11話 運命
今日は、 いつもより少し早めの投稿DEATH‼︎
そして今回からしばらくの間過去編が続きます‼︎
時は十数年前に遡り、 輝夜がまだ生まれておらず、 朧が五歳の頃であった。
「ふぅ……今日はこんなものだろう……」
朧は里の者達に追いつくためにも今日も今日とて刀の訓練をしていた。
彼が何故ひたすらに刀の訓練をするのか……それは彼にはそれしかなかったからだ。
朧には、 おおよそ忍としての才能は全くなかった。
手裏剣も使えない、 鎌も使えない、 息をひそめることも周りの人間に比べ遥かにおとり、 そのようなものが当然忍としての必須である項目の自身の気配を消すことなど到底できなかった。
はじめも彼は、 自身の苦手を克服しよとそれらの事に必死に取り組んだ。
けれど彼は、 そのあたりの技能が一向に上達せず、 いつしか周りの人間とは大きな差が生まれ、 彼は里の落ちこぼれとして周りの人間や同学年の子供達から凄惨ないじめを受けていた。
そんな彼には当然親がいたが彼の親は、 朧と違い熟達の忍であり、 そのせいか彼らは自身の息子のあまりのふがいなさに呆れかえっており、 彼を守ろうなどとは露にも考えておらず、 彼の妹や弟ばかりにかまけていた。
その為彼は、いつも一人だった。
そして彼もまた誰かから愛されることを諦め、 ただ無心に刀を振るっていた。
それは偏にその方が嫌な現実から目を背けられ楽になれるからという彼の心の防衛本能に他ならなかった。
ただ彼の心はそうあっても彼の体はそうではない。
彼の手は、 多くの血豆が滲んでおり、 見ているだけで血の気が引いてしまうほどの有様であった。
そのような状態普通ならば誰かが彼の身を案じ、 彼に剣を握るのをやめさせるが生憎彼にはそのような存在がいない。
しかも彼は自身が傷つけば傷つくほど自身は、 強くなっているとそう言い聞かせ、 心の安定を図っていたのだ。
そんな悲惨な幼少期を過ごしていた朧は、 この日彼自身の運命を大きく変える少女と出会う。
「おや? 貴方は確か……」
「誰だ……‼」
朧の眼に警戒が走る。
それもそのはず朧が刀の訓練をしているのは、 山の奥地も奥地であり、 里の者でも普段なら絶対に行かない場所なのだ。
その様な場所に突如人の声……警戒しないほうがおかしいのである。
朧は、 この頃の愛刀である焔を構え、 周囲を警戒する。
すると彼の警戒とは裏腹に、 とても綺麗で美しい少女が何も警戒していない様子で彼の前に現れた。
そしてこの少女こそいずれ彼の恋人であり、 最愛の人となる字名咲夜その人であった。
「そう警戒しないでくださいよ朧様?」
「な、 何故僕の名前を……」
「ふふふ……それは私が心を読めるからですよ」
咲夜の美しい二色の眼が朧を捉える。
朧は、 そんな彼女の美しい瞳に完全に目を奪われ、 自身の体が吸い込まれるようなそんな不思議な感覚をこの時味わっていた。
ただ当の彼女は朧が今まさに自身に魅了されているとは、 露にも思っていない様子であり、 突如硬直した朧の事をただただ不思議そうに見つめていた。
「朧様大丈夫ですか?」
「ハッ……え、 あ、 なんでもない大丈夫だ‼」
「そうですか? それにしては随分呆けていらっしゃいましたが……」
「それは貴方の瞳があまりにも綺麗だったから……」
「ふふふ、 そうですか?」
「ああ。 貴方の瞳は、 本当に美しい。 その美しさを例えるなら……例えるなら……」
「例えるなら……なんですか?」
「ええと……」
-これは困った。 例えようにも例えられるものがない……それに彼女の容姿もまた美しい。 これもまた例えようにもないくらいに……むぅ……どうしたものか……
朧は、 内心この場面をどう切り抜けようが必死に悩むがそんな朧の心の声は全て咲夜には筒抜けてあった。
そうとは知らない朧は、 心の中で何度も咲夜の容姿を褒めたたたえる。
そんな朧の様子に咲夜の顔が次第に熱を帯びていく。
ーこ、 この感情は一体何なのでしょう……? もしや恋……? ですがこの程度の事でこの私が落ちるわけありません……‼ ええ。 ありませんとも……‼
咲夜は、 そう頑なに自身の気持ちを誤魔化そうとするがこの時既に咲夜は、 完全に朧に惚れかけていた。
咲夜が朧に完全に惚れこむのは、 これよりもう少し後の話なのではあるのだが、 この時の朧の言動が彼女が朧にゾッコンになる原因の多いな要因になることは間違いではなかった。
彼女は、 今まで他者から褒められることは唯の一度もなかった。
彼女は、 朧と違い他者からの愛に飢えてはいない。
けれどだからと言ってそれは、 他者に褒められたいという気持ちでは同義ではない。
そう。 つまるところ輝夜は、 一度でいいから誰かに褒められなかったのだ。
そして認められたかった。 自身は決して醜い存在ではないのだと……生きていてもいいのだと……
朧はそんな彼女の望みを無意識下の内でこなしてしまっていたのだ。
咲夜もその事がわかっているからこそ口には出さないがこの時内心では朧の事を天然ジゴロなど揶揄していた。
ただそれよりも彼女の心は、 朧の賛美に耐え切れなく、 嬉しさと羞恥の悲鳴を上げていた。
「もう……止めてくだしゃい……お願い……しましゅ……これ以上は……」
「むぅ……? 一体どうしたんですか? 僕何かしましたか?」
「さ、先ほども言ったでしょう‼ 私は人の心が読めると‼」
「あ、 あれは嘘ではなかったのですか?」
「当たり前です‼ どうして嘘をつく必要があるのですか‼」
「そ、 そうですか……そうなると……つまり……」
「ええ。 朧様の心の声。 全て私に筒抜けです……///」
「う、 うわぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」
後にも先にもこれが朧の最後の羞恥からくる叫びであった。
ー死にたい死にたい死にたい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい……
朧が羞恥に耐え切れず地面を激しく転げまわるが、 そんな朧の心の声も当然咲夜には当然筒抜けである。
ふふふ、 照れる朧様すごくかわいい……///
ただ当の彼女の反応は、 朧の想定した物とは大きく異なり、 とても好意的な物であった。
そしてそれと同時に彼女の胸中で初めて誰かの事を知りたいという探求心が生まれていた。
「朧様」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ‼」
「朧様‼」
咲夜の怒ったような声に朧はようやく正気を取り戻す。
ただ正気をとり戻した直後咲夜の顔を見たことにより、 再び彼は叫びを挙げそうになるが、 そんな彼の口に咲夜は容赦なく自身の手を突っ込む。
「にゃ……にゃにお……」
「朧様があまりにもうるさいからこうせざるを得なかったのです。 それに私だって本当は誰かの口に手を突っ込むなんて事したくありませんでした」
「みょ、 みょうしわけない。 もうだいじょうびゅでしゅので手を……」
「いえ、 ダメです。 このまま話を続けさせてもらいます」
「な、 なじぇ……?」
「何故ではありません。 それよりも朧様。 まずは朧様の年齢を教えてくれませんか。 ああ、 口で言わなくても大丈夫ですよ。 何せ私人の心が読めますから」
「む、 むぅ……」
そこから咲夜の朧への質問攻めが始まった。
彼女は朧に関するありとあらゆることが知りたかった。
身長、 年齢、 体重、 そして好みの女性のタイプ……そのような物は、 まだ序の口であり、 彼女は結局朧のありとあらゆる事について質問し、 そのすべてを記憶していた。
ただそれだけで終わる彼女ではない。
彼女は相手の事を知ったら今度は、 自身の事を知って欲しいと思ったのだ。
そこから彼女は、 未だ口を突っ込まれた朧にひたすら自身の事を語りだす。
その時間おおよそ二刻程。 朧はその間黙って彼女の話を聞き続けていた。
そうしなければ彼は、 自身の舌を抜くと彼女に脅されていたからだ。
「以上が私の事についての全てです」
咲夜はそう言うとようやく朧の口から自身の手を取り出す。
その手は、 当然朧の唾液まみれであり、 彼女はそんな自身の手をまじまじと見つめていた。
ただ朧はその様なことよりもようやく自身の口に広がる異物感から解放された事に安堵していた。
そんな朧に彼女は、 あることを冷静に告げる。
「今朧様に伝えたことは、 あくまで今の私の事です。 そして今の私は成長期当然一か月もすれば大きく体も変わります。 私としては当然朧様には、 私の全てを知って欲しいわけです。 ですので毎月一日には、 またこうして語り合う機会を設けましょう。 無論その時も朧様の口は、 今日の様に封じさせていただきますが」
「そ、 そんな僕は、 刀の訓練をしなければ……」
「無論その事については理解しております。 ですので私が朧様の訓練相手をしてあげます。 そしてあなたをこの世界で最強の忍にしてあげて差し上げます。 絶対にに」
「貴方が?」
「貴方ではなく咲夜とお呼びください。 それと敬語も止める事。 当然異論は認めません」
「わ、 分かったよ」
「よろしい。 それで先ほどの話ですが、 私の実力は先程の私の話を聞いていれば当然理解できていますよね?」
「あ、 ああ……」
「ならば問題ないです。 それではまた明日の朝この場所で会いましょう」
咲夜はそう言うと一瞬にして姿を消した。
ただ当の朧からすれば突如その様な事を言われ混乱するしかなく、 ただただその場に呆然と立ち尽くしていた。
物語の補足をまたまたまた一つ。
今回は、 朧の一人称についてです。
朧の幼少期の一人称は、 自分ではなく僕です。
彼の一人称が変わったのは、 彼の心境の変化が影響しているのですがはてさてこの先彼に一体どのような心境の変化があったのでしょうか?
過去編でそれについても明らかになりますのでご期待ください‼︎




