輝夜の裸を他の面々から隠すかで頭を悩ませていた。

そして今どの程度人がいるのか確認する為にも朧は、 輝夜よりも先に浴場へとは入らなければならなかった。


「輝夜。 自分はもう脱ぎ終えたので先に入っています」

「分かりました‼」


輝夜に背を向け、 脱衣所を出て、 浴場へと向かう朧。

ただそこで彼はある種の驚きを迎える。


「むぅ……? 誰一人おらぬではないか」


そう。 浴場には誰一人として人がいなかったのだ。

-これは一体どういうことなのだ……?

朧が疑問に思うのも当然である。

何せ宿屋は、 今現在満室なのだ。

満室ということは、 多くの人がこの宿に宿泊しているということである。

にも関わらずこの場には、 自分以外の人間はいなかったのだ。

それはどう考えても不自然である。


「むぅ……」

「どうかなされたのですか兄様」


唐突に朧の後ろから声がかけられる。

するとそこには、 一糸まとわぬ輝夜の姿があった。

輝夜は、 女性であるにも関わらず自身の胸をタオルで隠すと言った事を一切していなかった。

その為彼女の形のよく大きな胸も肉付きのよいお尻もそんな彼女の全てが丸見えであった。

髪もまた湯につかぬよう上の方でまとめられており、 そのせいで彼女のうなじがよく見え、 それが人によっては魅力的に見えた。


「……」

「兄様?」

「随分成長したな……」


輝夜の裸を見て朧がまず第一に抱いた感想はそれであった。

-人間の成長などあっという間だな……事実あれほど小さかった輝夜が今はこうも大きくなって……

朧がこう思った理由はひとつ。 朧は今の輝夜と昔の輝夜の裸でどの部分が成長しているか比べていたのだ。

朧と輝夜は、 昔からの幼馴染である。

その都合上風呂場を共にしたことは幾度となくあった。

その為朧は、 彼女の裸を見慣れていたのである。

ただそれはあくまで彼女が子供時代の事であり、 成長し、 大人になった輝夜の裸を見て朧は、 感慨にふけっていたのだ。 そしてそんな彼女の事を見る朧に、 性的な欲情は一切なかった。


「そ、 そうまじまじと見られると流石に恥ずかしいです……///」

「す、 すまない……」


微妙な空気がその場を漂う。

ー兄様が私の裸を見て成長したっていってくれた……‼

ただこの時輝夜は、 朧の言葉が嬉しく喜びに打ち震えていた。

今まで忍の訓練の時に邪魔だと疎ましく思っていた自身の大きな胸や尻も今では、 むしろ大きくてよかったとでさえ思っていた。

-もっと見て欲しい、 もっと褒めて欲しい、 そして可能ならばその先に……

そんな思考が彼女の脳裏を占めていく。

ただそんな輝夜の思考は、 朧の裸を見た瞬間あっという間にかき消された。


「あ、 兄様その傷の数々は……」

「これ……か……」


そう。 朧の体には、 彼の子供時代に見られなかった無数の傷があったのだ。

その傷の種類は実に様々。 やけどの跡もあれば刺し傷の後もあり、 皮膚が一部醜くただれている部分もあった。

 そんな傷の中で最も目を引くのは、 彼の背中にある大きな切り傷であった。

おそらく刀で深く斬られたためできたものであることは推測できるが、 それでもその傷の痛々しさは、 忍である彼女でさえ目を覆いたくなるほど痛ましく、 悲惨な物であった。


「ふむ……この際丁度いいかもしれませんね」

「丁度……いい?」

「話は、 ひとまず風呂の中に入ってからにしましょう」


朧の手が輝夜へと差し出される。

輝夜はそんな彼の手を躊躇いなく取るととそのまま二人は湯船へと浸かっていく。

-ふぅ……これはよいものだ……まるで体中の疲れがすべて抜けていくようだ……

そう思ったのは当然朧だけではない。

輝夜とて当然これまでの旅路でかなり疲弊していた。

その為彼女もまた朧と同様の感覚に陥っていたが、 彼女にとってはそれよりも朧の先ほどの発言の方が気がかりであった。


「それで兄様話とは……?」

「輝夜は……その……忍を止めたいと思ったことはありますか……?」

「はい……?」


輝夜は、 朧が質問の意味がよくわからず、 つい首を傾げてしまう。

そんな輝夜の様子が朧には、 おかしくつい笑みを零していた。

ただその笑みは、 これから彼女に伝えるべき内容からすれば相応しくないと朧は、 すぐさまいつもの仏頂面へと戻す。



「いいですか輝夜。 忍の世界は貴方が思っているより優しくはない」

「そんなの当然知っております‼ おじい様からもよく……」

「まあ聞いてください」

「むぅ……」

「輝夜。 貴方は自分の眼から見てもとてもお美しい女性だ」

「そ、 そうですか……///」


朧からの素直な賛辞に輝夜は顔を朱に染める。

朧の今の言葉は無論嘘ではない。

むしろ彼女の事を幼少期から見守ってきた彼だからこそ彼女の美しさは、 他の者達の誰よりも認めていた。

だがそんな彼女の美しさが彼は心配なのだ。


「ですがそんな美しいあなただからこそ貴方は、 多くの男を虜にします。 そして貴方の虜となった者達は、 皆あなたを手に入れようと躍起になるでしょう」

「あの……兄様は何が言いたいのですか?」

「結論を言うならば貴方は、 他の忍に狙われる可能性がある。 しかもその目的は、 自身の欲望の捌け口としての為に……」


そういう朧の顔は悲痛そのものであった。

朧は今まで主からの任務を遂行する中で、 相手方に捕らえられたくノ一たちの末路を多く見てきた。

そしてそんなくノ一たちの末路は、 どれも悲惨なものであった。

そんな中彼が最もおぞましいと思ったのは、 くノ一の理性を薬漬けにし無理やり奪い、 男衆の欲望の捌け口として性処理道具の様に扱われ、 その結果耐え切れず自我が完全に崩壊した物であった。

それを見た時朧は、 堪らず吐き気を覚えた。

-これが……こんなおぞましい事を同じ人間のやれるのか……‼

この時朧は人間の醜さを知った。

それと共にこのような惨状を生んだものを彼は、 許せなかった。

朧は、 別に正義感がそんなに強いほどではない。

卑怯な手だって当然使うし、 騙し打ちも手段の一つだと思っている。

そのような非情さを備えた人間である朧ですらその惨状には、 耐えられなかったのだ。

だからこそ朧は、 輝夜のその美しさを恐れた。

彼女は確かに強い。 けれどその強さは絶対のものではない。

もし彼女が何らかの要因で敗れ、 彼が前見た女性の様な事をされてしまうのではないかという不安が彼にはあるのだ。

そんな朧の気持ちを輝夜は、 鋭く察していた。


「大丈夫ですよ兄様」


輝夜はそう言うと朧の事を強く、 強く抱きしめていた。

それは偏に朧を安心させるため。

事実朧は、 彼女の抱擁をこの時ばかりは拒まなかった。

むしろそんな彼女の事を強く抱きしめ返していた。


「私はこう見えてもとっても強いんです。 だから誰にも負けません」

「だがそれも絶対ではありませぬ。 絶対的な強さなどありはしないのですから……」


これは朧が里を出て得た絶対的な教訓であった。

物事に置いて絶対はない。 どんなに強気物でもいずれは負ける時が必ず来るのである。

だがそれでも輝夜は引かない。


「そうですね。 でもその時兄様がいます。 兄様は私が窮地に陥った時必ず助けてくれるのでしょう?」


輝夜は朧の事を誰よりも信頼していた。

だからこそ彼女は、 自分が窮地に陥他さい絶対朧が助けてくれると信じ、 疑っていなかった。

そんな彼女の真直ぐな目を朧は、 耐えられず、 つい目を逸らしてしまう。

-何故輝夜はここまで自分の事を信用できる……自分はそんな大層な人間ではないのに……

そうは思いつつも朧は、 必死に輝夜の信頼に報いるべく必死に言葉を紡ぎだす。


「……絶対とは言えません。 私の命はあくまで我が主の物だからこそ自分は……」

「兄様の理屈が通るなら私の命は兄様の物です。 もし兄様が私の事を不要と捨てるならそれでも私は構いません。 ですが私は信じております。 兄様がそのような事をしない者であると……」

「自分の事かい被りすぎではありませんか……? 自分は貴方の……」

「兄様」


輝夜の水晶の様に綺麗な瞳が朧の瞳を射貫く様に見つめる。

その眼からは逸らすことを許さないと言った絶対的な意志が感じ取れ、 朧の眼は彼女にくぎ付けにされていた。


「兄様はもう少し自分に自信を持つべきです」

「自信……」

「はい。 兄様は、 私の自慢の兄様なんです。 ですからもう少し何事にも自信を持ってください。 それから自身の体の事についてもう少し気を付けてください」

「……御意」

「よろしいです。 それと兄様」

「なんですか……?」

「私は、 忍を止める気はありませんよ。 だって忍を止めてしまったら兄様ともう会えなくなってしまうではありませんか……///」


輝夜は、 照れながらも自身の思いの丈を彼にぶつけた。

そしてそんな彼女の思いは、 朧にもきちんと伝わっていた。

-全く……輝夜には昔から叶わないな……

そう思う彼の口調、 表情は、紛れもなく昔輝夜の前で見せていた優しいころの朧に他ならなかった。

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