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第十二話 転機

 その日は忙しかった。

 戦闘訓練時に誤って攻撃を受けてしまった獣人の骨折と外傷治療、軽い風邪を軽んじた子供が肺炎に進行してしまったために少し危険な状態になってしまったり、毒性のある野草をスープに使った一家の治療などなど、朝から食事を摂る暇もなく治療にあたっていた。

 朝目が覚めるとドライアドさんがいなくて、姉さんと弟くんが手伝ってくれているが、感染症関連に関しては治療効果が速攻で出るわけではないので、体力を消費させないように維持治療をしながら回復を待つしか無い。

 衛生環境を維持する地味で大変な仕事の積み重ねをしていくしか無い。

 外傷患者が一段落ついてようやく一息がつけた。

 干し肉と果物という無茶苦茶な組み合わせを栄養を取るという視点から口に入れている。

 

「肺炎の子も呼吸状態は安定してくれた。あの家族も出すもの出して疲れて寝ている……けど、しばらくは安心できないな」


「すみません兄貴、結局あまり役に立てなくて……」


「あの女は……悔しいけど、凄いにゃ……」


「いやいやいや、めちゃくちゃ助かったよ。オレ一人だったら骨折手術後回しで、一回傷の処置だけで様子見になっちゃったよ」


「タスクがそう言ってくれるなら良いけど……あの女どこにいったのかしら?」


「最近ドライアドさんいない時多いですよね……」


「うーん、本来は俺らと一緒にいることが珍しい存在なんだろ?

 色々あるんだろうさ。そのうち帰ってくるよ」


「……なんか、興味がない感じで少しさみしいです……」


「うおっ! びっくりした!」


 いつの間にか隣にドライアドさんが立っていた。ちょっと近くてドキドキした。


「ちょ、ちょっと! なにどさくさに紛れてくっついてんのよ! タスクから離れなさい!」


 突然姉さんに腕を引かれて背後に回されてしまった。

 うーん、驚いて身を固めていたつもりだったのに、あっさりと崩されてしまった。

 本当に姉さんは凄い……そりゃまともに勝負にもならないわけだ……


「なんだか大変な時にいられなくてごめんねタスク、ちょっとまずいことになりそうで色々と調べていたの」


「いや、2人が助けてくれてなんとかなったけど、できれば後で手を貸してほしいけど、まずいことって大丈夫なの?」


「私達は多分大丈夫だけど……、外の街に大きな被害が出ちゃうかも……」


「森の魔物に関連するんですか?」


「ええ、どうやら私達の村が周囲の魔素の流れを変えて、どうやら森の奥深い洞窟に魔素溜まりを作っちゃってたみたいで……更に都合悪く、そこはグランドベアの巣で、魔獣化しちゃったのよね……しかも周囲の動物をバンバン殺しては洞窟で魔獣化して従えるなんてことまで始めちゃってて」


「……それ、恐ろしいことな気がするんですが……」


「グランドベアって熊だよね。たまに皆が狩ってきているのと違うの?」


「ぜんぜん違うわよタスク! グランドベアは……そうねあの5倍はでかいし頭も良いよ!

 もし村に来たら……まず全滅よ」


 姉さんが断言するのか……


「ムラのそばはマナがあるからよってこないわ、マナは魔獣にとって不快だから。

 そのせいで街が危険なの。すでにかなりの集団になってしまっていて……

 街が送り込んでいる兵士が接触しちゃいそうで、もし接触して魔力を持つ人間の味を知ったら、たぶん街に攻め込むわ」


「……勝てるのか?」


「多分、ギリギリ勝つんじゃないかな?」


「なら良いんじゃないか?」


「ギリギリって言ったじゃない。たぶんだけど、あの街の獣人は全て捨て駒として使われるわ」


「なっ!?」


「……そうなるわよね……」


「だね、ねーちゃん」


 少し考えれば、分かる話だ。人間よりも価値が低い獣人の扱いは、囮や肉の壁だ……


「ドライアドさん、どれくらいでその最悪の予想は実現してしまいそう?」


「……実は、そのグランドベアの軍団のせいで森の魔素が濃くなって、私の幻影も効果が薄くなってしまっているの、たぶん一月もすれば兵たちが森の魔素が濃い部分には入れるようになっちゃうわ。もちろん村のそばは今まで通りぐるぐる同じとこを旅してもらんだけど」


「一度冷静に話し合わないといけないな、もしかしたら村の皆を危険に晒すことになるんだから……それに、どちらにしろ、街の人達の犠牲は避けられない……」


「……兄貴、みんなに声をかけてくるよねーちゃんも手伝ってくれ」


「わかった」


「ドライアドさん、悪いんだけど今見てる患者の治療を手伝ってくれ」


「わかったわ」


 ドライアドさんの魔法のおかげで肺炎の子も食中毒の一家も容態が安定してくれた。

 俺は、自分の判断でたくさんの命の選択をしなければならないことを理解していたが、自分の判断基準が揺らいでいることを強く感じていた。

 日本での俺、人間としての俺、この世界の俺、特殊な能力をもつ俺。

 たくさんの俺の中で、何を選択すれば良いのか全く考えられなかった。

 

「とりあえず、現状の正しい理解、それと第三者の意見を聞いて冷静に判断しよう」


 医療においても自分ひとりで判断がつかない場合は、第三者の意見を参考にすることはよくある。

 いろいろな選択肢の中で一番現実的な落とし所を探ることを冷静に行う。

 それが今の自分の最適だと信じている。


 どうやら、穏やかな日々は終わりそうな気がする……

 


頑張ります!

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