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第十八話 暗雲

 森に入ってから、救出した獣人たちは怯えたように身を寄せ合っている。


「仕方ないですね、森をこんなに派手に移動していれば魔物の格好の的になると思うのは当然ですから」


「アニキが居なければ俺も震えていますよ」


『大丈夫、このあたりはマナが充満してるから森までの道に魔物は居ないわ。

 ちょっと森の魔素がマナに押されて集まりつつ有るので注意は必要ですけどね……』


「ああ、押しのけられた魔素が溜まるのか……早いところ対処したほうが良さそうだな……」


 魔素が溜まると不浄の者が現れたり、動物が魔獣や場合によっては魔物になる。

 人間や獣人も気分が悪くなるし、放置しておいていいことはない。

 村の周囲にも時々モワッと発生することがあって、ドライアドさんと一緒に処理しに行ったりする。

 この世界は全体的に魔素で覆われていて、むしろ森の内部の一部が異常になっている。

 地脈、この場合は魔脈とでも言えばいいものが地下に巡っていて、それを通じてそういう吹き出す魔素が出るらしい。

 太古の昔はそこにマナが流れていて、世界中をマナが循環していた時代もあって、その頃はふつうに精霊と人間が同居していたそうな……


『魔人が人間を利用して再び力をつけようとしていることは間違いありませんね』


「確かに魔物とは比べ物にならな位ほどの強さだった……」


『人間に魔法を使わせ、そして絶望と苦痛を与え魔素をどんどん増やしていき、それを利用して成長する……悪辣ですが、利には適っていますね』


「俺が捕まっていたらどんな目にあっていたか想像したくないな……」


『生かさず殺さず、想像できる様々な酷い仕打ちの斜め上のことをされていたでしょうね』


「想像したくないって言ってるのに……」


『ふふふ……』


 このどSドライアドは……


「それにしても、木々で道を作ってくれたんですね。凄く走るのが楽になって助かります」


 森へと入ると突然ウッドデッキのようなもので出来た道が伸びていて驚いた。

 どうやら俺たちが出てから帰りの馬車のためにドライアドさんが森の木々に協力してもらって道を作ってくれていたようだ。


『タスクのマナのおかげで森の木々にも小精霊たちが住み着き始めたので、その御礼だそうよ』


 ドライアドさんに勧められ外を見ると小さな光が木々の回りをふわふわと飛んでいる。

 優しい光が薄暗い森を照らして、俺達の進む道を穏やかに指し示してくれていた。

 その幻想的な風景に、恐怖に支配されていた獣人たちもキョロキョロとあたりを窺っている。

 特に子供の獣人たちは目をキラキラと輝かせて楽しそうにしてくれている。


「さぁ、もうすぐ村だ。とりあえず、風呂だな!」


「そうですねアニキ! 今日は祝の酒が待ってますよ!」


 その時、生臭い風が流れて周囲の雰囲気が一変する。

 ドライアドさんも馬車を操る姉さん、弟さんも気が付き馬車をとめ、戦える獣人たちは注意深く周囲の様子を窺っている。


『……おかしい、私の意識が広げられない……ただ事ではないわ』


「気をつけろみんな、何が起きても平気なように警戒を怠るな……」


「わかってるわタスク」


「アニキ、何が起きて……アレは何だ?」


 弟の視線の先を見た瞬間に体が反応した。

 俺は馬車と皆から出来得る限りの距離を取れるようにその『闇』に向かって飛び出した。

 木々を足場に空中に飛び出した!


 ゴウッ


 次の瞬間、目の前に漆黒の火炎が迫ってきた。

 このままでは、ぎりぎり馬車を掠めてしまう……

 俺は即座に白衣に闘気を全力で込めて火球を弾き飛ばそうと試みる。


「ぐっ……うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」


 全力全開でなんとか火球の軌道を上にずらすことが出来た。


「ゴハァァ……!!」


 その反動で俺は地面に高速で叩きつけられることになった。

 口の中に嘔吐と血が混じったような味が広がるが、歯を食いしばって立ち上がり、直ぐに樹上へと登る。

 『闇』はゆらゆらと何事もないかのように揺れている。


「なっ!?」


 先程の火球の先は酷い状態だった。着弾した場所から扇状に大地がえぐられ、周囲の木々が燃え盛っている。なんとか、本当にギリギリ馬車への被害は防げたが……


『ドライアド!! 皆を連れて村へ逃げろ! こいつは俺がなんとかする!!』


『……で、……スク……ムリよ!……げて!』


『いいから早くしろ!!』


 俺は通じてくれていると信じ、乱暴に通信を送りつけて再び『闇』と対峙する。

 先程まで揺らいだような、まさに『闇の霧』のようなものが、段々と形を帯びていく……

 空中にあった闇は、形を作り、木のてっぺんに着地する。


「馬鹿な……確実に周囲から消し去ったぞ……」


 形作る姿に驚きを隠せなかった。

 魔人カーラ、町で完全に滅ぼした魔人がそこに形作られようとしていた。

 

『ゴ、コ、ロス……シネ……ニン、ゲン……』


 声を聞くだけで胃が締め上げられる。死のプレッシャーを意識する。

 

「カーラ!! 貴様は死んだはずだ!」


『シ、シネ! コ、コ、コ、コロス!!』


 再び先の火球がカーラの頭上に作られている。。

 この威力は先程味わった。

 実は受けた右腕の感覚はまだなく、手の酷い火傷が闘気によって回復しているが、骨も砕けている。

 俺は樹上を駆け上がり、村と馬車と逆の位置になるように移動する。

 とてもじゃないが、何発も弾くことは出来ない。

 明らかに、戦ったカーラとは別の存在になっているのではないかと疑うほど強力な攻撃だった。

 俺は残った左手をポケットに突っ込み、現状に対応できるものを探す。

 闘気をまとわせれば、アレならなんとかなるかも知れない。

 俺の考えを白衣が読み取り、左手にソレを身に着けさせた。


「大型犬が本気で噛み付いても問題ない、防弾チョッキにも使われる素材を使った極厚手袋……どんな狂犬も暴れ猫も怖くない、俺の相棒……闘気バージョンだ!」



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