19―夕飯のお買い物4
ショーマとアンズはリンドと別れ、アルカンの町を歩いている。
「ねぇ、リコちゃん?俺ら買い物に来たんだよ?ナゼ市場を素通りするのかな?」
「いいから!ウィーはあたしに着いてきなさい!」
アンズはショーマの手を引いて、大通りをずんずんと海に向かって歩いている。ショーマははぁーっと溜め息を吐き、前を行くアンズに従った。
アルカンの町は西側が海に面した半円状の町だ。円弧の中央部にある東側の門を入るとすぐにちょっとした広場があり、そこから道が枝分かれを繰り返し方々へ張り巡らされている。その中でも一番人通りが多く幅の広い道がまっすぐ西側の海へと延びている。この大通りには所狭しと屋台同然の店が軒を連ね、通り全体が市場になっていた。ちなみに、住宅街は市場の後ろにある。
町を囲う塀の外は少し南下すると海岸線に砂丘が数キロに渡り続いていて、北側は山脈が迫ってきている。その山脈の向こう側がショーマ達の住んでいる領域になる。
「ねぇ、リコちゃん。どこを目指してるの?そろそろ教えてよ」
ショーマはアンズに引かれるまま着いていく。アンズの目的が解らない様だ。一方、アンズはナイショと答えず更にずんずん進む。程なくして二人は浜辺に出た。
「あたしね、あれが見たいの!さっきおじいちゃんに肩車して貰って見えたんだ!」
アンズは遠くに浮かぶ大型船を指差した。
「船が見たいの?まぁ、リコちゃんからしたら珍しい。のか?」
「ウィー、あれは船って言うの?あたし、あんなに大きいの初めて見た!なんであんなに離れてるんだろ。小さいのはこっちまで来てるのに」
「あの船はたぶん喫水の関係であれ以上海岸に近付けないんだと思うよ」
「きっすい?」
「大きい船は小さい船に比べて深く沈むんだよ。この辺は浅瀬だから入って来れないんだね。まぁ、詳しくは家に帰ったらお父さんにでも聞いて」
「ふーん。わかった。帰ったらパパに聞いてみる」
「そうして。で、気は済んだ?」
そろそろ買い物しないと、じいちゃんとの待ち合わせに遅れちゃうよ。てか、あの広場からあの船が見えたの?ここに立ってもかなり遠くに見えるよ。アンズ姉ちゃんメッチャ視力良いんじゃん。
「ウィー、あたしはちょっと見てくるから。ここで大人しく待ってなさい!」
アンズはそう言って、ショーマから手を離した。
・・・は?
「ちょっと待ったー!!!」
ショーマはアンズが歩き出す寸前で彼女の腕をギリギリ確保した。
「え?何?」
「リコちゃん、今何しようとした?」
「何って、あの大きな船の近くに行こうとしただけだよ?」
「どうやって?」
「え?飛んで?」
アンズは悪びれもせずに答えた。ショーマはアンズの答えに頭を抱える。そして大きな大きな溜め息を吐いた。
「はあぁぁぁー。リコちゃんさぁ、俺との約束覚えてる?」
「えっとー、なんだっけ?」
アンズは完全に忘れているのか、きょとんとショーマを見返した。
「魔法を使わないし、ドラゴンにならないって約束したでしょ!?」
アンズはアッという顔をしてショーマを見た。
「リコちゃん、約束守ってね?守ってくれないと帰らないといけないからね?リコちゃんのお母さんと約束したから」
「ママと!?うん。わかった。船を見に行くのは我慢する」
「良い子だね。じゃあ、買い物に行こうか」
ショーマはしょんぼりとするアンズの頭を撫でて市場へ促した。
「もう!あたしの方がお姉さんなのに!」
アンズはショーマに子供扱いされてちょっぴり拗ねてしまった。
◇◇◇
ショーマはアンズを引き連れて、市場を練り歩く。
「おう、嬢ちゃん達お使いか?」
ショーマは近くの屋台のオヤジに声を掛けられた。
「ざんねーん。俺はお兄ちゃんでーす」
ショーマはさっさと否定する。ラアイテで散々やったこのやり取りはアルカンでも変わらず行われる様だ。
「おいおい、その面で野郎かよ!?」
店のオヤジはショーマが男と知り、思わず突っ込んだ。
「そんなこと言われても、親の顔貰ってるんで」
「そら違いねぇ。お前さんがそんな顔なら、お袋が美人なだけでなく、親父も相当色男とみた。どうだ?」
「そうでもあるねー」
「そうだろう。そうだろう」
店のオヤジが納得したところで、ショーマは商品の方を見る。
「おっちゃん、それダイコンだよね?」
「おぉ、よく知ってるな!これは今日商船から仕入れたんだ。こっちの丸っこいヤツもそうだぞ。どうだ、買って行かないか?」
「へぇー、カブもあるんだ。商船って沖に停まってる大きい船?」
「ああそうだ。キリナントル商会って所が、定期的にアルカンに船を出してるんだ」
「ふーん。どれくらいの頻度で来るの?」
「大体月1ってところだ。まあ、天候次第だがな。これからは寒波で海が荒れるから次は2、3月後だろうな」
「へぇー。おっちゃん、このダイコン買うよ。ここに5って書いてあるけど、銅貨5枚って事?」
「おや?アルカンは初めてか?」
「うん」
「どの店も商品の所に数字が書いてあると思うが、それが銅貨何枚って事だ。ダイコンは5だから銅貨5枚で合ってるぞ」
「そうなんだ。教えてくれてありがと!」
「こっちこそ、ありがとな」
ショーマはダイコンを買いつつ、いろいろな情報を仕入れて次の店へ行く。代金に情報代を上乗せすることも忘れない。
その間アンズはつまらなそうにショーマの上着の裾を握っていた。
◇◇◇
はぁー。鮭は川が近くに無いと流石に捕れないのかな?それか、大陸が違うのか。うーん。時間が悪いのか、なかなか良さげな魚が売ってないね。
ショーマは不貞腐れるアンズを連れ、先程から魚屋を数軒冷やかしている。丸々と太って脂の乗った旨そうな魚はなかなか見つからない。
更に何軒か巡ると、今までの店とは違う魚を扱っている店に当たった。
その魚は丸々と太って眼光鋭い。腹の白銀色と背の鉄紺色のコントラストが映え、その境目には黄色でラインが引かれている。また、尾びれは金色に輝き、口先は紅を引いた様に紅く染まっていた。
よっしゃ!ブリキター!!はっ!これはブリしゃぶでもブリ照りでもなく、ブリ大根を作れと言う天啓!?
ショーマは先程買ったダイコンを思い出し、作るべき料理を思い付いた様だ。
「おっちゃん!これ銅貨70枚でいいの!?」
ショーマはすぐに値段を確認する。
「ああ。銅貨70枚だ」
「じゃあ大銅貨2枚でお願いします!」
「はいよ。釣りの銅貨30枚だ」
「うん。確認しました!」
ショーマは財布代わりの革袋にお釣りを仕舞う。
やったやった♪ブリゲット♪
ショーマはホクホク顔で、包まれたブリを受け取った。
「ありゃ?嬢ちゃん、さっきまでそこに妹が居なかったか?」
「え?リコちゃん?」
ショーマが会計している隙に、アンズはふらっとどこかへ行ってしまった様だ。
「おっちゃん、ありがと!」
ショーマは嬢ちゃんと呼ばれた事を訂正もせずに、アンズを探す為駆け出した。
クソッ!何が保護者だよ!アンズ姉ちゃんはやっぱりお子様じゃないか!
「リコちゃん、どこー!?リコちゃーん!」
ショーマは必死に辺りを探す。しかし、ここは市場と化した大通り。人が大勢いてなかなか巧く探せない。
「あ!リコちゃん!!」
ショーマはそんな中、通りの向こう側にアンズを見つけた。怪しげな男に話し掛けられている。男はアンズの手を引いてその場から離れようとしている様子。
「リコちゃん!クソッ、待て!」
ショーマは直ぐ様駆けつけたいが、人波がなかなか先へ進ませない。
そうこうしているうちに、アンズを抱き抱えた男が路地に入ろうとしている所が見えた。アンズは薬か何かで眠らされたみたいだ。
ショーマはなんとか人波を越えて男の入って行った路地に辿り着く。
「ハァハァ、ちくしょう!」
ショーマはアンズを抱えた男が見えない事に焦りながら路地を突き進む。少し進むと二又の別れ道になっていた。
「ハァ、どっちだ!?」
ショーマは勘を頼りに右側へ進む。
「ウッ」
ショーマは後ろから何者かに抱きすくめられ、口を布で覆われる。ショーマの意識はここで途絶えた。
ショーマとアンズが拐われてしまいました…
( ; ゜Д゜)
次回、脱出劇!です。
ショーマ頑張れー!笑
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