2―女神の無茶振り
※6/27…会話文の表現を修正。
※11/24…言葉使い、言い回しを少し修正。
ある日、ショーマはいつもの様に山を歩いていると、1本の大樹を見つける。
なんだこの木!デカ過ぎない!?
あ、腕力上昇の為にも木登りしよう。壁みたいだけど、あの枝とか使えば上がれるっしょ!
ショーマは大樹をするすると登り始めた。
結構余裕じゃーん!さすが俺!!
ショーマは調子に乗ってどんどん登っていく。ふと下を見ると10m程の高さになっていた。
やべ!調子に乗りすぎた!!だめだ。怖くて降りられない。
ショーマは足が竦んでしまい、降りられなくなったようだ。
「誰か助けてー!!」
ショーマが助けを呼ぶと、洞窟の方からソラが飛んできた。
『ショーマ。大丈夫か?』
「ソラさん!降りられなくなっちゃった!助けて!!」
ショーマは泣きそうな顔でソラに助けを求める。
『どれ、よっと』
ソラは大樹のそばに降り立った。
『ほら、こっちにおいで』
ショーマが居た場所は、ちょうどソラの頭のあたりの高さだった。
ショーマはソラの頭に乗り移り、ソラはそのまま頭を地面近くまで下げ、ショーマを地面へ降ろす。
「うぅ。怖かった」
『木登りは危ないから今度からは一緒に来ようね』
「うん。そうする」
ショーマはこれに懲りて、木登りをしたい時はソラかサクラと共に来るようになった。
◇◇◇
ショーマは5歳になった。日頃の山歩きのお陰で、脚力にはかなり自信がある。
うーん、いい加減山歩きも飽きたー。そろそろ人間の街に行ってみたいな。そうだ、ソラさんに連れてってもらおう!
「ソラさーん。ちょっとお願いがあるんだけどー」
『なんだい?』
ショーマの呼び掛けにソラが頭を寄せる。
「俺、そろそろ街に行ってみたいかなって!連れてってくんない?」
『うーん。やめておいた方が良いと思うけど』
「なんで?5歳になったし、一人で出歩いても大丈夫だと思うんだけど」
『歳じゃなくて、見た目がね。サクラから聞いてない?』
「え?特に何も?」
ショーマは首をかしげる。
『ショーマは、黒髪黒目だろう?人間は黒を不吉の象徴として扱うから』
「あ、もしかして。そのせいで俺って捨てられた?」
『たぶんね。どうして街に行きたいんだい?』
「俺以外の人間を見てみたい!あと、俺の言葉がちゃんと通じるか実験もしたいし、魔法の本も読みたくて。剣の鍛練とかも見てみたいな。とにかく、いろいろ気になる!」
ショーマは目をキラキラと輝かせて、一生懸命説明する。
『なるほど。言葉と剣はなんとかなるかな。魔法は、女神様にお願いして。どうしても行きたいなら、髪と目の色を変えるしかないかな』
「うーん。わかったよ。ありがとー」
これが初めての女神リンクか。本が欲しいだけなんだけどな。
えっと、頭にスマホを浮かべて、電話帳の女神をタップ。
「もしもし、女神様?」
―――はいはーい!ショーマ君から連絡くれるなんて嬉しい♪
「用件は魔法に関する本の取り寄せ。以上、よろしく」
―――ちょっと、久しぶりなのに!もう少し愛想よく出来ないの!?
「じゃー、通販出来るようにしてよ」
―――えー!そんなことしたら、ますます君からの連絡なくなるじゃん!
「女神様と話すとなんか疲れるんだよ」
―――仮にも上司に向かって、それは無いんじゃない!?
「あーもーわかったから!本、よろしく!じゃ!」
◇◇◇
後日、女神は魔法に関する本や資料、その他諸々を住まいの洞窟に置いていった。
人間の言葉は、サクラが人化して近くの村へ食料調達に出かける時に、背負子に隠れて着いて行く事で妥協した。
剣は、ソラが人化して稽古をつけた。ソラはドラゴンなのに剣術に秀でている。
「ねぇ、ソラさんはドラゴンなのにどうしてそんなに剣が巧いの?」
「あぁ、昔襲ってきた人間のを見て覚えたから」
「それってさ、ドラゴン退治?」
「そうだよ」
「大変だったんだね」
「昔、人間にちょっかいを出しすぎたんだよね。若気の至りってやつだよ」
「へぇー」
温厚なソラさんにそんな過去があったなんて・・・。
◇◇◇
ショーマが7歳になった頃、突然女神が洞窟へやって来た。
「やっほー!遊びに来たよ!」
「うわっ!!」
ショーマは女神に背後から声を掛けられて飛び上がった。
「急に何しに来たの!?」
「そろそろ魔王やる気になったかなー?って思って!」
「いやいや、おかしいよね?俺まだ7歳だよ?魔法も巧く使えなければ、剣術だって習い始めて2年しか経ってないよ?これで魔王とか普通に無理だよね?」
「そお?まぁ、ショーマ君がそう言うならもうちょっと待つよー」
「準備が出来たら連絡するからさ。とりあえず待っててよ」
「約束だよ?ちゃんと連絡ちょーだいね!」
「はいはい。わかったから。またね?」
「じゃ、またね!
ソラくーん!ちょっと乗せてってー!」
女神様は洞窟の外へと行ってしまった。
はぁ。魔王とか。俺これからどうなるんだろ。とりあえず、魔法くらいは使える様にならないとな。
◇◇◇
ショーマの魔法の腕は随分上がった。
10歳になる頃、ついに髪と目の色を変える変装魔法を開発した。元の世界のヘアカラーとカラコンの概念のおかげで開発出来たみたいだ。
『すごくきれいな色ね。黒も似合ってるけど、この色も良く似合うわ』
サクラが変装したショーマを見る。
『へぇ。巧いこと化けるもんだね』
ソラもまじまじと見つめる。
「へへん!ねぇソラさん。これで街に行ける?」
『それだけ見た目が変われば連れて行けるよ』
「よっしゃ!頑張った甲斐があったぜ!」
『じゃあ、これから行こうか?』
「お願いしまーす!!」
『それなら、久しぶりに3人で出掛けましょ?私たちも人化すれば人間の家族に見えるわよ』
『そうだな。そうしよう』
楽しそうに、3人は近くの街へと出掛けた。
ショーマはソラとサクラの人化を待ちながら、一人街を眺める。
「おぉー!これが街かー!さすがにビルとかは無いか」
「ショーマお待たせ。それじゃあ、行きましょうか。
そうだ、私たちは人間の生活圏で違う名前を使っているの。あなたは何て呼ばれたい?」
ショーマはサクラと並びながら街へと向かう。ソラはその後ろを歩く。
「そう言えば、村でサクラさんはチェリーって呼ばれてたね。ちなみに、ソラさんは何て名前なの?」
ショーマはソラに振り返りながら聞く。
「僕はスカイだよ」
「ソラさんはスカイか。俺は何にしよっかなー」
「ウィステリア」
「へ!?ソラさん、今何て?」
ショーマはバッと後ろを振り向く。
「ショーマの見た目から、ウィステリアはどうかなって」
「ウィステリアか!なんかいいね。父さん、母さん、俺の街での名前はウィステリアで!でも長いから普段はウィスって呼んでよ」
「わかったわ。ウィス」
サクラは母さんと呼ばれて嬉しそうだ。
「よし、ウィスは何処に行きたいんだ?」
ソラも嬉しそうに目を細めている。
「えーっとねー・・・。」
3人は行先を相談しながら、街へと入っていった。
ショーマの家族はそれはそれは目立つ。
空色の髪と目をした美丈夫な父と、桜色の髪と目をした美人な母。更には藤色の髪と目をした愛らしい子供。
どこの誰だと、行く先々で人々の興味を引いている。しかし、人里離れた暮らしをしている3人は全く気にしていない様だ。
特に大きな問題も起こらず、はじめての街探検は無事に幕を下ろした。