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第三十四話 しばしの平和と馬鹿騒ぎ

「基本的には魔力と同じ、臍の下に集まった熱いエネルギをー感じ取って、魔力が流れていた回路を通すような意識だ」


「……ま、魔力より、難しい……」


「魔法はマナを燃やして煙や灰にする単純な作業。

 魔力をマナにするのは、内なる魂の力で錬成するような作業。

 難易度は格段に上がる。らしい」


「らしいって……」


「魔素、魔力、マナ、闘気、全て本質的には同一の存在だから、イメージだよイメージ」


 といっても、俺は白衣が勝手にやってくれてるので、偉そうなことは言えない。


「たぶん、これがマナ……?」


「ハズレ、それは魔力、これがマナ」


 俺はガリウスの腹に手を当ててマナを軽く流す。


「ふおおおおおおお、し、師匠ぉぉぉぉ!! 熱いいいいいぃぃぃぃ!!」


「うるせぇ! 感覚を早く自分でつかめ」


 俺はさらに激しくマナをガリウスの身体に注ぎ込む。

 ガリウスの体内をマナが強制的に走り巡り、ガリウスの身体は上気し、本人もその体の熱に逆らうように苦悶の表情で耐えている。


「うおおおぉぉぉ、し、師匠のが、熱いーー!!」


「兄貴、ちょっと聞きたいことが……ご、ごめん、後にするね」


 カイが扉を開けて部屋に入ってこようとして、俺達の様子をみて神速の速さで扉を閉めた。


「ちょっとまてカイ! 何か誤解してないか!?」


 カイから見ると、俺がガリウスの下半身に手を伸ばし、ガリウスがのけぞって叫んでいる。

 それからガイウスを放置してすぐにカイを追ったが、すれ違う人間に変な顔をされながら必死に追いかけたが、なかなか捕まえることが出来なかった。


「姉さん!! 兄貴がとうとう衆道に堕ちた!!」


「なんですって!?」


「堕ちてねーよ!!」


「ひっ!?」


「ひっ!? じゃねーよ! カイ、どういう速度で噂広げてんだよ!

 責任取れよ責任!」


「せ、責任……兄貴、やっぱり……」


「責任ってそういう意味じゃねーよ! あーもーぐちゃぐちゃだよ……」


「私の気持ちは変わらないからねタスク!」


「だから違うって言ってるだろうが、修行だよ修行!」


「ああ、そういう……」


「どうしたカイ!? いつもそんなキャラじゃないだろ!?」


「なになにどーしたのー?」


「タスクが、衆道に……」


「やっぱり……」


「違うからな、やっぱりってなんだよやっぱりって!」


 この噂は、なかなか消えること無く、女性からは生暖かい見守ってるよ、という視線を送られ、頬を染めた男性が俺の部屋をノックすることが増えた。

 カイは大変元気が良かったので、100本組み手の相手を努めてもらった。

 1週間以内に誤解を解かなければ、おかわりだから、と伝えたら、一生懸命誤解を説いて回ってくれた。自業自得だ。


「ふうううぅぅぅぅぅぅ……」


 空手の呼吸法息吹。

 俺の鍛錬を見ていたガリウスがいつの間にか鍛錬に参加して、魔力のコントロールにも取り入れていた。

 それからは順調にマナを錬ることが出来るようになって、とうとう闘気のコントロールにたどり着いた。

 獣人達はマナを取り込み闘気とするが、ガリウスは魔素を利用してマナへと昇華させ闘気に変えることが出来る。


 その修業の数カ月は特に敵対勢力も現れず、ガリウスが率いていた人間たちは、あまりに平和で豊かな町での生活に驚きを隠せずに居た。

 ガリウスの名のもとに、町の一員となり、街の安全への余力、そして発展への強力を約束するのに時間はかからなかった。

 そして、その豊かさの一端を担っている森の村、獣人への視点も緩やかに変化している。

 戦闘訓練などで見せる圧倒的な獣人の能力に、関心を示すものも少なくなかった。

 結局、ガリウスの仲間たちも、街の住人として受け入れられていくのであった。

 戦闘能力有る人間が少ない街にとっては、剣と盾を得たに等しい、俺達の計画にとっても有り難いことだ。


「ガリウス、彼と話し合ったが、これからは実働面ではこの街を任せる。

 簡単に言えば、武官がガリウス、文官が彼だ」


「よろしく頼む」


「こちらこそ」


 二人はどこかぎこちなく握手を交わす。


「師匠、不思議なんだが、彼の名は教えてくれないのか?」


「……知らないからな」


 ものすごく呆れた顔のガリウス、街の男も肩をすぼめる。


「今まで必要なかったので、ガリウスさん、パイラだ、これからよろしく」


「ああ、任せてくれ」


 再び、力強く握手を交わす。

 こうして、街の自衛能力は高まった。

 俺たちの実働部隊による訓練も行い、もともとの町の人間もようやく指導できるレベルの人間、住人の指導は一般人には厳しすぎるので、ガリウスたちの仲間のおかげで、自警団的な組織に成長する。


「ガリウス、俺達は一度森へと戻る。

 数名獣人を残すから、何か有れば彼らを伝令に」


「わかったぜ師匠、この街をマナで満たして美しい精霊を呼び出してみせるぜ!」


「ああ、闘気を使える人間を増やせれば、マナは増える。頑張れよ」


「おう!」


 ごつんとげんこつを合わせる。

 ……こっちの世界に来て、初めて人間で良い奴に出会った。


 十把一絡げで人間を敵視するのには、やはり、無理がある。

 獣人は継続して集めたいが、人間の数は多い。

 味方にできる人間を作り、人間に獣人を守らせていくというやり方も視野に入れていかなければ、この先の戦いは難しいかもしれない……


「とにかく、獣人の希望となる場所づくりだな……」


 獣人のために取ったこの選択が、結果としては、人間のためにもなっていくことを、俺は、幾度の戦いの末に気がついていく……



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