強さ
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その分長めです!
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陽翔が王国にきて早いもので1週間が経った。
大分異世界での生活に馴れてきていた。
そんな陽翔の生活は、ほぼ毎日同じ事の繰り返しだ。
まず、朝起きると陽翔は瞑想を始め1時間という間、ただひたすらに座禅を組んで動かない。
この行動にはもちろん意味がある。瞑想により魔力の流れを感じとり、体にとどめなく、行き渡せるようにすることで、魔力操作の技術と魔力増強する事ができるのだ。
それが終わるとギルドに向かい、そこで簡単なクエストを受けるのだが大体は薬草採取だ。
クエスト中に地形を覚えつつ、どこに魔物がいるのか、メモしておく。
クエストを終えると、図書館に向かう。この世界の知識、生き物の知識を付けるため夜遅くまで、本を読み漁る。そうして1日を終え、宿に帰り体をタオルで拭き寝る。
これが大まかな陽翔の1日だ。全く持って面白味が無い。
そもそも基礎は大事だと言うもののキツイ練習を、続けることは難しい。
「それでも強くなるために・・・」
と街を歩きながら陽翔は呟いた。
「だけどもうそろそろ討伐クエストを受けた方がいいかな」
基礎は大事だが、ただただ基礎能力を上げたところで実践経験がなければ強くはなれないだろう。
が、人は嫌なことからは避けてしまうものだ。陽翔の場合、討伐という命の奪い合いが嫌で、めんどくさくて地味な基礎練に逃げていた。
「逃げて逃げてどうするんだよ・・・」
陽翔は手を握りしめる。
「死なないように今まで準備してきたんだ・・・」
陽翔は決意し、ギルドへと歩き出す。
気分は憂鬱だった。死なないように努力してきたとはいえ、死ぬかもしれないのもまた事実である。
それでも陽翔はしっかりと前を見て歩いた。
「ハルト様、おはようございます」
「おはようございます、セイナさん」
もはや恒例と化したこの会話。これはセイナが陽翔のことに少し興味があり、陽翔を見かける度に挨拶をしていたことが発端である。
「今日も薬草採取ですか?」
「いえ・・・討伐クエストをお願いします」
セイナは陽翔の顔に覚悟があるのに気がついた。悲しげな表情を一瞬浮かべて笑顔を作る。
「分かりました」
セイナは陽翔に合ったクエストを選び差し出す。
「ありがとうございます」
クエストの内容はゴブリン5体の討伐、期限は明日まで。
陽翔は体を強張らせた。
ゴブリンといえば、陽翔が死にかけた一週間前のことがある。
(ゴブリンなんて、主人公キャラに瞬殺されるイメージしかないけど・・・)
ゴブリンにはそこまで高い知能はないが、姑息で群れで行動する。群れに囲まれでもしたら一貫の終わりだと容易に想像できるだろう。
「群れからはぐれた個体を狙うのは前提だ」
陽翔の武器は短剣。回避を重点におき戦うスタイルだ。故に真っ正面から挑んでも勝ち目は薄い。
「魔力強化した攻撃で後ろから仕留めれたらベストだけど・・・」
もし、仕留めきれず仲間を呼ばれたら死のリスクが一気にはね上がる。
「麻痺薬を塗っておくか」
持って行くものを1つ1つ確認していく。最後に短剣に麻痺薬を塗り準備が完了した。
「よし、行こう!」
陽翔は震える足を叩き、力強く踏みしめた。
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「グガァ」
陽翔は身を潜めてゴブリンの様子を伺っていた。
(あいつ、はぐれゴブリンか?)
その場からスッと離れ辺りを見て回る。近くに別ゴブリンがいないのを確認し、元の場所に戻ってくる。
(狙い通りはぐれを見つけれた・・・あのゴブリンが仲間の所に行く前に仕留めないと・・・)
陽翔はゴクリと生唾を飲み込んだ。短剣の柄を握る手はガタガタと震えている。必死に抑えているが歯もガチガチと音を鳴らしている。
(怯えるな!勝たなきゃいけないんだ!)
深呼吸を繰り返し、呼吸を整え敵を見据える。
(今!)
ゴブリンが後ろを見せた瞬間、魔力で足を強化して加速する。そしてすぐさま、短剣を抜き、首目掛けて突きを放つ。
「うぉぉぉぉぉぉぉ!」
陽翔に格闘の技術はない。陽翔の動きはまさに素人だ。しかし魔力強化した陽翔の渾身の一撃はいとも簡単にゴブリンの首を貫いた。
「グギャ!」
ゴブリンから血が流れ出る。ビクビクと痙攣を起こしてやがて動きを止めた。
「倒せた・・・?」
倒れるゴブリンを見て徐々に実感がわく。
「うっ!?」
同時に血の生臭さと肉を貫いた感触から猛烈な吐き気が襲った。
「ぇぇぇぇ・・・」
その場で嘔吐し、地面に手をつき激しく息をする。
(分かってた気持ち悪いくなることくらい・・・!)
頭では分かっていても、覚悟していても吐かずには居られなかった。
しばらくして陽翔は拳を握りしめつつ、立ち上がった。他の魔物が現れなかったとは不幸中の幸いだっただろう。
「スゲーよな・・・主人公ってやつは・・・」
(大切な人をいとも簡単に助けて笑えるなんて俺はしたくても出来ない)
(弱い・・・何もかも・・・)
自分に失望しながら陽翔はナイフを持ち、ゴブリンに近く。
ゴブリンの体内から魔石を取り出すためだ。
「これくらいで何度も吐いていられない!」
ゆっくりと解体していくが、綺麗にとはいかない。
(今度ジンさんに捌きかたとか教えてもらおう)
それでも着実に捌き、魔石を取り出せた。
「これが、魔石・・・か」
魔石は魔力の源だ。この世界もゲームなどと同じように日常製品のほとんどをこの魔石で作っている。
だが、陽翔には他に目的がある。
「これでよし」
ゴブリンの死体を焼き、その残骸を埋めて処理を終える。
「あと4匹か・・・」
気分は最悪だが、陽翔は次の目標を探し始めた。
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「次でラストだな・・・」
ゴブリンを探しながら呟く。
吐きそうになりながらも4匹目を倒し、残り1匹となっていた。
(もう日も沈み始めている・・・)
迅速になおかつ慎重に行動しなければならない。
陽翔の集中力や体力も限界が近い。
(体力づくりしないといけないな)
今後のクエスト達成に欠かせないだろう。
(いた!)
そのゴブリンは座っていた辺りをキョロキョロと見渡したりしている。
(油断するな慎重に確実に)
背後にゆっくりと移動する。そうした後、落ち着くために深呼吸をする。
(よし!)
陽翔はこれまでと同じように一瞬で近寄る。
しかしゴブリンまで後一歩の所で急に足元がとられる。
「なっ!?」
(落とし穴!?)
陽翔は落ちる前になんとかしがみつく。
「罠だったか!」
穴の上を見ればゴブリンがニヤニヤしながら立っていた。
(ヤバイ!)
「グガァ!」
ゴブリンの剣は背中に刺さる。しかし深く刺さる前に陽翔は残り僅かの魔力を使い穴から飛び出る。
「くっ!」
陽翔は短剣を構えながらも痛みに顔を歪める。
「殺られる訳にはいかないんだよ!」
ゴブリンが間合いを詰めて剣を振りかざす。
「フッ!」
陽翔は短剣で弾きつつ、蹴りをいれる。
「ガッ!?」
よろめいたゴブリンにすかざす、追撃をしようとする。
が、ゴブリンはそこで砂を投げつけた。
「しまっ!?」
砂で、視界が封じられ、隙ができてしまう。そこをゴブリンが逃がすはずもなく陽翔の腹部が斬られる。
「ぐっ!」
痛みを堪えながら剣の間合いが届く距離を斬った。
「グギャァ!」
短剣はゴブリンの目を斬りつけ、ゴブリンは悶絶する。
陽翔はなんとか視力が回復し、そして・・・
「終わりだ!」
ゴブリンの首を切り裂いた。
「ギャゥ」
「はあ・・・はあ・・・」
戦闘が終わり、生活魔法で火を起こしてゴブリンを燃やし、急いでその場を離れる。
「ギリギリだった!」
バックからポーションを取り出し一気に飲み干す。
「っはぁ」
飲み終えると少しずつ傷口が治っていく。
「助かった・・・」
(ゴブリンですら今の俺では強い・・・だけど)
魔物を倒すと魔力量が増加する。同じ相手にはそこまで貰えないが少しずつ強い相手を倒して行くことで魔力量は爆発的に増える。
しかし最初の戦い勝てればの話だ。
大抵の冒険者はここで死ぬ。まだ自分の能力の使い方すら知らないのに始めから魔物に挑み、そして死ぬ。
陽翔は死なないために自分に出来ることを把握し、勝算を少しでも上げようとする努力をしたが、故生き抜けたのだ。
(少しずつでも強くなっていこう)
決意を新たにし強くなったことを、実感しながら前を見た。
「帰るか」
そう言って夕日に向かって陽翔は走り出した。
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「お帰りなさい・・・ハルト様」
「ただいまセイナさん」
セイナとのあいさつをして、帰ってきたと実感する。
長いようで短かった1日を終え、死線を掻い潜って帰ってきた陽翔は心からの笑顔を咲かせた。
体が重いですね。
個人的にですがゴブリンって絶対強いと思うんです・・・