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15話 鬼

「最近咲夜の様子がおかしい……」


朧がこう思い始めたのは、 朧が咲夜に襲われてからおおよそ三年後の事であった。

この頃朧と咲夜は既に恋人関係になっており、 既に互いを相手に男女の営みも経験していた。

閑話休題。 事の発端は、 朧が里の女子と会話している時であり、 端的に行ってしまうならばその時の咲夜の様子が明らかに異常であったのだ。

朧は顔は、 そこまで悪くもない。 むしろ里の中でもかなり上位の部類に入る方である。

にも関わらず彼は今の今まで里の女性たちからモテることはなかった。

それは偏に昔の彼は圧倒的に実力不足であり、 そんな相手に女性陣は、 興味を持たなかったのである。

だがしかしその問題は朧が咲夜と鍛錬し始めた事により大きく変わり、 今の朧は里の中でも上位の腕を持つ熟達の忍となっていた。

そんな相手を里の女性たちが放っておく事は無く、 朧はこの頃よく女性たちから誘惑を受けていた。

ただ当の朧からすれば普段から咲夜と行動を共にしている為、 彼女たちのそんな頑張りもむなしく里の女性陣達に対して何も感じていなかった。

そして肝心なのはここからである。 朧が咲夜の事をおかしいと思った理由……それは、 彼女の里の女子たちを見る目にある。

端的に行ってしまうならば咲夜の里の女性陣を見る目は、 明らかに普通の物ではなく、 まるで彼女たちの存在を憎悪しているかの様に朧には見えたのだ。

無論朧も初めこそ咲夜が自分をとられまいと嫉妬しているのではないかと考えた。

けれど彼女の眼は嫉妬と呼ぶには、 あまりにも可愛らしく、 異常だったのだ。

だからこそ朧はこの事態をかなり重く捉え、 一影に相談をするかしまいか悩んでいた。

一影は里の中で最年長ということもあり、 今の咲夜の異常な様子についても何か知っているのではないかと朧は考えたのだ。


「どうかしましたか朧様?」

「なんでもない」

「そう……ですか……?」


-今の咲夜の様子は明らかに普通……だとすると彼女の暴走のトリガーは、 やはり女性関連……

朧のこの思考は当然咲夜にも筒抜けのはずなのだが、 当の咲夜は何の行動を示すこともなく、 ただ朧の傍らで笑顔を保っていた。

咲夜の笑顔を見るのが朧は、 昔から好きだった。

咲夜の笑顔は、 まさに彼にとっての光。 どんなに傷ついた時でも彼女の笑顔を見れば朧はどのような障害も乗り越えられるとさえ思っていた。

けれどその笑顔は、 今の彼にはどこか不気味に思え、 薄ら寒さすら感じていた。

-やはり一度相談したほうがいい。 一人で抱え込んでも碌なことはない

朧の中で一影に相談する決心がつく。

だがその瞬間朧の腕は、 咲夜の腕に抱き着かれ、逃げられなくなってしまう。


「ふふふ……逃がしませんよ……?」

「ぼ、 僕は別に逃げないよ。 だからこの腕を離して……」

「ダメです」


咲夜は相も変わらず笑顔であった。

けれど朧は見た。

彼女の瞳の奥底にいる恐ろしい生き物……まさに()と呼ぶに相応しい存在を……

ーな、なんだあれは……‼ なんだというのだ……‼

朧の顔からは脂汗が噴出し、 呼吸も乱れる。

そんな朧の異常な様子に咲夜は、 朧を掴む腕を離し、 懐から汗をぬぐうために手ぬぐいを取り出そうとする。

 そんな咲夜の様子は明らかに朧の体調を気づかっており、 本気で彼の身を案じていた。

ーすまない咲夜……

朧は内心咲夜に謝りながらも一切足元を一切緩めず、一影の元へと駆けた。

朧とて咲夜が自身の身を本気で案じてくれていることは、 理解している。

それでも彼はこの場からの離脱を選んだ。

それは偏にこの場で彼女から距離を置かなければ自身が一生彼女から逃げられなくなるそんな予感があったのだ。


「朧様……!?」


咲夜もまさか朧がこのような手で自身から逃げ出すとは、 思いもしなかったのかこの時ばかりは、 口を大きく開け、 呆けてしまっていた。

ーすまない……本当にすまない……この詫びはいつか必ずするからだから今は許してくれ……‼

朧は内心何度も輝夜に謝っていた。

それでも彼は足を止めない。 止めるわけにはいなかったのだ。



「頭領……‼」

「なんだ騒々しい」


朧が一影の元へたどり着いたのは、 朧が咲夜から逃げ出しておおよそ十分ほどの事であった。


「兄様?」

「輝夜……」


一影のへやには一影だけでなく、 輝夜がいた。

この頃の輝夜は既に九歳になっており、 彼女の美貌もまた伸び始めていた。

その為彼女は外に出るといつも同い年の男たちに囲まれ、 それがいやでこの頃の輝夜はよく一影の部屋に避難しに来ていたのだ。

朧は本当ならば輝夜の前で咲夜の話をしたくはなかった。

それは偏に彼女が子供であり、 この件にあまり巻き込みたくなかったのだ。

けれど事態は一刻を争う。 その為彼は渋々でありながら事の次第を輝夜のいる前で語りだした。


「頭領咲夜の事について話があります」

「なんだと……?」


一影の纏う雰囲気が変わる。

そんな一影の雰囲気の変わりよう……そして朧の焦り具合にこの場で唯一状況がよくわかっていない輝夜は困惑と恐怖の表情を浮かべる。


「申してみよ」

「はい。 咲夜の事についてなのですが頭領は咲夜が、 私に対してどこか依存しているような気は見られるのは、 ご存じでしょうか?」

「無論だ。 何せ咲夜は……儂の孫だ。 孫の事は当然なんでも知っておる」


一影は別に咲夜の事を愛していないわけではない。

にもかかわらず彼が咲夜と会話しようとしないのは、 咲夜が一影に対して何の興味を持っていないからにあった。

一影は何故彼女が自身に興味を持ってくれないのかわからず長年考え続けたがそんな折朧が現れた。

朧は今まで自身が長年できなかった咲夜の心をあっさりと解放してしまったのだ。

その事に嫉妬しなかったかと言えば嘘になるがそれよりも彼は自身の孫娘を朧ならば幸せにしてくれるのではないかと思い彼に期待することにしたのだ。

そしてその期待は今も続いている。

そんな折酷く焦った様子の朧が現れた。 しかも議題は、 咲夜の事について。

この事実に一影は、 朧の相談内容を悟った。


「では彼女の最近里の女性たちを見る目あれは一体何なのですか‼ それに私は見ました‼」

「何をだ?」

「鬼です」

「鬼?」

「はい。 彼女の瞳の中には紛れもない鬼が住んでおります。 しかもとびきり危険なものが……」


朧はただ事実を淡々と述べる。

けれどそんな朧の表情は酷く苦し気であり、 深く悩んでいる様に一影には見えた。


「ふむ。 朧よ」

「はい」

「お前の言う鬼の存在……それは紛れもない事実だ」

「は? 今何とおっしゃいましたか?」

「事実と言ったのだ。 彼女の……咲夜の中には間違いなく鬼がおる」

「何を……言っておられるのですか‼ 咲夜は……彼女は間違いなく人間‼ 人間と鬼とは違います‼」

「ああ、 そうだ。 けれど人間と鬼との間でも子はなせる。 事実儂の祖先は、 鬼なのだから」

「な……!?」

「お前には語っておかねばならぬまいな鬼の特性についてを……」


鬼の特性は、 おおまかに三つに分けられる。

一つ。 鬼の血を引くものは普通の人間に比べ遥かに強大な筋力を誇る。

二つ鬼の頭脳は、 人間にくらべ遥かに優れている。

三つ鬼の中には特殊な能力を持つものがいる。

四つこれが一番重要な箇所であるのだが鬼は、 感情の制御があまり得意ではなく、 憎悪や怒りなどの強烈な感情に一度捕らわれると一生その感情に捕らわれ続ける。

朧はこの言葉を聞き驚愕した。

何せそのすべての特徴がすべて咲夜と一致しているのだ。


「その話は……事実なのですか……?」

「無論だ。 儂が最強の忍と呼ばれる所以も当然この特性のせいだ。 ただ咲夜の場合通常よりもその血が強くですぎた。 通常ならば出ないはずの四つ目のはずの特徴が出てしまったのだろう」

「通常は出ないということは頭領にはそのような事は無かったのですか?」

「そうだ。 之はあくまで儂の推測だがこの四つ目の特徴が出るのは、 鬼の血が人間の血を勝った場合のみだ」

 「つまり頭領はこう言いたいのですか。 咲夜は人間ではなく、 鬼であると……?」

「……そうだそして今の咲夜は紛れもない鬼。 こうなったら儂がケリをつけるしかあるまい……」


一影は、 刀をとると何も言わず部屋をそのまま後にした。


「兄様……?」

「僕は……僕はどうすればいいんだ……‼」


鬼という規格外の話を聞かされた朧の脳内は完全に混乱し、 自分が一体何をすればいいのか完全にわからなくなってしまっていた。

そんな朧の頭を輝夜は慰めるためか何度も何度も優しく撫で続けていた。

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