契約 (中)
早めに投稿できました!
そろそろクライマックスです!
陽翔は時間より早めに場所に向かう。
もうすっかり見慣れた街を眺めながらふと疑問に思った。
「なんだ?妙に騎士があわただしく動いてるな・・・」
街の中をそこそこの数の騎士が走ったり人々に話を聞いていたりしている。
「そこのお方」
と陽翔にも声がかかる。
「はい?」
「貴方と同じ年位の金の髪をした少女を見ませんでしたか?」
「いえ、そのような少女は見ていません」
「そうですか・・・」
騎士は優しく微笑み礼を述べる。
「すみません、お力になれず・・・」
「そんな!本当に助かります!ご協力ありがとうございまた」
そう言って騎士は歩いていった。
それを確認してから陽翔は呟く。
「騎士の探す金髪少女か・・・もうこれ、王女とかでしょ・・・」
(王女脱走ってところか?)
騎士が慌てるほどのことといえば今あり得るのは確かにそれくらいだろう。
「どちらにせよ俺に関係無いか・・・」
(なーんてフラグ立ててみたり)
とりあえず指定場所に向かうため歩き出す。
時間より少し早めに正門前に着くと、ローブに身を包んだ女性と思わしき人が立っていた。
相手も陽翔に気づく。
「貴方が依頼を受けて下さったハルトさんですか?」
その人物は陽翔の予想通り女性のようだった。また、背丈からして少女であろう。
「はい、依頼を受けさて貰った陽翔です」
そう陽翔が返事をすると、
「やっぱり!よろしくお願いいたします」
と嬉しそうに応えた。
(この人天然だきっと)
謎めいた確信をする陽翔。時間もちょうど9時だった。
「それじゃ行きましょう、か」
「はい!」
(絶対そうだ)
そんな変な事を考えながら陽翔達は王都を出発した。
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「ハルトさんはどうして冒険者になられたんですか?」
出発してから陽翔は質問攻めをずっと受けていた。
「なり行きですかね」
「なり行きでも凄い事です!人々を救うお仕事に就けるなんて!」
こんな感じでずっとハイテンションである。誰でも知ってそうなことを聞いてくる事がある。
まるで常識を知らないかのようだ。
(まさか、まさか、な?)
陽翔は首を振りそんなわけがないと否定する。だからという訳ではないがしかし、
「私にも人のために何か出来るでしょうか・・・」
その問いには陽翔は返事が出来なかった。きっと出来るとか、出来ると、応えれば良かったのかもしれないが陽翔には出来ない。自分に出来ていないと思っているからである。
そんな陽翔を他所に少女は思いを馳せる。少女にとって、誰かを助ける事の出来る人はそれこそ英雄のようだった。
(私は英雄になれないけど、その手助けぐらいしたい!)
そんな強い意識が彼女にはあった。
それを本能的に感じ取った陽翔には少女が眩しく見えた。
「優しさ、か・・・」
(優しさってなんだ?なにが優しさなんだよ・・・)
そんな答えの出ない事を考え続けているときだった。
ガサガサと草木が揺れる。
風に乗って獣の匂いと血の匂いが流れてきて陽翔は警戒心を強めた。
「止まって」
「は、はい」
戦闘とは程遠い生活をしてきた少女にもさすがに理解できた。
(何かいる)
護衛任務のためその場で動かず、陽翔は集中する。短剣を握り、辺り一面を警戒する。
唐突にガサッと音が鳴る。陽翔が瞬時にそちらを見る。
そこにはゴブリンがいた。いや正確にはゴブリンの死体だ。
その死体は見事に頭がぐちゃぐちゃにされていた。
「ひっ!?」
遅れて見た少女はあまりの惨さから悲鳴を小さく上げ、目を逸らす。
昔の陽翔なら吐いただろうが、今の陽翔は冷静に事を見極める。
(来る!)
そしてガサガサとゴブリンと同じ方向からゆっくりと獣が出てくる。
そいつは口にもう一匹のゴブリンの頭を咥えていた。
全身は赤い体毛に包まれていて、まるで血のようだった。
陽翔達を視界に入れると同時に、ゴブリンの頭を噛み砕く。ゴブリンの体がビクッビクッと痙攣を起こしやがて止まる。血が溢れ出て獣の姿はさらに醜悪となる。
「あ、あぁ」
少女は恐怖に身を震わせた。後ずさり、倒れ込む。ローブもめくれ、隠していた素顔と綺麗な金色の髪があらわになる。
それでも少女は目を離すことが出来なかった。背中を見せて逃げようものなら、殺されると本能が理解していたから。
そんな中、陽翔は目を丸くして、獣を見る。
「ブラッド・ウルフだと?」
陽翔の脳裏には昨日の記憶が再生されていた。
『いいですか?』
『は、はい』
『ブラッド・ウルフは希少個体なんです』
『希少個体?』
『はい・・・ウォールフを知っていますか?』
『二匹でワンペアで行動する四足型魔獣ですよね』
『そうです、ブラッド・ウルフはウォールフの希少個体で、ほとんど生まれることはありません』
『じゃあ何が原因で生まれるんですか?』
『二匹のウォールフの間に子供が出来たときに争い、母親が相手を食らうんです』
『く、食らう!?』
『そうやって生き残り、子供が母親を突き破って出てくるんです・・・それが・・・』
『ブラッド・ウルフ・・・』
『ブラッド・ウルフの戦闘能力はランクCに相当します・・・もし遭遇してしまったら無理せず逃げて下さい』
「希少個体がこんなときに・・・!」
今の陽翔は一人ではない。腰を抜かし座り込んでいる、金色の髪を持った少女をチラリと見る。
陽翔は舌打ちしたい気分だった。
(ランクC相手じゃ逃げるのが精一杯なのにこの子を守りなが逃げ切るのは不可能だ・・・)
そこまで陽翔は強いはずがなく、勝機など無に等しかった。
(この子が逃げ切りつつ俺自身なんとか生き残れるには・・・)
「君、立って」
「え?」
いきなりそう言われて少女は何を言われたのか分からなかった。
「逃げて」
それを言われてどういうことか少女は理解した。
「そ、そんなこと」
「これがお互いが助かる方法だよ」
少女は反論しようとしたが、陽翔の手が震えているのに気付き、止まる。
「王都に戻って助けを呼んできてくれないかな」
陽翔の覚悟を無駄になど出来なかった。でもだからこそ少女は、
「私が戻るまで生きていてくれますか?」
そう思った。
「約束するよ、だからさぁ」
生き残れる確率は限りなくゼロだ。陽翔の背中を見て少女は唇を噛みしめて立ち上がる。
「どうかご無事で・・・!」
少女は精一杯走り出した。
少女が走り去るのを背中で感じながら陽翔は冷や汗を垂らす。
「さて、どうしたものか・・・」
陽翔は真っ直ぐブラッド・ウルフを見て、苦笑を浮かべ短剣を抜く。
「約束は約束だ・・・だから出来るだけ足掻かせて貰う!」
それに応えるようにブラッド・ウルフは陽翔を見据え構えた。
「何としてでも生き残る!」
ブラッド・ウルフと陽翔の死闘が幕を上げた。
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