第十四話 釣り
マナを嫌い魔素を好む魔物の特性を利用して森の一帯にいる魔物を囲い込み誘導する。
ちょっと力加減を誤って大群になったけど、ま、陽動にはコレくらい必要だろ……
そのまま町を攻め落とされても困るので少しづつ小出しにするように工夫をしてみた。
森から魔物がある程度まとまった数街に向かって進んでいく。
町には魔素が多いので少しケツを叩いてやれば魔物たちは向かっていく。
「よし、兵たちが動き出したぞアニキ、上手く行ったぞ!」
「まだ気が早いだろ、獣人たちを救えてから言うセリフだ」
「あの魔法使いも出てるね……最低条件はクリアしたね。
あの数だかなりの時間がかかるはず、少なくとも今晩は帰れない」
「本当に強大な魔物がいると籠城になるから間引いてあるからな、準備は十分だ」
森に潜んで夜を待つ。
さすがは動物たちは気配を消すのが上手い。
今日のために作った黒装束に身を包んで完全に存在を森と一体化させている。
俺もお揃いの黒装束に身を包んでじっと夜を待つ。
街灯のないこの世界の夜は思ったよりも明るい。
星明かりがあればそれなりに周囲の状況を見て取れる。
町から漏れる光が眩しいほどだ、もちろんコレも能力のひとつなんだけど……
「行こう」
号令とともに顔も布で隠す。これで暗闇のもとではかなり目視しづらくなる。
音もなく町への城壁まで進んでいく。
俺、姉さん、弟さんの3つに分かれて町へと侵入する。
すでに人々は寝静まる時間だ。
路地などで怯えるように生きている獣人達を集めるのは弟と姉さんに任せて俺は一人で城へと侵入する。
あの忌々しい場所に戻ってきた。
感覚を広げると城の構造や人の配置などが手にとるようにわかる。
まるでゲームか何かみたいで不謹慎にも興奮してしまう。
正直、この体になってからというものスーパーマンにでもなったようで、楽しい。
今も垂直の城壁を駆け上がり城までひとっ飛びで壁に取り付いた。どこのアサシンだ俺は。
そのまま裏口から侵入して地下に入る。
城の中でもこの時間警備しているものは少ない。
外の城門の見張りと庭園を警備している兵の動きに気を配る。
「静かに……君たちを助けに来た」
相変わらず酷い、糞尿にまみれた牢獄に静かに声をかける。
獣人達はビクリと体を震わせて部屋の隅に集まってしまう。
「大丈夫、俺は他の獣人たちと暮らしている。
これから扉を開ける。信じてほしい」
鉄格子を小刀で斬る。3本も斬れば十分人が通れる。
錆びついた扉を開けると酷い音が出そうだったのでこちらから出てもらう。
「君たちを殺すつもりなら見ての通りいつでもできる。
本当に救いに来たんだ、信じてほしい」
ようやく恐る恐る住人たちが牢獄から出てきてくれた。
背中に背負ったカバンから黒いマントを取り出し渡していく。
これで身を包むだけで目立ちにくくなるし……
「気持ちいい……」
たっぷり闘気を纏わせてあるから随分と体が楽になるはずだ。
そのおかげで俺のことを信じてくれたみたいで指示通り従ってくれて他の獣人の説得も手伝ってくれた。
帰りは正面から出る予定だ。
申し訳ないけど、この城にはまた燃えてもらう。
厨房脇に用意されている燃料に火を放ち、しばらく庭園の植え込みに待機する。
黒煙が上がり火の勢いが強くなると城内が騒がしくなり、人が集まっていく。
城門を守る兵、庭園の警護をしている兵が移動したことを確認して全員で移動を開始する。
城門を抜けて街に出ると馬車が待っている。
予定通りだ。
「そっちも首尾は良いようだね」
「なるほど、子ねずみは貴様か……」
突然現れ飛んできた火球を叩き潰す。
背後にいる獣人達に放たれた矢をその爆風で防いだ。
「……おかしいな、予定ではお帰りはまだのはずなんだが……」
「ふん、以前に少し騒ぎがあってな備えをしておいたんだが、役に立ったな」
気配を広げると姉さんも弟も兵と交戦中だ……
「迷い人、殺されたくなければ投降しろ。
死体にも価値があるからどちらでも良いが、できれば生きているものを利用したいのでな」
「この世界では人間と組まないと決めた。いや、正確には魔人に簡単に利用されるようなバカとは組まない」
「魔人……? 何の話だ?」
「こういうことだよ!」
俺は足元の石を拾い背後の馬車に投げつける。
魔法使いは防ごうと火球を放つが、たっぷり闘気を纏わせた石はそのまま馬車を貫いて……行かなかった。
「禍々しい力……忌々しいわね」
馬車の扉が開いて白煙をあげながら石を掴むガリガリの女が降りてくる。
「おお……カーラ大丈夫だったか?」
「ええ、野蛮人がいきなり石を投げて少し驚いたわ」
真っ青な皮膚、赤く光る眼、明らかに人間には見えないが、どうやら周りの人間には絶世の美女にでも見えるようで鼻の下を伸ばしている。
背後にいる獣人達だけが恐怖で震えている。
「なるほど、よほどその見た目に負い目でも有るのか偽りの姿を見せてるのか」
周囲に渦巻く魔素の濃さが段違いだ。
多分あの女がいると魔法使いの魔法も別物になるだろう。
「予定変更だな……」
俺は黒装束を一気に脱いで白衣姿になる。
「愚かな魔法使い、魔人の手先となっているお前に真実を見せてやる」
俺は、白衣に力を込めた。




