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第十一話 日常

 皆さん、おはようございます。

 この村で過ごして穏やかな日々が続いていますが、いかがお過ごしでしょうか?

 相変わらず自分は村の人々の健康を守るために診療の日々を送っております。

 仙人の力は、便利です。

 相手の体に気を流すと、異常な部位が自分の理解しやすい形で知ることができる。

 レントゲン、超音波、血液検査などの代替になってくれていて、本当に助かります。

 処置のときも焦ることもなければ緩やかに流れる時の中で迅速な処置ができる。


 この間も帝王切開になってしまったが、母体の処置と乳児の処置も並行して行っても焦ることなく終えることが出来た。

 帝王切開は人手が必要なので一人で対応することになると大変だ。

 ドライアドさんには取り上げた子供の様子を見てもらってたりと相変わらずお世話になっている。

 気を通すことによって、立体的に骨折部位を視ながら手術ができるのは、最高だった。

 細かな骨片の処置も可能だし、そこにドライアドさんの魔法が有れば更に治癒期間の短縮が狙える。

 それでも不便な点もある。特に感染症対策が一番気を使っている。

 この世界、前のとこと同じなのかもわからない、まったく抗生物質が効かない感染症ほど恐ろしいものがない……

 安易に抗生物質に頼ることなく、それでいて感染症に気をつける。

 村の公衆衛生観念を改善する指導と教育には特に力を入れている。

 簡単なところはうがい手洗いの推奨、上下水道の整備、ウイルスや細菌などの感染症に対する概念の教育などだ。

 教育は簡単な四則演算あたりは便利なので少しづつ教えているが、この世界のことは逆に教わっている。広い世界のことはみんな知らなかったが、そこはドライアド先生がいらっしゃる。


「あなた達が出会った人間たちが暮らしているのはチーベルツと呼ばれているわ。

 基本的には魔物から逃れるために各地に力を持った人間が街を持って、その街で暮らす人々を支配している感じね。それぞれの街は争ってもあまり意味がないから勝手にやっていて、お互いに足りないところは補い合ってるわね。街同士の行き来のための軍隊のような物を運用している事が多いわね」


「街を攻めて支配下に置けばもっと豊かになりそうだけど……」


「この世界の魔物の驚異は想像以上に過酷だから、人同士が争っている余裕もないし、力を持てばそれだけ守る場所も増えるし、あんまり得とは考えていないみたい」


「社会体制が独特でなかなかおもしろい」


「タスクがいたところはどんなところだったの?」


 こんな感じで俺の知っている知識を逆にドライアドさんに教えたりもしている。

 とても理解度が高いし、非常に楽しい議論になることが多く有意義な時間が過ごせるのだが、盛り上がるといつも姉さんが邪魔しにくのが玉に瑕だ。


「村の環境もすごく良くなったね」


「タスクの計画のお陰で皆も暮らしやすいって喜んでるよ」


「皆も運動能力が凄いよね、それに、想像以上に手先が器用、こんなに早くいろんな物作れると思わなかったよ」


「獣人化で手作業できる人も増えたからねー」


「俺獣医であって人の医者じゃないんだけど、皆無茶言うよ……」


「でもちゃんと治してるじゃない」


「基本的な構造は変わらないからね、やるしかないからやってるだけだよ」


「最近はよく力比べもやってるよねタスクは」


「いやー、この世界物騒だからさ……自衛のため?」


「結構負けず嫌いだよねタスクは、元々鍛えていたから力は凄いけど、まだまだだねぇ~」


「俺のいた世界は戦うことのほうが稀有だったんだよ、そのせいで刺されたんだけどさ……」


「平和な世界だったんだねー……でも、ほんとにタスクが来てくれて、夜ゆっくり眠れるってだけでも本当に感謝しているよ」


「森にマナが満ちてるなんてこの世界でも珍しいからねぇ、だからタスクはバンバン働いて、バンバン力比べもやってどんどんマナを生み出してちょうだいねー!」


 マナが満ちた森や大地はなんというか生命の息吹に溢れているのか、農作物の成長がおかしい、昨日取った実が翌日にはもう小さな実をつけ始めていたり、芋が一週間で収穫できたり……マナ凄いです。

 お陰で森の護りも強くなっており、あの街の奴らが未だに探索しようとしているけど、同じところをグルグルと回って帰る日々を繰り返している。

 森に住んでいた魔物が各地に散っていった関係で、あの街にも少し魔物の群れが襲いかかったりしたらしい、ちょっと悪いことをしたかも……


「そういえば、タスクはまだ街の獣人たちを救おうとしてるの?」


「……んー、思っていないと言えば嘘になるかなぁ……」


「タスク、僕たちは何も言いません。助けてなんて虫の良いことも言わない。

 でも、タスクが救うというなら全力で助けるし、助けないと決めても何も思いません」


 弟くんが何時になく真面目な顔でそう告げる。

 キリッとしてる顔も可愛い。おっきい猫が二足歩行で服着てる姿がかわいくないことがあるだろうか? いや、ない。


「正直俺は、ひどい目にあったけど、まだ同じ人間を、例えば斬ったり、殺したりする事に躊躇がある。

直接殺しに来た奴らならともかく、俺から仕掛けるのは、まだ……でも、今も苦しんでいる動物や、獣人の皆の仲間がいるなら、助けたいとは思っている」


「うん。タスクがその気になったら私達は皆協力するよ。

 闘気使いなら、魔法使いにだって、魔人にだって負けないよ!」


 姉さんの頼もしい言葉、事実、俺は姉さんと力比べ、簡単に言えば模擬戦をすると、触れることなくボコボコにされるほど実力差がある。仙人となって、スローモーションの世界の中でも姉さんに触れることも出来ない、いい線に行ってるとは言われるけど、尻尾の先もつかめている気はしない。

 俺自身も、もっともっと鍛えて、そしてこの村もたくさんの動物や獣人を守れるように発展させていかなければいけない。

 獣医師として、俺になにかできることが有れば、俺はここで頑張っていく。


 とりあえず、俺の日々はこんな感じで過ごしている。




  




 

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