3―雨の新大陸
遅くなりました。
ショーマとソラは海を越え、サフーラ大陸の上空付近へとやってきた。付近と言うのは、眼下に雲海が広がりその下が見えない為。雲は厚く、きっとこの下は雨が降っているのだろう。先程西の端で太陽が沈み、今は雲海が月明かりを反射している。
ソラがそろそろだと判断し、ショーマに下降する事を伝える。ショーマはそれを受けて空気で作ったレインコートを羽織ると荷物を持ってソラから離脱する。ソラは人型になるとショーマから荷物とレインコートを受け取り、二人は雲海の下へ向かって行った。
雲の下はやはりしとしとと雨が降っている。日没後の夜闇の中、海岸沿いにある集落の明かりがやや霞んで見える。集落を少し離れれば地図上は森である真っ暗闇が広がり、更に向こうにまた集落の光がぼんやり見える。
二人はコートをバサバサとはためかせながら、その集落と集落の中間辺りの森の奥を目指した。音は雨によって掻き消され、こんな雨の日に空を見上げる者も居ない。二人はいつもよりも気を使わずに飛んでいく。
森の上空に到達すると、着地できる場所を探す。雨雲に月明かりが遮断され、目的地となる森の中は目の良いソラでも流石に視認出来ない。
―――雲で月明かりが遮られているから暗いね。
―――ほんと真っ暗で何もわかんないよ。どこに降りればいいんだろ。
―――うーん、そうだ。ショーマ、魔法で遠くまで照らせるかい?
―――やってみるよ!
ショーマは杖を取り出し、レイ・ボールを唱える。目の前に光の球が現れた。
光は下へ一方向に。あ、サーチライト風にしたら?暖色系より寒色系の方がいいんだっけ?
ショーマは光球に意の魔力を与え、一筋の光を生み出した。徐々に角度を変えて森中を照らしていく。
―――あ、今の所。少し戻れる?
―――ここ?あ、広場発見!
二人は見つけた広場に降りていく。
ショーマは広場の隅にハイキングコースにある休憩所の様な建物を空気で作り出した。サーチライトと化していた光球をランタンの様な暖かい光に変える。
「うへぇ。レインコート着ててもパンツまでびっしょり。ズボンも作って履けば良かったよ。失敗したなー」
「風が意外と巻き込んできたからね」
二人は屋根の下で雨に濡れた服を急いで乾かす。
「ふぇっくしゅん。ずずっ」
ショーマは身体が冷えたのか、盛大なくしゃみをした。
「大丈夫か?」
「うん。早くお風呂で温まりたい」
「そうだね。ここと洞窟の時差は何時間くらいかわかる?」
「ちょっと待ってね」
ショーマは雨避けの為に鞄を包んでいた空気を霧散させ、中から世界地図を取り出す。ついでにテーブルとベンチを空気で作り出して座った。ソラも向かいのベンチに座る。
「ここはサートミーラよりも南の森だから、これか。いち、にい・・・洞窟までは7、8時間ってとこかな?」
「太陽が沈んでから少し時間が経っているから、今ここは8時くらいか?だとすると、洞窟はだいたい夜の3時か4時。
うーん。直接転移すれば起こさずに済むかな?」
「こそこそっとね!そうだ、今夜は俺の部屋で一緒に寝よ?」
「うん。物音で二人を起こすのは可哀想だからそうしようか」
二人は方針を決めると洞窟の脱衣所前へ直接転移した。
風呂に入り温まると、そのままショーマの部屋へ転移する。
ショーマはサクラへの手紙を認め、ダイニングテーブルに転送するとベッドへ潜り込み就寝した。
◇◇◇
ソラは何かに気付き目を開けた。小さな人影が迫る。
「おきてー!」
ショーマの部屋にヒスイの声が響く。たたっとベッドに向かって走ると、勢いよくダイブした。
「むにゃ?ぐへっ!!」
「あ・・・。ヒスイおはよう。お兄ちゃんが苦しそうだから退いてあげよう?」
ソラは起き上がりベッドへ座る。飛び込んできたヒスイをひょいと抱き上げ、布団を捲った。
「大丈夫か?」
「う、うん。おはよう・・・」
ショーマは腹を擦りながら、朝から効いたと苦笑い。ヒスイはもうすぐおひるなの!と何やらご満悦。
サクラによると、お兄ちゃんを起こすと言う初めてのミッションに気合いが入っていたらしい。確かにヒスイに起こされたのは初めてだとショーマは納得した。
ショーマは食後、ソラに貰った銀板に向かって何やらコリコリと描いている。
結局距離がネックなんだよな。そうか、転移魔法を応用して・・・、とりあえず端末同士を繋いでみるか。俺とユカリの魔法陣みたいにね。
映像を転送するとなると、新しい概念を突っ込むのが手っ取り早いか。映像ねぇ。うーん。映像?でも、それだと音が結び付かないんだよな。あ!音響か!!
空間と映像と音響を組み合わせて。互いを認識させて。そうだ、場所を選ぶ投影機構は止めたいから画面だな。あ、起動時は黒くなるようにしておこう。白よりは明るい所で綺麗に見えるはず。おお、結構小さくまとまって描けた!
次は端末の設計か。パッと思い浮かぶのはやっぱりスマホだよな。画面が小さいかな?まぁ、それはおいおい変えるとして、材料は・・・ガラス?試作だから今はガラスでいっか。後で父さんに何か無いか聞いてみよ。
ショーマはキッチンからガラスのコップを複製してくると、熱を加えて粘土の様によく捏ねる。
魔法陣の描かれた銀板を薄く伸ばした鉄板で挟み、緩く三つ折にする。背面は平らに、画面側に折り目が浮き上がる様に固定すると柔らかくしたガラスを折り目の中や表面に滑らかにコーティングした。画面側は左右の折り目までガラスを盛っている。全く同じ物をもう一つ作ると、二つの背を合わせ魔力を流した。
よし、これで繋がったはず。あとは実験だね!
ショーマは端末を倉庫に居たソラに渡し、ヒスイとダイニングに行くと実験を始めた。
「スイッチオン!」「おーん!」
ショーマの掛け声にヒスイはノリノリで万歳をする。
―――父さん、緑の所を触って?
―――触ったよ?
しかし、いくら待っても端末は真っ黒な画面しか映さない。
「あれ?あ、あー!!」
慌ててソラから端末を回収する。
端末を解体して魔法陣に撮影と集音を追加する。再度実験をすると離れた所にいるソラとテレビ電話の要領で話すことが出来た。
ショーマとソラはまた出掛ける。ヒスイは少しだけ不服そうな顔をした。そんなヒスイにショーマは魔道具の使い方を教える。
「ヒスイ、赤じゃなくて緑の所を触るんだよ?」
「はーい」
「じゃあいってきます!」
ショーマとソラはサフーラ大陸の森へ転移した。ショーマはすぐに魔道具を起動する。画面は一瞬黒くなり、すぐにヒスイのドアップが映る。
《にーちゃん!》
「わぁ!?ヒスイ、ちょっとだけ離れよっか」
《えー?》
《ヒスイ、お母さんにも見せて》
《いーよ!》
「おぉ、本当にこんなに離れても話せるんだ」
ソラがショーマの隣で手を振りながら魔道具を覗き込む。サクラとヒスイがそれに笑顔で応える。
「これでいつでもヒスイとお話が出来るよ」
《やったー!》
暫く話し、ショーマは魔道具のスイッチを切った。
昨日作った休憩所を壊すとドラゴンに変わったソラに乗って一路サートミーラ王国を目指して飛び立った。
ショーマ「魔道具の設計は大変だぁ」
朝木 「そうだね」
ショーマ「これから、更に進んだヤツの設計をしなきゃいけないのかー」
朝木 「今回は試作だもんね」
ショーマ「で、透明にする方法は何かないの?」
朝木 「あ・・・」
ショーマ「何か無いかなー」
ショーマはテレビ電話を開発した!
これでヒスイといつでも話せます。
ちなみに、意思伝達魔法は距離が離れると使えません。
距離があると糸が長すぎて震えないみたい。
次回、サートミーラ王国に突撃!です。
独裁政権ってどんな感じ?
イメージが湧かないよー。
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