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18話 決着

「鬼ごっこはもう終わりですか……?」

「ああ……」


朧が森の中を逃げて咲夜をおびき出した場所……それは、 彼が咲夜と初めて出会った場所であった。


「咲夜ここがどこか覚えているか?」

「そんなの当たり前です。 ここは私と朧様が初めて出会った場所ですよね?」

「そうだ。 そしてここが僕と君の終わりの地でもある」

「終わりの地?」

「そうだ。 貴方のやったことは決して許されることじゃない。 僕が許さない」

「それはまた随分朧様はお怒りのようですね」

「当たり前だ。 あの人は曲がりなりにも僕の親だ。 親を殺されて悲しまない者がどこにいる」

「そうですか? 私は少なくともあんな人たちが死んだところでなんとも思いませんよ?」

「咲夜……」

「それに私からすれば朧様が怒る理由の方がわかりません」

「何?」

「だって朧様は前々から自身の両親を憎んでいたではありませんか」

「それとこれとは話が違う。 それにいくら憎んでいるからってあの人はあそこまで惨たらしく死ぬほど酷いことは……」

「しました。 少なくとも私の大事な朧様を傷つけ、 絶望を与えたことは万死に値します」

「そんな理由で貴方はあの人をあんな惨たらしく殺したというのか‼」

「そうです」


咲夜の言葉に偽りはない。 咲夜は、 彼の両親が許せなかった。

それは偏に彼らがいるせいで朧はいつまでも苦しみ続ける。

それから一刻も早く彼を解放してやりたかったのだ。

彼女は、 朧の事を誰よりも近くで見ていた。

そんな彼女だからこそ朧の苦悩は誰よりもわかる。 それは鬼の力に呑まれた今でも変わらない。

確かに彼女は朧に絶望を与える為に彼の両親を殺した。

けれどその思いは鬼の力によって捻じ曲げられたものであり、 根底にあったのは、 苦しんでいる朧を救ってやりたいという気持ちからきたものであった。


「それと朧様の妹と弟……彼らも同罪です。 かれらは朧様が悲惨な状況に陥ているのにも関わらず、 何もしなかった。 それが私は許せない」

「だから貴方は殺そうとしたのか……? 僕の妹と弟を……?」

「はい。 まああと一歩のところでおじい様に邪魔をされてしまいましたが……」

「もういい。 もう沢山だ……」

「朧様……?」


朧の闘志と怒りと失望に染まった瞳が咲夜を真直ぐに射貫く。


「どうやら貴方をこのまま野放しにすればいずれ他の誰かが傷つくようだ。 だからこそ貴方は今ここで()()

「……」


最愛の者からの自身の否定の言葉。 この時咲夜は何も言い返さなかった。

この時咲夜が自身の最愛の者からの否定の言葉を聞き、 彼女が何を思ったのかは当の本人にしかわからない。

けれどこの時の彼女の表情は、 何故か笑顔であった。 しかもとびきりのである。

そんな彼女に朧は、 眉を顰める。


「何を笑っている」

「なんでもありません。 では始めましょうか朧様」


咲夜が刀を引き抜き、 朧にその刃を向ける。

朧もまた彼女に自身の刃を向ける。

今この場において二人の間にある感情は、 ただ相手を殺すといった感情のみ。

それ以外の感情は、 この場にはなく、 かつて本気で愛した者を互いが互いに本気で殺そうとしていた。

初めに仕掛けたのは、 意外なことに咲夜であった。 咲夜はどちらかと言えば相手からも攻撃を受け流し、 反撃するのが得意なのである。 にもかかわらずこの場では、 咲夜が初めに動いた。

しかも咲夜の攻撃は、 空中からの上段攻撃。

忍同士の戦いにおいて空中からの攻撃は、 太刀筋も読みやすく、 自身の体を無防備にもしてしまうまさに悪手も悪手と言ったものであり、 ごく一部の特殊な状況を除いてその様な攻撃は、 してはいけないものであった。

朧もその事を咲夜から教わっていた。

にも関わらず咲夜は、 それを実践した。

朧は、 この事に対して少なからず憤りを覚える。


「頭上からの攻撃とは馬鹿にしているのか?」


今だ自身の胸中を怒りに捕らわれていることによって口調の荒々しさが目立つものの朧は、 冷静であった。

朧は、 咲夜の頭上からの攻撃を刀を用いて受け流す。


「ふん……‼」


朧は、 自身の刀を翻すと刀の柄の部分で彼女の腹を強く殴った。

ただその動きは咲夜にも読めていたのか咲夜は自身の腹部に朧の刀の柄がぶつかる前に手で受け止めていた。

自身の攻撃を受け止められた朧は、 全く同様することなく、 刀を手放し今度は体術へと切り替える。

彼は咲夜との修行に置いて、 一通りの体術は取得していた。

しかもその腕は、 咲夜にも勝るとも劣らないものにまで成長しており、 朧はそんな自身の体術に自身を持っていた。

そんな朧の裏拳が彼女の顔にめり込む。

朧の放った裏拳のタイミングは、 咲夜ですら反応が間に合わないほどに早く、 適切だったのだ。

ミシミシと彼女の骨の軋む音が鳴り響く。

それでも彼は止まらない。

裏拳から彼は、 さらに手の腹の部分を用いて使う武術である派生させるとそのまま彼女の全身に叩き込む。


「うく……」


 流石の咲夜も効いたのか足元がふらついていた。

之を好機と言わんと朧は、 先程の攻撃の際彼女にとられた自身の愛刀である焔を取り返すと彼女の首筋目掛け刀を振り下ろす。

ー貰った……‼

朧はこの瞬間自身の勝利を確信していた。

けれど次の瞬間朧は全身を切り刻まれていた。


「な……かはっ……‼」

「ダメですよ。 私がこの程度でやられると思ったら……」


実は先ほど咲夜の足元がふらついていたのは唯の彼女の演技。

 実のところ彼女はまるでダメージを受けおらず、 朧が自身に攻撃をし、 その瞬間に生まれる隙を狙っていたのだ。

朧はそうと知らず彼女の策にはまり、 彼女オリジナルの居合切りの技の一種である陽炎を喰らってしまったのだ。

陽炎は、 高速で複数の斬撃を拘束で繰り出す技であり、 その斬撃はまさしく炎天下に発生する陽炎の如く一撃一撃がかすんで見える為彼女はそう名付けていた。


「ぐぅ……ゲホゲホ……‼」


朧の口から夥しい量の血が吐血される。

-ぬかった……

咲夜攻撃の攻撃は全くの不意打ち。 それに朧は全く反応できず、 回避行動をとることができなかったのだ。

今の彼の体は彼女の斬撃によって全身血まみれであり、 ぽたぽたと彼の体を血が這っていた。

朧の惨状は、 それだけでなく、 朧の右目は斬られた際に生じた血が目に入ったことにより、 視界を完全に奪われていた。


「僕は……僕はお前を……ころ……」

「まだ諦めないですね……」


-な……や、 止めろ……‼ そんな……そんな目で僕を見るな……‼ 見ないでくれぇ……‼

朧は今の咲夜の眼を見て動揺してしまった。

何せ今の咲夜の眼からは、 朧への殺意が全く見て取れなかったのだ。

それどころか慈愛すら感じさせるものであり、 彼女が未だ朧の事を深く愛していることが朧には嫌という程わかてしまったのだ。

ー僕は……僕はぁ……‼

もう朧には、 刀を握ることはできなかった。 心が完全に折れてしまったのだ。

それは自分の愛する者へと刃を向けてしまったことへの後悔なのか自身の父親の仇をとれない無念なのかそれは朧以外わからない。

けれどただ一言言えるのは今朧は、 咲夜に負けたということ。

そしてそんな彼に終わりを告げるかの様に、 咲夜の刃が朧の胸を深々と貫いた。


「ぐぅ……咲……夜……」


その言葉を最後に朧は地面へと倒れ伏し、 それ以降彼が動くことはなかった。

咲夜は自身の手には未だ朧をつき刺した際の生生しい嫌な感触が残っており、 彼女は自身の手を忌々しげに一瞥すると刀についた血を振り払い、 そのまま納刀した。


「さようなら朧様……そしてまた……」


彼女は朧の額に口づけをすると名残惜しそうな眼をしながらもその場を去った。

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