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10話 決心

輝夜が友景に強姦されかけてからおよそ一刻程。

朧と輝夜の両方は、 友景の部下たちを皆一様に斬り捨て、 今は川城乙女の前に姿を現していた。


「姫様。 字名朧ただいま参りました」

「同じく字名輝夜参りました」

「遅いぞ‼ 一体どこで油を売っておった‼」


乙女の機嫌は大層御立腹であった。

それもそのはず彼女は、 朧の事をずっと待っていたのだ。

それは偏に朧がいつもこのようなことがあった際真っ先に自身の元へと現れてくれるからに他ならず、 乙女はそんな朧の事を信用していたのだ。

にも関わらず今回は現れなかった。

その事に乙女は、 彼に何かあったのではないかと心の底から心配していたのだ。

にも関わらず蓋を開けてみれば朧の服は、 血こそ付着してはいるものの身体の方はほぼ無傷であった。

その事実に乙女は、 ひとまずは朧に危険が迫ったわけではないと安堵しつつも今度は、 何時もの様に現れなかった彼に対して怒りがわいてきたのだ。


「申し訳ございません。 このツケはいずれ必ずお返しいたします。 ですので何卒……何卒ご容赦を」

「私からもお願い申しあげます。 それに元はと言えば私の……」

「輝夜黙っていろ。 これはお前の主としての命令だ」


朧のいつもとは違う強い口調、 そして主からの命令という言葉に輝夜は黙らずを得ない。

けれど彼女の内心では当然不満が募る。

何せ朧が今回彼の主の前に現れられなかったのは、 全て自分のちっぽけな感情が原因なのだ。

その始末を全て朧に取らせるなど輝夜としては、 とてもじゃないが納得できない。

だがそんな彼女の不満を朧は、 主の命令という言葉で縛って見せた。

この采配は、 まさに名采配と言えた。

ただ輝夜としても当然朧が何らかの不利益を被った場合……特に乙女がもし朧に自害せよなど命じようものならば彼女は躊躇いなく、 乙女を切り捨てる自信があった。

今の彼女は、 それだけの覚悟があったのだ。

 事実彼女の手が腰にさしてある忍び刀へとゆっくり伸びていく。

そんな折乙女が口を開く。


「ああもう‼ めんどくさい‼」


それは普段の彼女の物とは大きく異なり、 かなり年相応の子供らしいものであった。

その事が輝夜を少なからず驚かせるが、 対する朧は全く驚いていなかった。

 それは偏に彼が彼女の素を知っているからに他ならなかった。


「今回の朧の失態は不問‼ それで終わり‼」


その言葉に朧は自身の胸をホッとなでおろし、 輝夜も腰の忍び刀から手を離した。

ーそれにしても姫様のこの変化は一体……

実は乙女のいつもの口調は彼女が川城の主らしくするためにはどうすればよいか朧に聞いたところ朧があのような口調をしたらどうかと提案した結果なったいわばつけ刃の様なものに他ならなかった。

本来の彼女の口調は、 もっと子供らしく、 性格もとてもわがままであった。


「ただし朧。 お前にはあとで私に少し付き合ってもらう‼ いいな‼」

「御意」


朧はそう言うが輝夜は、 違った。

ーあの姫様の眼……あれは明らかに色欲に狂ったの女の眼……

輝夜の言い方は少々問題はあるがあながちその指摘も間違いではなかった。

何せ乙女は、 本人では気づいてはいないこそ朧に対して淡い恋心を抱いているのだ。

乙女は、 朧の困った顔が好きだった。

彼は乙女のしたお願いを何でもこなそうとする。

そのお願いの中には、 当然多くの無理難題があり、 朧は時折その依頼を聞いた時困った顔をして見せたのだ。

けれどその様な顔はすれど朧は、 確実に彼女の願いをかなえてきたのだ。

そんな彼に乙女はいつしか目を奪われていた。

ただそれが恋だということは彼女は知らない。

そしてその恋が()()実らない物であるとも……


「して姫様。 此度の襲撃どちらのものからなのですか?」

「白馬だ」

「またあそこなのですか。 姫様」

「うむ。 そうだ。 そしてお主はこう言いたいのであろう? いい加減白馬の奴らにお灸をすえてやったらどうかと……」


そういう乙女の口調は、 何時もの凛々しい、 しっかり物の乙女へと戻っていた。

彼女の素が出るのは大抵彼女の心が激しく乱れた時であり、 そのほとんどの理由が朧に関することである。


「はい。 川城は正直なことを言ってしまえばこれ以上暮らしていく余裕があるません。 民草は飢え、 土地は荒廃し作物を育てることもできなくなってきております。 このままでは滅ぶのも必然かと」

「うむ。 そうだな。 だが余としてはやはり戦はあまり好かぬ」

「その姫様のお気持ちはわかっております。 ですがやはりこのままでは、 この川城は滅ぶしかありません。 同盟という手段もありますが今の川城とどこの国も結びたがるとは思いませぬ。 だからこそここは一度白馬を落とし、 我がものとして川城は強いと力を証明しなければならないかと」

「むぅ……」


乙女とて朧の言い分は、 正しく、 自身の考えが甘い物であるとは理解している。

けれど彼女はそれでもやはり戦を起こしたくはなかった。

それは偏に彼女の家族が戦によって命を散らされているからに他ならなかった。

戦は多くの物の命を奪う。 だからこそ彼女は自身と同じ境遇の物をこれ以上増やしたくはなかったのだ。

ー自身の理想をとるか……国をとるか……そんなの迷うこともなく決まっておる……

乙女の中で結論が導き出される。


「朧よ」

「はい」

「白馬を……白馬を落とすぞ。 戦の準備をせい」

「御意」


朧は輝夜に一度深く頭をたれる。

輝夜も彼女に忠誠こそ誓ってはいない、 彼女に対し深々と頭を下げる。

そして朧と共に行こうとするがそこを乙女が呼び止めた。


「姫様一体何の用でございましょうか?」

「輝夜よ」

「はい」

「朧のこと……よろしく頼むぞ。 あやつは、 ああ見えてかなり繊細な奴だ。 お前が支えとなってやれ」


輝夜とて鼻からそう言われずとも朧に自身の命を懸けて使えるつもりだ。

その為に彼女は、 彼を自身の主として指名したのだそんなの当然乙女に言われずとも十分理解している。

ただそのような事はどうでもよく、 輝夜は今しがた乙女が発した朧が繊細という言葉がどうしても気にいらなかった。


「姫様。 失礼ですが申し上げさせていただきます。 私の知る朧という男は決してその様な存在ではありません。 朧は私の知る限り誰よりも強い。 それは心もまた同じです」

「ふむふむ。 なるほど。 お主は朧をそうみるか……」

「はい」


この事に関しては輝夜は一歩も引く気はなかった。

何せ輝夜にとって事実朧はその様な男に移っていたのだ。

ただそんな輝夜とは違い、 乙女は朧の事を弱い男と見ていた。

それが彼女には我慢ならなかった。

そして自分の方が彼の事を知っていると驕ってさえもいた。


「ならば問うがお主は、 あやつが余の命であやつの恋人を()()と命令された事を当然知っておるよな?」

「はい」


里で一影から聞かされ、 輝夜が衝撃を受けたのはまさにこの事であった。

何せ朧のかつての恋人である咲夜は、 彼女の()()()なのだ。

字名咲夜。 彼女がもし生きていたのならばその年は朧と同じ二十五。

そんな彼女の見た目を簡単に言ってしまうならば輝夜を少し大きくした容姿、 それに加えただでさえ美しい輝夜さえ遥かに超える美貌の持ち主であった。

瞳の色も少々特殊であり、 彼女は赤と青のオットアイズをしていたのだ。

また彼女はそれだけでなく、 忍びの才能が並の物ではなく、 天才を軽く凌駕し超えた存在である()()と呼ばれていた。

そして彼女の何よりの特徴……彼女は人の心を読むことができたのだ。

人の心を読むというのは、 真剣勝負に置いてまさに最強。 何せ相手の剣の軌道を読むことができるのだ。

そのような相手に勝てるわけがない。

事実彼女は十歳で自身の祖父であり、 最強の忍びと名高いあの一影にさえ勝っていた。

しかも彼女は頭もよかった。

彼女のいうことはいつも難解であり、 彼女の言葉を真に理解できるものは誰一人といなかった。

そしてそれが彼女の悲劇の始まりであり、 異常な強さを身に着けてしまった彼女を愛する者は里の中では、 誰もいなかったのだ。

朧ただ一人を除いては……

そう。 彼女は強すぎたのだ。 強すぎるあまり誰にもその境遇を理解されない。

事実当時から天才と呼ばれていた輝夜でさえ、 そんな彼女の胸中を一度も理解できた試しはなく、 自身の姉であるにも関わらず、 恐れてさえいた。

そしてそんなあまりにも強すぎる彼女の誰にも理解されない()()という名の境遇を唯一理解できたのは、 皮肉にも彼女とは真反対の少年である朧だけだったのだ。

本日は一話のみでございます。

またこれからも平日は1日一話となりますその点何卒ご了承ください。

土日につきましては、 今後もニ話投稿を目安にやっていきますのでその点につきましてもご理解のほどよろしくお願いします。

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