30―モフモフからの大爆笑
後半、第三者視点があります。
本日オマケあります。
ショーマは虎の魔物を変身させるべく、魔力を注いでいる。お兄ちゃんとしては、ドキドキワクワクして見ているヒスイの期待に全力で応えたいらしい。
一方、虎の魔物は自分がどうなってしまうのかとハラハラドキドキしている。
「──まだ?」
「もうちょっと」
「──まだ?」
「あと少し」
なかなか女神からのOKが出ない。
『そろそろ止めてもいいんじゃないかい?』
「いやいや、ここまできたら人化できるまでやるでしょ!で、女神様まだ?」
「あとちょっと──うん、溜まったよ!」
女神からの合図でショーマは魔力を注ぐのを止めた。女神は虎の魔物に向き少し悩む。
「えーっと、君、名前は?」
『はぁ、好きに呼んでおくれ』
「うーん。じゃあとりあえずトラ美ちゃんね」
うへっ、俺の名付けって女神様と同レベ!?
ショーマは女神の付けた呼び名を聞き、一瞬嫌そうに顔を歪めた。それに気付いたソラはおや?っと片眉を上げたが特に何も言わなかった。
女神は気にせず虎の魔物に指示を出していく。
「そしたら、自分の体内を巡ってる魔力をぐぐっと中心に持ってきてみて。で、それをぎゅぎゅっと凝縮して。器に全部押し込める感じで」
簡単に難しい事を言うと思いながらも、虎の魔物は女神の指示に従おうとする。
『なんだいこれは!うまくいかないね!』
虎の魔物は若干自棄になっている。うんうんと唸りながら四苦八苦していた。
「うーん。あ、そうだ!ソラ君とサクラちゃんで何かアドバイス出来ない?」
「助言と言われても、僕は息をするように自然とやっているから」
「私も同じね。生まれた時からやってる事だもの。今さらやり方なんて説明できないわ」
『助言が貰えないなら出来そうにないし、この話は無かったことにしようかね』
虎の魔物の言葉にヒスイは悲しそうに顔を俯かせる。ただ、虎の魔物を上目遣いでチラチラと見上げる事を忘れない。サクラはあらあらとヒスイの完璧なおねだりを見ている。
『うっ、そんな顔をしても出来ないものは出来ないんだ。諦めな』
ヒスイの可愛らしいおねだりに虎の魔物は顔を背けた。
「あ!そうだ!!でも、今は夜だから、うん!明日にしよう!」
「何が明日にしようなの?」
突然大声を上げ何かを思いついたショーマに皆を代表して女神が質問を投げる。
「やだなー。みんな気づいてないの?全てにおいてぴったりな人材がいるじゃーん。強くて人化もできる純白のモフモフが!」
ショーマの発言に女神とソラとサクラがそうだったと頷いた。話の見えない虎の魔物は頭にハテナを浮かべる。ヒスイはソラの膝から身体を乗り出し、短毛のわりにふわふわな虎の魔物に手を伸ばして嬉しそうに撫でている。
食事を終えたショーマとソラは、虎の魔物を洞窟に残して無人島へと舞い戻る。
洞窟から転移する間際、虎の魔物は完全にヒスイの枕と化していた。サクラの手入れが行き届いたふわふわの毛皮に包まれ、気持ち良さそうに眠っている。
◇◇◇
「おねぇちゃんたち起きた?」
ショーマは外で鍋をかき混ぜていたミクヤに声を掛ける。少し青臭い事から、何か薬の様なものを煮込んでいるらしい。
「ええ。みな目を覚ましました。会われますか?」
「うーん。今はいいや。何か必要なものがあったら言ってね。よしっ、午後も頑張りますかっ!」
ショーマはソラと共にハルスンブルへと転移した。
ハルスンブルに着いた二人は早々に街を後にする。街の警備は未だ非常時のままで、東に向かうと言うと大層心配された。
「昨日サートミーラにドラゴンが出たらしいのでお気をつけて」
「分かりました。空には特に警戒します」
門番の言葉にソラは神妙な様子で返す。ショーマは吹き出さない様、必死に堪えていた。目深に被ったフードでその表情は窺えないが、ぷるぷると肩が震えている。
ソラはそんなショーマに門番が注意を向けない様、さっさと手続きを済ませて街の外へ出た。
街道に出ると、ミリメトピア方面の遠くに兵士が数名いる以外に人影はなく、サートミーラ方面に人間は一人も居ない。
門から少し離れると、ショーマは気が緩んだのか笑い出す。ソラは慌てて辺りをサッと見回し、人目が無いことを確かめた。
「ぷっ、くくっ、あはははっ、ひぃひぃっ、あーっおっかしぃー!ドラゴンに向かってドラゴンに気をつけろだってー!」
「ショーマ、あの場ではもっと堪えないと」
ソラは肩を竦める。ショーマは笑いながらごめんなさーいと誤魔化した。
二人は適度に街から距離をとり、街がほぼ見えなくなると、街道の北に広がる森に入る。
ここからはいつも通りに飛んでいく。ここを棲みかにしている者たちからそれとなく聞いた辺りをマッピングしつつ、あと少しでサートミーラに着く所まできた。
「あれ?もうすぐサートミーラのはずなのに臭くないね」
「本当だ。──風向き、か?」
ショーマが違和感を覚え、ソラに訊ねる。ソラも鼻をひくひくと嗅ぐものの、あの強烈な異臭は感じないらしい。
と、そこへ背後から一陣の風が吹き抜ける。それなりの速度で移動する二人を追い越す風はかなりの強風だろう。
「なるほど。たぶんこっちが固定で風上なんだね」
ショーマは強烈な追い風を感じながら歩を進めた。
マッピングを終える頃にはかなり日が傾いてきた。
「やばっ!早く帰らなきゃ朝だけじゃなくて夕飯も遅れちゃう!」
「その前にやることもあるからね」
「そうだった!いっそげー!!」
二人は無人島へ戻っていった。
── ある文官の話 ──
「おいっ!旧都の状況はまだ判らないのか!?」
「昨夜、ドラゴンに襲われ、民が殺戮されたとしか。精度の高い通信の魔道具が無いサハンの町からの連絡しかなく詳細は不明です」
旧都には最新鋭の通信の魔道具があった筈だが、それが壊れたのか?でもどうやって?
それに旧都に現れたドラゴンはソラ様だと思うが、殺戮なんかするような人か?それとも、魔王たるショーマ様が何か意志を持って殺戮を?
いや、ドラゴンの仕業となっている時点でそれは無いか。やるなら自分が魔王と名乗るだろうし。
「ハルスンブルからの応援はまだなのか!?」
「通信の入った直後にこちらから連絡をして、兵を向かわせています。ただ、ハルスンブル北西の森における魔物騒動が依然として続いており、人手が割けない様です」
そう言えば、昨日そんな騒動もあったな。ドラゴンの気配を感じた魔物が大移動でもしてるのか?
「魔物なぞにかまけている場合ではない!旧都には王弟殿下が居るんだぞ!」
「魔物なぞと言うが、あそこを放置するとこちらまで被害が届きかねん」
「ミリメトピアから兵を割くことは出来ないのでしょうか?」
「晩秋から続く長雨のせいで近隣諸国との交易も冷え込み、満足な兵糧が確保できません!」
「それは旧都で用意させれば」
「旧都は今水害でなにもかもが不足していると先日報告を受けました。武闘大会の開催も危ういと──・・・」
はぁ。今日も家に帰れないな。
☆オマケ☆
枕な彼女と。
『なぁ、そろそろこの子をどかしておくれ』
「そのままでいいじゃない。重くないでしょう?」
『そうなんだがね、ちとむず痒いんだよ』
「まぁまぁ、そう言わずに」
サクラはヒスイに毛布を掛ける。
「ねぇ、あなた家族は?」
『家族ねぇ。随分と昔に旦那が人間に捕まってそれっきり。今思えは子の一つでもこさえておけば良かったよ』
「そうだったの」
サクラはヒスイの髪を弄っていた手を虎の魔物へ移す。
しばらく耳の裏を掻いていたが、その手を顎に移動させた。
『ちょっ、それはやめておくれ』
「あら?喉を鳴らして、気持ちいいんでしょう?」
『これは不可抗力だよ!』
「ふふ。ヒスイの布団になってくれている御礼よ」
☆☆☆
サクラの手玉に取られる虎の魔物。
たぶん洗われている間にいろいろあって逆らえないんだと…
(;^ω^)
そして大爆笑するショーマ。
ソラは周りにバレやしないかと気を揉みました。
もちろん近くに誰もいないのは確認済みなんですけどね。
次回、熊の魔物。です。
やることがいっぱいあって、ぴったりな人は当分出られない事に気付きました。
今さら!?Σ(°□°;)
純白のモフモフの登場はいつになることやら。
応援して頂けると嬉しいです(^^)
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(≧▽≦)
※次回更新は、4/24(金)です。よろしくお願い致します。
体調回復しまして、この通り!
♪(∩´∀`)∩♪
お大事にといっていただけて嬉しかったです。
ご心配お掛けしました(;--人)