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学園の硝煙弾雨  作者: 激辛 ゆりあ
3/3

第二話:雛雲学園

 

『レイダー』

 英語で“侵略者”の意味を指すその存在は、なんの前触れもなく突如として我々人類に襲いかかった。

 様々な外見、様々な大きさのその怪物は、しかして…圧倒的なその攻撃力により瞬く間に人間の住まう大地を侵略していった。


 日本とて例外ではない。


 レイダーは突如としてそこに現れ、壊し、奪い、殺して、去っていく。


 自衛隊や警察の物理的攻撃では歯が立たず、かといって薬物兵器も環境を汚染するだけの無駄足であった。


 しかし、レイダーが攻撃の手を休めてくれるわけもなく、日本大陸はみるみるうちにその姿を荒野へと変えていった。

 そして、間も無く日本の心臓部である大都市、東京がその絶望に飲まれようと言う時…


 地球上で初めてレイダーの侵略を受けた大国アメリカが、唯一レイダーに友好的な攻撃方法を発見したのである。


 それは“魔法”ーーー…

 いつからか人間の生活に溶け込み、当たり前のように使って来た、紛れも無い魔法だったのだ。


 そのことにいち早く気付いたアメリカは、経済力や技術力に物を言わせ、ものの短期間で武器に魔力を組み込むことに成功すると、瞬く間に大陸全土に蔓延る悪の根源を殲滅していった。


 それを目の当たりにした日本を含む周辺諸国は、国中の経済、技術、戦力を総動員して兵器を作り上げると、アメリカ同様、自国の力のみで敵を屠ることに成功したのだった。


 このことが学校の歴史の授業で取り上げられるくらいには昔のことになった今現在ーーー…


 レイダーに対する法律や考え方も新しくでき、結果として、私たち高校生も武器を手に取るようになった。

 いや、正しく言うと()()()()退()()()()()()()()()()()()()()()


 理由は簡単だ。

 人間の成長の中で、最も保有魔力値が高くなるのが丁度高校生の年代だからだ。


 勿論、この政策が決まった当初は多くの反対運動があったらしいが、他に友好的な手段も意見もなく、最終的には政府が国民を黙らせると言う少し強引な形でこの政策が決定した。


 そして、それに伴い全国各地に新しく設立されたのがレイダーとの戦いだけに特化した学園都市型の高等学校である。

 まさに字の如く、学園の敷地内には学生寮は勿論、生活には困らない程多くの商品を取り扱う購買の数々や、様々な科が併設された大規模な病院、そして軍の司令部も完備されている。

 本当に学園の敷地から一歩も出なくて済むような作りである。


 そんな日本有数の、対レイダー大型学園“雛雲(ひなぐも)”に、私と…戦友の『鞘舞光一(さやまこういち)』は転属して来た。



「…へぇ」



 資料にあった通り随分と綺麗だなー


 そう零した光一にチラッと視線を向けてから私は、そうだね、と同意の言葉を告げた。


 時刻は丁度午後一時…

 午後の授業は既に始まっている頃だろう。


 雛雲の地下に電車が到着して、転入・転属の手続きを終えた私たちは学園の校長から挨拶があると言われて待機をしているのだが、かれこれ十分以上は立つであろうに一向に校長が現れる気配はない。


 そんな矢先に光一が暇そうに口を開いたものだから、何故か一気に引き締まった気持ちが緩んでしまった。


 でもまぁもう暫くは気を抜いてても平気そうだし…


 なんて、私も光一同様周囲を見渡すと、なるほど確かに資料で読んだ以上に校舎や設備は綺麗な学園だった。



「ここまで来る途中に見えた訓練施設も、結構最新式の設備が揃ってたよな?」


「うん。それこそ向こうの学園にすらまだ無いような最新のが、ね…」


「どんだけ金持ってんだ、ここの校長は…」



 私たちが元々いた学園は、大都市東京にある学園都市だった。


 しかし、言い方は悪いが東京に比べるとかなり田舎のこの学園に、私たちが話題にするような最新鋭の訓練設備が整っている理由。

 それは、この学園都市を運営する()()に理由があった。


 そもそも、まさに街一つ分あるかの様な広大な敷地の学園を運営するには、莫大な経済力やカリスマ性が求められる。

 その為、全国の中でも運営する学園の数には限りがあり、生徒数の問題も含めて数年に一、二校ほど閉鎖を余儀なくされる学園があるのは事実だった。


 そんな危機的状況の中でのこの施設力…

 色々な意味で校長と対面するのが怖くなって来た私たちは、人知れずお互いに無言になりつつあった。


 そんな最中…



 ガチャッ



「!」

「!」



 私たちの心境を知ってかしらずか、前触れもなく開いた扉からは一人の女の人の声が響いて来た。



「お、お待たせしましたぁー!!」


「………」

「……?」



 何故か汗をかき肩で息をするその人は、荒れた髪型とズレた眼鏡を直しながらシャンッと背筋を正すと、これまた慌ただしく口を開いた。



「えぇっと、ふっ、二木(ふたつぎ)しおんさんと、さゃッ、っ鞘舞光一さん、っですね!?」


「…はい(噛んだ…)」

「はぁ…(噛んだな)」


「大っっ変お待たせをしておりますっ!わ、(わたくし)、校長の秘書をしておりますっ、桃園朱音(ももぞのあかね)と申しますッ!!」



 こんなんで秘書なんて務まるのだろうか(失礼)と心配になるほどあばあばしたその人は、桃園朱音と名乗った。


 余談だが、以前貰った資料には雛雲(こちら)の人物的な意味での記載はなかった。

 と言うのも、私と光一は新年度と同時に…つまりは二年生になるタイミングで雛雲に転属して来た。

 なので、新年度で忙しいこの時期は新しい赴任教師についてもまだ未定などの理由により、詳しい知らせは一切なかったのである。


 そんなこんなでの桃園さんとの対面に、私たちは緩んでいた気持ちがまたさらに緩んでしまった。



「あ、あのあのっ!お待たせしてしまった上で申し訳ないのですがっ…!!」


「?」

「?」


「校長の準備ができましたのでっ、ご、ご移動していただいてよろしいでしょうかっ!?」



 いやだ、と言ったらこの人はどうなってしまうのだろうか。

 と思ったのは内緒である。






 ***






「す、すみません!お待たせをしましたっ!僕がこの学園のこッ、こ、校長ッ、ひっ雛雲英輔(えいすけ)です!」



 校長室へ移動して早々、こちらが挨拶の言葉を発するよりも早く勢いよく頭を下げた目の前の男性は、聞き間違いではなければ自らを校長と名乗った。


 いや別に、校長と名乗ること自体に可笑しな点は何らない。

 問題はその男性の容姿にあった。



「ぇ、こ、校長…先生?」


「は、はいぃぃぃぃぃッ!!こ、こんなですがっ、正真正銘この雛雲の、こ、こここ校長ですっ!」


「………マジで(ボソッ」



 桃園さんと同様…いや下手すればそれ以上にドギマギした様子のその人は、どこからどう見てもまだ二十代の若者に見えた。

 下手すら高校生と言ってもいいだろう。


 とにかく、それほどまでに若い男性…いや、青年だった。


 これには流石の私たちも思わず顔を見合わせ、転属早々困惑モードになってしまった。


 しかし、そんな不安しかない空気も、扉の向こうから現れた新しい声によって助けられた。



「安心してくれたまえ。見た目はそんなだが、彼は紛れも無いこの学園の校長だ」



 そう言って姿を表したのは、目の前の校長とは真反対の百戦錬磨の戦士を思わせるような屈強な男性だった。


 明らかに学校関係者ではなく軍関係者のその風体に、私と光一は今までの動揺一変、キリッと表情を引き締めた。



「お初にお目にかかる、二木少尉、鞘舞少尉。私はこの学園で総司令官補佐を務める、波左間(はざま)源十郎(げんじゅうろう)、なに…こんなナリだが只の老いぼれたお飾り大佐だ」



 わははははッ、と緊張する私たちを置いて豪快に笑い出す波左間大佐。


 転属してまだ間もないが、この学園にはクセの強い人が多すぎる。


 ちなみに、私と光一の階級だが、学園に入学した時点で全ての生徒には()()の階級が与えられる。

 詳しいことはわからないが、階級を与えることによってレイダーと戦う緊張感や責任感を感じさせるためだとか、高校生ながら命をかけて戦うことへの敬意を表しているだとか、理由は諸説囁かれている。


 で、話は元に戻るが、何故この場に学園のNo.2とも言える大佐が現れたのかとか、今だに目の前で冷や汗を流しているこの青年が本当に校長なのかとか、私たちには確認しなければならないことが山積みである。


 しかし、そんな私たちの心中を察知してか、波左間大佐は再び口を開いた。



「ふむ、まずはこの校長について説明をしよう」


「はっ」

「はっ」



 楽にしてくれたまえ


 そう言われて私と光一は一瞬躊躇した後、構えの姿勢を解いた。



「まずはじめに…こやつは今年度、つまりはつい先日ここの学園に着任したヒヨッコだ」


「え」

「は?」



 思わず溢れ出てしまった言葉。


 慌てて口を噤んだが大佐は対して気にしない方なのか、特に咎めることもなく話を続けた。



「驚くのも無理はない。元々はこやつの祖父が校長を務めていた」


「で、ですが…先月その祖父が体調不良で倒れてしまいまして…」


「現状、すぐに学園に戻ることが難しかった為に新しくこやつが就任するにあたった」


「あ、あはははは…」



 そう言って真っ青な顔になってしまった校長。


 もはや何と言葉をかけたらいいかわからない。



「余談だがこやつもこの学園の卒業生でな」


「!」


「…と、と言っても、まだ二年前のことなんですけどねっ」


「はっ…?」


「ということは、まさか…」


「は、はい…ッま、まだ二十歳になったばかりの只のガキですぅ…」


「………」

「………」



 かつての戦友諸君へ

 どうやら私と光一はとんでもない学園へ来てしまったようです…






 ***






「ここがしおんさんのお部屋です!」


「ありがとうございます」



 あれから数時間後…


 驚きすぎてもはや言葉を失った私と光一に、校長と大佐はさらに追い討ちをかけるかのように爆弾発言を落とした。


 それは、軍人でもあった前校長が学園の校長と総司令官を兼任していたこともあり、新しく校長に就任した孫の英輔が総司令官の席をも引き継ぐことになった、ということである。


 流石のこれには私も光一も思わず口を開いたが、大佐が「表面上だけで実質は私が指揮をとる」というものだから、二人して渋々頷いてしまった。


 とまぁ、転属早々胃が痛くなりそうな展開だったが、何とか話が終わった今現在…

 私は桃園さんに案内されて今日から新しく生活をすることになる自身の部屋へと案内された。


 ちなみに、女子寮と男子寮が分かれていることもあり、光一とは校長室の前で別れた。



「お部屋は一人部屋です!お掃除は済ませてあるので安心してください!」



 そう言ってにっこり笑顔を浮かべた桃園さんにお礼を言うと、彼女は明日午前8時に校長室へ訪れるように告げてから退出していった。



「ふぅ…」



 無意識に息を吐く。

 戦闘後でもないのに酷く疲れてしまった。


 主に精神的に…だけど…


 そう小さく囁いてから、私は一人気持ちを切り替えると、新しい自分の空間を作り上げる為に荷解きを始めたのであった。


 勿論、翌日に待ち構えている、今日以上の驚きがあるとも知らずに…

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