第二話 しゃ、しゃべったあああああぁぁぁぁぁぁ……
おまたせしました。
少しづつ書いていきます!
「ふぅあ……いてててて……ってー、おー、夢じゃなかったのか……」
痛みも感じるし、ここは森だし、隣には大きな猫が寝転んでいる。猫だけにな。
「呼吸は安定、ドレーンも……廃液なし……。
野生動物だし、抜くか」
留置して低圧吸引をかけていたドレーンを除去する。除去後の傷は2糸程縫合をしてしっかりと閉胸する。
ごみをどうするか悩んだが、ポケットに入れていたら勝手に消えていた。
周囲に散乱していたゴミも同じようにポケットに捨てて、使用済みの機材や注射器なども同様に処理した。
「なんという便利白衣……夢じゃないなら、空想の世界か何かか?」
それにしては、さっきから腹が減ってしょうがない。
「メシメシ、ご飯ご飯!」
祈れども神は降り立たず。ポケットに変化はない。
「なんだよ、ペットフードなら出るのか?」
猫缶を思い出すとポケットに重量感が……
「……食えるけど、現在は保留だ……」
水はペット用のお高級なお水を思い浮かべて手に入れた。
……ただの水だ。
ブドウ糖液を思い出して少し飲んだが、甘すぎて気持ち悪くなった。
生食と混ぜてなんちゃってポカリにして少し飲んだ。まずい。
「さて、どうするかねこの状況は……」
ベッド代わりのタオルとペットシーツを引いているが、森の中野ざらしだ。
「仕方がない、こいつが目覚めるまではそばで生活できる場所を作るか……」
獣医師は何でも屋だ。整形外科、ようは関節や骨の治療も行う。
整形外科器具という奴は、ほぼ大工道具だ。
つまり……
「サージカルソーで木なんて切ったらぶっ殺されるな!」
充電式の電動のこぎりみたいな手術器具を取り出して、普通にのこぎりとして利用する。
病院で用いていた器具で無理やり結び付ければいろいろなものが取り出せた。
老犬介護用のマットレス、レントゲンや超音波検査の時に用いるクッションなんかは家づくりに便利だった。撥水シートと木の枝などを組み合わせてテントの外殻を作ってみると、かなり快適な空間を作り出せた。
「木々の接合に数万するスクリュー使うなんて馬鹿なことしてるからなー」
骨折治療用のプレートやねじであるスクリューはそれだけで数万することもある……
この白衣があれば……どれだけ楽か……
「さて、今日の処置をしてっと」
大猫の傷処置や注射、皮下点滴などを調整する。
モバイル型の生化学検査装置もあったので採血して検査も行う。
多少白血球高いけど、許容範囲だ。
最近はカセットコンロのガスを用いた発電機なんかも病院に置いてあったのでまるでどこぞの猫型ロボットのポケットのように外に設置して電源を確保することも出来た。
こういうところの融通は効く。
肛門腺除去に用いるゲルを溶かすためのカセットコンロ、と念じれば出てくるのに、普通に料理するためにカセットコンロって思い浮かべると出てこない。
徹底して動物病院関連の物しか出てこないんだなこれ。
暇なので、どんなこじつけでいろんなものを出せるか確かめていた。
砂糖:便検査で使用するから普通に出せた。
塩:以下同文
醤油:無理
味噌:無理
酢:アルカリ溶剤が皮膚にかかった際に用いる。なんてふざけた理由で出せた。
マヨネーズ:ネズミ捕りにかかった猫の洗浄用で行けた。
小麦粉:同じ理由で行けた。
ジャガイモ:超低脂肪食に用いるのでいけた。
カッテージチーズ:以下同文。
こじつけ的にはあってるんだけど、病院でやっていなかったことは出来ないということが分かった。
米を出せたら幸せだったんだけど……
「ジャガイモ、塩、マヨあればしばらくは生きていける」
膿盆でゆでたジャガイモを食べる日が来るとはねぇ……
空手の山籠もりも毎年参加しているので、粗食は慣れている。
何でも食えれば幸せな性格だからな俺は。
卵と油、酢を原材料とするマヨネーズと炭水化物としてジャガイモを食べれば完璧な食事だ。
間違いない、完璧な食事と言えることは確定的に明らかである。
そう言っていた3日後には猫缶に手を出した。最近の猫缶は凄いなぁ。
「傷の治りも早いし、順調だな……意識が戻ればいいんだが……」
処置をして状態の安定している大猫はゴロゴロ言いながら寝ている。
そろそろ経口の食事をとらないと鼻チューブ設置も考えないといけない、ちょうどそんなことを考えていると……
「お、起きるか?」
もぞもぞと大猫が動き出した。
流石にこのサイズの猫に襲われると困るので、扉を大きく開けて、外に避難する。
大猫の美しい毛並みを味わうのも今日で最後かと思うと少し悲しい、それでも、野生の動物は野生にだ。一応エサ入れに猫缶を入れて近くに置いてあるけど、たぶん外に飛び出していくだろう。
「もうそろそろかなー」
薄目を開けて用心深く周囲の様子を伺うかと思ったら、鼻をひくひくさせてエサ入れにガブリついた。
ガツガツと猫缶を食べている。まぁ5日ぐらい食べていないもんな……
名残惜しそうにエサ入れを舐めている。
そんな大猫としっかりと目が合う。さらば……
『もっとないの?』
……うん?
誰が話してるんだ? きょろきょろと周囲を見渡す。
『そこの人間、もっとこれないの?』
『俺?』
『他に誰がいるの? これ、とんでもなく美味しい、もっと頂戴』
『あ、はぁ……』
俺は猫缶を取り出してエサ入れに開ける。結局10缶も平らげた。
覚醒後にそんなに食べると下痢するぞ……
『ふぅ、落ち着いた。そんなとこでなにしてるの?
お礼も言いたいし、こっちに来なさいよ』
『は、はぁ……』
もう、あまりにも非常識すぎて、驚く気もどこかへ行ってしまった。
この猫、しゃべるぞ。
『あなたが私を助けてくれたのね? ありがとう』
『ど、どういたしまして。傷はどうだ?』
『まだ少し痛いけど、あの時気を失った程じゃない……
そういえば、人間なのになんで私の言葉がわかるの? 獣人には見えないけど……』
『それはこっちのセリフだ。猫の癖になんで言葉をしゃべっているんだ? って……獣人?』
『獣人なの?』
『い、いや、人間だが、獣人なんてのがいるのか?』
『変な人、獣人なんてどこにでもいるわ』
『そ、そうなのか……』
『それにしても、人間が何で私を助けたの?』
『いや、怪我していたから……』
『……貴方、この世界の人間じゃないわね?』
『た、たぶんそうなんじゃないかと思う……』
『迷い人なのね、初めて見たわ……』
『迷い人?』
『この世界じゃないところから迷い込んでくる人のこと、だいたい凄い力を持っているって聞くわ』
思い当たることはある。このスーパー白衣……
『俺はタダの獣医師だよ』
『獣医師? 動物を治すの? やっぱりあなたは迷い人ね、この世界の人間がそんなことを口にするはずがないもの……』
『それはどういう……』
ドーーーン!!
突然近くで爆発音がする。
『な、何が……!?』
『はぁ、また狩りね……貴方には感謝しているわ、また会えたらきっと恩を返すわ……
気をつけてね、貴方の世界とこの世界、まるで別の世界よ……』
そう告げると大猫は部屋から飛び出して森奥へと駆けていく、折角猫ちゃんとお話しできるなんて夢のような時間だったのに……
「そ、そうだ。爆発が!」
外に出て爆発の確認をしようとした刹那、背後で小屋が爆散し、俺は近くの木に叩きつけられた。
体の痛みと薄れゆく意識の中で、何とも厭味ったらしい声が聞こえた。
「なんだ、人間ではないかつまらん……獣人なら見世物にでもしてやろうと思ったんだがな……」




