第十三話 作戦会議
「タスク以外の人間など救う意味もない!」
「何をされたのか忘れたのですか!?」
「お願いです。どうか仲間たちを救ってください」
……当たり前といえば当たり前だったんだが、皆の意見の方向性は一つだった。
獣人を救ってほしい。人間は見捨てる。
この世界で人間が獣人に何をしているか、そして、自分自身がされたことを顧みれば当然の意見だ。
ここは異世界なんだとあらためて深く認識した。
そして、自分自身の甘さにも気がついた。
あのままいれば俺は何の意味もなく殺されていた。
ここは日本じゃないんだ。
「……日本人神凪匡は死んだ。良いじゃないか、もともと人間には嫌気が差していた……」
呟くように出た声は自分でも驚くほど低く冷たい響きだった。
「よし、町から獣人を開放しよう」
集まった皆から歓声が上がる。
そして具体的な方法についての議論がなされていく、俺は戦いのプロではないので一旦中座してドライアドさんに診てもらっている患者たちの様子を見に行くことにした。
「あら、話し合いはもう良いの?」
「具体的な作戦立案は俺の出る幕は無いよ。皆良さそうだね」
「ええ、順調よ……タスク、迷ってるの?」
「……そうだな、迷ってないと言えば嘘になる。
俺が生きていた世界とは、この世界はあまりにも違いすぎて戸惑っている。
いままでバタバタと動き続けて考えることをわざと避けていたんだろうな……」
「この世界には一つだけ絶対の掟があるわ。
弱肉強食。強いものは生きて、弱いものは死ぬ。
その掟以外は全て個人の自由なのよ、だからタスク、貴方は自分で選択しなければいけない。
貴方は強きものだから」
「……強きもの……」
仙人化してからあまり心が大きく動くということがなかったが、あの町で暮らす老若男女を見殺しにする、そして兵たちや向かってくる者たちを殺すことへの覚悟は……揺らいでいた。
「出来る。確信はある。たぶん俺は人を殺せる。もう殺したしな……
ふぅ……ありがとう。励ましてくれたんだよな?」
「私は笑っているタスクが好き。だから今のタスクを見ているのは辛いし、寂しいの」
そう寂しそうに微笑むドライアドさんの表情に、なぜか大きく心が揺れた気がしたが、すぐに落ち着いてしまった。……俺ってやつは……
「ありがとう、いつもほんとうにありがとう」
「なぁに? 変なタスク」
多分俺はドライアドさんのことが好きなんだが、余りにも心の動きが小さくて……
仙人になることも良いことばかりじゃないな。
「アニキ、大体の作戦が決まったから来てくれないか、それにドライアド様も」
「わかったすぐに行く」
一通りの診察処置を終えて皆が待つ会議場へと向かう。
ドライアドさんは先に移動している。
木々を介した移動はドライアドさんの特技で一番最初にこの村に飛んだゲートとはまた別の能力だ。
「タスクお帰り」
「うん、それでどんな作戦になったのかな?」
「町で人間たちに対抗できる力のある7名、タスクは……どうする?」
「……もちろんいくよ。ありがとう」
俺に配慮してくれた姉さんに感謝する。俺も覚悟を決めよう。
この世界で俺は人間の側には立たない。
今回の戦いでそれをはっきりさせる。
「あんたには村を守ってもらう。頼んだわよ」
「頼まれました。タスクに手を出したら怒るからね」
「タスクが手を出してきたらノーカンね」
「フッ……」
イラッとした空気が場を支配した。やめてほしい……
「とにかく、町はあの魔法使いが守っている。
魔法使いがいれば町の中で騒ぎは起こせない、だから魔法使いを外に誘い出す必要がある」
「そのために魔物を使う」
「皆で町に魔物をけしかけて、魔法使いや兵を町からおびき出して、その隙に町から獣人を助け出す」
「夕方に魔物をけしかけて夜のうちに獣人たちを救って森へと逃げ込む。
森の入口付近を浄化してマナを満たせば後は通路を通してもらう、ってことなんですがご協力いただけますか?」
「ええ、良質のマナをお願いね」
「とのことですアニキ」
「俺はいつもどおりにやるだけだぞ」
「ええ、ソレが最高のマナを作り出すわ」
今では体内のマナコントロールは完ぺきにできるようになったので、獣人をオーラ化させることも自由にできるようになった。魔素を吸い込む以外にも瞑想とかでもマナは増やせることがわかったので、暇があると瞑想している。
そしてオーラを得た獣人も自らの闘気を瞑想や訓練で増やすことが出来るし、抑えて通常化したり一度目覚めれば可能になる。ただ素質的なものが必要で村人からは7人が闘気に目覚めている。
オーラ化出来なくても大量のマナを送り込むと病気に対する抵抗力や怪我の治りが飛躍的によくなったりと得られるメリットは多いこともわかっている。
開放した奴隷たちも皆マナによる洗礼は受けてもらわなければ……
本来の森は過酷だから……
「出来る限り早いほうが良い、どんどん準備を始めよう」
それからすぐに7人と俺を中心に準備が進められる。
街にいる獣人を受け入れる準備もしなければいけない、住む場所やしばらくの食料など、いくら現状が余裕があるとはいえ、かなりの人数が増えることになることは間違いない。
町から獣人を助け出すことも大変だが、実はそちらのほうが大変だ。
獣人を助け出しました。村を飢餓が襲って滅びましたでは意味がない。
もちろん最終手段はペットフードを使うが、先を見据えた作戦を組まなければ意味がない、俺がいなければ皆が餓死するようでは困るのだ……
こうして救出作戦の準備が急ピッチで進んでいく。