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第六十話 禁忌

 ゴッ!


 ガッ!


 シュッ!


 バキッ!


 おおよそ身体同士がぶつかり合って鳴る音とは思えない音が繰り広げられている。

 魔人はその高めた身体能力を獣のようにぶつけてくる。

 肉体の強度はあちらが遥かに上だ。

 その差を武術で埋めている。

 それでも、防戦一方になってしまっている。

 嵐のような乱撃をなんとか凌いではいるが、受ける腕や足が鈍い痛みを感じている。


「死ね死ね死ね死ねーーー!!」


 魔人ガラサッドは、多分雑魚相手しかしてきていない。

 ただただ力を振るうだけで、今までは相手を葬れたんだろう。

 今も俺に罵詈雑言を吐きながら、めちゃくちゃな攻撃を繰り返している。

 まぁ、そのメチャクチャな攻撃も圧倒的な力でやられると、非常にしんどい。

 眼下の戦闘は、我軍の圧倒的な勝利になりそうだが、こいつ一人倒せなければ、皆殺しにされるだろう……

 つまり、俺にかかっている。

 

「せりゃ!!」


 攻撃をかいくぐり、こちらの一撃を打ち込んだりもしているが……


「効かねぇ!! 効かねぇぞ!!」


 俺自身も、不意打ちや奇襲で魔人を倒してきて、こういった正面からの戦いを怠ってきた。

 それも、この猛攻を受けながら、少しづつ思い出してきている。


「オラァ!!」


 大振りな一撃を廻し受け、目の前に敵の脇腹が晒される。

 腰を落とし、全身の捻りを腕に乗せ、拳を突き出す。


「ふっ!」


 めりっ……と分厚い筋肉に俺の拳が埋まる感覚が伝わってくる。


「ぐはっ!! お、おのれ!!」


「だいぶ……慣れてきたぞ……!」


 腹が熱い、道着へと姿を変えた相棒と俺の体の中をマナが、闘気がエンジンのように回っている。

 魔力戦だけではない、肉弾戦でも全身に闘気をまとい、俺の能力を何倍にも高めてくれる。


「雑魚がぁ!!」


 言葉とは裏腹に、大きな攻撃を控えて、隙きのない攻撃に変化する。

 ただの獣であってくれれば楽だったんだが……


「その分、こっちも攻撃ができる!」


「ぶっ殺してやる!!」


 俺の一撃一撃は致命傷にはならないものの、相手からすればうっとおしいし、たまに痛い。

 慎重に攻めてきていたのも長くは続かない、段々と感情に任せた雑な攻撃になってくる。

 だが、それが捌くのが楽とも言い切れない、セオリー無視のメチャクチャな攻撃は、時に想像もしない攻撃をしてくる。


「がはっ……!」


 めちゃくちゃに振り回した足が、浅く腹に入っただけでも、コチラにとっては凄まじい一撃を食らったのと同等なダメージを受ける……

 捌く両手の痛みもどんどんと増していく……


 まずいな……


 俺の攻撃はまだ相手の防御を抜くほどではない、このままではジリ貧だ。

 俺の攻撃にはすでに闘気を乗せていても敵の防御力を抜けないのなら、さらに何か……


「普通の木々よりも固いし燃えたりもしないわ」


 ドライアドの言葉を思い出す。

 魔法で作り出したものに、マナを定着させれば、強度を増すことが出来る。

 それを肉体にやっているのが現状だが、その上に更に魔法をマナで強化したものをまとわせれば……


「イメージは、ウォーターカッターで!!」


 すっ……

 自分の作り出した水の刃が、なんの抵抗もなく魔人の腹に吸い込まれ、そのままスーッと脇腹に抜けていく。


「なんっ……何を……? グボアッ!!」


 大量の吐血と同時に、腹部の傷が開き、臓器と大量の出血をしながら、魔人は落下していった……


「……怖っ……」


 自分の生み出した技に、ドン引きした……

 下では部下たちが戦っているので、魔人の落下地点に俺も急いでおりていく。

 戦いはすでに決している。

 罠とこちらの防壁に阻まれた魔物の殆どは討ち果たされ、残党を狩っている状態になっている。


「ゴボォォ……」


 そんな場所に、魔人がうずくまっている。

 俺は周囲の兵に距離をとらせ、正面に着地する。


「俺、俺の身体をぉ……ゴフッ……」


 明らかに致命傷だ、大血管もキレているだろうし、腸管も切断されている。

 大量の血溜まりの中、自爆する事もできずに、魔人ガラサッドは力尽きた……


「コアはもらっていくぞ……」


 コアを抜き取ると、灰のように変わって、風に流されていった……


「やばい技を生み出してしまったな……」


 正直、素手で殴り合っているときは、少し戦いが楽しかったが……

 しかし、今の手にのこる感触、逆になんの感触もなく強靭な肉体を斬った感触が、俺の胸にいやな気持をべったりとなすりつけていった……

 対魔人戦にこの技は有効だろうけど、過ぎた力はろくなことを起こさない。

 俺は悩んだ挙げ句ドライアドに相談することにした。


「水を高速噴出循環させてそれを魔力で固定するなんて、出来るわけないじゃない! 

 また無茶苦茶なことしたのねタスクは……」


 どうやら、動くものに魔力を通して強度を増すのは、非常に難しく、特にエアカッター、ウォーターカッターのような現象は、高位の精霊でも手を離れれば急速に強度は低下するために、魔人の身体を切り刻むなんて夢物語らしい。

 また白衣のチートが明らかになった。

 頼れる相棒のおかげで、おれだけのチート能力が生まれた。


「対策するとしたら、同様に高濃度の魔力で強化していけば……」


 ドライアドの植物に、大量の魔力を注ぎ込むと、俺のカッターでも少ししか傷がつかなくなった。


「なぁ、これ、防具に応用できないのか?」


「発動すれば魔力切れで気絶していいならできるわよ?」


 ドライアドが残念な物を見るような目で俺を見つめてくれた。


 なんにせよ、強大な魔人のおかげで、強力な技を手に入れた。 


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― 新着の感想 ―
[一言] これが出来るなら気円斬も出来ちゃうのでは?!(←気円斬好き) 避けろ!ナッパ!!
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