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第一話 眼の前の命を助けるだけ

現在きちんとしたプロットを練り上げるべく努力している作品案です。

 鬱蒼とした森林、無秩序に草花が伸びた大地、隙間から見える空に見える……2つの太陽……


「ここは……どこだ……?」


 何一つ、見慣れない場所に、俺は……立っていた。

 ひんやりした土と緑の香りが交じる空気、あまりにも静かな森の中、少し体を動かすだけでまとわりつく枝や草木、そのどれをとっても俺の人生で触れることがなかったような存在だ……


「何が、起きたんだ……」


 訳がわからない。

 俺はどうしてここにいる。

 そもそも、俺は誰だ……?


「落ち着け、冷静に、状況を把握しよう。

 ここは……わからない、なんでこんなところにいるんだ?

 そもそも、俺はどこにいた?

 ……職場、そう、職場にいた……」


 少しづつ記憶が鮮明になっていく。


「名前、俺は、(たすく)、そうだ! 神凪(かんなぎ) 匡だ!

 33歳、獣医師だ……そう、俺は職場にいた、病院で、診察をしていて……」


 院内の様子が思い出される。


 今日も朝から激務で、共に働いている獣医師、看護師も慌ただしく動いていた。


「はー!? 薬飲んだら泡が出たから飲ませなかった?

 しかも翌日から尿が出てない? それで3日も放置したのか?」


「神凪先生……、声が……聞こえちゃいますよ……」


「俺が何回説明したと思ってるんだ、だから状態も状態だから入院したほうがいいって言ったのに、少しでもおかしければいつでもいいから連絡するように伝えたんだぞ!

 いつもそうだ、人間のせいで動物が不幸になる、いい加減にしろ!

 状態は?」


「確認しようと思ったら、早く診ろって怒鳴りつけられてしまって……」


 そう、今日は朝から最低だった……


 始めてきた患者が、二言目には副作用、次に口を開けばネットで、動物のためだと一つ一つ丁寧に話してやったが、どうやらプライド()に触れたらしく捨て台詞は、強引な治療ときたもんだ。

 こっちはプロだぞ? お前が軽くネットで見て真実だと思ってるような嘘八百を否定する勉強をして国家資格を取って、その後も診療のために日々、毎日情報を仕入れ、勉強して、技術を上げてきてんだ!

 素人がマウント取りに来るのはつぶやきだけにしとけよアホが!! って言葉を飲み込んで、動物のためと呪文を唱えながら診療を終えたと思ったら……


 次はよその古くからある病院で、ずっと同じ薬を飲んでいて良くならないっていう犬を見たら、一目診ればわかるような感染症にステロイド飲ませてるようなどうしようもない症例だったり……


 転院症例で結果の説明が一つもなく効きもしない薬を大量に出された子の、持ってこられた検査結果を丁寧に説明して、考えられる病気とするべき検査を提示したら、元の病院と相談するとか言って帰ったくせに、その後結局何もせずに悪化して死にそうになってこっちに来て、何をいうかと思ったら俺が悪いとか抜かしやがるアホとか……本当に胸糞が悪い始まりからの、コレだ……


 俺は、動物は好きだ。大好きだ。本当に好きだ。

 だがな、人間が嫌いだ!

 これは、臨床獣医師にとって素質を欠くのかもしれない、だけど、動物が好きだ。

 救いたい、少しでも不幸になる動物を減らしたい。

 その一心で、俺はここで頑張っている。

 他院で預かって、さも自分が治療しましたって症例の手術を実際には俺が手術をしていたり。

 検査もせずに抗生剤だけ使って治らない症例の相談に乗ったり。

 少し専門的な技術のいる検査を代わりに行ったり、そういったことをしても飼い主にはわからない、評価なんてされないが、それでいいと思ってる。

 動物が助かればいいんだ。


 それにしたって、世の中にはどうしようもない人間がいる。

 動物にはいない、人間だ。

 金が無い、その日は無理、見てられないけど入院は嫌、薬は飲ませられないけど治せ、でも金はかけるな。注射一本で治せ、検査せずに治せ、すぐ治せ、24時間診ろ、絶対に助けろ、でも金はかけるな、話は全く聞かないが、なんとなくお前が悪い。

 どうしようもない奴は、全て人間だ! 動物じゃない!

 もちろん、そんな人間は少数だ。

 動物が好きで、一生懸命な方もいる。いや、殆どがそうだ。

 その分、どうしようもないやつが目立つんだ……


「ふぅーーーー……フンッ!」


 俺は息吹(いぶき)で心を落ち着ける。

 中学から20年続けている空手の所作はオレの心の燃え上がった熱を丹田に留めてくれる。


「はい、お呼びして……」


 そして、連れてこられた子の状態を見て、再び頭が熱くなった。

 息も絶え絶え、多分何度も吐いたであろう口周りの汚れ、パンパンに膨らんだお腹、その全てが一刻の猶予も許さない状態だと告げている。

 

「エマだ! すぐに各種検査、膀胱から尿を抜くぞ、それに点滴の準備だ!」


「は、はい!!」


 なにやら中年の飼い主のおっさんはブツブツ話していたが、こういう場合、さらに受付の態度を合わせると真面目に話すと時間ばかりが浪費する。


「命にかかわる状態です、直ぐに処置をするので待合室で……」ドンッ!


 何かが背後にぶつかってきた。

 それと同時に急に背中が炎で燃やされたかのように熱くなる。

 

「何が……ゴブッ……」


 口の奥から何かが溢れ出した。背中に手を当てるとぬるりとしたものが触れる。

 その手を見ると、血だらけだ……


「恥をかかせやがって、恥を、恥を、恥を……」


 すぐ背後にいる飼い主がブツブツとずっと同じことをつぶやいている。

 気がつけば、白衣の下半身は真っ赤だ。コレ全部俺の血らしい……

 まずいな、この出血量と痛みの位置を考えると、吐血もしたし胃の動脈を傷つけられたか?

 少なくとも背部にある大きな血管の損傷は間違いないな、これ……死ぬかも……


「キャーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」


 耳をつんざく女性の悲鳴、俺は朦朧とした頭で、その飼主と看護師の間に入り込み、猫を診療台から持ち上げる。


「たす、けて……やってくれ……」


 猫を看護師に渡し、部屋の外に押し出し、扉を閉める。

 まだブツブツとつぶやきながら出刃包丁を持っている飼い主に最後の力で覆いかぶさるように倒れる。


 190cm 100kg、ベンチプレスで150kgを上げる肉体は、このためにあったんだな……

 そう思いながら、意識を失った……



「それで、目を開けたら……ココにいたのか……」


 記憶の旅から現実へと戻ってきた。


「いや、現実なら、病院のベッドとかで目覚めるよな……」


 多分刺されたであろう場所に触れてみると、白衣は破れていたが、傷一つなかった。

 落ち着いて自分の格好を見ると、仕事をしていたときと同じく白衣姿にサンダル。

 首には聴診器とポケットにメモ用紙とボールペン……それだけだ……


「死後の世界……ってこんなんなのか、嘘ばっかりじゃないか話に聞いたのなんて」


 三途の川はなく、そこには森が広がっていました。

 もし、俺が生き返れるならそう伝えよう。


「ここで立っていても仕方ないし……歩くか……」


 足元にちょうどいい感じの枯れ木が落ちていたのでそれを拾って蔦などを分けながら歩き始めた。

 太陽は……2つあるけど、直上から照らしている。それでも森の中は涼しい。

 あてもなく森の中を歩くのは危険かもしれないが、仕方がない、本当に()()()()()()()

 みたところこの森は広葉樹林、ブナとかケヤキとかなのか、あんまり詳しくないからわからない。


「そういや、異世界転生とか転移とか、そんな漫画あったな……」


 ネットで見る小説や漫画でそんなものがあったなぁと思いだす。

 そういう話は嫌いじゃない、が、まさか自分に起こるとは微塵も思っていなかった。


「す、ステータスオープン……」


 もちろん、何も起こるはずもない、沈黙が俺の顔を赤くしたくらいだ。


「だよな……恥ずかしい……」


 こんな森のなかでオッサン一人で何をやっているんだか……

 とにかく、死後の世界? を歩き続ける。

 途中鳥が飛んでいく姿や、リスと思われる小動物が枝を走っているのをみて思わず顔がにやける。


「こんな自然の中にいるのも久しぶりだよな、死んだ後にゆっくりするってのも変な話だが……」


 相変わらず景色は変わらず鬱蒼と茂った森、右を見ても左を見ても上を見ても木、木、木。

 何も変化がない。


「進む方向間違えたかな……」


 思わず足を止めて頭を掻く。その時、聞き慣れない音が耳に入る。


「ん?」


 耳に神経を集中する。微細な肺音を捉えるときのような集中力で……


 ヒュー、ヒュー……


「呼吸音、弱いし、早いな……」


 更に集中して方向を……森の静寂がありがたい。


「こっちか!?」


 俺は走り出す。木の枝や蔦や草が当たるが関係ない、そしてすぐに呼吸音の正体を突き止める。


「猫……にしてはでかいな……豹とかか? ひどい傷だな……」


 胸部に外傷、呼吸促迫、胸腹式呼吸。出血量は傷に対しては少ない、運良く肋間の血管は無事かな?

 意識レベルは低い、可視粘膜は蒼白、ショック状態、CRT(毛細血管再充填時間)は2秒以内……。

 責任病変は胸腔の傷か……? なんだこれ? 刃物で切られたような……

 消毒してドレーンを入れて持続吸引をかけて縫合ってとこだが……

 道具が……

 俺が一通り診察をして、必要な処置を考えても、今の俺には道具がない……

 立ち上がり周囲を見渡し、なんとか傷を保護する物でもないかと立ち上がると、明らかに白衣に違和感がある。

 メモ帳と筆記用具が入っている側と反対側が、ずしりと重い。


「なんだ? こ、これは……!」


 見慣れた生食(生理食塩水)バッグにイソジン、毛刈り剪刀に胸腔内ドレーンと非吸収糸、滅菌バッグされた処置用手術道具にガーゼなどいくつかの消耗品がポケットにパンパンに入っている。明らかにポケットは巨大化している。


「いやいや、絶対に無かったぞ! ……そうか、コレ、夢か!

 ならいいや、助かる!!」


 震災のときにボランティアで治療にあたっていた頃を思い出す。

 電気も使えずにあるものでなんとかして治療を行った……必死に目の前の動物を助けたあの時間は、何物にも変えられない経験だった……

 まずはショックの保護、前腕に留置をとって生食を点滴、患者を抱き上げて大体の体重を計る。

 12.3キロぐらいだろう。

 これは、なんとなく仕事をしていて身につけた。今では誤差は100gくらいまでで体重がわかる。

 近くの枝に点滴バッグを引っ掛けて、全開で流し始める。

 剪刀で傷周囲の毛を手早く刈り取る。

 生食で毛と汚れ、血液を落として、イソジンを希釈して吹き上げる。

 内部も何度か生食で洗浄して、現在進行系の出血がないかを確かめる。

 それから胸腔内に生食を満たして、外傷性の気胸などが無いかを確かめる。

 

「新たな鮮血はない、エアーも漏れ出ないな、よし、ドレーンを入れて閉創する」


 炎症が酷い皮膚は切り取ってなんとか傷を縫合する。

 あまり緻密に縫いすぎると感染が起きたときに破綻する。あえて大きく拾って余裕をもたせて縫合する。


「夢なんだろ、注射も出てこい」


 念じれば通じる。持続性のセファム系抗生物質と、ニューキノロン系の抗生物質、NSA(非ステロイド性)IDs(消炎鎮痛薬)が体重に合わせて吸われた状態で現れたので注射する。

 処置を終えると目に見えて呼吸様式が改善してくれた。

 滅菌布をシーツ代わりに近くの草むらに患畜を寝かして一息をつく。


「ちょっと乱暴だけど、なんとかなるだろ。猫はつえーからな」

 

 随分と落ち着いたので、点滴は500mlのバッグを一つ入れて止めておく。

 加水和になられても困るし、内股もしっかりと触れるし、様子を見てもいいだろう。


 猫にしては大きなその子の頭をなでてやる。

 落ち着いてみると、美しい銀色に似た毛色にぶちが規則正しく並んでおり、一見するとベンガルとかその仲間みたいな美しい紋様をしている。なでていると柔らかい毛並みがとても心地良い。

 猫も安心したのか、呼吸は更に落ち着いて静かにゴロゴロと喉を鳴らしている。

 リラックスしたときもなるが、体調が悪いときにも鳴ることもあるゴロゴロ音、未だに謎が多い仕草だ。


「人間はこのゴロゴロ音を聞くとだめになっちゃうんだよなぁ……

 でっかくて……可愛いなぁ……」


 何が起きたかわからない中、長距離を歩き、突然のエマージェンシーの処置を終えて俺の気持ちは緩んだのだろう。そのゴロゴロ音を聞きながら、その大きな猫を抱きかかえるように眠ってしまうのだった。




これ一本に集中して頑張れる環境ができたら、本気を出します!


のんびりとお待ち下さい!

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